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精神遅滞(知的障害)

精神遅滞(知的障害)

精神遅滞知的障害)は人口の約2~3%に存在する『認知能力が平均レベルより著しく低く、環境への適応能力が低下している状態』と定義される。罹患者の75~90%は軽度の知的障害である。発症は発達期、すなわち妊娠期から18歳までの間に起こる。知的障害は日常生活全般に影響を及ぼす2つ以上の適応行動の障害に加え、IQが70未満であることで定義される。

知的機能とは

知能とは、推論、計画、問題解決、抽象的思考、複雑な考えの理解、効率的学習、経験からの学習などを含む一般的な精神能力のことである(AAIDD, 2010)。歴史的に、知的障害(以前は「精神遅滞」と呼ばれていた)は、著しい認知障害、特にIQスコアが70未満(集団の平均値100より2標準偏差下)であることによって定義されてきた。適応能力とは、年齢相応の日常生活活動を行う能力のことである。米国では、米国知的発達障害学会(AAIDD)と米国精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版」(DSM-5)という2種類の知的障害(ID)分類が用いられている。

DSM-5では、知的機能とは、推論、問題解決、計画、抽象的思考、判断、教科学習、指示や経験からの学習、臨床評価と標準化テストの両方によって確認される実践的理解、と定義されている。適応行動は、日常生活で人が行う作業を含む概念的、社会的、実践的スキルの観点から定義されている。

知的障害(精神遅滞)(intellectual disability; ID)と全般的発達遅滞(Global Developmental Delay; GDD)

全般的発達遅滞(Global Developmental Delay; GDD)は有病率は1~3%であり、複数の機能領域において期待される発達のマイルストーンを満たさない5歳未満の乳児および幼児における知的および適応性の障害を表す好ましい用語である。全般的発達遅滞GDDは、包括的な標準化試験が正確かつ信頼性をもって完了するまでの暫定的な診断として使用されることがある。全般的発達遅滞GDDをもつすべての子どもが、成長するにつれて知的障害IDの基準を満たすとは限らない。

これに対して知的障害(intellectual disability; ID)は、有病率は約1%で、小児期に始まる神経発達障害であり、知能と適応能力の両方が制限されること特徴とし、以下に示す3つの適応領域(概念的、社会的、実用的)の少なくとも1つに影響を与え、重症度は様々である。

概念化能力
言語能力、読み書き、お金、時間、数の概念(数学)、推論、記憶、自己管理、経験したことのない新しい状況での判断力などが含まれる。
社会的能力
対人コミュニケーション、共感性、友人として仲間と関わる能力、社会的問題解決能力、社会的責任、自尊心、ルールを守る、などの社会的な関係性に係る能力。
実用的能力
食事、着替え、移動、排泄などの日常生活の動作や、スケジュールや日課を守る、電話や道具を使う、お金の管理、食事の準備(料理)、職業上の技能、交通・旅行、健康管理、安全を確保するなどの能力も実用的能力に含まれる。

適応能力の障害の程度は、知的障害の定義とその重症度とかかわる。知的障害という用語は、「精神遅滞」という古い否定的な用語に代わるものである。知的障害という用語は通常約5歳で基準を満たす子供に適用され、5歳未満の子供には全般的発達遅滞(Global Developmental Delay; GDD)という用語が好まれる。しかし、知的障害の基準を満たす子供であれば、知的障害の診断をより早期に行って差し支えない。場合によっては、適切な支援サービスを受けるために重要となることもあるためである。

知的障害の程度に応じた典型的な適応のニーズとサポートは以下のとおりである。

重症度 適応能力
DSM-5 AAIDD 概念的 社会的 実用的
軽度 断続的 子どもは、年齢相応のスキルを身につけるために、学問的なサポートが必要。大人は、計画、読書、金銭管理などの機能的な学問的スキルに困難がある場合がある。 社会的スキルや個人的判断が年齢相応に未熟である。他者に操られる危険性がある(騙されやすい)。 ほとんどの人は日常生活や身の回りのことを自立して行うことができ、簡単な技能を必要とする仕事に就くことができ、自立して生活することができる場合が多い。また、健康管理、栄養管理、買い物、金銭管理、子育てなどに関する意思決定には、通常、支援が必要。
中程度 限定的 子供の場合、概念的なスキルや学力は同年代の子供たちに比べてかなり遅れている。成人の場合、学力は通常、初級レベルで達成可能。金銭管理などの複雑なタスクは、かなりのサポートが必要。 簡単な話し言葉で家族・友人とうまく交際できるが、社会性・コミュニケーション能力に障害があるため、限界がある。社会的な判断、社会的・生活的な決断は定期的にサポートが必要。 ほとんどの人は、十分な指導と支援があれば身の回りのことができ、グループホームのような適度な支援があれば、自立した生活を実現することができます。成人は、支援された環境で雇用されて業務可能。
重度 広範囲 書き言葉や、数、時間、お金の概念をほとんど理解していない。問題解決のための幅広いサポートが必要。 家族や親しい人たちとの健康的な交流から支援を受け、直接体験に関連した非常に基本的な単語、フレーズ、身振りを使う。 日常生活における基本的な動作は、継続的な支援と監視が必要。
最重度 最広範囲 セルフケアのために目的に応じて物を使用することができる。 ジェスチャーや感情的な合図を理解し、非言語で自己表現ができる場合がある。 日常生活のあらゆる動作が支援に依存。

精神遅滞(知的障害)の兆候と症状

知的障害は、小児期に明らかになり、同年齢の同級生と比較して、精神的能力、社会的スキル、および日常生活動作(activity of dayly life; ADL)に障害がある。軽度の知的障害では身体的兆候がないことが多いが、たとえばダウン症のような遺伝性疾患と関連している場合は、身体特徴が見られることがある。障害のレベルは人それぞれで重症度に幅がある。知的障害が疑われる初期の徴候には以下のようなものがある。

  • 運動能力発達(座る、這い這い、歩くなど)のマイルストーンへの到達の遅れ、達成できない
  • 言葉を覚えるのが遅い、話し始めた後も言語能力が低下し続ける
  • 自助努力や着替えや食事などのセルフケア能力の困難さ
  • 計画を立てたり問題を解決したりといった能力が低い
  • 行動的および社会的な問題
  • 知的な成長の失敗、または幼児的な行動の継続
  • 学業についていけない
  • 新しい状況への適応の失敗
  • 社会的なルールを理解してルールに従うことが困難

幼児期においては、軽度の知的障害(IQ 50~69)は、子供が学校に通い始めるまで明らかでない、または識別できない場合がある。学業不振が認められたとしても、軽度の知的障害を特定の学習障害または感情障害・行動障害と区別するには専門家の評価が必要な場合がある。

軽度の知的障害

軽度の知的障害者は、9歳から12歳の標準的な子供とほぼ同じレベルの読解および数学のスキルを習得することができる。また、料理や公共交通機関の利用など、セルフケアや生活のための実用的なスキルも習得できる。軽度知的障害者の多くは、成人期になると自立して生活し、有給の雇用を獲得可能である。

中等度の知的障害

中等度の知的障害(IQ 35~49)は知的障害の約10%を占め、ほとんど常に生後数年以内に明らかになる。言葉の遅れは、中等度IDでは必発である。中等度の知的障害者は、学校、家庭、地域社会に完全に参加するために、かなりの支援を必要とする。学業面の習得は困難であるが、簡単な健康や安全に関するスキルを身につけ、簡単な活動に参加することができる。成人後は、両親と同居したり、支援型のグループホームで暮らしたりできる。成人すると、保護された作業所で働くこともある。

重度・最重度の知的障害

重度の知的障害(IQ20~34)はID患者の3.5%を占め、最重度の知的障害(IQ19以下)はID患者の1.5%を占める。生涯にわたって集中的な支援と監視が必要である。ADLをある程度習得することはできるが、成人期を通じて継続的な介護が大きく必要である。独立して自活することができない場合、知的障害は重度以上とみなされる。最重度知的障害の場合は、すべてのADLと身体の健康および安全の維持を他人に完全に依存する。

知的障害と併存疾患

自閉症スペクトラム障害ASD)と知的障害は頻繁に併存症として存在し、両者は臨床的特徴を共有しており、診断の際に混乱を招く(出典)。 知的障害の症状を持つ自閉症スペクトラム障害の患者は、自閉症スペクトラム障害と誤診されることがある。同様に、自閉症スペクトラム障害と誤診された知的障害の人は、自分が持っていない疾患の症状に対して治療を受けている、つまり必要がない余計な投薬を受けている可能性がある。

自閉症スペクトラム障害(ASD)と知的障害を区別することで、適切な治療を行うことができる。自閉症スペクトラム障害(ASD)と知的障害の併存は非常に多く、知的障害の約40%がASDを、自閉症スペクトラム障害の約70%がIDを併発している(出典。自閉症スペクトラム障害も知的障害も診断基準として非音声的言語や社会互酬性の認識不足、興味が乏しい、がある。自閉症スペクトラム障害(ASD)も知的障害(ID)も、軽度、中等度、重度と重症度によって分類されるが、知的障害にはこの3段階に加えて、最重度と呼ばれる4番目の重症度分類がある。

知的障害と自閉症スペクトラム障害の違いの定義

2016年に2816例を調査して行われた研究では、IDの人とASDの人を区別するのに役立つのは以下の6点である。(出典

  • 1.非言語的社会行動の障害
  • 2.社会的互酬性の認識障害
  • 3.興味が制限されていること
  • 4.日常への厳しい順守(柔軟性の欠如)
  • 5.固定的で繰り返しの行動態様
  • 6.物事の一部に対する固執

ASDの人はボディランゲージといった非言語的社会行動により重い障害が見られる傾向にある。知的障害の人は、繰り返し行動や儀式的なステレオタイプの行動事例が少ないことも明らかにされた。また、自閉症スペクトラム障害ASDの人は、知的障害の人に比べて孤立しやすく、アイコンタクト(目が合う)が少ないことも明らかになっている。

精神遅滞(知的障害)の重症度分類

IDの分類に関しては、ASDは非常に異なったガイドラインを持っている。IDには、Supports Intensity Scale(SIS)という標準化された評価があり、個人がどの程度のサポートを必要とするかを中心に構築されたシステムで重症度を判定する。

精神遅滞(知的障害)の原因と分類

知的障害は、他の医学的および行動的徴候および症状を伴う知的欠損が存在する症候群性知的障害と、他の異常なしに知的欠損が現れる非症候群性知的障害に分けられる。ダウン症候群脆弱X症候群などの原因による知的障害は、症候群性知的障害である。知的障害は非症候群性、または特発性が30~50%を占める。約1/4のケースが遺伝子疾患(遺伝性疾患)によって引き起こされ、約5%のケースが両親から継承される

精神遅滞(知的障害)の原因

知的障害の最も一般的な遺伝的原因はダウン症である。小児では、3分の1から2分の1は原因不明であり、両親からの遺伝は5%程度である。遺伝しないが知的障害を引き起こす遺伝子異常は、染色体などの遺伝物質形成時の事故や突然変異で起こることがある。そのような事故の例としては、トリソミー、つまり21番染色体が余分に発生するダウン症候群(トリソミー21)や18番染色体が余分に発生する(トリソミー18)が最も一般的である。 22q11.2欠失症候群としても知られるDiGeorge(ディジョージ)症候群、胎児アルコール障害が次に多い。 しかし、他にも多くの原因がある。(出典

遺伝性疾患が原因の知的障害

最も一般的な遺伝性疾患には、ダウン症候群、クラインフェルター症候群、脆弱性X症候群(男子に多い)、神経線維腫症、先天性甲状腺機能低下症、ウィリアムズ症候群、フェニルケトン尿症(PKU)、プラダーウィリー症候群などがある。その他の遺伝性疾患としては、Phelan-McDermid症候群(22q13del)、Mowat-Wilson症候群、遺伝性繊毛不全症候群、PHF8遺伝子の変異によるSiderius型X連関知的障害などがあげられる。まれにXまたはY染色体異常も知的障害の原因となることがあるが、はっきりしていない。テトラソミーXおよびペンタソミーX症候群は、少数例の罹患報告があり、男児は49, XXXXYまたは49, XYYYで知的障害の可能性がある。47、XYYは、罹患者が平均して非罹患の兄弟よりわずかに低いIQを有するかもしれないが、有意な低下はしない。

妊娠中の問題が原因の知的障害

胎児が適切に子宮内で発育しない場合、知的障害が生じることがある。原因としては、胎児が成長する際の細胞分裂の仕方に問題があるなどが想定される。また、妊娠中にアルコールを飲んだり(胎児性アルコール症候群)、風疹などの感染症にかかったり(先天性風疹症候群)した妊婦も、知的障害のある赤ちゃんを産む可能性がある。

出産時の問題が原因の知的障害

陣痛や出産時に赤ちゃんが十分な酸素を得られないなどの問題がある場合、脳に障害を来すために発達障害や知的障害が生じる可能性がある。

特定の病気や毒素が原因の知的障害

百日咳、はしか、髄膜炎などの病気は、医療介入(治療)が遅れたり、不十分だったりすると、脳炎を引き起こし、後遺障害として知的障害を引き起こす可能性がある。同様に、鉛や水銀などの毒物にさらされた場合も、脳機能に障害を来すため、知的能力に影響を与える可能性がある。

ヨウ素欠乏症は、全世界で約20億人が罹患しており、発展途上国の栄養不足による知的障害の大きなウェイトを占める。栄養失調は、エチオピアのような飢饉の影響を受けた世界の地域や、農業生産と流通を混乱させる長期間の戦争と闘っている国々における知能低下の最も多い原因である。

知的障害の診断方法

知的障害の診断には、一般精神能力(知的機能)における著しい制限、複数の環境にわたる適応行動(コミュニケーション、自助能力、対人スキルなど、適応行動評価尺度によって測定)の一つ以上の分野における著しい制限が青年期までに明らかになった証拠という三つの基準が満たされる必要がある。一般に、知的障害者はIQが70以下であるが、IQがある程度高くても適応機能に重度の障害がある場合には、臨床的な判断が必要となることがある。

IQと適応行動の評価により、正式に診断される。青年期までの発達期に発症することを条件とするのは、知的障害を外傷性脳損傷や認知症(アルツハイマー病を含む)などの他の条件と区別するためである。

知能指数とは

以前のテストでは知能指数は「精神年齢」を「年齢」で割って100を掛けたでスコアで算出されていた。現在では「偏差値IQ」形式で採点され、受験者の年齢層の中央値から標準偏差2つ下の成績レベルをIQ70と定義している。

現在の知的障害の診断は、IQの点数だけで判断するのではなく、適応機能も考慮しなければならないため、診断の厳格性は損なわれているともいえる。知的な点数と、その人をよく知る人が知っている能力の説明に基づく適応行動評価尺度による適応機能の点数、さらに、その人が何を理解し、何を伝えられるかなどを直接知ることができる評価者の観察が含まれる。

適応機能とは、自立した生活を送るために最低限必要なスキルを指す。適応行動を評価するために、専門家は子どもの機能的能力を同年齢の他の子どもと比較する。適応行動を測定するために、専門家は構造化面接を行う。構造化面接では、その人をよく知っている人たちから、その人の地域社会での機能についての情報を系統的に引き出す。適応行動の尺度は数多くあり、適応行動の質を正確に評価するためには、臨床的な判断も必要です。適応行動には、以下のような特定のスキルが重要となる。

  • 着替え、トイレ、食事などの日常生活技能
  • 相手の話を理解し、それに答えることができるなどコミュニケーション能力
  • 仲間、家族、配偶者、大人、その他の人々との社会的関係をつくるスキル

知的障害の管理方法

現在のところ、確立された障害に対する「治療法」はないが、適切な支援と指導により、ほとんどの人は多くのことができるようになる。先天性甲状腺機能低下症などの原因は、早期に発見されて適切な治療を受ければ、知的障害の発症を防げる。

発達障害者の支援を行う機関は、多々あり、職員が常駐する入所施設、通所リハビリテーションプログラム、障害者が仕事を得るための作業所、発達障害者が地域で仕事を得るための支援プログラム、自立して生活を送る発達障害者の支援プログラム、子育てを支援するプログラムなど多彩である。また、発達障害の子どもを持つ親のための機関やプログラムもある。

 

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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