mtDNA
ミトコンドリアは細胞内小器官で、食物から得たエネルギーを細胞が利用できる形に変換する。各細胞には数百から数千のミトコンドリアがあり、核を取り囲む細胞質に存在する。DNAのほとんどはは核内の染色体にあるが、ミトコンドリア自体にも少量のミトコンドリアDNAを持っている。この遺伝物質はミトコンドリアDNAまたはmtDNAと呼ばれている。ヒトの場合、ミトコンドリアDNAは約16,500塩基対であり、細胞内のDNA全体30億塩基対のごく一部に相当する。
ミトコンドリアDNAには37の遺伝子が含まれており、そのすべてがミトコンドリアの正常な機能に必須である。このうち13の遺伝子は、酸化的リン酸化に関与する酵素を作ることに関わっている。酸化的リン酸化は、酸素と単糖から細胞の主要なエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を生成するプロセスである。ミトコンドリアDNAに含まれる残りの26個の遺伝子は、アミノ酸からタンパクを組み立てる働きをするトランスファーRNA(tRNA)およびリボソームRNA(rRNA)と呼ばれる分子を作ることに関わっている。
ミトコンドリア電子伝達系は、好気性生物におけるエネルギー生産に重要な役割を果たす。しかし、細胞内のDNA、RNA、タンパク質を損傷する活性酸素の重要な発生源でもある。ミトコンドリア内では、酸化的リン酸化によってアデノシン三リン酸(ATP)が常に生成されているため、その副産物である活性酸素種(フリーラジカル)が、高い酸化的環境を形成し、mtDNAを損傷する。こうした毒性に対抗するために重要な酵素がスーパーオキシドジスムターゼであり、真核細胞のミトコンドリアと細胞質の両方に存在する。ミトコンドリアDNAの酸化的損傷は、様々な変性疾患、癌、老化に関与している。加齢に伴う変性疾患におけるミトコンドリア活性酸素の重要性は、昨今の研究報告からさらに強まりつつある。ミトコンドリアDNAは核DNAと比較して、様々な発癌物質や活性酸素の影響を受けやすい。細胞質には豊富に含まれているDNA修復酵素がミトコンドリア内部には限られている点が大きく異なることが違いを産む可能性がある。ミトコンドリアにはBERに必要な酵素がすべて含まれていて、哺乳類においてはミトコンドリアにおけるDNA損傷は、塩基除去修復(BER)により修復される。ミトコンドリアのDNA損傷は、修復されないと電子伝達系を乱し、より多くの活性酸素を発生させ、さらにミトコンドリアDNA損傷がおこるという悪循環を招き、最終的に細胞のエネルギー枯渇と細胞死の一つであるアポトーシスにつながる。
ミトコンドリアの数(ミトコンドリアゲノムの量)は臓器によって大きく異なるが、細胞あたり数十から数千と言われており、その数は細胞のエネルギー需要を大体反映している。つまり、細胞が要求するするエネルギー量に応じて、一定レベルのミトコンドリアの数が必要であるという事である。細胞におけるエネルギー産生はほとんどATPという形で行われるが、このATP合成の8~9割をミトコンドリアが行う。ミトコンドリアゲノムの情報の異常ならびに量の異常、どちらも細胞の生存に重大な影響を与える。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号