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視床下部とは?どこにある・働き・ホルモン・下垂体との関係・障害の症状と遺伝の病気を臨床遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

視床下部(ししょうかぶ)とは、脳の底の中央、視床のすぐ下にある間脳の一部で、体温・食欲・水分・睡眠のリズム・自律神経とホルモンをまとめて調節し、体の内部の状態を一定に保つ司令塔です。すぐ下にぶら下がる下垂体に指令を出し、甲状腺・副腎・性腺のホルモンまで動かしています[1][2]。視床下部の病気の多くは腫瘍や手術・外傷など生まれたあとの原因で起こりますが、遺伝子の変化が関わるものもあります。この記事では、視床下部がどこにあるか、働きとホルモン、下垂体との関係、障害されたときの症状と受診先、そして遺伝の病気とのつながりを解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧠 Q. 視床下部とは?どこにありますか?

視床下部は脳の底の中央、視床の前下方にある間脳の一部です。すぐ下に下垂体が細い茎でぶら下がっています。読み方は「ししょうかぶ」、英語では hypothalamus です。

🧠 Q. 視床下部の働きは?

体温・食欲と体重・水分と塩分・睡眠と1日のリズム・自律神経・ホルモンを調節し、体の内部の状態を一定に保っています(恒常性)。

🧠 Q. 下垂体との関係は?

視床下部が放出ホルモン・抑制ホルモンで下垂体前葉に指令を出し、下垂体がその指令に応じて甲状腺・副腎・性腺などを動かすホルモンを出します。抗利尿ホルモンとオキシトシンは視床下部でつくられ、下垂体後葉から出ます。

🧠 Q. 障害されるとどうなりますか?

足りなくなるホルモンによって、成長や思春期の異常、寒がり・だるさ、尿の量の増加、過食や肥満などが出ます。治療は原因によって決まるため、症状があれば内分泌内科を受診してください。

この記事でわかること
📖 読了時間:約13分
🧠 視床下部・下垂体・ホルモン・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤場所 → 間脳の一部。視床の前下方、下垂体のすぐ上
  • ➤働き → 体温・食欲・水分・睡眠のリズム・自律神経・ホルモンの調節
  • ➤下垂体との関係 → 視床下部が指令を出し、下垂体が全身の内分泌腺を動かす
  • ➤障害 → 原因の多くは腫瘍・手術・外傷など。症状は足りないホルモンで決まる
  • ➤遺伝の病気 → カルマン症候群・プラダー・ウィリー症候群・パリスター・ホール症候群など

視床下部の位置と働き、下垂体との関係を解説するインフォグラフィック

1. 視床下部とは?読み方・英語・脳のどこにあるか

視床下部とは、間脳の一部で、自律神経・ホルモン・行動をまとめて調節し、体の内部の状態を一定に保つ脳の領域です。神経のはたらきとホルモンを出すはたらきの両方を持つことが特徴で、教科書では下垂体と合わせて内分泌系の「司令塔」と表現されています[2]。体の内と外から入ってくる信号をまとめ、内分泌・自律神経・体の動きの3つの面からホメオスタシス(恒常性)を保つ中心になっています[1]。

視床下部の読み方と英語

視床下部は「ししょうかぶ」と読みます。「しょうかぶ」と読むのは「床(しょう)」の音読みのためで、「視下床部」と書き誤られることもありますが、正しくは「視床」の「下部」です。英語では hypothalamus(ハイポサラマス)といい、hypo-(下)と thalamus(視床)を組み合わせた言葉です。日本語も英語も、「視床の下にある部分」という位置をそのまま名前にしています。

視床下部はどこにある?脳の中の位置

視床下部は、脳のほぼ中心の底にあり、視床の前下方に位置します。脳の中央にある第三脳室という空間を左右から囲むように、神経細胞のかたまり(神経核)が集まってできています[1][2]。前は終板、後ろは乳頭体、下は下垂体が目印になります[1]。

下垂体は、視床下部から伸びる漏斗(ろうと、下垂体茎)という細い茎でぶら下がり、頭蓋骨の底にある蝶形骨のくぼみ(トルコ鞍)に収まっています[2]。視床下部は胎児期に間脳から発生します[1]。脳の奥深くにあるため、画像で確かめるときはMRIやCTを使います[4]。

脳の中の位置関係(模式図・上から下の順)

大脳(大脳皮質)
↓
視床(間脳)感覚・運動の情報を大脳皮質へ中継
↓
視床下部(間脳)視床の前下方・第三脳室を囲む
↓ 漏斗(下垂体茎)
下垂体(前葉・後葉)蝶形骨のトルコ鞍に収まる

視床と視床下部の違いは?

視床と視床下部はどちらも間脳の一部ですが、視床は「情報の中継」、視床下部は「体の内部の調節」を受け持っています。視床は、体から届いた感覚や運動の情報を受け取り、選んで大脳皮質へ送る中継点です[3]。一方、視床下部は体温や水分、ホルモンなど、体の内側の状態を感じ取って調整します[1]。名前が似ているため混同されやすいのですが、はたらきは大きく異なります。

🧠 視床と視床下部の違い

項目 視床 視床下部
位置 間脳の上部・左右一対 視床の前下方、第三脳室のまわり
主な役割 感覚・運動の情報を大脳皮質へ中継する 体温・食欲・水分・睡眠のリズム・自律神経・ホルモンを調節する
下垂体との関係 直接の指令はしない 放出・抑制ホルモンなどで下垂体に指令を出す
キーワード 中継 恒常性(ホメオスタシス)

※StatPearls(視床)[3]、StatPearls(視床下部)[1]、OpenStax[2]による。

2. 視床下部の働きは?体温・食欲・水分・睡眠・自律神経

視床下部の働きは、体温、食欲と体重、水分と塩分のバランス、睡眠と覚醒のリズム、自律神経、ホルモンの分泌を調節することです。米国国立医学図書館の解説では、このほか出産、感情と記憶、成長、母乳の分泌、性欲にも関わると説明されています[4]。視床下部の中は小さな神経核に分かれていて、それぞれが別の仕事を受け持っています[1]。

⚙️ 視床下部の主な働きと、受け持つ神経核

働き しくみ 主な神経核
体温の調節 体温の設定値を決め、暑さ・寒さに合わせて体を反応させる 視索前核・前核・後核
食欲・体重 食べる行動を促す・抑える。脂肪からのレプチンの信号を受ける 外側野(食欲を促す)・腹内側核(満腹)・弓状核
水分と塩分 血液の濃さを感じ取り、抗利尿ホルモンで尿の量を調整する 視索上核・室傍核
睡眠と1日のリズム 網膜からの光の信号で1日のリズムを合わせる 視交叉上核
ホルモン 下垂体前葉へ放出・抑制ホルモンを送る/後葉のホルモンをつくる 弓状核・室傍核・視索上核
記憶 記憶をつくる神経回路(パペッツ回路)の一部 乳頭体

※StatPearls[1]による。神経核ごとの役割は主なものを示した。

体温の調節:発熱のしくみにも関わる

体温の調節は、視床下部の視索前核・前核・後核が受け持っています。[1]感染症などで熱が出るときは、体内でつくられるプロスタグランジンE2という物質が視床下部の視索前野などに働き、体温の設定値を引き上げます[1]。熱が出るのは、体温調節が壊れたからではなく、視床下部が「目標の体温」を一時的に高く設定し直した結果です。

食欲と体重の調節:満腹とレプチン

食欲は、食べる行動を促す外側野と、満腹で食事を止める腹内側核の組み合わせで調節されています。腹内側核が壊れると食べすぎに、外側野が壊れると食べなくなるとされています[1]。

体に蓄えられた脂肪の量は、脂肪細胞が出すレプチンというホルモンで視床下部の弓状核に伝えられます。弓状核には食欲を抑える神経細胞(POMCなどをつくる)と、食欲を高める神経細胞(NPY・AgRPをつくる)があり、この2つの釣り合いでエネルギーの出入りが保たれています[1]。日本内分泌学会は、視床下部の障害によって起こる肥満を「視床下部性肥満」と呼び、レプチン-メラノコルチン経路などエネルギー恒常性の障害が関与すると説明しています[5]。

水分と塩分のバランス:抗利尿ホルモン

視床下部は血液の濃さ(浸透圧)を感じ取り、脱水のときには抗利尿ホルモン(バソプレシン、ADH)の放出を増やして、腎臓で水を体に戻させます。[1]視床下部が傷ついて抗利尿ホルモンが足りなくなると、薄い尿が大量に出る中枢性尿崩症になります。逆に、視床下部の損傷や脳外科手術のあとに抗利尿ホルモンが出すぎて血液のナトリウムが下がる病気(SIADH)が起こることもあります[1]。

睡眠と1日のリズム:視交叉上核

1日のリズム(概日リズム)は、視床下部の視交叉上核が、網膜から届く光の信号をもとに合わせています。[1]ホルモンの分泌や行動の1日の変化は、この視交叉上核の時計に沿って動いています。米国国立医学図書館は、睡眠と覚醒の周期も視床下部の調節を受けると説明しています[4]。

自律神経の中枢としての働き

視床下部は自律神経の中枢の1つで、主に内側と外側の領域を通じて、心拍や血圧、消化などの自律神経の働きを調整しています。[1]また、視床下部が出す副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)は、下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を介して副腎皮質のホルモンの分泌を促します[1][2]。自律神経とホルモンの両方を一か所で調整できることが、視床下部が「司令塔」と呼ばれる理由です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「自律神経を整える」という言葉について】

視床下部は自律神経の中枢の1つなので、「視床下部を整える」「自律神経を整える」という表現を目にすることがあります。けれども、米国国立医学図書館の解説で視床下部の病気の治療として挙げられているのは、原因に対する治療(腫瘍の手術や放射線治療)と、足りないホルモンの補充です[4]。

視床下部の病気は、腫瘍、手術、外傷、放射線、栄養の問題、遺伝子の変化など、はっきりした原因で起こるものが中心です。だるさや食欲の変化が続くときは、「整える」方法を探すより、ホルモンの検査で原因を確かめることが近道だと考えています。

3. 視床下部のホルモンと下垂体の関係は?

視床下部は「指令を出す側」、下垂体は「指令を受けて全身の内分泌腺にホルモンを出す側」です。視床下部でつくられたホルモンは、下垂体門脈という専用の血管を通って、全身の血液に混ざる前に下垂体前葉へ直接届きます[2]。この関係を、視床下部-下垂体系と呼びます。

視床下部と下垂体の違い

🔁 視床下部と下垂体の違い

項目 視床下部 下垂体
正体 脳(間脳)の一部 視床下部からぶら下がる内分泌腺
働き 神経の働きとホルモンを出す働きの両方 ホルモンを血液中に出す
前葉との関係 放出ホルモン・抑制ホルモンで前葉の分泌を調整 前葉は自分でホルモンをつくる(腺組織)
後葉との関係 抗利尿ホルモンとオキシトシンをつくり、軸索で後葉へ送る 後葉は神経組織で、ホルモンを蓄えて放出するだけ

※OpenStax[2]による。

下垂体前葉を動かす放出ホルモン・抑制ホルモン一覧

視床下部から下垂体前葉に働くホルモンは、分泌を促す「放出ホルモン」と、分泌を抑える「抑制ホルモン」の2種類です。下の表は、どの視床下部ホルモンが、どの下垂体前葉ホルモンを通じて、どの臓器に働くかをまとめたものです[1][2]。覚えるときは、「視床下部の○○放出ホルモン → 下垂体の○○刺激ホルモン → 標的の臓器」と、名前の対応でつなげると整理しやすくなります。

🧪 視床下部ホルモンと、下垂体前葉ホルモン・標的臓器

視床下部のホルモン 下垂体前葉のホルモン 主な標的
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH) 甲状腺刺激ホルモン(TSH) 甲状腺
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH) 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) 副腎皮質
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH) 黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH) 卵巣・精巣(性腺)
成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)/ソマトスタチン(抑制) 成長ホルモン(GH) 肝臓・骨・筋肉など
ドーパミン(抑制)など プロラクチン(PRL) 乳腺

※OpenStax[2]、StatPearls[1]による。OpenStaxは、妊娠中に主に働くプロラクチン放出ホルモンも挙げている。

このうちGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)は、脈を打つように間をおいて出るとゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌を増やし、出続けると逆に分泌を減らすという性質があります[1]。また、成長ホルモンは促す側(GHRH)と抑える側(ソマトスタチン)の両方から調節されています[2]。TSH・ACTH・FSH・LHは、ほかの内分泌腺に働くことから「刺激ホルモン(トロピックホルモン)」とも呼ばれます[2]。

下垂体後葉から出るホルモン:抗利尿ホルモンとオキシトシン

抗利尿ホルモン(バソプレシン)とオキシトシンは、下垂体ではなく視床下部の視索上核・室傍核の神経細胞でつくられ、下垂体後葉に蓄えられてから血液中に出ます。[1][2]抗利尿ホルモンは腎臓で水の再吸収を増やし、オキシトシンは出産のときの子宮の収縮と、授乳のときの母乳の射出に働きます[2]。下垂体後葉は神経組織で、自分ではホルモンをつくりません[2]。

視床下部から下垂体、全身の内分泌腺へと指令が流れる様子を、甲状腺の例で示します。

視床下部TRHを出す
▶
下垂体前葉TSHを出す
▶
甲状腺甲状腺ホルモンを出す
▶
全身代謝の調節

副腎(CRH→ACTH→副腎皮質)や性腺(GnRH→LH・FSH→卵巣・精巣)も、同じ「視床下部→下垂体→内分泌腺」の流れで動いています[2]。このため、視床下部が障害されると、その先の甲状腺・副腎・性腺のホルモンまでまとめて足りなくなることがあります。

4. 視床下部が障害されるとどうなる?症状と原因

視床下部の障害(視床下部機能障害)の症状は、どのホルモンや脳の信号が足りなくなるかで決まります。[4]視床下部と下垂体はつながって働いているため、どちらに原因があるかを症状だけで区別するのは難しく、ホルモンの検査や画像検査で確かめていきます[4]。

視床下部障害の主な症状

🩺 かかわるホルモン・信号別の主な症状

かかわるもの 主な症状
成長・思春期にかかわるホルモンの分泌の異常(お子さん) 成長が遅すぎる・速すぎる、思春期が早すぎる・遅すぎる。ホルモンが足りない場合だけでなく、分泌の調節の異常(分泌が早く始まるなど)で起こる場合もある
甲状腺のホルモン 寒がり、便秘、疲れやすさ、体重の増加
副腎のホルモン 疲れやすさ、脱力感、食欲の低下、体重の減少、活動への関心の低下
抗利尿ホルモン 薄い尿が大量に出る(中枢性尿崩症)
食欲・エネルギーの調節 過食、治りにくい肥満(視床下部性肥満)
(腫瘍が原因のとき) 頭痛、視力の低下や見える範囲が狭くなる

※MedlinePlus[4]、StatPearls[1]、日本内分泌学会[5]による。

視床下部性肥満では、食欲が増えることに加えて、自律神経の働きの低下でエネルギーの消費が減るうえ、成長ホルモン・甲状腺ホルモン・性腺のホルモンの低下が重なることがあり、生活習慣の改善だけでは体重の管理が難しい場合があると説明されています[5]。

視床下部障害の原因

視床下部障害の原因として多いのは、手術、脳の外傷、脳腫瘍、脳への放射線治療です。[4]このほかに次のような原因があります[4][5]。

  • 栄養の問題(神経性やせ症や急激な体重減少など)
  • 脳の血管の病気(動脈瘤、下垂体卒中、くも膜下出血など)
  • 遺伝の病気(プラダー・ウィリー症候群、家族性尿崩症、カルマン症候群など)
  • 一部の免疫の病気による感染や炎症
  • 頭蓋咽頭腫など、視床下部の近くにできる腫瘍とその手術

視床下部の近くでは、下垂体腺腫がこの領域でもっとも多い腫瘍で、大きくなると視神経が交わる部分(視交叉)を圧迫して見え方の異常を起こすことがあります[1]。日本内分泌学会は、腫瘍・手術・放射線治療・外傷による視床下部の障害の多くは後天的に起こるもので、家族内で受け継がれるものではないと説明しています[5]。

「視床下部を正常にするには」:受診先と検査

視床下部の障害は原因によって治療が決まり、まず原因を調べることが出発点です。米国国立医学図書館によると、腫瘍には手術や放射線治療、足りないホルモンには薬での補充が行われ、下垂体の問題や水分・塩分のバランスの異常は補充療法がよく効くとされています。一方で、体温や睡眠の問題には薬が効きにくいとも書かれています[4]。

検査では、血液や尿のホルモン(コルチゾール、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、プロラクチン、性ホルモン、ナトリウム、浸透圧など)を測るほか、ホルモンを注射して一定時間ごとに採血する負荷試験、脳のMRIやCT、腫瘍が疑われるときの視野検査が行われます[4]。頭痛、見え方の異常、ホルモンの過不足を思わせる症状があるときは受診するよう勧められています[4]。受診先は内分泌内科で、お子さんの成長や思春期の異常は小児科の内分泌の専門外来が担当します。

💡 用語解説:視床下部-下垂体障害

視床下部と下垂体は機能的につながっているため、ホルモン不足がどちらの異常から起きているのかを見分けるのは簡単ではありません。そのため、両方をまとめて「視床下部-下垂体の障害」として扱い、負荷試験やMRIで原因の場所を絞り込みます。

5. 遺伝・医療とのつながり:視床下部にかかわる遺伝の病気

視床下部の病気の多くは後天的なものですが、遺伝子や染色体の変化によって、視床下部や下垂体がうまくできなかったり、働かなかったりする病気もあります。米国国立医学図書館は、視床下部機能障害の原因となる遺伝の病気として、プラダー・ウィリー症候群、家族性尿崩症、カルマン症候群を挙げています[4]。ここでは、視床下部と遺伝のつながりがよくわかる代表的な病気を取り上げます。

🧬 視床下部・下垂体にかかわる主な遺伝の病気

病気 視床下部・下垂体で起こること 主な原因と遺伝形式
カルマン症候群 GnRHが足りず、思春期が来ない・遅れる。においがわかりにくい ANOS1(X連鎖潜性)、FGFR1・CHD7・PROKR2など(常染色体顕性・潜性)
プラダー・ウィリー症候群 視床下部の発生と働きの障害で、複数のホルモン不足と過食が起こる 15番染色体(15q11.2-q13)の父由来の遺伝子が働かない
パリスター・ホール症候群 視床下部過誤腫ができる。けいれんやホルモンの異常が出ることがある GLI3(常染色体顕性)
複合下垂体ホルモン欠損症 下垂体が2つ以上のホルモンをつくれない PROP1など下垂体の発生を導く遺伝子(常染色体顕性・潜性・X連鎖)

※MedlinePlus Genetics[6][9][10]、GeneReviews[7][8]による。

カルマン症候群:においとホルモンが一緒に障害される理由

カルマン症候群は、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)をつくる神経細胞の発生・移動・働きがうまくいかないためにGnRHの分泌が足りなくなり、思春期が来ない・遅れ、においもわかりにくくなる病気です。[6]男性は約3万人に1人、女性は約12万人に1人と報告され、男性に多い病気です[6]。

においとホルモンが一緒に障害されるのは、胎児期の鼻の発生とGnRHニューロンの移動が深くつながっているためです。においを感じる嗅覚受容ニューロンは、細胞体を鼻の嗅上皮に置いたまま、軸索を脳の嗅球へ伸ばします。一方、GnRHをつくる神経細胞(ニューロン)は胎児期に鼻の原基(鼻プラコード)で生まれ、嗅覚系に由来する神経線維に沿って脳へ入り、視床下部まで移動します[11]。鼻の原基の発生やGnRHニューロンの移動がうまく進まないと、においの障害と性腺機能の低下が一緒に起こり、これがカルマン症候群です[6][11]。

原因遺伝子は20以上知られ、ANOS1・CHD7・FGF8・FGFR1・PROK2・PROKR2が代表的です。わかっている遺伝子で説明できるのはカルマン症候群の約30%とされています[6]。ANOS1はX染色体にあり、X連鎖潜性遺伝の形をとるため、主に男性に発症します。ほかの遺伝子では常染色体顕性(優性)遺伝が多く、常染色体潜性(劣性)遺伝の家系もあります[6]。においが正常な場合も含めた「GnRH単独欠損症」として見ると、においの障害を伴うもの(カルマン症候群)が約60%、伴わないものが約40%で、25以上の遺伝子の病的バリアントが全体の約半数を説明すると報告されています[7]。X連鎖のANOS1による病型はX連鎖カルマン症候群(HH1)、FGFR1による病型はカルマン症候群(HH2)で詳しく解説しています。

プラダー・ウィリー症候群:過食と視床下部

プラダー・ウィリー症候群は、視床下部の発生と働きが障害されることで、複数のホルモン不足と強い過食が起こる病気です。GeneReviewsは、視床下部の発生と機能の障害が複数のホルモン欠乏をもたらすと記載しています[8]。乳児期は強い筋緊張の低下と哺乳の弱さが目立ち、幼児期以降に食べすぎが始まって、食事の管理をしないと高度の肥満になります。男女とも性腺機能低下があり、成長ホルモンの分泌が少ないことから、治療をしなければ低身長になることが多いとされます[8]。

原因は、15番染色体の15q11.2-q13という領域で、父親由来の染色体にある遺伝子が働かないことです。父由来の15番染色体のこの領域の欠失が約60〜70%を占め、残りの多くは2本とも母親由来になる片親性ダイソミー、一部は刷り込み(インプリンティング)の異常によるものです[8]。再発する確率は大多数の家族で1%未満ですが、原因の型によっては高くなることがあるため、お子さんで原因の型を確かめ、必要に応じてご両親を調べることで正確に見積もることができます[8]。病気の全体像はプラダー・ウィリー症候群の原因・症状・診断・治療にまとめています。

妊娠中の検査では、当院のNIPT(新型出生前診断)で調べる微小欠失症候群の中に、プラダー・ウィリー症候群(15q11.2-q13・父由来)が入っています。NIPTでわかるのは欠失によるものだけで、片親性ダイソミーや刷り込み異常によるものはNIPTではわかりません。欠失はプラダー・ウィリー症候群の原因の約60〜70%を占めますが[8]、この割合はNIPTの検出率を表す数字ではありません。また、NIPTはスクリーニング検査なので、結果が陽性のときは羊水検査などの確定検査で確かめます。

パリスター・ホール症候群:視床下部過誤腫とGLI3遺伝子

パリスター・ホール症候群は、視床下部に過誤腫(かごしゅ)と呼ばれるかたまりができ、手足の指が多い(多指症)などの特徴を伴うまれな病気です。[9]視床下部過誤腫の多くは症状を起こしませんが、けいれんやホルモンの異常を起こすことがあり、乳児期には命に関わることもあります。重い合併症が出る人はごく一部とされています[9]。

原因はGLI3遺伝子の変化で、常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。親から受け継ぐ場合と、新たに生じる場合があります[9]。病気の詳しい内容はパリスター・ホール症候群の解説をご覧ください。

下垂体の発生にかかわる遺伝子:複合下垂体ホルモン欠損症

視床下部の指令を受ける下垂体の側にも、遺伝子の変化で発生がうまく進まない病気があります。複合下垂体ホルモン欠損症は、下垂体が成長ホルモン、LH・FSH、TSH、プロラクチン、ACTHのうち2つ以上をつくれない病気で、生まれつきのものは約1万6,000人に1人とされます[10]。生まれつきの原因としてもっとも多いのはPROP1遺伝子の変化で、PROP1を含む原因遺伝子の多くは、下垂体の発生と細胞の分化を導く転写因子(ほかの遺伝子のスイッチを入れたり切ったりするタンパク質)をつくっています[10]。ただし、生まれつきの例の多くは原因が特定されていません[10]。

遺伝の病気が疑われるときの調べ方

視床下部・下垂体の遺伝の病気では、ホルモンの検査と画像検査で病気の場所を確かめたうえで、原因を調べるために遺伝学的検査を行います。当院では、次の遺伝学的検査を行っています。いずれもオンライン診療で受けることができ、唾液・頬の粘膜・血液から検査できます(血液の場合は提携医療機関で採血します)。

🔬 当院で行っている、視床下部・下垂体にかかわる遺伝学的検査

検査 調べる内容
カルマン症候群遺伝子検査(NGSパネル) ANOS1・FGFR1・CHD7・PROKR2など19遺伝子
プラダー・ウィリー症候群・アンジェルマン症候群の遺伝子検査(メチル化解析) 15q11.2のメチル化とコピー数を同時に測る(MS-MLPA法)。両方の結果から、欠失か、それ以外(片親性ダイソミー・刷り込み異常)かがわかる。片親性ダイソミーと刷り込み異常の区別には、ご家族の検体での追加解析が必要
複合下垂体ホルモン欠損症(CPHD)遺伝子検査 PROP1・POU1F1・HESX1など7遺伝子

※各検査の対象・検体・結果までの期間は、それぞれの検査ページをご覧ください。

プラダー・ウィリー症候群のメチル化解析では、欠失がない場合、片親性ダイソミーと刷り込み異常はメチル化の結果だけでは区別できず、ご家族の検体を使った追加の解析が必要です。遺伝学的検査の結果は、ご本人だけでなく血縁者にも関わることがあるため、検査の前後に遺伝カウンセリングで意味を確かめることが大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「後天的か、遺伝か」を見分ける意味】

視床下部の障害は、多くが腫瘍や手術などの後天的な原因によるものです。ですから、ホルモンが足りないとわかっただけで遺伝を心配する必要はありません。

一方で、思春期が来ないうえににおいもわかりにくい、乳児期の筋緊張の低下のあとに強い過食が始まった、といった組み合わせは、生まれつきの原因を考える手がかりになります。遺伝が原因とわかれば、ご本人の治療方針だけでなく、ご家族やこれからのお子さんにとっての意味まで具体的に説明できるようになります。臨床遺伝専門医として、ここが遺伝学的検査を行う大きな理由だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 視床下部の読み方は?英語では何といいますか?

視床下部は「ししょうかぶ」と読みます。英語では hypothalamus(ハイポサラマス)といい、hypo-(下)と thalamus(視床)を組み合わせた言葉で、名前のとおり視床の下にある部分を指します。

Q2. 視床下部はどこにありますか?

脳のほぼ中心、底の部分にあります。間脳の一部で、視床の前下方に位置し、第三脳室を囲むように左右に広がっています。すぐ下には下垂体が漏斗(下垂体茎)という細い茎でぶら下がっています。

Q3. 視床と視床下部の違いは何ですか?

どちらも間脳の一部ですが、役割が違います。視床は体から届いた感覚や運動の情報を大脳皮質へ中継する場所です。視床下部は体温・食欲・水分・睡眠のリズム・自律神経とホルモンを調節し、体の内部の状態を一定に保つ司令塔です。

Q4. 視床下部と下垂体の違いは何ですか?

視床下部は脳の一部で、下垂体に指令を出す側です。下垂体は視床下部の下にぶら下がる小さな内分泌腺で、指令を受けて成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンなどを血液中に出します。抗利尿ホルモンとオキシトシンは視床下部でつくられ、下垂体後葉から放出されます。

Q5. 視床下部から出るホルモンにはどんなものがありますか?

下垂体前葉に働く放出ホルモン・抑制ホルモンとして、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、ソマトスタチン、ドーパミンなどがあります。また、抗利尿ホルモン(バソプレシン)とオキシトシンも視床下部でつくられます。

Q6. 視床下部が障害されるとどうなりますか?

症状は、どのホルモンや神経の信号が足りなくなるかで変わります。お子さんでは成長が遅すぎる・速すぎる、思春期が早すぎる・遅すぎるといった変化が、大人では甲状腺や副腎のホルモン不足による寒がり・便秘・だるさ・食欲低下などが出ることがあります。腫瘍が原因のときは頭痛や見え方の異常が出ることもあります。

Q7. 視床下部を正常にするにはどうすればよいですか?

治療は原因によって決まり、生活習慣だけで「整える」方法が確かめられているわけではありません。腫瘍には手術や放射線治療、足りないホルモンには薬での補充が行われます。頭痛、見え方の異常、ホルモンの過不足を思わせる症状があるときは、内分泌内科(お子さんは小児科の内分泌外来)を受診してください。

Q8. 視床下部の病気は遺伝しますか?

原因の多くは手術・外傷・腫瘍・放射線治療など、生まれたあとに起こるもので、遺伝はしません。一方で、カルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群、パリスター・ホール症候群のように、遺伝子や染色体の変化が視床下部の発生や働きに影響する病気もあります。

まとめ

視床下部(ししょうかぶ)は、脳の底の中央、視床の前下方にある間脳の一部で、すぐ下に下垂体がぶら下がっています。体温、食欲と体重、水分と塩分、睡眠と1日のリズム、自律神経、ホルモンを調節し、放出ホルモン・抑制ホルモンで下垂体を動かして、甲状腺・副腎・性腺のホルモンまで管理しています[1][2]。

視床下部が障害されると、足りなくなるホルモンに応じて成長や思春期の異常、だるさ、尿の量の増加、過食などが起こります。原因の多くは腫瘍・手術・外傷などの後天的なものですが、カルマン症候群やプラダー・ウィリー症候群のように遺伝子や染色体の変化が関わる病気もあります[4]。症状があるときはまず内分泌内科でホルモンを調べ、生まれつきの原因が疑われるときは遺伝学的検査で原因を確かめる、という順番で考えます。

🧬 視床下部・下垂体にかかわる遺伝の病気の遺伝子検査

当院では、視床下部・下垂体のホルモンの検査や治療は行っていません。ホルモンの異常は内分泌内科(お子さんは小児科の内分泌の専門外来)で調べます。当院で行っているのは、カルマン症候群やプラダー・ウィリー症候群など、遺伝が関わる病気が疑われる方・診断された方の遺伝学的検査と遺伝カウンセリングです。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、検査で何がわかるかを先にカルマン症候群遺伝子検査や遺伝カウンセリングとはでご覧ください。

参考文献

  • [1] Bear MH, Reddy V, Bollu PC. Neuroanatomy, Hypothalamus. StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing; 2022 (updated Oct 10, 2022). [NCBI Bookshelf NBK525993]
  • [2] Betts JG, Young KA, Wise JA, et al. 17.3 The Pituitary Gland and Hypothalamus. Anatomy and Physiology 2e. OpenStax. [OpenStax]
  • [3] Torrico TJ, Munakomi S. Neuroanatomy, Thalamus. StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing; 2023 (updated Jul 24, 2023). [NCBI Bookshelf NBK542184]
  • [4] Hypothalamic dysfunction. MedlinePlus Medical Encyclopedia. National Library of Medicine (review date 4/24/2025). [MedlinePlus]
  • [5] 日本内分泌学会. 視床下部性肥満(一般の皆様へ). [日本内分泌学会]
  • [6] Kallmann syndrome. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [7] Balasubramanian R, Crowley WF Jr. Isolated Gonadotropin-Releasing Hormone (GnRH) Deficiency. GeneReviews. University of Washington, Seattle; 2007 (revised May 12, 2022). [GeneReviews NBK1334]
  • [8] Driscoll DJ, Miller JL, Cassidy SB. Prader-Willi Syndrome. GeneReviews. University of Washington, Seattle; 1998 (revised Feb 19, 2026). [GeneReviews NBK1330]
  • [9] Pallister-Hall syndrome. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [10] Combined pituitary hormone deficiency. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus Genetics]
  • [11] Cho HJ, Shan Y, Whittington NC, Wray S. Nasal Placode Development, GnRH Neuronal Migration and Kallmann Syndrome. Front Cell Dev Biol. 2019;7. doi:10.3389/fcell.2019.00121 [DOI]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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