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遺伝子バリアントの正確な位置特定は、分子生物学研究や遺伝子診断において極めて重要なステップです。特に、PCR法によるDNA断片の増幅を行う際のプライマー設計においては、バリアントの正確な位置情報が実験の成否を左右します。適切なプライマーを設計するためには、対象となるバリアントがゲノム上のどの位置に存在するのか、周囲の配列はどうなっているのかを詳細に把握する必要があります。本記事では、公共データベースやゲノムブラウザを活用した遺伝子バリアント位置の効率的な確認方法と、それに基づく最適なプライマー設計のテクニックについて詳しく解説します。研究効率の向上と実験成功率の大幅な改善に役立つ情報が満載です。
1. HGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)で遺伝子情報を確認する
まず初めに、国際的に承認された遺伝子名称のリソースである「HUGO Gene Nomenclature Committee(HGNC)」のウェブサイトにアクセスします。

上記の検索窓に、バリアント位置を確認したい遺伝子名(遺伝子シンボル)を入力します。この検索機能を使って、調べたい遺伝子の公式情報にアクセスすることができます。
2. 遺伝子情報の検索とEnsemblデータベースへのアクセス
例えばCOL1A1遺伝子を調べたければこの窓にCOL1A1と入れて右の虫眼鏡マークをクリックします。

出てきた検索結果をクリックして次に進みます。

遺伝子の詳細情報ページが表示されたら、下部にある「Gene resources for COL1A1」セクションを見つけ、Ensembl IDをクリックします。

3. Ensemblでトランスクリプト情報を確認する
Ensemblにアクセスすると、遺伝子の詳細情報ページが表示されます。ここでは例としてCOL1A1遺伝子のバリアント位置を確認していきます。

まず、「Show transcript table」ボタン(赤枠で囲まれた部分)をクリックして、トランスクリプトテーブルを表示します。
今回は例として、NM_000088.4(COL1A1):c.2155G>A (p.Gly719Ser)というバリアントの位置を確認します。

トランスクリプトテーブルが表示されたら、調べたいバリアントのNM番号(今回はNM_000088.4)と一致するRefSeq Matchの行を確認します。対応するトランスクリプトID(ENST00000225964.10)をクリックします。

トランスクリプトの詳細ページが開いたら、左側のナビゲーションメニューから「cDNA」(赤枠で囲まれた部分)をクリックします。
4. cDNA配列でバリアント位置を確認する
cDNAビューが表示されると、遺伝子の塩基配列情報が表示されます。ここで目的のバリアント位置を確認します。

cDNA配列を下にスクロールしていき、目的のバリアント位置(今回の例ではc.2155G>A)を探します。
画面には以下の情報が表示されています:
- 最上段:第1エクソン先頭からの番号
- 中央:第1エクソンのスタートコドンMetからの番号
- 最下段:アミノ酸配列の番号と1文字表記
今回の例では、2162番目の塩基がこの行の右端にあるので、c.2155の位置はその7つ上流の赤枠で囲んだ場所ということがわかります。このように、バリアントの正確な位置を視覚的に確認することができます。
5. 遺伝子全体でのバリアント位置の確認
バリアントのcDNA上での位置を特定した後は、この配列が遺伝子の全体構造のどこに位置するのかを確認します。これはプライマー設計において非常に重要なステップです。
先ほど確認したc.2155の位置は、遺伝子の各エクソンのどこに該当するのかを特定することで、プライマー設計の際に重要となる周辺配列情報を得ることができます。
重要ポイント:バリアントが位置するエクソンとその前後のイントロン領域を把握することで、PCRプライマーの設計範囲を適切に決定できます。特にPCR増幅の際は、バリアントを含むエクソンとその周辺配列を増幅対象とするよう設計することが重要です。
Ensembl画面の左側メニューからさらに詳細な情報にアクセスできます:
- Exons:各エクソンの詳細な位置情報
- Variant table:既知のバリアント一覧と位置情報
- Protein:タンパク質レベルでの影響の確認
これらの情報を総合的に利用することで、バリアントの正確な位置と周辺のゲノム環境を理解し、効率的なプライマー設計が可能になります。

先ほど確認したc.2155Gを含む配列「GGTAGCCA」の文字列をコピーします(赤枠で囲まれた部分)。この配列情報は、後でどのエクソンに位置するかを確認する際に利用します。

次に、ページ上部にある左側のナビゲーションメニューから「Exons」(赤枠で囲まれた部分)をクリックして、遺伝子の各エクソン情報を表示します。
ブラウザの検索窓に先ほどコピーした「GGTAGCCA」の文字列を張り付けて検索します。
そうすると、右側のバーに該当の文字列のある場所が表示されます。
左側を見ると、34番目のエクソンに該当することが分かります。
6 遺伝子配列全体の確認とダウンロード
バリアントのエクソン位置を特定した後は、さらに詳細な配列情報を確認するために、遺伝子全体の配列表示に戻ります。

ページ上部にある「Gene: COL1A1」タブ(赤枠で囲まれた部分)をクリックして、遺伝子レベルの表示に戻ります。

次に、左側のナビゲーションメニューから「Sequence」(赤枠で囲まれた部分)をクリックします。これにより、遺伝子の全塩基配列を閲覧できるようになります。

遺伝子の全塩基配列を取得するには、「Download sequence」ボタン(赤枠で囲まれた部分)をクリックします。ファイル形式はWordが使いやすく、後で編集や検索が容易になります。
ダウンロードした配列ファイルの中から、先ほど特定した「GGTAGCCA」配列を検索することで、バリアント位置を正確に把握し、プライマー設計のための周辺配列情報を取得できます。
プライマー設計のヒント
プライマー設計では、バリアントを含むエクソン(第34エクソン)の前後に十分な配列を確保することが重要です。ダウンロードした配列ファイルでは、エクソン/イントロン境界や周辺配列を確認でき、最適なプライマー位置を決定するのに役立ちます。
まとめ
本記事では、遺伝子バリアントの位置を正確に特定する方法を、以下のステップで解説しました:
- HGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)で公式な遺伝子情報を確認する
- Ensemblデータベースにアクセスして遺伝子の詳細情報を取得する
- トランスクリプト情報を確認し、適切なリファレンス配列を選択する
- cDNA配列でバリアント位置を確認する
- バリアント周辺の配列を特定する
- エクソン情報を確認して、バリアントが存在するエクソンを特定する
- 遺伝子配列全体をダウンロードし、プライマー設計に必要な情報を取得する
これらの手順を踏むことで、バリアントの正確な位置を特定し、効率的なプライマー設計が可能になります。プライマー設計の成功率を高めるためには、バリアント位置の正確な把握が不可欠です。特にPCR法による遺伝子解析や診断を行う際には、この情報が実験の成否を左右します。
遺伝子解析技術の発展により、様々なバリアントの解析が可能になっていますが、その基盤となるのは正確な位置情報です。本記事で紹介した方法を活用して、精度の高い遺伝子解析を実現してください。



