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ペルオキシソームの全貌:基本構造から機能、関連疾患まで

この記事では、細胞小器官の一つであるペルオキシソームに焦点を当て、その構造、機能、およびペルオキシソーム関連疾患について詳しく解説します。ペルオキシソームの生化学的役割と医学的重要性を、最新の研究とともに紹介します。

第1章: ペルオキシソームとは

ペルオキシソームの定義と基本構造

ペルオキシソームは細胞内のオルガネラの一つで、主に細胞の代謝過程に関わっています。これらは特に脂肪酸の分解、特に過酸化水素を利用する反応に関与しています。ペルオキシソームは、細胞の他の部分を損傷から保護するために、生成された過酸化水素を分解する酵素も持っています。

細胞内でのペルオキシソームの役割は主に次の通りです。

  • 脂肪酸のβ酸化:ペルオキシソームはミトコンドリアとは異なるタイプのβ酸化を行い、長鎖脂肪酸を分解します。
  • 脂質の合成:一部の脂質、特にプラスマローゲン(細胞膜の成分)の合成に関与しています。
  • 過酸化水素の分解:過酸化水素を無害な水と酸素に分解することで、細胞を酸化的損傷から保護します。

ペルオキシソームの機能不全は、特定の遺伝性疾患、例えばゾエルガー症候群やアドレノロイコジストロフィーなどに関連しています。これらの疾患は、特定の脂質が異常に蓄積することによって特徴付けられます。

ペルオキシソームの構造

ペルオキシソームの構造


ペルオキシソームは、ほぼ全ての真核細胞が持つ細胞小器官で、多様な物質の酸化反応を行っています。これらは一重の生体膜に包まれた直径0.1-2マイクロメートルの構造を持ち、細胞内で特定の代謝機能を担っています[8]。細胞内でのペルオキシソームの位置は、細胞質内に分布しており、他のオルガネラとも相互作用を持ちながら機能します。基本的な構造としては、ペルオキシソームは単膜で囲まれており、その内部には多くの酸化酵素(オキシダーゼ)を含んでいます。これらの酵素は、脂質の代謝や活性酸素の一種である過酸化水素の分解に関わるなど、細胞の代謝機能を担っています[3]。

ペルオキシソームは、動植物や酵母など真核細胞に存在するオルガネラであり、直径0.5~1.5 µmの楕円形あるいは球形の構造をとります。これらはミトコンドリアやプラスチドのような複膜でなく、単膜で囲まれています。ペルオキシソームは、マイクロボディ、あるいはミクロボディという名前で記載されることもありますが、このオルガネラがペルオキシダーゼ活性を有するため、機能的な意味合いからペルオキシソームと呼ばれることが多くなりました[13]。

ペルオキシソームの主な機能

ペルオキシソームは、ほぼ全ての真核細胞に存在する重要な細胞小器官であり、多様な生化学的な役割を担っています。これらの役割は、細胞の健康と生物全体の生理機能の維持に不可欠です。ペルオキシソームの主な機能には、脂肪酸の酸化、活性酸素種の分解、リポイドの合成などがあります。以下に、これらの機能とその生物学的重要性について詳述します。

● 脂肪酸の酸化

ペルオキシソームは、脂肪酸のβ-酸化に重要な役割を果たします。特に、極長鎖脂肪酸や分岐鎖脂肪酸の酸化は、ペルオキシソームで行われます。これらの脂肪酸は、ミトコンドリアでは効率的に酸化されないため、ペルオキシソームの役割は特に重要です[1][2][3]。脂肪酸の酸化によって生成されるエネルギーは、細胞の様々な機能を支えるために利用されます。また、この過程で生成される過酸化水素は、ペルオキシソーム内のカタラーゼによって無害な水と酸素に分解されます[9]。

● 活性酸素種の分解

ペルオキシソームは、細胞内で生成される活性酸素種(ROS)の分解にも関与しています。特に、過酸化水素の分解はペルオキシソームの重要な機能の一つです。過酸化水素は、細胞にとって有害な物質であり、その蓄積は細胞損傷や老化、さらにはがんの発生につながる可能性があります。ペルオキシソーム内のカタラーゼは、過酸化水素を水と酸素に分解することで、細胞の酸化ストレスを軽減し、細胞の健康を保ちます[9][13]。

● リポイドの合成

ペルオキシソームは、リポイドの合成にも関与しています。特に、プラスマローゲンというリン脂質の合成は、ペルオキシソームで行われます。プラスマローゲンは、細胞膜の構成成分であり、細胞膜の流動性や弾力性を調節する役割を果たします。また、プラスマローゲンは、抗酸化作用を持ち、細胞を酸化ストレスから保護する重要な役割を担っています[3][13]。

● 生物学的重要性

ペルオキシソームのこれらの機能は、細胞の代謝、細胞の保護、細胞膜の維持など、生物の生存に不可欠なプロセスに直接関与しています。ペルオキシソームの機能不全は、ゼルウェーガー症候群やアジポン酸血症などの遺伝性疾患を引き起こすことが知られており、これらの疾患は、ペルオキシソームの機能が生物の健康にとっていかに重要であるかを示しています[1][6]。

総じて、ペルオキシソームは、細胞の代謝、細胞保護、細胞膜の維持など、生物の生存に不可欠な多様な生化学的プロセスに関与する重要な細胞小器官です。その機能は、生物の健康と生理機能の維持に直接的な影響を及ぼします。

第2章: ペルオキシソームの生物学的機能

脂質代謝における役割

## ペルオキシソームの脂質代謝における役割

ペルオキシソームは、細胞内小器官の一つであり、脂質代謝において重要な役割を果たしています。このオルガネラは、特に脂肪酸の代謝に関与しており、その機能は生物種によって異なる特異的な機能を持つことが知られています。

● 脂肪酸β酸化

ペルオキシソームは、脂肪酸のβ酸化を行う主要な場所の一つです。β酸化とは、脂肪酸の炭素鎖を2炭素単位で切断してアセチルCoAを生成する過程であり、エネルギー産生のために重要です。ペルオキシソームでは、特に長鎖および極長鎖脂肪酸(炭素数22以上)のβ酸化が行われます[1]。これらの脂肪酸はミトコンドリアでは処理できないため、ペルオキシソームでの代謝が必要です。

● 過酸化水素の生成と分解

ペルオキシソームは、脂肪酸のβ酸化過程で過酸化水素を生成します。この過酸化水素は細胞にとって有害なため、ペルオキシソーム内に存在するカタラーゼという酵素によって迅速に分解されます。この過程により、細胞は過酸化水素による損傷から保護されます[3]。

● 特異的な代謝経路

ペルオキシソームは、生物種によって異なる特異的な代謝経路を持っています。例えば、動物のペルオキシソームは胆汁酸やコレステロールの生合成に関与し、酵母ではアルコールの代謝に関わります。植物のペルオキシソームは、光呼吸やジャスモン酸、オーキシンの生合成に関与するなど、多様な機能を持っています[3]。

● 疾患との関連

ペルオキシソームの機能不全は、様々な代謝疾患を引き起こす可能性があります。例えば、副腎白質ジストロフィー(ALD)は、ペルオキシソームの機能不全により極長鎖脂肪酸が異常蓄積することで発症する疾患です[1]。また、ペルオキシソームの機能は肥満、糖尿病、高脂血症、炎症などの代謝疾患とも関連しています[4]。

● 核内受容体との相互作用

ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)は、脂質代謝を含むエネルギーホメオスタシスに関わる核内ホルモン受容体であり、ペルオキシソームの機能と密接に関連しています。PPARは、脂肪酸の代謝を調節し、遺伝子の発現を制御することで、ペルオキシソームの機能を調節します[2][7]。

ペルオキシソームは、これらの機能を通じて、細胞内の脂質代謝のバランスを維持し、エネルギー産生、細胞の保護、特異的な代謝経路の実行に貢献しています。また、ペルオキシソームの機能不全は、代謝疾患の発症に関与することが示されており、その研究は医学的にも重要な意味を持っています。

反応性酸素種の処理

ペルオキシソームは細胞内で重要な役割を果たすオルガネラの一つであり、特に反応性酸素種(ROS)の分解において重要な機能を持っています。反応性酸素種は細胞の正常な代謝過程で生成されるが、過剰になると細胞に損傷を与える可能性があります。ペルオキシソームは、このような過剰な反応性酸素種を分解し、細胞の酸化ストレスを軽減することで細胞保護に寄与しています。

ペルオキシソーム内には、過酸化水素などの活性酸素種を生成する代謝系が存在しますが、同時にこれらを解毒する酵素も含まれています。特に、カタラーゼという酵素がペルオキシソーム内で活性酸素種を分解する主要な役割を担っています。カタラーゼは過酸化水素を水と酸素に分解することで、細胞内の酸化ストレスを軽減します[4]。

また、ペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ酸化分解など、脂質代謝にも関与しており、この過程で副次的に活性酸素種を産生します。しかし、ペルオキシソーム内のカタラーゼをはじめとする酵素群がこれらの活性酸素種を効率的に分解することで、細胞内の酸化ストレスを管理しています[5]。

さらに、ペルオキシソームの形成因子であるPex14のリン酸化が、細胞内外の環境変化や酸化ストレスへの生体防御応答システムにおいて重要な役割を果たしていることが示されています。Pex14のリン酸化により、カタラーゼのペルオキシソームへの輸送が抑制され、細胞質でのカタラーゼの量が増加します。これにより、細胞は酸化ストレスに対する防御メカニズムを強化し、細胞恒常性の維持に寄与しています[5]。

このように、ペルオキシソームはカタラーゼを含む酵素群を通じて反応性酸素種の分解に貢献し、細胞の酸化ストレスからの保護に重要な役割を果たしています。また、Pex14のリン酸化などの調節機構を通じて、細胞内外の環境変化に応じた適応的な反応を行うことで、細胞の生存と機能の維持に貢献しています。

第3章: ペルオキシソーム関連疾患

ペルオキシソーム生合成障害

ペルオキシソーム生合成障害は、ペルオキシソームの形成や機能に必要なタンパク質をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる一群の遺伝性代謝疾患です。ペルオキシソームは、細胞内の小器官であり、脂肪酸のβ酸化、プラズマローゲンの生合成、胆汁酸の合成など、多様な代謝経路に関与しています[1][2]。

● 遺伝的障害と病態

ペルオキシソーム生合成障害には、ペルオキシソーム形成異常症(PBD)と単一酵素欠損症が含まれます。PBDは、ペルオキシソームの形成またはタンパク質輸入に関与するPEX遺伝子ファミリーの変異によって引き起こされます。これらの遺伝子は、ペルオキシソームの膜の生合成やタンパク質の局在に関与しており、少なくとも12個のPEX遺伝子が関与しているとされています[5][12]。

ペルオキシソーム形成異常症は、ツェルベーガー症候群(ZS)、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、乳児レフサム病(IRD)など、症状の重症度に応じて異なる臨床病型があります。これらは、顔面形成異常、中枢神経系奇形、脱髄、新生児痙攣、筋緊張低下、肝腫大、嚢胞腎、点状骨端症を伴う短肢症、白内障、網膜症、聴力低下、精神運動遅滞、末梢神経障害などの多岐にわたる症状を示します[5]。

単一酵素欠損症では、ペルオキシソーム内の特定の酵素が欠損することにより、特定の代謝経路に障害が生じます。例えば、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(ALD)は、ABCD1遺伝子の変異によりペルオキシソーム膜輸送タンパク質のALDPが欠損することで発症します[5]。

● 診断と治療

診断は、血中の極長鎖脂肪酸、フィタン酸、胆汁酸中間代謝物、およびピペコリン酸の高値を検出することにより行われます。また、遺伝子検査によって特定のPEX遺伝子や他の関連遺伝子の変異を同定することができます[5]。

治療法は、主に対症療法が中心となっており、特異的な治療法は確立されていません。肢根型点状軟骨異形成症(RCDP)などの一部の病型では、特定の栄養素の補給や制限が行われることがあります[5]。

● 予後

ペルオキシソーム生合成障害の予後は、疾患の種類や重症度によって大きく異なります。ツェルベーガー症候群のような重症型では、乳児期早期に死亡することが一般的ですが、他の病型では生涯にわたる障害を伴うことがあります。

● 研究の進展

ペルオキシソーム生合成障害に関する研究は、遺伝子の変異と病態の関係を明らかにすること、新たな治療法の開発、および早期診断と治療を可能とする診療提供体制の確立を目指して進められています[3][7][9][11]。また、ペルオキシソームの生合成に必要な遺伝子やタンパク質の同定、その機能解析、およびペルオキシソーム病患者の異常遺伝子解析が行われています[9][11][13]。これらの研究は、ペルオキシソーム生合成障害の理解を深め、将来的な治療法の開発に寄与することが期待されています。

副腎白質ジストロフィーを含む主要な疾患

副腎白質ジストロフィー(Adrenoleukodystrophy, ALD)は、ペルオキシソーム機能不全に関連する遺伝性疾患の一つです。ペルオキシソームは細胞内小器官であり、脂肪酸の代謝など多様な生化学的プロセスに関与しています。ペルオキシソームの機能不全は、特定の代謝産物の蓄積や必要な物質の不足を引き起こし、多様な臨床症状をもたらします。

● 副腎白質ジストロフィー(ALD)

ALDは、中枢神経系の脱髄と副腎皮質機能不全を特徴とするX連鎖性の遺伝疾患です。この病気は、ABCD1遺伝子の変異によって引き起こされ、この遺伝子がコードするペルオキシソーム膜輸送タンパク質ALDPの欠損が原因です。ALDPの欠損により、極長鎖脂肪酸(VLCFA)の代謝が阻害され、これらの脂肪酸が細胞内に蓄積します[1][2][3][5][11][13]。

ALDは複数の臨床型に分類され、発症年齢や症状により異なります。主な病型には以下のものがあります:

– 小児大脳型(CCALD):3〜10歳で発症し、視力や聴力の異常、行動異常、歩行障害などが特徴です。急速に進行し、数年で寝たきりになることが多いです。
– 思春期大脳型(AdolCALD):11〜21歳で発症し、小児大脳型と似た症状を示しますが、緩徐に進行する傾向があります。
– 副腎脊髄ニューロパチー(AMN):成人期に発症し、痙性歩行を主症状とします。感覚障害や膀胱直腸障害、性機能障害を伴うこともあります。
– 成人大脳型(ACALD):性格変化、認知症、精神症状で発症し、急速に進行します。
– 小脳・脳幹型:小脳失調による歩行障害が主症状です。
– アジソン型:副腎機能不全のみの症状で発症します[13]。

● ペルオキシソーム病

ペルオキシソーム病は、ペルオキシソームの機能不全により発症する疾患群です。ペルオキシソーム形成異常症は、ペルオキシソームタンパク質の局在や形成に関わるPEX遺伝子の変異により、ペルオキシソーム全般の代謝機能が低下する病態です。ペルオキシソーム病には、副腎白質ジストロフィーを含む他の疾患もあり、それぞれ異なる遺伝子変異によって引き起こされます[14][15][16][17]。

ペルオキシソーム病の中には、以下のような疾患が含まれます:

– ツェルベーガー症候群:ペルオキシソームの形成に関わる遺伝子の変異により発症します。
– レフサム病:特定の脂肪酸代謝酵素の欠損により発症します。
– 原発性高シュウ酸尿症:特定の代謝経路の障害により発症します。

これらの疾患は、遺伝的な要因により発症し、特定の代謝産物の蓄積や必要な物質の不足を引き起こします。治療法は疾患によって異なり、一部の病型では造血幹細胞移植が有効な治療法とされています。しかし、多くのペルオキシソーム病に対する治療法はまだ確立されておらず、症状の管理や対症療法が中心となります[13][14].

第4章: ペルオキシソームの研究と治療への応用

ペルオキシソームを対象とした最新の研究

ペルオキシソームは、単一の膜に囲まれた細胞小器官であり、脂質代謝、過酸化物の分解、活性酸素種の除去など多岐にわたる生理機能を担っています。ペルオキシソームの機能不全は、ゼルヴェーガー症候群などの重篤な遺伝性疾患を引き起こすことが知られています。最新の研究技術は、ペルオキシソームの機能や疾患機序の解明に大きく貢献しています。

● ゲノム編集技術

ゲノム編集技術、特にCRISPR/Cas9システムは、ペルオキシソーム関連遺伝子の機能解析に革命をもたらしました。この技術を用いることで、特定の遺伝子を正確に編集し、その遺伝子がペルオキシソームの機能にどのように関与しているかを調べることが可能になります。例えば、ペルオキシソーム形成不全症患者の細胞において、一次線毛のコレステロールが低下し、線毛の機能障害が生じることが明らかにされました[4][6][16][19]。

● 高解像度顕微鏡技術

高解像度顕微鏡技術、特に電子顕微鏡は、ペルオキシソームの微細構造を詳細に観察するために使用されます。これにより、ペルオキシソームの形態変化や、他の細胞小器官との相互作用を観察することができます。例えば、ペルオキシソームが微小管の上を運動して一次線毛にコレステロールを供給する仕組みが解明されました[4][6][16][19]。

● プロテオミクスと質量分析

プロテオミクスと質量分析は、ペルオキシソームに局在するタンパク質の同定や、タンパク質間相互作用の解析に利用されます。これにより、ペルオキシソームの機能に関与する新たなタンパク質や、疾患の原因となるタンパク質の変異を特定することができます。

● オミックスデータの統合解析

トランスクリプトーム、メタボローム、プロテオームなどのオミックスデータを統合解析することで、ペルオキシソームの機能や疾患機序の全体像を理解することが可能になります。これにより、ペルオキシソームが関与する代謝経路や、疾患発症に重要な分子ネットワークを明らかにすることができます。

● ペルオキシソーム疾患の診断・治療技術

ペルオキシソーム疾患の診断には、遺伝子検査や代謝物の測定が行われます。また、治療法の開発には、ペルオキシソーム機能を補完する化合物の同定や、遺伝子治療が検討されています。例えば、ペルオキシソーム形成不全症における小脳形態異常の分子メカニズムが明らかにされ、治療法開発に期待が寄せられています[20]。

これらの最新の研究技術は、ペルオキシソームの機能や疾患機序の解明に不可欠であり、将来的な治療法の開発に向けた基盤を築いています。

疾患治療への応用

ペルオキシソーム関連疾患は、ペルオキシソームの機能障害によって引き起こされる一群の遺伝性代謝疾患です。これらの疾患には、ツェルベーガー症候群やアジソン病などが含まれ、多くは難病指定を受けています。現在の治療法の開発状況と今後の治療戦略について、以下に展望を述べます。

● 現在の治療法の開発状況

ペルオキシソーム関連疾患の治療法は、主に対症療法が中心となっています。根治療法としての治療法は確立しておらず、症状に合わせた治療が行われています[9]。例えば、レフサム病ではフィタン酸の食事制限が治療法として挙げられています[4]。また、酵素補充療法がライソゾーム病に対して行われており、一部の疾患においては症状の改善が見られていますが、中枢神経や角膜への効果は限定的であり、頻回の点滴治療が生涯必要となるなどの課題があります[8]。

● 今後の治療戦略

今後の治療戦略としては、以下のようなアプローチが考えられます。

1. 遺伝子治療: 遺伝子治療は、ペルオキシソーム関連疾患の治療において有望なアプローチです。遺伝子の変異を正すことで、疾患の根本的な原因に対処することが期待されます。しかし、遺伝子治療の安全性や効果については、さらなる研究が必要です。

2. 小分子薬剤の開発: 疾患の病態メカニズムに基づいた小分子薬剤の開発が進められています。これにより、ペルオキシソームの機能を改善することが目指されています。

3. 代謝産物の調節: 代謝産物の蓄積を防ぐための治療法の開発も進められています。例えば、特定の脂肪酸の血中濃度を調節することで、症状の管理を試みるアプローチです。

4. 線毛機能の改善: ペルオキシソーム形成不全症においては、線毛のコレステロールが低下することで線毛機能が低下することが明らかにされています。コレステロールの補充によって線毛異常が改善することが示されており、この知見は新たな治療法の開発に貢献する可能性があります[10][11]。

5. 病態メカニズムの解明: 疾患の病態メカニズムを解明することは、新たな治療薬の開発に不可欠です。ペルオキシソーム病のさらなる理解と治療薬の創製のためには、現在提唱されている仮説の検証が必要です[13]。

● 結論

ペルオキシソーム関連疾患の治療法の開発は、まだ初期段階にありますが、病態メカニズムの解明に基づいた新たな治療法の開発が進められています。遺伝子治療や小分子薬剤の開発、代謝産物の調節、線毛機能の改善など、多角的なアプローチが期待されています。これらの研究が進むことで、将来的には効果的な治療法が確立されることが期待されます。

ペルオキシソームの存在する場所

ペルオキシソームは、その存在形態と機能が細胞タイプによって異なることが知られています。線維芽細胞などの細胞では、ペルオキシソームは個々のオルガネラとして存在し、脂肪酸の分解、リポイドの合成、反応性酸素種の分解などの多様な代謝機能を担っています。

一方で、肝細胞ではペルオキシソームは「ペルオキシソーム小胞体」としても知られる形態で存在します。これは粗面小胞体に似た、相互に連結した細管のネットワークを形成しています。この構造は、肝細胞の特定の代謝要求に対応するためのものである可能性があります。肝臓は体の主要な代謝器官の一つであり、さまざまな代謝過程に関与しています。

ペルオキシソームのこのような異なる形態は、細胞の特定の代謝ニーズや環境に適応していることを示しています。ペルオキシソームは、細胞内での柔軟な代謝の調整に不可欠な役割を果たしていると考えられます。

ペルオキシソームの構造

ペルオキシソームは、真核細胞内に存在する小さな器官で、単一の膜に囲まれています。この器官は主に、細胞内の有害な物質を分解する消化酵素と、代謝を助ける酸化酵素を含んでいます。

ペルオキシソームは、直径が0.05~0.5ミクロンの範囲で変化する小さな細胞内器官で、赤血球を除くすべての細胞に存在します。特に、肝臓や腎臓の細胞にはペルオキシソームが多く含まれています。細胞のエネルギー要求に応じて、ペルオキシソームの形、大きさ、数量が変わります。この器官はリン脂質の二重膜と膜結合タンパク質で構成されています。

ペルオキシソームで活動する酵素は、細胞内の遊離リボソームで作られ、特定のシグナルを持つことによってペルオキシソームに選択的に取り込まれます。このシグナルは「ペルオキシソーム標的配列1(PTS1)」と呼ばれ、タンパク質のC末端にあるトリペプチドで、ペルオキシソーム内に取り込まれるタンパク質を特定します。対応する受容体「PEX5」は、このC末端を認識し、タンパク質をペルオキシソームに運びます。

ペルオキシソームのリン脂質は通常、細胞の平滑小胞体で合成されます。ペルオキシソームはタンパク質や脂質が入ることによって大きくなり、最終的には2つの器官に分裂します。ペルオキシソームには独自のDNAがなく、必要なタンパク質は細胞質から翻訳後に輸送されます。

ペルオキシソームの機能

長い間、生理学的にほとんど重要性のない細胞小器官とみなされていましたが、ペルオキシソームは現在、細胞代謝におけるさまざまな機能を触媒することが知られており、その機能には以下が含まれます。
●触媒機能
•超長鎖脂肪酸 (VLCFA)、プリスタン酸、および長鎖ジカルボン酸のベータ酸化
•フィタン酸のα酸化
•ピペコリン酸の酸化
•グリオキシル酸の解毒
•カタラーゼによる過酸化水素の分解
●アナボリック機能(アナボリック機能とは、体内でのタンパク質合成を促進し、筋肉の成長や修復を助ける生理的作用です。この機能は、アナボリックステロイドとして知られるステロイドホルモンによって強化されることがあり、筋力や筋量の増加に寄与します。しかし、不適切な使用は健康上のリスクを伴います)
•胆汁酸の合成
•細胞膜とミエリンの重要な成分であるプラズマローゲンの合成
•特定の多価不飽和脂肪酸 (PUFA)、特にドコサヘキサエン酸 (C22:6) の合成。

ペルオキシソームは脂質の生成にも重要な役割を果たしており、細胞の健康と機能に不可欠です。さらに、この器官は過酸化水素などの活性酸素種を無害化する重要な役割も担っています。活性酸素種は細胞にダメージを与える可能性があるため、ペルオキシソームはカタラーゼという酵素を用いて、これらを水や酸素のような無害な分子に変換します。このプロセスにより、ペルオキシソームは細胞の保護に寄与しています。

ペルオキシソームの脂肪酸代謝経路

ペルオキシソームの脂肪酸代謝経路https://www.nibb.ac.jp/plantorganelles/research%20-%2002peroxisome.htmlより引用

ペルオキシソーム障害

ペルオキシソーム障害は、オルガネラの形成障害によるもの(いわゆるペルオキシソーム生合成障害、PBD;peroxisome biogenesis disorders)と、単一のペルオキシソーム酵素またはトランスポーターの欠損による疾患の2つに大別される。

PBDは重篤な疾患であり、しばしば小児期に死に至る。これらの疾患は50,000人に1人の割合で発症すると推定されている。
PBDは、ペルオキシソームの生合成に関与するタンパク質であるペルオキシンをコードするPEX遺伝子の変異によって引き起こされる。PBDでは、正常なペルオキシソーム構造が欠損し、マトリックス酵素の大部分が細胞質に誤局在し、不安定となる。その結果、PBD患者の細胞では、ほとんど全てのペルオキシソームを介した代謝経路が障害されている。これらの患者の細胞では、ペルオキシソーム酵素によって分解される基質(例えば、VLCFA)が蓄積する一方で、ペルオキシソーム生合成経路の産物(例えば、プラズマローゲンや胆汁酸)のレベルは強く低下している。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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