DNA鎖間架橋 interstrand crosslink(ICL)
DNA鎖間架橋(interstrand crosslink;ICL)は、2つの反応基を持つ様々な内因性代謝物、環境曝露(紫外線など)、がん化学療法剤、放射線治療などによって引き起こされる。これらの多様な病変の共通の特徴は、反対側の鎖上の2つのヌクレオチドが共有結合していることである。ICLは2本のDNA鎖の分離を妨げるため、DNAの複製や転写などの重要な細胞内プロセスを阻害する。ICLは、主にS期において、DNA複製フォークがICLで停止した際に検出される。ICLの損傷シグナルと修復は、ファンコニー貧血経路とDNA修復タンパク質およびクロマチン構造タンパク質の多数の翻訳後修飾によって促進される。ICLは非複製細胞でも検出され、修復されるが、その機構はあまり明らかではない。ICL修復の特徴は、病変を完全に除去するためにDNAの両鎖を切開する必要があることである。これは、二本鎖切断を複数作らないようにするために、連続した手順で行われる。片方の鎖からICLを外すと、その隙間を埋めるように損傷乗り越えDNA合成(translesion synthesis)が行われ、ICLの残骸を持つ無傷の二本鎖DNAが作られる。2本目の鎖からの傷の除去は、ヌクレオチド切除修復によって行われると考えられる。ICLの修復が不十分な場合、特に分裂の早い細胞にとって有害であり、ファンコニー貧血に特徴的な骨髄不全や、架橋剤が癌治療に有効である理由が説明できる。ICLを引き起こす抗腫瘍薬はアルキル化薬、プラチナ薬が代表的である。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号