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シークエンスと症候群

シークエンスと症候群は、両方とも複数の関連する異常や特徴が一緒に現れる医学的状態を指しますが、その原因となるプロセスにおいて重要な違いがあります。

シークエンス
シークエンスは、単一の原発性異常が一連の二次的または三次的な異常を引き起こす状態を指します。つまり、一つの異常が連鎖反応を起こし、他の複数の異常を誘発するのです。これらの異常は因果関係にあり、最初の異常がなければ他の異常は発生しないと考えられています。例えば、ピエール・ロバン(Pierr-Robin)シークエンスでは、胎児期の下顎の発育不全が舌の位置異常を引き起こし、それが口蓋裂など他の顔面の異常を誘発します。

症候群
症候群は、複数の異常が共に現れるが、それらが単一の原因から直接的に引き起こされるわけではない状態を指します。症候群の背後には、遺伝的要因、環境要因、またはその両方が複雑に絡み合っていることが多いです。症候群では、異なる特徴や異常が一つの明確な原因によって結びつけられるわけではなく、多様な原因によって引き起こされる可能性があります。例えば、ダウン症候群は、21番染色体の三重体が原因で、知的障害、特徴的な顔貌、心臓疾患などの異なる特徴を持ちます。

簡単に言うと、シークエンスは「一つの原因が連鎖的な影響を及ぼす」状態であり、症候群は「複数の異常が共存するが、それぞれが直接的な因果関係にあるわけではない」状態を指します。

シークエンスの例

シークエンスは、特定の初期の異常が連鎖的に他の異常を引き起こす一連の発達障害です。以下に、シークエンスの具体的な例を挙げます。

ピエール・ロバンシークエンス (Pierre Robin Sequence)

下顎の発育不全が舌の後退を引き起こし、それが口蓋裂や呼吸困難を誘発します。
ピエール・ロバンシークエンス(Pierre Robin Sequence, PRS)は、特定の先天的異常が一連の他の異常を引き起こす典型的な例です。このシークエンスは、以下の三つの主要な特徴で構成されます:

マイクログナチア(下顎の発育不全): 最も顕著な特徴で、非常に小さいまたは後退した下顎が特徴です。この下顎の異常がシークエンスの他の特徴を引き起こす原因となります。

グロッソプトーシス(舌の後退): 小さい下顎によって正常な位置を保てない舌が喉の奥に落ち込むこと。これが呼吸困難や摂食障害を引き起こすことがあります。

口蓋裂(特にU字型の軟口蓋裂): 舌の位置異常によって口蓋の閉鎖が妨げられ、口蓋裂が発生することがあります。

ピエール・ロバンシークエンスは、これらの特徴が互いに因果関係にあることから「シークエンス」と呼ばれます。つまり、下顎の発育不全が舌の後退を引き起こし、それが口蓋裂の形成に影響を及ぼします。このシークエンスは、単独で発生することもあれば、他の遺伝的症候群の一部として現れることもあります。

治療には、呼吸と摂食の管理、必要に応じて外科手術による下顎の修正や口蓋裂の修復が含まれます。また、言語療法や栄養管理など、患者のニーズに合わせた総合的なケアが必要になる場合があります。早期介入と専門家チームによる継続的なサポートが、これらの子どもたちの発達と全体的な健康にとって重要です。

ポッターシークエンス (Potter Sequence)

腎臓の発達不全または機能不全により羊水が極端に少なくなり(低羊水症)、それが胎児の顔面や四肢の圧迫異常、肺低形成を引き起こします。
ポッターシークエンス(Potter sequence)は、特定の群の先天性異常が一連として現れる症状を指す医学用語です。このシークエンスは、主に腎臓の発達異常による羊水の極端な減少(羊水減少症)に関連しています。羊水の不足は、胎児の適切な肺発達を妨げ、顔貌異常、四肢の変形、そして重度の肺低形成を引き起こす可能性があります。

ポッターシークエンスは以下の主要な特徴によって識別されます。

肺低形成:正常に発達しない小さな肺。
顔貌異常:扁平な鼻、突出した顎、低い耳など。
四肢の変形:手足の位置異常や変形。
羊水減少症:腎臓の異常または欠如により、羊水が正常に生成されない。
ポッターシークエンスの原因は、胎児期における腎臓の重大な発達障害にあります。これには、腎形成不全(腎臓が形成されない状態)や腎異形成(腎臓が正常に形成されない状態)が含まれます。これらの腎臓の問題は、羊水の生成を大幅に減少させ、結果として胎児の発達に影響を与える羊水減少症を引き起こします。

治療法は、原因となる腎臓の状態や関連する他の異常に依存しますが、多くの場合、ポッターシークエンスは重篤な結果を伴い、出生前または出生後の早期に生命を脅かすことがあります。早期診断と専門的なケアが管理の鍵となります。

アムニオティックバンドシークエンス (Amniotic Band Sequence)

羊水嚢の一部が破れて形成されたアムニオティックバンドが胎児を締め付け、四肢や指の切断、顔面や体の他の部分の異常を引き起こします。
アムニオティックバンドシークエンス(Amniotic Band Sequence, ABS)は、胎児が子宮内でアムニオティックバンド(羊膜帯)によって包まれることで引き起こされる一連の先天的障害です。この状態は、羊膜から分離した繊維状の帯が胎児を取り巻き、特に四肢、指、顔などの部位に絞り込むことによって発生します。アムニオティックバンドによる圧迫は、様々な程度の先天性奇形を引き起こす可能性があります。

アムニオティックバンドシークエンスによって引き起こされる可能性のある障害には、以下のようなものがあります:

四肢や指の奇形や欠損
胎児の体の一部に深い溝または締め付けの痕
癒着指(指同士がくっつくこと)
頭蓋や顔面の異常
四肢の成長障害
アムニオティックバンドシークエンスの発生原因は、羊膜の一部が破れて形成される帯が胎児に絡みつくことによるとされています。これによって血流が阻害されたり、正常な発育が妨げられたりすることで、先天性の奇形が発生します。

診断は、通常、妊娠中の超音波検査によって行われます。治療は、症状の重さや影響を受けた体の部位によって異なりますが、生後の手術による修正や理学療法などが含まれることがあります。しかし、すべての症状を完全に治療することは常に可能ではありません。

アムニオティックバンドシークエンスは比較的まれな状態であり、発生頻度は正確には確立されていませんが、一部の研究では約1,200〜15,000の出生に1回の割合で発生すると推定されています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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