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プリン塩基とは?アデニン・グアニンの構造とピリミジン塩基との違い・覚え方、プリン体・尿酸との関係を臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

⏱ 30秒でわかる要約

Q. プリン塩基とは何ですか?

六員環と五員環がくっついた「プリン環」を骨格にもつ塩基のことです。DNAとRNAに使われるプリン塩基はアデニン(A)とグアニン(G)の2つで、どちらにも共通して入っています。

Q. ピリミジン塩基との違いは?

プリン塩基は環が2つ、ピリミジン塩基(シトシン・チミン・ウラシル)は環が1つです。二重らせんでは必ず「プリン1つ+ピリミジン1つ」で塩基対をつくります。覚え方は「プリンはAG、ピリミジンはCUT」です。

Q. プリン体・尿酸とはどう関係しますか?

プリン体はプリン塩基とそれを含む物質の総称です。ヒトではプリン塩基は分解されて最終的に尿酸になります。ヒトの祖先が尿酸を分解する酵素の遺伝子を失ったためです。

Q. 遺伝や病気とのつながりは?

プリン代謝の酵素の遺伝子が働かないと、レッシュ・ナイハン症候群(HPRT1)やADA欠損症(重症複合免疫不全症の一つ)が起こります。痛風のなりやすさ(ABCG2)や、白血病などの薬の副作用(NUDT15)にも遺伝子の違いが関わります。

プリン塩基とピリミジン塩基が水素結合でつくる塩基対(ワトソン・クリック塩基対)

プリン塩基とは、プリン環(六員環と五員環が1辺を共有してつながった骨格)をもつ塩基のことで、DNAとRNAではアデニン(A)とグアニン(G)の2つがこれにあたります。環が1つのピリミジン塩基(シトシン・チミン・ウラシル)と対になり、遺伝情報を読み書きする塩基対をつくります。食べ物の「プリン体」や、体内で最後にできる「尿酸」もプリン骨格の仲間です。この記事では、構造・ピリミジン塩基との違い・覚え方に加えて、プリン代謝の遺伝子の違いが病気や薬の副作用につながる例まで、遺伝医療の立場から解説します。

この記事でわかること
  • ➤プリン塩基の定義 → プリン環をもつ塩基。核酸ではアデニンとグアニン
  • ➤ピリミジン塩基との違い → 環の数・塩基対の相手・覚え方を表で比較
  • ➤プリン体・尿酸との関係 → なぜヒトでは尿酸が最終代謝産物なのか
  • ➤遺伝・医療とのつながり → レッシュ・ナイハン症候群、ADA欠損症、ABCG2と痛風、NUDT15と薬の副作用

1. プリン塩基とは?アデニンとグアニン

プリン塩基は、プリン(purine)という二環式の骨格をもつ塩基の総称で、核酸を構成するプリン塩基はアデニン(A)とグアニン(G)の2種類です。ここでいう「塩基」は、DNA・RNAの部品として遺伝情報の文字になる「核酸塩基」のことです。核酸塩基は窒素原子を含み、化学的には弱い塩基性を示す化合物で、「塩基」という名前はこの性質に由来します。生物学で「塩基」と言えば、ふつうはこの核酸塩基を指します。

DNAとRNAは、糖・リン酸・塩基からなるヌクレオチドが、リン酸を介したホスホジエステル結合(ヌクレオチドどうしのつながり)で長くつながった鎖です。塩基は5種類あり、骨格の形で2つのグループに分かれます。環が2つあるプリン塩基(A・G)と、環が1つのピリミジン塩基(シトシン〔C〕・チミン〔T〕・ウラシル〔U〕)です。アデニンとグアニンはDNAにもRNAにも使われるので、「DNAのプリン塩基は?」「RNAのプリン塩基は?」という問いの答えはどちらも同じです。

アデニンとグアニンは、同じプリン環に付いている原子団(官能基)が違います。アデニンは6位にアミノ基(-NH2)をもち、グアニンは6位に酸素(カルボニル基)、2位にアミノ基をもちます。この小さな違いが、塩基対の相手(アデニンはチミンまたはウラシル、グアニンはシトシン)を決めています。

なぜ「プリン」と呼ぶのか

「プリン」は、お菓子のプリン(pudding)とは関係がなく、尿酸に由来する化学の名前です。語源辞典によると、purine(ドイツ語 Purin)は1898年のドイツの化学者エミール・フィッシャーの用語とされ、ラテン語の purum(純粋な)と uricum(尿酸)を組み合わせたものと説明されています[1]。尿酸は、のちにプリン骨格をもつと分かった物質の代表で、この名前自体が「プリン塩基は最後に尿酸になる」という代謝の流れと結びついています。

名前の由来を知ると、第4章で扱う「プリン体と尿酸」の話がひとつながりで理解しやすくなります。

プリン塩基はどれ?一覧

核酸の材料として出てくるプリン塩基はアデニンとグアニンだけですが、プリン骨格をもつ物質はほかにもあります。代謝の途中でできるヒポキサンチン・キサンチン、最終産物の尿酸、コーヒーやお茶に含まれるカフェイン(メチル基の付いたキサンチン)などです。試験で「プリン塩基はどれか」と問われたら、核酸塩基の中ではA・Gを選び、C・T・Uはピリミジン塩基として外します。

🧪 プリン骨格をもつ主な物質

物質 どこに出てくるか ポイント
アデニン(A) DNA・RNA、ATP、NAD など 6位にアミノ基。チミン(DNA)・ウラシル(RNA)と対になる
グアニン(G) DNA・RNA、GTP 6位に酸素、2位にアミノ基。シトシンと対になる
ヒポキサンチン・キサンチン プリンの分解・再利用の途中 核酸の材料ではない代謝中間体
尿酸 ヒトのプリン分解の最終産物 水に溶けにくく、多すぎると痛風の原因になる
カフェイン コーヒー・茶など プリン骨格をもつが核酸塩基ではない

2. プリン環の構造:六員環と五員環

プリン環は、ピリミジン環(6つの原子からなる六員環)とイミダゾール環(5つの原子からなる五員環)が1本の辺を共有してつながった構造で、全部で9個の原子(炭素5個・窒素4個)でできています。窒素を含む環なので「含窒素複素環」と呼ばれ、環の上で電子が広がっているため平らな形をしています。平らな塩基どうしが積み重なれることが、DNAの二重らせんの安定に役立っています。平らな環の性質は芳香族のページで詳しく扱っています。

C6 N1 C2 N3 C4 C5 N7 C8 N9 to sugar C1′ 6-ring 5-ring

模式図:プリン環の骨格と原子の番号。左(青)が六員環(ピリミジン環)、右(赤)が五員環(イミダゾール環)。N9から出る点線は、ヌクレオチドの中で糖(1′位の炭素)とつながる位置を示します。二重結合と水素は省略しています。

番号の付け方と糖とつながる位置(N9)

プリン環の原子には1〜9の番号が付いていて、ヌクレオチドの中ではプリン塩基の9位の窒素(N9)が糖(デオキシリボース・リボース)の1′位の炭素とつながります。ピリミジン塩基は1位の窒素(N1)で糖とつながるので、ここでも2つのグループの違いが出ます。この糖と塩基の結合は「N-グリコシド結合」と呼ばれます。

番号は、アデニンやグアニンの性質を話すときの共通言語です。たとえば「グアニンの8位が酸化されると8-オキソグアニンになる」という言い方をします。8-オキソグアニンは活性酸素によってできる代表的なDNAの傷で、修復されないと複製のときに読み間違い(G→Tの置き換わり)を起こしやすくなります。詳しくは8-オキソグアニンで解説しています。番号を覚えておくと、こうした論文や教科書の記述が読めるようになります。

💡 用語解説:ヌクレオシドとヌクレオチド

塩基と糖がつながったものを「ヌクレオシド」(アデノシン・グアノシンなど)、それにリン酸が付いたものを「ヌクレオチド」(AMP・GMPなど)と呼びます。プリン塩基の名前は「〜イン」(アデニン)、ヌクレオシドは「〜シン」(アデノシン)と語尾が変わるので、区別の手がかりになります。

3. プリン塩基とピリミジン塩基の違い

プリン塩基とピリミジン塩基のいちばんの違いは環の数で、プリン塩基は2つ(二環式)、ピリミジン塩基は1つ(単環式)です。そのため大きさが違い、プリン塩基のほうが一回り大きな分子です。二重らせんの中では、必ず大きいプリン1つと小さいピリミジン1つが組になります。

📊 プリン塩基とピリミジン塩基の比較

項目 プリン塩基 ピリミジン塩基
骨格 六員環+五員環(二環式) 六員環のみ(単環式)
核酸の塩基 アデニン(A)、グアニン(G) シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)
DNAとRNA A・GはDNAにもRNAにもある CはDNAにもRNAにもある。TはDNA、UはRNA
糖とつながる位置 9位の窒素(N9) 1位の窒素(N1)
塩基対の相手 A─T(RNAではA─U)、G─C T・U─A、C─G
合成のしかた 糖リン酸の上で環を組み立てる 先に環をつくってから糖につなぐ
ヒトでの最終分解産物 尿酸(水に溶けにくい) 水に溶けやすい小さな分子に分解される

※合成のしかたの違いは第5章で解説します。

覚え方:プリンは「AG」、ピリミジンは「CUT」

いちばん簡単な覚え方は、プリン塩基を「A・G(エー・ジー)」、ピリミジン塩基を「C・U・T(カット)」とまとめる方法です。英語圏では「Pure As Gold(純金のように純粋)」でプリン=Adenine・Guanineと覚え、「CUT the PYe(パイを切る)」でピリミジン=Cytosine・Uracil・Thymineと覚える語呂がよく使われます。名前の長さで覚える方法もあり、「プリン」は短い名前なのに環は2つ、「ピリミジン」は長い名前なのに環は1つ、と逆になっている点を印象に残すと混同しにくくなります。

なぜプリンとピリミジンが対になるのか

二重らせんの2本の鎖の間の幅は一定なので、大きいプリンどうし、小さいピリミジンどうしでは幅が合わず、「プリン+ピリミジン」の組み合わせでないと収まりません。1953年にワトソンとクリックはDNAの二重らせんモデルを発表した論文で、塩基対は一方がプリン、もう一方がピリミジンでなければならず、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンと対になると示しました[2]。

A─Tは2本、G─Cは3本の水素結合でつながります。この規則(相補性)があるので、片方の鎖の並びが分かればもう片方の並びが決まり、DNAの複製やRNAへの転写で情報を正確に写し取れます。塩基対のしくみは相補的塩基対で詳しく解説しています。

プリン塩基A・G(環2つ)
▶
水素結合で対A─T(U)2本・G─C 3本
▶
ピリミジン塩基C・T・U(環1つ)
▶
幅がそろう二重らせんが安定
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「1文字の違い」が意味を持つ理由】

遺伝子検査の結果は「c.○○G>A」のように、塩基1文字の置き換わりとして書かれます。プリンとピリミジンの区別を知っていると、この表記の見え方が変わります。G>Aのようにプリンからプリンへの置き換わりは「トランジション」、プリンとピリミジンの間の置き換わりは「トランスバージョン」と呼ばれ、起こりやすさにも違いがあります。

高校で覚える「AG」と「CUT」は、そのまま遺伝子検査の報告書を読むための基礎になる知識だと考えています。教科書の暗記事項と、医療の現場で使う言葉がつながっていることを、学生の方にも知っていただきたいと思います。

4. プリン塩基とプリン体・尿酸の関係

「プリン体」は、プリン塩基そのものと、プリン塩基を含むヌクレオシド・ヌクレオチドなどをまとめて呼ぶ言葉で、食品や健康の分野でよく使われます。生化学では「プリン塩基」「プリンヌクレオチド」と分けて呼びますが、栄養の話では区別せず「プリン体」とまとめることが多い、と考えると混乱しません。プリン体はすべての細胞の核酸やATPに含まれるので、ほぼすべての食品に入っています。

プリン塩基の最終代謝産物は尿酸

ヒトでは、プリン塩基は複数の経路で分解され、最終的に尿酸になります。アデニン由来の物質はヒポキサンチンを経てキサンチンになり、グアニンは脱アミノ化によってキサンチンになります。キサンチンを尿酸に変える反応にはキサンチン酸化還元酵素(キサンチンオキシダーゼ)が関わり、痛風の薬のアロプリノールはこの酵素を阻害して尿酸の産生を減らします。ピリミジン塩基が水に溶けやすい小さな物質に分解されるのに対して、ヒトのプリン代謝では水に溶けにくい尿酸が最終産物になる、という違いがあります。

多くの哺乳類は、尿酸をさらに分解する酵素(尿酸オキシダーゼ、ウリカーゼ)をもっています。ところがヒトと類人猿はこの酵素が働きません。ヒト・チンパンジー・オランウータン・テナガザルの遺伝子を比べた研究では、ヒトの尿酸オキシダーゼ遺伝子に2か所のナンセンス変異(33番目と187番目のコドン)と異常なスプライス部位があり、テナガザルでは別の13塩基の欠失で遺伝子が壊れていたことから、類人猿の進化の中で少なくとも2回、独立に失われたと報告されています[3]。ヒトで尿酸が最終産物になり、血液中の尿酸値がほかの多くの哺乳類より高くなるのは、この遺伝子の変化の結果です。

💡 用語解説:ナンセンス変異

アミノ酸を指定していたコドンが「終止コドン」に置き換わる変異です。そこでタンパク質の合成が止まるため、多くの場合、そのタンパク質は働かなくなります。ヒトの尿酸オキシダーゼ遺伝子は、この変異によって働かない「偽遺伝子」になっています。

食事のプリン体と痛風

尿酸は水に溶けにくいため、血液中に多くなりすぎると結晶になって関節にたまり、痛風の原因になります。日本痛風・尿酸核酸学会の「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」は、生活指導の中で食事療法を示しています[5]。公益財団法人 痛風・尿酸財団は、このガイドラインで1日400mgを目安にしたプリン体の摂取制限が示されていると説明しています[4]。同財団の資料では、レバー類は100gあたり210〜320mgと多い食品として示されています[4]。

ただし、体内の尿酸は食事から来る分だけでなく、自分の細胞の核酸が分解されてできる分もあります。どのくらい尿酸がたまりやすいかには、尿酸を体の外に出す運び役(トランスポーター)の遺伝子の違いも関わります。この点は第6章で扱います。

5. プリン塩基のつくられ方と再利用

細胞がプリンヌクレオチドを手に入れる道は2つあり、材料から新しくつくる「de novo(デノボ)合成」と、分解でできた塩基を拾って使い回す「サルベージ経路(再利用経路)」です。de novo合成ではグリシンやアスパラギン酸などのアミノ酸が環を組む土台になり、グルタミンなどがアミノ基を供給し、反応にはATPのエネルギーが使われます。サルベージ経路では、すでにある塩基を、活性化されたリボースリン酸(PRPP)につなぎ直します[6]。

プリンとピリミジンでは組み立ての順番が違います。ピリミジンはまず環を完成させてからリボースにつなぎますが、プリンはリボースを土台にして、その上で環を少しずつ組み立てます[6]。両経路の全体像はデノボ核酸合成とサルベージ経路のページにまとめています。

材料アミノ酸・PRPPなど
▶
de novo合成糖リン酸の上で環を組む
▶
プリンヌクレオチドAMP・GMP→ATP・GTP
▶
分解尿酸へ。一部はサルベージで再利用

プリノソーム:合成酵素が集まる「工場」

de novo合成の酵素は、細胞の中で集まって「プリノソーム」という複合体をつくることが分かっています。2008年の研究は、ヒトの細胞(HeLa細胞)で、真核生物のプリンde novo合成を担う6つの酵素がすべて細胞質の中で集団をつくり、その集まりは培養液のプリンの量に応じてできたりほどけたりすることを蛍光顕微鏡で示しました[7]。詳しくはプリノソームのページで解説しています。

サルベージ経路の酵素HGPRT

プリンのサルベージ経路で中心になる酵素の一つが、ヒポキサンチン・グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT。HGprtとも書く)です。この酵素はヒポキサンチンとグアニンを拾ってヌクレオチドに戻します。遺伝子HPRT1の変化でこの酵素が働かないと、再利用されなかったプリンが分解に回り、尿酸がつくられすぎます[8]。これが次の章のレッシュ・ナイハン症候群です。

遺伝情報だけではない:ATP・GTPとしての働き

プリン塩基は遺伝情報の文字であると同時に、細胞のエネルギー通貨や信号の部品でもあります。アデニンにリボースと3つのリン酸が付いたATP(アデノシン三リン酸)は、筋肉の収縮から物質の合成まで、細胞のほとんどの仕事にエネルギーを渡す分子です。グアニンを含むGTPは、タンパク質の合成やGタンパク質を介した信号の伝達に使われます。ホルモンの信号を細胞の中に伝えるcAMP(サイクリックAMP)や、酸化還元反応を助けるNAD・FADといった補酵素にもアデニンが含まれています。

つまり、プリンヌクレオチドが足りなくなると、DNAの複製だけでなくエネルギーや信号のやりとりにも影響が出ます。細胞がde novo合成とサルベージ経路の2本立てでプリンを確保し、さらにプリノソームのような仕組みで合成を調節しているのは、このためだと考えると理解しやすくなります。分裂の盛んな細胞ほどプリンを多く必要とするので、プリンの合成や利用を妨げる薬が、白血病などの治療や免疫を抑える治療に使われてきました(第6章のチオプリン製剤)。

6. 遺伝・医療とのつながり:プリン代謝と遺伝子

プリン代謝の酵素や運び役は遺伝子から作られるので、その遺伝子の変化は病気や体質、薬の効き方の違いとして現れます。ここでは、プリン塩基の知識がそのまま遺伝医療につながる4つの例を紹介します。

🧬 プリン代謝に関わる遺伝子と病気・体質

遺伝子 プリン代謝での役割 関わる病気・体質
HPRT1 サルベージ経路(HGPRT) レッシュ・ナイハン症候群(X連鎖性)
ADA アデノシン・デオキシアデノシンの分解 ADA欠損症(重症複合免疫不全症の一つ、常染色体潜性)
ABCG2 尿酸を腸や腎臓から外に出す運び役 働きが落ちる型で痛風になりやすい
NUDT15・TPMT プリンに似た薬(チオプリン製剤)の代謝 薬による骨髄抑制が起こりやすい体質

レッシュ・ナイハン症候群(HPRT1)

レッシュ・ナイハン症候群は、HPRT1遺伝子の変化でHGPRTが働かなくなるX連鎖性の病気で、有病率はおよそ38万人に1人と報告されています[8]。X染色体に遺伝子があるため、変化を1つもつ男性(ヘミ接合)が発症し、女性の保因者はほぼ症状がありません。生まれたときから尿酸がつくられすぎ、重いジストニア(体の筋肉が意図せず強くこわばる症状)、知的障害、そしてほぼ全員にみられる自分を傷つける行動が特徴です[8]。

HGPRTの残存酵素活性と臨床症状には関連があり、典型的なレッシュ・ナイハン症候群では酵素活性が著しく低下しています。一方、残存活性がある場合には、自傷行動を伴わない神経症状を示す型や、主に高尿酸血症・腎障害・痛風を示す型があります。ただし、残存活性の数値だけで臨床病型を厳密に区別できるわけではありません[8]。尿酸の高さにはアロプリノールが使われますが、神経症状は尿酸を下げても改善しないことが知られており、プリンの再利用の障害が尿酸代謝だけでなく神経機能にも影響することを示す病気です。

ADA欠損症(重症複合免疫不全症の原因の一つ)

ADA欠損症は、プリンの分解に関わる酵素アデノシンデアミナーゼの遺伝子ADAの変化による常染色体潜性(劣性)の病気で、およそ50万出生に1人と推定されています[9]。この酵素が働かないと、分解されなかったデオキシアデノシンが細胞に入り、デオキシアデノシンのヌクレオチドがたまってリンパ球が育たなくなります。その結果、重い免疫不全(重症複合免疫不全症、SCID)になります[9]。

GeneReviewsは、これまでSCID全体のおよそ15%がADA欠損によると記載しています[9]。治療は、PEG化ADAによる酵素補充療法(橋渡しの治療)、造血幹細胞移植、自分の造血幹細胞に遺伝子を補う遺伝子治療があり、後の2つは根治を目指せる治療とされています[9]。病気の詳しい解説はADA欠損症のページをご覧ください。

当院の重症複合免疫不全症(SCID)NGS遺伝子検査パネルは、SCIDとその近い病気に関わる91の遺伝子を一度に調べる検査で、ADA遺伝子も対象に含まれています。

ABCG2と痛風のなりやすさ

痛風のなりやすさには、尿酸を体の外へ運び出すABCG2というトランスポーターの遺伝子の違いが大きく関わることが、日本人を対象にした研究で示されています。2009年の研究は、ABCG2が尿酸を大量に運び出す働きをもつことを確かめ、働きを失わせるQ126Xという変化が痛風のリスクを上げる(オッズ比5.97)こと、よくみられるQ141Kが血清尿酸値を上げることを報告しました[10]。痛風の患者さん159人のうち16人(10%)が、ABCG2の働きを75%を超えて下げる組み合わせをもっており、そのオッズ比は25.8でした[10]。

この研究は、ABCG2の働きが落ちると腸や腎臓からの尿酸の排出が妨げられることで痛風につながると結論しています[10]。同じ量のプリン体をとっても尿酸のたまり方が人によって違う理由の一つが、この遺伝子にあるということです。

プリンに似た薬(チオプリン)とNUDT15

メルカプトプリン・アザチオプリンなどのチオプリン製剤は、プリン塩基に形が似せてある薬で、急性リンパ性白血病や炎症性腸疾患などで使われます。この薬の代謝や細胞内での処理に関わるNUDT15やTPMTの遺伝子に機能低下型の変化があると、薬による骨髄抑制(白血球などが減ること)が起こりやすくなります。機能低下型を1つもつ場合にも開始量を減らすことが推奨されており、2つもつ場合はさらに大幅な減量などが必要になります[11]。国際的な薬理遺伝学のガイドライン(CPIC)は、NUDT15の働きが低い型を2つもつ人は東アジア系の患者さんでおよそ50人に1人いるとし、悪性腫瘍の治療でメルカプトプリンを使う場合は開始量を大きく減らすよう推奨しています[11]。

日本では、NUDT15遺伝子多型検査が2019年2月1日から保険で受けられるようになっています[12]。プリン塩基の構造を知っていると、「なぜプリンに似た薬が白血病の治療に使えるのか」「なぜ遺伝子の型で量を変えるのか」がつながって理解できます。遺伝子の違いで薬の量を決める考え方はファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)で、核酸に似せた薬の全体像はヌクレオシドアナログで解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ代謝経路が、まったく違う病気を生む】

プリン代謝の遺伝子は、変化がどこに起こるかで表に出るものが大きく変わります。再利用の酵素が止まれば神経の病気に、分解の酵素が止まれば免疫の病気に、運び出す役が弱ければ痛風に、薬を代謝する酵素が弱ければ副作用につながります。一つの経路を理解すると、臓器も診療科も違う病気が一本の線でつながって見えてきます。

臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、病名から入るのではなく「どの分子のどの働きが変わったのか」から考えることです。用語の理解は、その最初の一歩だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. プリン塩基とは簡単に言うと何ですか?

六員環と五員環がつながった「プリン環」を骨格にもつ塩基のことです。DNAとRNAに使われるプリン塩基は、アデニン(A)とグアニン(G)の2つです。

Q2. チミンやシトシンはプリン塩基ですか?

いいえ。チミン・シトシン・ウラシルは環が1つのピリミジン塩基です。プリン塩基はアデニンとグアニンだけで、「プリンはAG、ピリミジンはCUT」と覚えると区別しやすくなります。

Q3. プリン体とプリン塩基の違いは何ですか?

プリン塩基はアデニン・グアニンなどの塩基そのものを指します。プリン体は、プリン塩基とそれを含むヌクレオシドやヌクレオチドなどをまとめて呼ぶ言葉で、主に食品や健康の分野で使われます。

Q4. プリン塩基の最終代謝産物は何ですか?

ヒトでは尿酸です。多くの哺乳類は尿酸をさらに分解する酵素(尿酸オキシダーゼ)をもっていますが、ヒトではこの酵素の遺伝子が働かなくなっているため、尿酸が最終産物になります。

Q5. プリン代謝の遺伝性の病気にはどんなものがありますか?

代表的なものに、サルベージ経路の酵素HGPRTが働かないレッシュ・ナイハン症候群(HPRT1遺伝子)と、アデノシンデアミナーゼが働かず重い免疫不全になるADA欠損症(ADA遺伝子)があります。

まとめ

プリン塩基は、六員環と五員環がつながったプリン環をもつ塩基で、DNA・RNAではアデニンとグアニンの2つです。環が1つのピリミジン塩基(C・T・U)と必ず対になり、この規則が遺伝情報の正確な複製を支えています[2]。名前は尿酸に由来し[1]、ヒトでは尿酸オキシダーゼの遺伝子が働かないため、プリン塩基は尿酸で分解を終えます[3]。

プリン代謝の遺伝子の変化は、レッシュ・ナイハン症候群[8]やADA欠損症[9]のような病気、痛風のなりやすさ[10]、薬の副作用の出やすさ[11]として現れます。化学の基本用語が、遺伝医療の診断や治療の判断につながっていることを、このページで感じていただければと思います。

🧬 プリン代謝の遺伝性の病気が気になる方へ

ご家族にADA欠損症などの重症複合免疫不全症の方がいる場合や、医療機関で遺伝性の病気を指摘された場合は、遺伝子検査で原因を確かめられることがあります。検査で何がわかり、結果をどう受け止めるかは、遺伝カウンセリングで臨床遺伝専門医が説明します。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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