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芳香族アミノ酸とは?ベンゼン環を持つ3つの一覧・覚え方・ヒスチジンの扱いと、脂肪族・分岐鎖アミノ酸との違い、遺伝する代謝の病気まで臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

芳香族アミノ酸とは、側鎖(アミノ酸ごとに違う部分)にベンゼン環などの芳香環を持つアミノ酸のことです。タンパク質を作る20種類のアミノ酸のうち、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンの3つがこれに当たります[1]。この記事では、3つの一覧と覚え方、ヒスチジンの扱い、脂肪族・分岐鎖アミノ酸との違いに加えて、芳香族アミノ酸や分岐鎖アミノ酸をうまく分解できない、遺伝する代謝の病気まで解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 芳香族アミノ酸とは?

側鎖に芳香環を持つアミノ酸で、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンの3つです。一文字表記はF・Y・W。3つともベンゼン環またはインドール環を持っています。

🧬 Q. ヒスチジンは芳香族アミノ酸?

側鎖のイミダゾール基は芳香環ですが、教科書では塩基性アミノ酸に分類されるのが一般的です。ベンゼン環は持っていません。

🧬 Q. 脂肪族・分岐鎖アミノ酸との違いは?

脂肪族アミノ酸は芳香環を持たない炭化水素の側鎖を持ち、そのうち枝分かれしたものが分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)です。

🧬 Q. 遺伝とどう関係する?

芳香族アミノ酸を分解する酵素の遺伝子に変化があると、フェニルケトン尿症・チロシン血症・アルカプトン尿症などが起こります。いずれも常染色体潜性(劣性)遺伝です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧬 芳香族・脂肪族・分岐鎖アミノ酸
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤芳香族アミノ酸 → フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン(F・Y・W)
  • ➤ヒスチジン → 芳香環はあるが、ふつうは塩基性アミノ酸に分類
  • ➤性質 → 疎水性が高く、トリプトファン・チロシンは280nm付近の紫外線を吸収
  • ➤役割 → ドパミン・アドレナリン・セロトニン・甲状腺ホルモン・メラニンの材料
  • ➤遺伝との接点 → 代謝の病気は新生児マススクリーニングと両親の保因者検査で見つけられる

芳香族アミノ酸3つの一覧と、脂肪族・分岐鎖アミノ酸との違い、遺伝する代謝の病気をまとめたインフォグラフィック

1. 芳香族アミノ酸とは?ベンゼン環を持つ3つのアミノ酸

芳香族アミノ酸とは、側鎖に芳香環を持つアミノ酸で、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンの3つを指します。米国で広く使われている生化学の教科書は、比較的単純な芳香族の側鎖を持つアミノ酸として、この3つを挙げています[1]。フェニルアラニンはベンゼン環(フェニル基)、チロシンはベンゼン環に水酸基(-OH)がついたもの、トリプトファンはインドール環を持ちます[1]。

ここでいう「芳香族」は匂いのことではなく、ベンゼン環のような芳香環という環の構造を持つことを指す化学の言葉です。アミノ酸どうしは、側鎖以外の部分(アミノ基とカルボキシ基がついた骨格)は共通で、側鎖の違いが性質の違いになります。芳香族アミノ酸は、その側鎖が平たい環になっている仲間です。

フェニルアラニン(Phe・F)、チロシン(Tyr・Y)、トリプトファン(Trp・W)の構造式を並べ、芳香族の側鎖をピンク色で示した図

芳香族の側鎖をもつ代表的な3種類のアミノ酸。ピンク色の部分が側鎖(R基)で、フェニルアラニンはベンジル基、チロシンはヒドロキシベンジル基、トリプトファンはインドール環を含む側鎖をもちます。

芳香族アミノ酸の一覧(三文字・一文字表記と特徴)

3つの芳香族アミノ酸を、アミノ酸記号(三文字表記・一文字表記)と側鎖の環、体の中で作られる主な物質とあわせてまとめます。

📘 芳香族アミノ酸の一覧

アミノ酸 記号 側鎖の環 必須かどうか 主に作られる物質
フェニルアラニン Phe・F ベンゼン環(フェニル基) 必須アミノ酸 チロシン(体内で変換)
チロシン Tyr・Y ベンゼン環+水酸基 条件付き必須(フェニルアラニンから作られる) ドパミン・ノルアドレナリン・アドレナリン、甲状腺ホルモン、メラニン
トリプトファン Trp・W インドール環 必須アミノ酸 セロトニン
(参考)ヒスチジン His・H イミダゾール環(ベンゼン環ではない) 必須アミノ酸 ふつうは塩基性アミノ酸に分類

※側鎖の構造は生化学の教科書[1]、必須アミノ酸と主な派生物は[2][3]による。

必須アミノ酸は、体の中で作れないため食事からとる必要があるアミノ酸で、ヒスチジン・イソロイシン・ロイシン・リシン・メチオニン・フェニルアラニン・トレオニン・トリプトファン・バリンの9つです[2]。チロシンは健康な成人ではフェニルアラニンから作れるので必須ではありませんが、作る力が十分でない状態ではとる必要が出てくるため「条件付き必須アミノ酸」と呼ばれます[2]。この「フェニルアラニンからチロシンを作る」ステップが働かないのが、あとで解説するフェニルケトン尿症です。

ヒスチジンは芳香族アミノ酸?

ヒスチジンの側鎖は芳香環ですが、生化学の教科書ではリシン・アルギニンと並ぶ塩基性アミノ酸に分類されるのが一般的です。同じ教科書は、ヒスチジンの側鎖のイミダゾール基を「芳香環であり、正の電荷も帯びうる」と説明したうえで、塩基性アミノ酸の図に入れています[1]。つまり、化学の構造としては芳香環を持つが、タンパク質の中でのふるまい(電荷を持つ)で分類すると塩基性、ということです。

そのため、試験や教科書で「芳香族アミノ酸を3つ」と問われたら、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンと答えます。「芳香環を持つアミノ酸」と広く問われた場合にだけ、ヒスチジンを加える余地があります。ヒスチジンの環はベンゼン環ではないので、「ベンゼン環を持つアミノ酸」はフェニルアラニンとチロシン、ベンゼン環を含むインドール環を持つトリプトファンの3つです。資料によって扱いが分かれるのは、この「構造で分けるか、電荷で分けるか」の違いによります。

芳香族アミノ酸の覚え方

覚え方は「芳香(ほうこう)にフェチと」です。フェ=フェニルアラニン、チ=チロシン、ト=トリプトファンを、「芳香」という言葉とセットで覚えます。

一文字表記で覚えるなら「F・Y・W」の3文字です。フェニルアラニンがF、チロシンがY、トリプトファンがWです。遺伝子検査の報告書では、アミノ酸の変化が一文字または三文字表記で書かれるので、F・Y・Wを覚えておくと報告書の読み取りにも役立ちます。

💡 用語解説:側鎖(そくさ)

アミノ酸は、どれも中心の炭素(α炭素)にアミノ基・カルボキシ基・水素がついた共通の骨格を持ち、残りの1か所につく部分が側鎖(R基)です。20種類のアミノ酸の違いは側鎖の違いで、側鎖の形や電荷によって「芳香族」「脂肪族」「酸性」「塩基性」などに分けられます。

2. 芳香族アミノ酸の性質:疎水性と280nmの紫外線吸収

芳香族アミノ酸は水になじみにくい(疎水性)ことと、紫外線を吸収することが大きな特徴です。どちらも側鎖の芳香環がもたらす性質で、タンパク質の形と、研究室でのタンパク質の測定の両方に関わっています[1]。

なぜ280nmの紫外線を吸収するのか

トリプトファンとチロシンの芳香環には、環全体に広がった(非局在化した)π電子があり、これが紫外線を強く吸収します。生化学の教科書は、20種類のアミノ酸のなかで280nm付近を強く吸収するのはこれらのアミノ酸だけだと説明しています[1]。

言いかえると、タンパク質の溶液が280nm付近の紫外線を吸収する強さは、そのタンパク質に含まれるトリプトファンとチロシンの量を反映しています。トリプトファンやチロシンをほとんど含まないタンパク質は、280nmではほとんど吸収を示しません。

疎水性とタンパク質の中での役割

フェニルアラニンは完全に疎水性で、チロシンとトリプトファンはそれぞれ水酸基とNH基を持つ分だけ疎水性が弱くなります。[1]疎水性の側鎖は水を避けて集まるため、水の中でタンパク質が折りたたまれるとき(フォールディング)に内側に入り込み、立体構造を安定させる芯になります。

このため、タンパク質の内側にある芳香族アミノ酸が、遺伝子の変化で別のアミノ酸に置き換わると、立体構造が崩れて働きが落ちることがあります。遺伝子検査の報告書に「p.Phe…」「p.Trp…」と書かれた変化があるとき、その位置のアミノ酸がタンパク質のどこにあるか(内側の芯か、表面か)は、病気との関係を考えるときの手がかりの1つになります。

💡 用語解説:ミスセンスバリアント

DNAの1文字の変化で、タンパク質の1つのアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わる変化です。報告書では「p.Phe508Leu」のように、もとのアミノ酸・位置・置き換わったアミノ酸の順に書かれます(この例は書き方の説明のためのもので、特定の病気の変化ではありません)。

3. 体の中での役割:神経伝達物質・ホルモン・色素の材料

芳香族アミノ酸は、タンパク質の材料であると同時に、ドパミン・アドレナリン・セロトニンなどのモノアミン(神経伝達物質)や、甲状腺ホルモン、メラニン色素の材料になります。チロシンは甲状腺ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、メラニンに変えられます[2]。

フェニルアラニンPAHで変換
▶
チロシンTHで変換
▶
L-DOPAAADCで変換
▶
ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
トリプトファン
▶
5-HTP5-ヒドロキシトリプトファン
▶
セロトニンAADCで変換
フェニルアラニンからチロシン・L-DOPAを経てドパミンへ、トリプトファンから5-HTPを経てセロトニンへ至る合成経路を、構造式と変換酵素で示した図

フェニルアラニンからドパミンへ至る経路と、トリプトファンからセロトニンへ至る経路を構造式で比較。各段階に働くPAH・TH・TPH・AADCと、ドパミンからノルアドレナリン・アドレナリンへの流れも示しています。

上の図のように、チロシンはチロシン水酸化酵素(TH)によってL-DOPAに変わり、L-DOPAからドパミン、さらにノルアドレナリンとアドレナリンが作られます[4]。トリプトファンはまず5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)に変わり、そこから芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)によってセロトニンになります。AADCはL-DOPAからドパミンを作る最後のステップも担っていて、2つの経路の出口に共通する酵素です[3]。

また、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンに水酸基をつける3つの反応(水酸化)は、どれもテトラヒドロビオプテリン(BH4)という補酵素を必要とします[5]。「芳香族アミノ酸に水酸基をつける」という共通の反応が、別々の神経伝達物質の入口になっているわけです。この共通点は、1つの補酵素の不足が複数の経路にまとめて影響する理由でもあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【1つの酵素が2つの神経伝達物質を作る意味】

AADCがドパミンとセロトニンの両方の最後の段階を担っていることは、教科書では1行で済まされがちな事実です。けれども遺伝の視点から見ると、この1行には大きな意味があります。1つの遺伝子(DDC)がうまく働かないと、2つの神経伝達物質がまとめて足りなくなるからです。

「芳香族アミノ酸」という化学の分類は、こうして体の中の経路を通じて、神経の病気や代謝の病気とつながっています。用語を構造だけで覚えるのではなく、どの酵素で何に変わるのかまで押さえておくと、遺伝子検査の結果を読むときの理解が深まると考えています。

4. 脂肪族アミノ酸・分岐鎖アミノ酸との違いは?

脂肪族アミノ酸は、芳香環を持たない炭化水素の側鎖を持つアミノ酸で、そのうち側鎖が枝分かれしているバリン・ロイシン・イソロイシンを分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼びます。生化学の教科書は、バリン・ロイシン・イソロイシンを大きな炭化水素の側鎖を持つアミノ酸とし、メチオニン(硫黄を含むが大部分が脂肪族)とプロリンも脂肪族の側鎖を持つと説明しています[1]。どこまでを脂肪族に含めるかは、資料によって違いがあります。

脂肪族アミノ酸とは?一覧と覚え方

脂肪族アミノ酸とは、側鎖が芳香環を持たない炭化水素でできているアミノ酸で、中心はアラニン・バリン・ロイシン・イソロイシンです。生化学の教科書は、アラニンの側鎖をメチル基(-CH3)、バリン・ロイシン・イソロイシンをより大きな炭化水素の側鎖を持つアミノ酸とし、図の題名を「脂肪族の側鎖を持つアミノ酸」としています[1]。最も単純なグリシンの側鎖は水素1個だけで、炭化水素の鎖を持たないため、脂肪族に含めるかどうかは資料によって分かれます[1]。

📘 脂肪族アミノ酸の一覧

アミノ酸 記号 側鎖 位置づけ
グリシン Gly・G 水素1個(-H) 最も単純。脂肪族に含めるかは資料によって違う
アラニン Ala・A メチル基(-CH3) 脂肪族
バリン Val・V 枝分かれした炭化水素 脂肪族・分岐鎖アミノ酸・必須アミノ酸
ロイシン Leu・L 枝分かれした炭化水素 脂肪族・分岐鎖アミノ酸・必須アミノ酸
イソロイシン Ile・I 枝分かれした炭化水素(不斉炭素がもう1つある) 脂肪族・分岐鎖アミノ酸・必須アミノ酸
メチオニン Met・M 硫黄(-S-)を含むが大部分が脂肪族 脂肪族に含めることがある・必須アミノ酸
プロリン Pro・P 側鎖が主鎖の窒素とつながって環を作る 脂肪族の側鎖だが、ほかと形が違う

※側鎖の構造と位置づけは生化学の教科書[1]、分岐鎖アミノ酸は[9]、必須アミノ酸は[2]による。

大きな脂肪族の側鎖は疎水性で、水を避けてタンパク質の内側に集まります[1]。芳香族アミノ酸と同じく、タンパク質の芯をつくる側の仲間です。違いは、側鎖が平たい環ではなく、炭素と水素の鎖でできていることです。

覚え方は「輪のないロバの愛、プロに恵む」です。ロ=ロイシン、バ=バリン、愛(アイ)=アラニン・イソロイシン、プロ=プロリン、恵(メ)む=メチオニンに当てはめます。このうちロイシン・バリン・イソロイシンの3つが分岐鎖アミノ酸です。

「輪のない」は、芳香族アミノ酸のような芳香環(ベンゼン環のような平たい環)を持たない、という脂肪族の意味そのものです。ただしプロリンの側鎖は主鎖の窒素とつながって環を作るので、「環がまったくない」わけではありません。プロリンの環は芳香環ではないため、脂肪族に入ります。脂肪族の「環がない」は、正確には「芳香環がない」と覚えておくと、プロリンでつまずきません。最も単純なグリシンは側鎖が水素1個だけなので、この覚え方には入れていません。

芳香族・脂肪族・分岐鎖アミノ酸の比較表

🔬 芳香族アミノ酸と脂肪族・分岐鎖アミノ酸の違い

項目 芳香族アミノ酸 脂肪族アミノ酸 分岐鎖アミノ酸(BCAA)
側鎖の特徴 芳香環(ベンゼン環・インドール環)を持つ 芳香環を持たない炭化水素(主に鎖状) 脂肪族のうち枝分かれした鎖
代表的なアミノ酸 フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン(メチオニン・プロリンを含めることもある) バリン・ロイシン・イソロイシン
紫外線(280nm)の吸収 トリプトファン・チロシンが強く吸収 ほとんど吸収しない ほとんど吸収しない
分解できない遺伝する病気の例 フェニルケトン尿症・チロシン血症・アルカプトン尿症 — メープルシロップ尿症

※側鎖の分類と吸収は[1]、分岐鎖アミノ酸と病気は[5][7][8][9]による。

分岐鎖アミノ酸は、牛乳・肉・卵などのタンパク質の多い食べ物に含まれ、分解がうまくいかないと脳などに害をおよぼします[9]。酸性・塩基性なども含めた20種類全体の分類は、アミノ酸の分類のページで詳しく扱っています。

肝臓の病気と「フィッシャー比」

肝硬変では血液中の分岐鎖アミノ酸が減り、芳香族アミノ酸が増えることが知られていて、その比をフィッシャー比(BCAA/AAA)と呼びます。肝硬変の患者さんを対象にした研究では、フィッシャー比をロイシン・イソロイシン・バリンの合計をフェニルアラニンとチロシンの合計で割った値として計算し、肝硬変の患者さんではこの比が低いこと、分岐鎖アミノ酸の低下が肝性脳症と関連することを述べています[6]。

「芳香族アミノ酸 肝臓」と検索される方の多くは、この話を知りたいのだと思います。肝臓の病気で芳香族アミノ酸が増えるのは後天的な変化で、生まれつきの遺伝子の変化による次の章の病気とは原因が違います。同じ「芳香族アミノ酸が多い」という状態でも、原因が肝臓の働きの低下なのか、分解する酵素の遺伝子の変化なのかで、意味も対応もまったく変わります。

5. 遺伝・医療とのつながり:芳香族・分岐鎖アミノ酸の代謝の病気

芳香族アミノ酸や分岐鎖アミノ酸を分解する酵素の遺伝子に生まれつきの変化があると、アミノ酸やその途中の物質がたまり、脳・肝臓・腎臓・関節などに影響が出ます。ここで挙げる病気は、どれも常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親がそれぞれ1つずつ変化を持つ保因者のときに子どもに起こります。

🧬 芳香族・分岐鎖アミノ酸の代謝に関わる主な遺伝性の病気

病気 原因遺伝子 たまるもの・働かない段階 主な特徴
フェニルケトン尿症(PAH欠損症) PAH フェニルアラニン→チロシンの変換 治療しないと知的障害など。新生児マススクリーニングの対象
チロシン血症I型 FAH チロシン分解の最終段階 最も重い型。肝臓・腎臓の障害
チロシン血症II型 TAT チロシン分解の最初の段階 眼と皮膚(手のひら・足の裏)の症状
チロシン血症III型 HPD チロシン分解の2番目の段階 最もまれ。知的障害・けいれんなど
アルカプトン尿症 HGD ホモゲンチジン酸の分解 尿の黒変、組織の色素沈着(組織黒変症)、関節炎
AADC欠損症 DDC L-DOPA→ドパミン、5-HTP→セロトニン 筋緊張低下、眼球が上を向く発作、発達の遅れ
メープルシロップ尿症 BCKDHA・BCKDHB・DBT 分岐鎖アミノ酸の分解 尿の甘い匂い、哺乳不良、けいれん

※[5][7][8][9][10]による。いずれも常染色体潜性(劣性)遺伝。

フェニルケトン尿症:フェニルアラニンをチロシンに変えられない

フェニルケトン尿症は、PAH遺伝子の変化でフェニルアラニン水酸化酵素が働かず、フェニルアラニンが体にたまる病気です。常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親がともに保因者のとき、患者さんのきょうだいが病気である確率は妊娠ごとに25%、症状のない保因者である確率は50%です[5]。

治療の中心は、年齢に合わせてフェニルアラニンを制限した食事を生涯続けることで、フェニルアラニンを含まない医療用の食品を使います[5]。また、妊娠中に母体の血液中のフェニルアラニンが高いと胎児に影響(知的障害・小頭症・先天性心疾患など)が出るため、フェニルケトン尿症の女性は妊娠中、血中濃度を120〜360µmol/Lに保つことが勧められています[5]。病気の詳しい内容はフェニルケトン尿症(PKU)、遺伝子についてはPAH遺伝子のページで解説しています。

チロシン血症とアルカプトン尿症:チロシンの分解の途中で止まる

チロシン血症はチロシンを分解する酵素の遺伝子の変化で起こり、どの段階が止まるかでI型(FAH)・II型(TAT)・III型(HPD)に分かれます。I型は最も重い型で、生後数か月以内に症状が出て肝臓や腎臓が障害され、世界では約10万人に1人とされます。II型は眼と皮膚の症状が中心で、III型は最もまれです[7]。詳しくはチロシン血症I型・チロシン血症II型をご覧ください。

アルカプトン尿症は、同じチロシン分解の経路のさらに先にあるホモゲンチジン酸1,2-ジオキシゲナーゼ(HGD遺伝子)が働かない病気です。主な特徴は、尿が黒い、または置いておくと黒くなること、結合組織が青黒く色づく組織黒変症(オクロノーシス)、背骨や大きな関節の関節炎の3つです[8]。チロシン血症と同じく常染色体潜性(劣性)遺伝で、両親がともに保因者のとき、きょうだいが病気である確率は25%です[8]。

メープルシロップ尿症:分岐鎖アミノ酸を分解できない

メープルシロップ尿症は、BCKDHA・BCKDHB・DBTのいずれかの遺伝子の変化で、分岐鎖アミノ酸(ロイシン・イソロイシン・バリン)を分解できない病気です。名前は、患者さんの赤ちゃんの尿の甘い匂いに由来します。世界では約18万5千人に1人とされ、治療しないとけいれんや昏睡に至ることがあります[9]。詳しくはメープルシロップ尿症で解説しています。

AADC欠損症:芳香族アミノ酸から神経伝達物質を作れない

芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症は、DDC遺伝子の変化でドパミンとセロトニンが作れなくなる病気で、日本では指定難病(323)になっています。[11]症状は生後6か月までに出ることが多く、筋緊張の低下、眼球が上に向く発作、発達の遅れ、血圧や体温の調節の乱れなどがみられます[10]。

文献で報告された患者さんは約350人で、台湾・日本・中国の人に多いとされています[10]。難病情報センターは、日本の患者さんは10人程度で、日本でも2016年から遺伝子治療が行われるようになったと説明しています[11]。「芳香族アミノ酸」という名前の酵素が、日本と縁の深い希少疾患の原因になっているということは、このページならではの接点です。

生まれてすぐ見つける:新生児マススクリーニング

フェニルケトン尿症とメープルシロップ尿症は、日本の新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の対象です。たとえば埼玉県の案内では、生後4〜6日に赤ちゃんのかかとから少量の血液をとり、フェニルケトン尿症・メープルシロップ尿症を含むアミノ酸代謝異常5疾患など、合わせて22の病気を調べています。検査費用は公費です[12]。対象の病気は自治体によって違うことがあります。

マススクリーニングは「生まれたあと、症状が出る前に見つけて治療を始める」ための仕組みです。フェニルケトン尿症は、早く見つけて食事療法を始めることが何より大切な病気なので、この仕組みとの相性が特によい病気です。新生児スクリーニングの全体像は新生児スクリーニングで解説しています。

生まれる前に分かる:両親の保因者検査

ここまでの病気はすべて常染色体潜性(劣性)遺伝なので、両親がともに同じ遺伝子の保因者なら、子どもが病気になる確率は妊娠ごとに4分の1です。[5][8]保因者は症状がないため、家族に患者さんがいなくても、子どもが生まれて初めて分かることがあります。

当院の拡大版保因者検査は、女性787遺伝子・男性714遺伝子、女性1009遺伝子・男性911遺伝子の4種類です。この記事で取り上げたPAH・FAH・TAT・HPD・HGD・DDC・BCKDHA・BCKDHB・DBTの9遺伝子は、当院の遺伝子一覧で確かめたところ、すべて女性787遺伝子に入っており、女性787の遺伝子をすべて含む女性1009遺伝子にも入っています。いずれもX連鎖ではない遺伝子なので、男性714遺伝子・男性911遺伝子にも含まれます。

4種類とも、オンライン診療で受けることができ、唾液や頬の粘膜の検体でも検査できます。妊娠中に受けたい場合は、NIPT(新型出生前診断)と同じ日に採血するファミリーセーフティ プラスで受けられます(ファミリーセーフティ プラスだけを単独で受けることはできません)。保因者検査の考え方は保因者スクリーニング検査とはで詳しく解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【マススクリーニングと保因者検査は役割が違う】

フェニルケトン尿症やメープルシロップ尿症は、新生児マススクリーニングで見つけられる病気です。だから保因者検査はいらない、と考える方もいるかもしれません。けれども2つの検査は役割が違います。マススクリーニングは生まれた赤ちゃんを早く治療につなげるためのもの、保因者検査は子どもを持つ前や妊娠中に、カップルとして同じ遺伝子の保因者かどうかを知るためのものです。

潜性(劣性)遺伝の病気は、家族歴がないことが多く、「うちの家系にはいないから大丈夫」とは言えません。どちらの情報を、いつ、どう使うかは人によって違います。だからこそ、検査で何がわかり、何がわからないかを事前に理解したうえで選ぶことが大切だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 芳香族アミノ酸の3つは何ですか?

フェニルアラニン(Phe・F)、チロシン(Tyr・Y)、トリプトファン(Trp・W)の3つです。いずれも側鎖にベンゼン環またはインドール環という芳香環を持っています。

Q2. ヒスチジンは芳香族アミノ酸ですか?

ヒスチジンの側鎖のイミダゾール基は芳香環ですが、正の電荷を帯びることができるため、生化学の教科書では塩基性アミノ酸に分類されるのが一般的です。芳香族アミノ酸として3つを挙げるときは、ヒスチジンを含めません。ベンゼン環は持っていません。

Q3. 芳香族アミノ酸の覚え方は?

「芳香(ほうこう)にフェチと」と覚え、フェ=フェニルアラニン、チ=チロシン、ト=トリプトファンに当てはめます。一文字表記で覚えるなら「F・Y・W」です。

Q4. 芳香族アミノ酸と分岐鎖アミノ酸の違いは?

芳香族アミノ酸は側鎖に芳香環を持つフェニルアラニン・チロシン・トリプトファン、分岐鎖アミノ酸は枝分かれした炭化水素の側鎖を持つバリン・ロイシン・イソロイシンです。分岐鎖アミノ酸は脂肪族アミノ酸の一部です。肝硬変では分岐鎖アミノ酸が減って芳香族アミノ酸が増えることが知られ、その比はフィッシャー比と呼ばれます。

Q5. 芳香族アミノ酸はなぜ280nmの紫外線を吸収するのですか?

トリプトファンとチロシンの芳香環には非局在化したπ電子があり、これが紫外線を強く吸収するためです。20種類のアミノ酸のなかで280nm付近を強く吸収するのは、これらのアミノ酸だけです。

Q6. 芳香族アミノ酸は必須アミノ酸ですか?

フェニルアラニンとトリプトファンは必須アミノ酸です。チロシンは健康な成人ではフェニルアラニンから作られるため必須ではありませんが、条件によっては食事からの摂取が必要になる「条件付き必須アミノ酸」とされます。

Q7. 芳香族アミノ酸が関係する遺伝する病気には何がありますか?

フェニルケトン尿症(PAH遺伝子)、チロシン血症I〜III型(FAH・TAT・HPD遺伝子)、アルカプトン尿症(HGD遺伝子)、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症(DDC遺伝子)などがあり、いずれも常染色体潜性(劣性)遺伝です。分岐鎖アミノ酸ではメープルシロップ尿症(BCKDHA・BCKDHB・DBT遺伝子)があります。

Q8. 脂肪族アミノ酸には何がありますか?

アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシンが中心で、側鎖が芳香環を持たない炭化水素でできています。最も単純なグリシンや、硫黄を含むメチオニン、側鎖が環を作るプロリンを含めるかどうかは資料によって違います。バリン・ロイシン・イソロイシンは分岐鎖アミノ酸です。

Q9. 脂肪族アミノ酸の覚え方は?

「輪のないロバの愛、プロに恵む」と覚えます。ロ=ロイシン、バ=バリン、愛(アイ)=アラニン・イソロイシン、プロ=プロリン、恵(メ)む=メチオニンです。「輪のない」は、芳香族アミノ酸のような芳香環(ベンゼン環のような平たい環)を持たないという意味です。プロリンの側鎖は主鎖とつながって環を作りますが、芳香環ではないので脂肪族に入ります。

まとめ

芳香族アミノ酸とは、側鎖に芳香環を持つフェニルアラニン・チロシン・トリプトファン(F・Y・W)の3つです[1]。ヒスチジンも芳香環を持ちますが、ふつうは塩基性アミノ酸に分類されます。脂肪族アミノ酸は芳香環を持たない炭化水素の側鎖を持ち、そのうち枝分かれしたバリン・ロイシン・イソロイシンが分岐鎖アミノ酸です。

芳香族アミノ酸はドパミン・セロトニン・甲状腺ホルモン・メラニンの材料で、分解や変換に関わる酵素の遺伝子に変化があると、フェニルケトン尿症・チロシン血症・アルカプトン尿症・AADC欠損症が、分岐鎖アミノ酸ではメープルシロップ尿症が起こります。どれも常染色体潜性(劣性)遺伝で、生まれたあとは新生児マススクリーニング、生まれる前は両親の保因者検査で知ることができます。

🧬 アミノ酸代謝の病気の保因者検査をお考えの方へ

この記事で取り上げたフェニルケトン尿症・チロシン血症・アルカプトン尿症・メープルシロップ尿症・AADC欠損症の原因遺伝子は、当院の拡大版保因者検査(女性787・1009遺伝子、男性714・911遺伝子)の対象です。臨床遺伝専門医が常駐し、オンライン診療と唾液・頬の粘膜の検体でも受けられます。検査で何がわかるかを先に知りたい方は、保因者スクリーニング検査とはと遺伝カウンセリングをご覧ください。

参考文献

  • [1] Berg JM, Tymoczko JL, Stryer L. Proteins Are Built from a Repertoire of 20 Amino Acids (Section 3.1). Biochemistry. 5th edition. New York: W H Freeman; 2002. [NCBI Bookshelf NBK22379]
  • [2] Lopez MJ, Mohiuddin SS. Biochemistry, Essential Amino Acids. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. [NCBI Bookshelf NBK557845]
  • [3] DDC gene. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [4] TH gene. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [5] Arnold G, Vockley J. Phenylalanine Hydroxylase Deficiency. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 2000 [updated 2025 Nov 20]. [NCBI Bookshelf NBK1504]
  • [6] Espina S, Gonzalez-Irazabal Y, Sanz-Paris A, et al. Amino Acid Profile in Malnourished Patients with Liver Cirrhosis and Its Modification with Oral Nutritional Supplements: Implications on Minimal Hepatic Encephalopathy. Nutrients. 2021;13(11):3764. [PMC8617874]
  • [7] Tyrosinemia. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [8] Introne WJ, Perry M, Chen M. Alkaptonuria. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 2003 [updated 2021 Jun 10]. [NCBI Bookshelf NBK1454]
  • [9] Maple syrup urine disease. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [10] Aromatic l-amino acid decarboxylase deficiency. MedlinePlus Genetics. National Library of Medicine. [MedlinePlus]
  • [11] 難病情報センター. 芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素欠損症(指定難病323). [難病情報センター]
  • [12] 埼玉県. 先天性代謝異常等検査について. [埼玉県]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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