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産後うつ(産後鬱)
産後うつ病とは、出産後に多くの親が経験するうつ病の一種です。多くの女性たちにとって出産は赤ちゃんに会える幸福な瞬間なのでうつ病になるなんて、と思うかもしれませんが、産後鬱病は一般的な問題で、出産後1年以内の女性の10人に1人以上がかかると言われています。また、父親やパートナーが産後うつ病にかかることもあります。実際の調査では、出産後の新米パパの10人に1人がうつ状態になることがわかっています。
症状が数ヶ月続いたり、悪化したりして、あなたや赤ちゃん、家族に大きな影響を与える可能性があるため、うつ病かもしれないと思ったら、できるだけ早く助けを求めることが重要です。
適切なサポートを受ければ、ほとんどの人が完全に回復することができます。
妊娠中にうつ病になる確率
妊娠中のうつ病(産前・産後うつ病)もよく見られます。約8人に1人が妊娠中にうつ病を経験すると言われています。
妊娠中または妊娠後に起こる可能性のあるその他の精神的な症状には、不安、パニック発作、精神病などがあります。
産後うつの症状
産後1週間は、多くの女性が気分が落ち込み、涙を流したり、不安になったりします。これは英語では「ベイビー・ブルー」と呼ばれることが多く、普通のことと考えられています。ベイビーブルーが産後2週間以上続くことはありません。
症状が長く続いたり、遅れて始まったりする場合は、産後うつの可能性があります。
産後うつはいつからいつまで?
産後うつ病は、産後1年以内のいつでも発症する可能性があります。臨床現場では産後12カ月以内に発症したうつ病を産後うつ病と呼んでいます。発症時期としては産後1ヶ月目までが54%、産後2〜4ヶ月目が40%、産後5~12ヶ月目が6%と大半が産後1か月目までに発症しています。
産後うつチェックリスト
あなたやパートナーがうつ病になっている可能性を示す兆候は以下の通りです。
- 悲しみや気分の落ち込みが続いている
- うまれたお子さんがかわいいと思えない
- 楽しさが感じられず、世間に関心が持てない。
- エネルギーが不足し、いつも疲れを感じている
- 夜に眠れず、日中に眠気を感じる
- 赤ちゃんとの絆が深まらない
- 他の人との接触を避けてしまう
- 集中力や判断力が低下している
- 赤ちゃんを傷つけてしまうのではないか(虐待してしまうのではないか)、というような恐ろしい考えにとらわれる
産後うつ病は、徐々に進行するため、自分が産後うつ病であることに気づかない女性も多くいます。
これらのチェックリストに該当することがあれば早めに医師に相談しましょう。セラピー(認知行動療法)を含む、さまざまな支援とサポートが利用できます。
産後うつ病で気を付ける事
産後うつ病になったママやパパに特にわかってもらいたいことがあります。
- うつ病は、他の病気と同じです。
- うつ病になったのはあなたのせいではありません。 うつ病は誰にでも起こりうることです。
- うつ病になったからといって、赤ちゃんが奪われることはありません。赤ちゃんが保護されるのは、非常に例外的な状況に限られます。
産後鬱病の治療法
産後うつ病は、孤独で、苦痛なものですが、効果的な治療法やサポートがあります。
- 自助努力
- 自分でできることとしては、家族や友人に自分の気持ちやできることを話すこと、自分のために好きなことをする時間を作ること、機会があれば休むこと、夜にできるだけ多くの睡眠をとること、定期的に運動すること、健康的な食事をすることなどがあります。赤ちゃんが寝ているときはしっかりと寝ましょう。
- 心理療法
- 認知行動療法などの療法があります。
- 抗うつ剤
- うつ病の症状が重い場合や、他の治療法で効果が得られない場合には推奨されることがあります。
多くの女性は、自分の苦悩を妊娠・出産のごく普通のことだと考え、治療を受けずに黙って苦しんでいます。妊娠中のうつ病の治療は不可欠です。妊娠中のうつ病に対する認識と理解が深まれば、女性とお腹の赤ちゃんにとってより良い結果をもたらすことができます。
他のタイプのうつ病と同様に、周産期うつ病は、心理療法、薬物療法、生活習慣の改善、支援環境の整備、またはこれらを組み合わせて管理することができます。妊娠中または授乳中の女性は、薬物療法のリスクとベネフィットについて医師としっかり話し合う必要があります。一般的に、うつ病の薬剤による胎児への先天性障害のリスクは低くなっています。薬部治療が母親、胎児、授乳中の新生児や乳児の健康に影響を与える影響と、無治療の潜在的なリスクとベネフィット(利益)のを慎重に比較して検討した上で、決定すべきでしょう。
妊娠中または授乳中のうつ病の女性を治療するための米国精神科学会ガイドラインでは、うつ病または不安が軽度の場合、薬物を用いない心理療法を第一選択の治療法として推奨していますが、中等度または重度のうつ病または不安を有する女性に対しては、一次治療として抗うつ薬の投与を検討すべきとしています。
適切な治療を受ければ、ほとんどの新米ママは症状から解放されます。周産期うつ病の治療を受けている女性は、気分が良くなった後も治療を続ける必要があります。すぐに治療をやめてしまうと、症状が再発する可能性があります。
地域の相談窓口は保健所となります。うつ病の患者さんやその家族からの、治療や社会復帰に関する相談をすることができます。地域で一番身近な相談窓口が保健所になります。精神科や心療内科に行くのがハードル高いなと感じる方は、とにかく保健所に連絡してください。
産後うつの原因
産後うつの原因は、完全には解明されていません。産後うつになりやすい要因(危険因子)はいくつかありますが、産後うつに特異的なものではありません。以下はその例です。
- 以前に、精神衛生上の問題、特にうつ病を患ったことがある
- 25歳未満など年齢が若い
- 単身赴任
- 多胎妊娠
- 意図しないまたは望まない妊娠
- 出産恐怖症
- 周産期の身体的健康不良(妊娠時の肥満、妊娠前・妊娠中の糖尿病、産前・産後の高血圧、出産後の感染症など)
- 妊娠中に精神衛生上の問題を抱えたことがある
- 自分を支えてくれる親しい家族や友人がいない
- パートナーとの関係がうまくいっていない
- 最近、死別などのストレスの多い出来事があった
- ドメスティックバイオレンスなど、身体的または心理的なトラウマがある
- ベイビーブルーの症状が産後2週間以内にあった
これらに該当しない場合でも、出産は人生を変える出来事であり、出産自体ががうつ病の引き金になることもあります。また、親になることに慣れるまでには時間がかかります。小さな赤ちゃんの世話をするのは、ストレスがたまり、疲れることもあります。
産後うつの予防
健康的なライフスタイルを維持し、誰かに相談したりサポートを求めたりするなど、健康を維持するためにできることがあります。
また、妊婦クラスに参加したり、他の妊婦や新米の親と友達になることも有効ですが、新型コロナ感染症の流行により2020年からはこれが難しくなっています。
孤立しないように家族のサポートを受けることを心がけましょう。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号