遺伝医学における浸透率 Penetrance
浸透率とは、ある集団の中で、特定の遺伝子を持ち、関連する形質を発現している個体の割合を示すものである。したがって、浸透率は、遺伝子型と表現型の関係、すなわち、生物の特定の遺伝子と生物の観察可能な物理的特性との関係を測定するものである。
完全浸透の場合は、特定の遺伝子型を持つ集団のすべての個体が、対応する表現型を発現する。
しかし、遺伝子の中には完全浸透性を示さないものもある。不完全浸透性の場合、特定の遺伝子型を持つ個体の100%未満が対応する表現型を発現する。
浸透率を正確に測定するためには、大きな集団で遺伝子型と表現型を記録する必要がある。ここで重要なことは、浸透率は、ある形質を発現するか否かのみを表すということである。表現型として知られている特定の遺伝子の発現の度合いの個人差を表すものではない。
例えば、Li Fraumeni 症候群や軟骨無形性症などは100%である。BRCA1/2遺伝子で有名な遺伝性乳がん卵巣癌は70-80%となっている。
浸透率の測定不法
浸透率を測定するには、一般人口集団において偏りなく充分多数の病的遺伝子の保有者(キャリア)を同定し、そのコホートを長期にわたって観察研究し、がんなどの疾患に罹患するかどうかを観察して直接浸透率を測定するのが一番理想的である。しかし、これでは一般人口集団全員のゲノム解析をしないといけなくなり、現実的とはいえない。
浸透率を効率よく測定する方法としてKincohort法がある、Kincohort法では、コホートを追跡する必要がなく、横断的調査でよいので、比較的迅速に年齢依存の浸透率が推定できる。
Kin-cohort法は、遺伝子型が決定された発端者の第1度近親者が罹患しているかどうかという家族歴を用いて浸透率を計算する。
疾患の原因となる病的遺伝子の頻度をpとする。pがそれほど大きくないという条件で考えてみる。
キャリアの第1度近親者の罹患確率をR+、キャリアではない第1度近親者の罹患確率をR−とする。
キャリアではない第1度近親者の罹患確率をR−は一般人口の罹患確率と理論的には同じである。
キャリアの浸透率Sは常染色体優性遺伝の場合、S= 2R+−R−となる。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号