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ミスセンス変異:遺伝子変異が機能に与える影響

この記事では、ミスセンス変異が遺伝子の機能にどのような影響を与えるかを解説します。遺伝病への影響からその検出方法まで、簡潔に紹介します。

ミスセンス変異の基本

ミスセンス変異は、遺伝子のDNA配列の1塩基対の変化により、別のアミノ酸をコードするコドンに変化する点突然変異の一種です[2]。その結果、タンパク質中の1つのアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わります[2]。
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ミスセンス変異

ミスセンス変異の発生メカニズムは、変異の原因によって異なりますが、主なメカニズムは以下の通りです[1]:

1. 塩基の欠失:特定の塩基がDNA配列から欠失することで、コドン配列が変化し、コードするアミノ酸が変わる。

2. 塩基の置換:DNA複製時などに特定の位置で塩基が置換されることで変異が生じる。最も一般的なメカニズム。

3. 塩基の挿入:余分な塩基がDNA配列に挿入されることで、コドン配列とコードするアミノ酸が変化する。

4. 塩基のトートマー変化:塩基の水素原子が移動し、ケト型からエノール型に変化することで、相補的な塩基対合が影響を受ける。その結果、mRNA配列とアミノ酸配列が変化する。

これらのメカニズムにより、染色体のDNA配列が変化し、mRNAとタンパク質の配列に影響を及ぼします[1]。ミスセンス変異は自然発生的に、あるいは放射線や活性酸素種などの変異原の誘発によって生じます[1]。

ミスセンス変異の多くは、タンパク質の不安定化を通じて特定の分子表現型を引き起こします[5]。変異の位置や置換されるアミノ酸によっては、タンパク質の機能が大きく損なわれ、重篤な疾患の原因となる場合もあります[1][2]。一方、類似した性質のアミノ酸に置換される場合は、タンパク質の機能に大きな影響を与えない可能性もあります[2]。

ミスセンス変異が引き起こす効果

タンパク質の構造と機能への影響

ミスセンス変異がタンパク質の構造と機能に与える影響について、提供された情報をまとめると以下のようになります。

● ミスセンス変異の影響の多様性

ミスセンス変異の影響は多岐にわたります。タンパク質の安定性や他の分子との相互作用に影響を与えたり[4]、機能喪失(LOF)だけでなく機能獲得(GOF)や優性阻害(DN)効果をもたらしたりする場合もあります[5]。変異の位置やアミノ酸の種類によって、影響の程度は大きく異なります[2]。

● タンパク質の安定性への影響

多くのミスセンス変異は、タンパク質の不安定化を通じて特定の分子表現型を引き起こします[5]。変異によるタンパク質の安定性変化(ΔΔG)を予測する様々な手法が開発されています[4]。一般にLOF変異はタンパク質を不安定化させる一方、GOFやDN変異の場合は安定性への影響が小さい傾向があります[5]。

● 構造変化のパターン

ミスセンス変異による構造変化のパターンは多様ですが[7]、変異の種類によって特徴的な違いが見られます。LOF変異は構造中のあらゆる位置で起こり、タンパク質を不安定化させる傾向がある一方、DN変異は表面に多く、安定性への影響は小さい傾向があります[5]。変異の周辺の局所構造や、変異の空間的なクラスタリングにも違いが見られます[5]。

● 機能への影響の予測

ミスセンス変異の機能への影響を予測する多くの手法が開発されていますが[1]、DN変異やGOF変異の同定精度はLOF変異に比べて低い傾向があります[5]。これは、DN変異やGOF変異の機能メカニズムがLOF変異ほど単純ではないためと考えられます。変異の機能への影響をより正確に予測するには、タンパク質の構造的特徴だけでなく、複合体形成など分子間相互作用への影響も考慮する必要があります[5][8]。

● 今後の課題

ミスセンス変異の影響を理解するには、変異の分子メカニズムを明らかにすることが重要です[6]。そのためには、変異の種類を正確に分類し[5]、実験的な検証データを蓄積することが求められます[7]。計算機による変異の影響予測は、実験的アプローチを補完する有力な手段ですが[3]、特にDNやGOF変異への対応が課題となっています[5]。

以上のように、ミスセンス変異はタンパク質の構造と機能に多様な影響を与えます。変異の種類によって影響の特徴が異なることから、変異の分子メカニズムを考慮した影響予測が重要だと考えられます。今後、計算予測と実験的検証を組み合わせた研究の進展が期待されます。

Citations:
[1] www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmolb.2021.646288/full
[2] www.genome.gov/genetics-glossary/Missense-Mutation
[3] www.osmosis.org/answers/missense-mutation
[4] journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371%2Fjournal.pcbi.1008543
[5] www.nature.com/articles/s41467-022-31686-6
[6] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3346971/
[7] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7846930/
[8] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8196604/
[9] pubs.acs.org/doi/10.1021/ct401022c
[10] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7196459/
[11] www.nature.com/articles/s41598-020-72404-w
[12] academic.oup.com/bib/article/25/2/bbae006/7596257
[13] www.cancer.gov/publications/dictionaries/genetics-dictionary/def/missense-mutation
[14] www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959440X2300074X
[15] www.sciencedirect.com/topics/biochemistry-genetics-and-molecular-biology/missense
[16] onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/humu.23258
[17] www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2002660117
[18] onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/pro.3774

ミスセンス変異の病気への影響

ミスセンス変異は、遺伝子のDNA配列中の一塩基が別の塩基に置き換わることで生じる変異の一種です。この変異により、タンパク質を構成するアミノ酸の一つが別のアミノ酸に置き換わることがあります。このようなアミノ酸の置換は、タンパク質の構造や機能に影響を与え、さまざまな病気の原因となることがあります。

ミスセンス変異が病気に与える影響は、変異が起きた遺伝子やタンパク質の種類、変異によって置換されるアミノ酸の性質によって異なります。例えば、タンパク質の活性部位や構造を維持する重要な部位に変異が生じた場合、タンパク質の機能が大きく損なわれる可能性があります。これにより、タンパク質の正常な機能が果たせなくなり、細胞や組織、さらには個体全体のレベルで異常が生じることがあります。

ミスセンス変異によって引き起こされる病気の例としては、鎌状赤血球貧血症や嚢胞性線維症などがあります。鎌状赤血球貧血症は、ヘモグロビンのβ鎖をコードする遺伝子にミスセンス変異が生じることで、正常なヘモグロビンが鎌状の異常な形状を持つヘモグロビンに置き換わり、赤血球が鎌状に変形してしまう病気です。嚢胞性線維症は、CFTR遺伝子にミスセンス変異が生じることで、塩分の輸送を担うCFTRタンパク質の機能が損なわれ、粘液の分泌異常や肺の感染症を引き起こす病気です。

これらの病気は、ミスセンス変異によってタンパク質の機能が直接的に影響を受ける例ですが、ミスセンス変異が病気に与える影響は非常に多様であり、変異の種類や位置、影響を受けるタンパク質の機能によって異なります[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17][18][19].

ミスセンス変異の検出と診断

ミスセンス変異の検出のための遺伝子検査の技術

ミスセンス変異の検出には、次世代シーケンサー(NGS)や特定のプライマーを用いたPCR法など、複数の遺伝子検査技術が利用されています。これらの技術は、遺伝子の塩基配列を正確に読み取り、変異を特定するために開発されています。

● 次世代シーケンサー(NGS)

次世代シーケンサーは、高速で大量のDNA配列を同時に読み取ることができる技術です。この技術により、遺伝子全体または特定の領域を網羅的に解析し、ミスセンス変異を含むさまざまなタイプの遺伝子変異を検出することが可能です[2][6][12]. NGSは、特に複数の遺伝子を同時に調べる必要がある場合や、未知の変異を探索する場合に有効です。

● 特定のプライマーを用いたPCR法

特定の既知のミスセンス変異を検出するためには、allele-specific oligonucleotide PCR(ASO-PCR)が利用されることがあります。この方法では、変異特異的なプライマーを設計し、特定のミスセンス変異の存在のみを高感度に検出することができます[4]. ASO-PCRは、特定の疾患に関連する既知の変異を迅速にスクリーニングするのに適しています。

● 遺伝子パネル検査

遺伝子パネル検査は、特定の疾患や症状に関連する複数の遺伝子を同時に調べる方法です。この検査はNGSを基盤としており、多くの遺伝性疾患の診断に有効です。遺伝子パネルは、特定の疾患群に対してカスタマイズされ、関連する遺伝子の変異を広範囲にわたって検出することができます[4][10].

これらの技術は、ミスセンス変異の検出だけでなく、他のタイプの遺伝子変異も同時に検出することが可能であり、遺伝性疾患の診断、リスク評価、治療選択に大きく貢献しています。

ミスセンス変異の検出から診断への応用

ミスセンス変異の検出から診断への応用については、遺伝性疾患の原因となるミスセンス変異の分子機能及び疾患メカニズムを予測することが重要です。ミスセンス変異は、遺伝子のDNA配列のうち、1文字(1塩基対)が変化することにより、その遺伝子からつくられるタンパク質を構成するアミノ酸のうち1つが別のアミノ酸に置換される変異です[13]. この変異によって、タンパク質の機能が変化し、さまざまな遺伝性疾患の原因となります。

遺伝性疾患の原因となるミスセンス変異の分子機能及び疾患メカニズムを予測することは困難な場合が多く、遺伝子診断などの臨床の現場においても問題となるケースがあります[14]. このため、疾患原因ミスセンス変異とタンパク質立体構造、特に分子間相互作用に着目した解析を行い、変異による遺伝様式及び疾患メカニズムとタンパク質立体構造との間に明確な関係を見出すことが重要です[14]. このような研究により、疾患メカニズムを予測するまったく新しい手法を開発することが可能になります。

また、ファブリー病のミスセンス変異と機能的多型の分子病態の解析と診断への応用に関する研究も行われています[16]. ファブリー病は、遺伝性の代謝疾患の一つであり、特定の酵素の活性が低下することによって発症します。この研究では、ファブリー病のミスセンス変異と機能的多型の分子病態を解析し、診断への応用を目指しています。

これらの研究は、ミスセンス変異の検出から診断への応用において重要な役割を果たしており、遺伝性疾患の診断精度の向上や新たな治療法の開発に貢献する可能性があります[14][16].

まとめと未来への展望

## ミスセンス変異のまとめと未来への展望

● 遺伝学の理解の重要性

ミスセンス変異は、遺伝子の塩基配列の変化により、タンパク質を構成するアミノ酸が予定されていたものから別のものに置換される遺伝子変異です。この変異はタンパク質の構造や機能に直接影響を与え、多くの遺伝性疾患の原因となります[18]. 遺伝学の理解は、これらの変異がどのように疾患につながるかを解明し、遺伝子診断や治療法の開発に不可欠です。遺伝子の変異を理解することは、個別化医療の進展にも寄与し、患者一人ひとりに最適な治療戦略を提供するための基盤となります[16].

● 医療への応用

ミスセンス変異の医療への応用は、主に診断、治療、予防の三つの領域に分けられます。遺伝子検査によりミスセンス変異を特定することで、特定の疾患のリスクを予測し、早期に介入することが可能になります[2][11]. また、ミスセンス変異をターゲットとした分子標的治療薬の開発も進んでおり、遺伝子の変異に基づいた個別化治療が現実のものとなっています[3]. さらに、CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術を用いて、ミスセンス変異を直接修正するアプローチも研究されており、将来的には遺伝性疾患の根本的な治療が可能になるかもしれません[17].

● 未来への展望

ミスセンス変異の研究は、遺伝学だけでなく、生物学、医学、情報科学など多岐にわたる分野で進展しています。次世代シーケンサーの進化により、より多くの遺伝子変異が迅速にかつ経済的に検出できるようになり、遺伝性疾患の診断と治療がさらに進むことが期待されます[2]. また、AI技術を用いた遺伝子変異の解析が進むことで、変異の機能的影響をより正確に予測し、個別化医療の精度を向上させることができるでしょう[16]. これらの技術の進展は、遺伝性疾患の予防と治療に革命をもたらす可能性があります。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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