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CpGアイランドの謎: DNAメチル化と遺伝子の発現制御

この記事では、遺伝子発現を制御する重要な要素であるCpGアイランドについて詳細に解説します。CpGアイランドは、遺伝子のプロモーター領域に多く見られ、DNAメチル化によるエピジェネティックな制御の中心的役割を果たします。この記事を通じて、CpGアイランドの定義、機能、研究での意義、さらにはがんなどの疾患との関連について、最新の知見を含めて紹介します。

第1章 CpGアイランドとは

CpGアイランドの定義と特徴

● CpGアイランドの概念とその配列特性

CpGアイランド(CpG island)は、ゲノムDNA中でシトシン(C)の次にグアニン(G)が現れるCpGサイトの出現頻度が高い領域を指します。ここでの「p」はリン酸を意味し、CとGが隣接していることを示しています。CpGアイランドは、通常、遺伝子のプロモーター領域や5′上流領域に位置し、遺伝子の発現調節に重要な役割を果たしています[1][2][3][8][10][12][16][17]。

CpGアイランドの定義にはいくつかの基準がありますが、一般的には以下の特徴を持つとされています:

– グアニンとシトシンの合計含有率が50%以上であること。
– CpG配列の実測値と予測値の比(CpG/ExpCpG比)が0.6以上であること。
– 200塩基対以上の長さを持つこと[3][14]。

哺乳類のゲノムでは、CpGアイランドは約半数の遺伝子の転写開始点に存在し、その大部分がハウスキーピング遺伝子と呼ばれる基本的な細胞機能を担う遺伝子です。ヒトゲノムでは、遺伝子プロモーターの約70%がCpGアイランドを含んでいるとされています[3]。

● 遺伝子のプロモーター領域における役割

CpGアイランドは、遺伝子の発現を制御するプロモーター領域において中心的な役割を果たします。これらの領域は通常、低メチル化状態にあり、遺伝子が活発に発現している状態を示しています。メチル化はシトシンの5位の炭素にメチル基が付加される化学修飾であり、遺伝子の発現を抑制する効果があります。CpGアイランドがメチル化されると、遺伝子の発現が抑制されることが多く、特にがん細胞では、がん抑制遺伝子の発現がCpGアイランドの異常なメチル化によって抑制されることが知られています[3][4][6][9]。

また、CpGアイランドのメチル化状態は組織特異性を持ち、異なる組織や発達段階で異なるパターンを示すことが知られています。例えば、脳特異的に低メチル化状態にあるCpGアイランドが特定の遺伝子のプロモーター領域に存在することが報告されています[2]。

CpGアイランドの周辺部、約2キロベースの範囲をCpGアイランドショアと呼び、ここもまた遺伝子の発現調節に関与していることが示されています。CpGアイランドショアのメチル化状態には組織特異性があり、遺伝子発現の微妙な調節に寄与していると考えられています[1]。ショア(shore)とは岸の意味です。

以上のように、CpGアイランドは遺伝子の発現を制御する上で重要な役割を担っており、そのメチル化状態は遺伝子の活性化や抑制に直接関わっています。エピジェネティクスの研究において、CpGアイランドは遺伝子の発現調節機構を理解するための重要な鍵となっています。

CpGアイランドの同定とマッピング

● CpGアイランドの同定方法

CpGアイランドの同定には、ゲノム配列からCpGの出現頻度が高い領域を特定する方法が用いられます。CpGアイランドは、シトシン(C)の次にグアニン(G)が現れる塩基配列(CpG)が集中して存在する領域であり、通常は遺伝子のプロモーター領域に位置しています。これらの領域は、遺伝子発現の調節に重要な役割を果たしており、メチル化されることで遺伝子の発現が抑制されることが知られています[1][2][6][7].

● ゲノム内での分布と密度

CpGアイランドは、哺乳類を含む脊椎動物のゲノムに広く分布しており、特に遺伝子のプロモーター領域周辺に見られます。これらの領域は平均して1kbの長さを持ち、シトシンとグアニンに富む特徴があります。CpGアイランドは基本的に転写の有無にかかわらず、ほぼ完全にメチル化を免れていることが特徴です[1].

ゲノムの残りの部分では、CpG部分は分散して分布しており、そこに位置するCpG対のほぼ80%がメチル化されているとされています。これに対して、CpGアイランドクラスターはゲノムの約2%を占めています[4].

CpGアイランドの同定には、コンピューターを用いたバイオインフォマティクスのツールが利用されます。例えば、スライディングウインドウ法やマルチスレッド技術に基づく新しいCpGアイランド検索ツールCpGIScanがあり、これはゲノム配列からCpGアイランドを高速に同定するために開発されました[12].

また、特定のゲノム領域のCpG密度やGC含量を解析することで、CpGアイランドをマッピングする研究も行われています[13].

CpGアイランドの同定とマッピングは、がんなどの疾患の研究や診断、治療の開発において重要な役割を果たしています。例えば、がん細胞では、がん抑制遺伝子の発現がCpGアイランドの異常なメチル化によって抑制されることがあります[6]. このようなメチル化パターンの解析により、疾患関連遺伝子の同定や、がんの予後診断法の開発に貢献しています[14].

第2章 DNAメチル化とCpGアイランド

DNAメチル化の基礎

● DNAメチル化の基礎

DNAメチル化は、DNA分子の特定の塩基にメチル基(-CH3)が付加される生化学的修飾の一つです。このプロセスは、遺伝子の活性を調節するエピジェネティックな機構として機能し、細胞の型や機能を決定する上で重要な役割を果たします[4][5][7][10][11][16].

● メチル化の遺伝子発現への影響

DNAメチル化は、遺伝子発現の制御において中心的な役割を担います。特に、シトシン塩基の5位の炭素にメチル基が付加されることが一般的で、この現象は主にCpGダイヌクレオチド配列で起こります[4][5][7][10]. CpGダイヌクレオチド配列は、シトシン(C)とグアニン(G)がリン酸(P)で結合されたDNAの塩基配列のことを指します.メチル化されたDNAは、遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域において転写因子の結合を阻害し、遺伝子の発現を抑制することが一般的です[5][7][8]. このように、DNAメチル化は遺伝子の発現を抑制することで、細胞の分化や発生、疾患の発生に影響を及ぼします[8][10][11].

一方で、DNAメチル化は遺伝子の安定性や構造を維持する役割も持っており、細胞の恒常性維持にも寄与しています[7][8]. また、DNAメチル化は可逆的なプロセスであり、メチル化されたシトシンは脱メチル化酵素によって元の状態に戻ることができます[3][7].

がんや神経疾患などの疾患においては、DNAメチル化パターンの異常が病態の発生や進行に関与していることが示唆されています[8][9][13][14]. 例えば、がん細胞では、がん抑制遺伝子のプロモーター領域における過剰なDNAメチル化により、これらの遺伝子の発現が抑制されることが報告されています[8][10].

さらに、DNAメチル化は遺伝子発現の活性化にも関わることがあり、これは遺伝子サイレンシングとは逆の現象です[13]. このように、DNAメチル化は遺伝子発現を抑制するだけでなく、特定の条件下で遺伝子発現を促進することもある複雑な現象です.

DNAメチル化の研究は、エピジェネティクスの分野において重要な位置を占め、遺伝子の発現制御、疾患の発生メカニズムの解明、新たな治療法の開発に向けた基盤を提供しています[15][17][18].

CpGアイランドとエピジェネティクス

CpGアイランドは、シトシンとグアニンが多く連続して存在するDNA領域であり、多くの遺伝子のプロモーター領域に位置しています。エピジェネティクスにおいて、CpGアイランドのメチル化は遺伝子の転写活性に重要な役割を果たします。メチル化されたCpGアイランドは、一般的に遺伝子の転写を抑制し、遺伝子の発現をサイレンシングすることが知られています[1][5][6]。

● CpGアイランドのメチル化と転写活性

CpGアイランドのメチル化は、遺伝子の転写開始点上流に存在し、転写因子の結合を阻害することで遺伝子の発現を抑制します。哺乳類のゲノムでは、CpGアイランドの60〜90%がメチル化を受けており、特に遺伝子のプロモーター領域にあるCpGアイランドは、メチル化されることで転写が不活化されることが報告されています[1]。また、がん細胞では、がん抑制遺伝子のプロモーター領域でCpGがメチル化されていることが知られており、これによりがん抑制遺伝子の発現が抑制されるとされています[1][5]。

● エピジェネティックな遺伝子制御のメカニズム

エピジェネティクスの主要な制御機構は、DNAメチル化とヒストン修飾です。DNAメチル化は、シトシンの次にグアニンが続く配列のシトシンにメチル基が付加されることで、遺伝子機能を調節する制御機構として機能します[3]。ヒストン修飾によってもクロマチン構造が変化し、遺伝子の発現制御が可能となります。ヒストンのアセチル化は遺伝子発現の活性化に関与し、メチル化は遺伝子の発現制御に重要であることが明らかになっています[3]。

エピジェネティックな修飾が何らかの原因で変化すると、さまざまな疾病につながることがわかってきています。例えば、DNAメチル化酵素の活性が認められているDnmt1、Dnmt3a、Dnmt3bは、DNA合成期のメチル化の維持や胚盤胞期以降のde novoメチル化に関与しており、これらの酵素の異常は遺伝子の発現パターンを変化させ、疾病の原因となる可能性があります[1]。

エピジェネティックな研究は、DNAメチル化、DNA-タンパク質相互作用、クロマチンアクセシビリティ、ヒストン修飾などの変化を研究し、これらの変化が遺伝子活性にどのように影響を与えるかを解明することを目的としています[9]。エピジェネティックな変化は、遺伝子のオン、オフを制御するためにDNAに起こる化学的な修飾であり、DNAを構成している塩基配列を変えることはありません[10]。

エピジェネティクスは、個体発生や細胞分化の過程で必須のメカニズムとなっており、その実態はDNAのメチル化やヒストンの化学修飾であることが明らかにされています[8]。これらの修飾は、遺伝子の発現を正または負に調節し、同じ個体の細胞が異なる組織で特異的な機能を持つ細胞へと分化・成熟していく過程において重要な役割を果たします[8]。

第3章 CpGアイランドと疾患

CpGアイランドの異常メチル化と疾患

● がんにおけるCpGアイランドのメチル化

がん細胞におけるCpGアイランドの異常メチル化は、がん抑制遺伝子の発現抑制と密接に関連しています。CpGアイランドは、CG配列が豊富なゲノム領域であり、通常、遺伝子のプロモーター領域に位置しています。これらの領域は、正常細胞では低メチル化状態にあり、遺伝子の発現を促進する役割を果たしています。しかし、がん細胞では、CpGアイランドが異常にメチル化されることで、がん抑制遺伝子の発現が抑制され、細胞の異常増殖やがん化が促進されます[4][5][8][10]。

遺伝性疾患とCpGアイランド

遺伝性疾患においても、CpGアイランドのメチル化異常が関与していることが示されています。特定の遺伝子のCpGアイランドが異常にメチル化されることで、その遺伝子の発現が抑制され、遺伝性疾患の発症につながる可能性があります。例えば、インプリント遺伝子の異常メチル化は、プラダー・ウィリー症候群アンジェルマン症候群などの遺伝性疾患と関連しています。インプリント遺伝子は、親から受け継がれる特定の遺伝子が、メチル化によって発現または非発現の状態が決定される遺伝子であり、そのメチル化パターンの異常は遺伝性疾患の原因となり得ます[12]。

がん細胞におけるCpGアイランドのメチル化異常は、がん抑制遺伝子の発現抑制によりがんの発生や進行を促進する重要なメカニズムです。また、遺伝性疾患においても、特定の遺伝子のCpGアイランドのメチル化異常が疾患の発症に関与していることが知られています。これらの知見は、がんや遺伝性疾患の診断、治療、予防において、エピジェネティックなアプローチの重要性を示しています。

CpGアイランドメチル化の検出と診断

CpGアイランドメチル化の検出と診断には、DNAメチル化解析技術が重要な役割を果たします。DNAメチル化は、遺伝子の発現を調節するエピジェネティックな修飾であり、特にCpGアイランドのメチル化は、がんを含む多くの疾患の発生や進行に関与しています。以下に、CpGアイランドメチル化の分析技術とその疾患診断への応用について解説します。

CpGアイランドメチル化の分析技術

● バイサルファイトシーケンシング
バイサルファイト処理は、非メチル化シトシンをウラシルに変換し、メチル化シトシンは変換されないため、メチル化状態を識別できる技術です。この処理後にPCR増幅およびシーケンシングを行うことで、特定のDNA領域のメチル化パターンを高精度で解析できます[10]。

● メチル化特異的PCR (MSP)
メチル化特異的PCRは、バイサルファイト処理したDNAを用いて、メチル化された領域と非メチル化された領域を区別するプライマーを使用し、PCRによって特定のメチル化状態を検出する方法です。この技術は、特定の遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態を調べるのに有用です[7]。

● メチル化アレイ
メチル化アレイは、ゲノム全体のメチル化状態を一度に調査できるハイスループット技術です。特定のCpGサイトに対するメチル化状態を定量的に測定し、疾患関連のメチル化パターンを同定するのに利用されます[14]。

疾患診断への応用

● がん診断
CpGアイランドの異常なメチル化は、がん抑制遺伝子の発現抑制と関連しています。メチル化アレイやバイサルファイトシーケンシングなどの技術を用いて、特定のがんにおけるメチル化異常を検出し、がんの早期診断や予後判断に役立てることができます[14][15]。

● 精神疾患
統合失調症などの精神疾患においても、特定遺伝子のCpGアイランドメチル化異常が報告されています。網羅的DNAメチル化解析を通じて、疾患関連のメチル化パターンを同定し、診断や治療薬の開発につながる可能性があります[6]。

● 遺伝性疾患
エピジェネティックな変化は、遺伝性疾患の発症にも関与しています。メチル化解析技術を用いて、遺伝性疾患に関連するメチル化異常を検出し、疾患の診断やリスク評価に役立てることが期待されます[14]。

CpGアイランドメチル化の分析技術は、疾患の診断や治療戦略の策定において重要な役割を果たしています。これらの技術の進化とともに、より精密な疾患診断や個別化医療の実現が期待されます。

第4章 CpGアイランドの研究と応用

CpGアイランドの研究最前線

## CpGアイランドの研究最前線

CpGアイランドは、シトシンとグアニンの塩基対が高頻度で出現するDNA領域であり、遺伝子のプロモーター領域に多く存在します。これらの領域のメチル化状態は遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしており、異常なメチル化パターンはがんをはじめとする多くの疾患と関連しています。最新の研究動向と成果について、以下にまとめます。

● メチル化状態のダイナミクスの解析

発達障害や神経疾患などの病態解明に向けて、CpGアイランドのメチル化状態のダイナミクスを解析する研究が進んでいます。ソーク研究所の科学者らは、発育中のマウスのDNAメチル化が時間の経過とともにどのように変化するかをマッピングし、168個の新しいメチル化マップを作成しました[16]。この研究は、発達障害の原因組織を絞り込むのに役立つ貴重なリソースとなるとされています。

● エピジェノムワイド関連研究(EWAS

エピジェノムワイド関連研究(EWAS)は、DNAメチル化アレイを用いてヒトゲノムのDNAメチル化プロファイルを比較的安価に取得し、大規模なエピゲノムデータの解析を可能にしています[2]。この技術は、疾患の有無や、生活習慣といった形質と各DNAメチル化サイトとの関連を評価し、疾患のリスクマーカーとしての応用が期待されています。

● メチル化アレイの応用

イルミナ社のメチル化アレイは、ゲノム全体の選択されたメチル化部位の定量的調査を可能にし、遺伝子発現の制御に関する貴重な洞察を提供します[17]。このアレイベースのメチル化研究は、異常なDNAメチル化とその遺伝子発現への影響を解明するために利用されています。

● DNAメチル化解析技術の進展

アジレント・テクノロジー社は、タイリングアレイとメチル化CpGアイランド回収アッセイを組み合わせ、全ゲノム規模および高分解能でCpGアイランドのメチル化を調べる技術を開発しました[14]。この技術は、細胞株と初期の肺癌において、特定のホメオボックス遺伝子クラスターがDNAメチル化の選択的なターゲットになっていることを明らかにしました。

● エピジェノムと疾患の関連研究

CpGアイランドのメチル化異常は、がんを含む多くの疾患に関連しています。日本医療研究開発機構の革新的先端開発支援事業では、エピジェノムの異常が関わる疾患についての研究が進められており、患者のエピゲノムを調べて診断に利用したり、エピゲノムの異常を元に戻す薬で病気を治療する研究が進められています[15]。

これらの研究成果は、CpGアイランドの機能解析技術の進展とともに、疾患の原因解明や新たな治療法の開発に寄与することが期待されています。

エピジェネティクス治療への応用

CPGアイランドのエピジェネティクス治療への応用において、メチル化阻害剤による治療戦略は、がん治療における新たなアプローチとして注目されています。エピジェネティクスは、DNA配列の変化を伴わない遺伝子の発現調節機構を指し、特にCPGアイランドのメチル化は、がん抑制遺伝子の不活化に関与していることが知られています[16][17]。

CPGアイランドは、シトシンとグアニンが多く含まれるDNA領域で、プロモーター領域に位置し、遺伝子の発現調節に重要な役割を果たしています。がん細胞では、これらの領域が異常にメチル化されることで、正常な遺伝子発現が抑制され、がんの発生や進行につながることが示されています[16][17]。

メチル化阻害剤は、このような異常なメチル化を防ぐことで、がん抑制遺伝子の再活性化を目指す治療薬です。例えば、新規経口DNAメチル化阻害剤OR21は、慢性骨髄性白血病(CML)の標準治療であるABL1チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)と併用することで、CML幹細胞の枯渇を促進し、治療効果を高める可能性が示されています[18]。

エピジェネティック治療の基盤を確立するための研究は、がんのエピジェネティクス異常の解明と臨床応用に関する研究が進められており、CpGアイランドメチル化形質(CIMP)など、がんにおけるエピジェネティックな異常の特徴を明らかにし、それを標的とした治療法の開発が期待されています[19][20]。

エピジェネティック療法の将来性は、がん治療における新たな選択肢を提供することにあります。特に、従来の治療法では効果が限定的だったがん種や、再発・転移がんに対して、エピジェネティックな異常を標的とした治療が有効である可能性があります。また、エピジェネティック治療は、正常細胞への影響が少ないため、副作用を低減することも期待されています。これらの研究成果が臨床応用につながることで、がん患者の治療選択肢が拡がり、生存率の向上に貢献することが期待されます。

第5章 CpGアイランドと遺伝子発現の調節

CpGアイランドと遺伝子発現

CpGアイランドの転写調節における役割:

CpGアイランドは、哺乳類のゲノム上でCG配列が豊富な領域を指し、遺伝子の転写開始点に存在することが多いです。これらの領域は、遺伝子発現の調節において重要な役割を果たします。CpGアイランドは、通常、低メチル化状態にあり、これにより遺伝子の発現が促進されることが知られています[1][2]。

● 遺伝子発現の活性化

CpGアイランドは、遺伝子のプロモーター領域に位置し、そのメチル化状態は遺伝子の発現を調節するために重要です。低メチル化状態のCpGアイランドは、遺伝子の発現を活性化することが一般的です。これは、メチル化されていないCpGアイランドが転写因子の結合を容易にし、RNAポリメラーゼIIのリクルートを促進するためです[2][4][5]。

● 遺伝子発現の抑制

一方で、がん細胞などでは、CpGアイランドがメチル化されることにより、遺伝子の発現が抑制されることがあります。特に、がん抑制遺伝子のプロモーター領域でのCpGメチル化は、遺伝子の発現を不活化し、がんの進行に関与することが示されています[3][6]。

● 組織特異性

CpGアイランドのメチル化状態には組織特異性があり、異なる組織や細胞型で異なるメチル化パターンが観察されます。これにより、組織や発達段階に応じた遺伝子発現パターンが形成されることになります[1][6]。

● エピジェネティックな修飾

CpGアイランドのメチル化は、エピジェネティックな修飾の一形態であり、DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子機能を調節します。ヒストン修飾とともに、これらのエピジェネティックな修飾は遺伝子の発現制御において中心的な役割を果たします[5]。

● 遺伝子発現パターンの形成

CpGアイランドのメチル化状態は、遺伝子発現パターンの形成において重要です。遺伝子発現パターンは、個体の発生、細胞分化、疾病の発生など、多くの生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たします。CpGアイランドのメチル化状態の変化は、これらのプロセスにおける遺伝子発現の変化を引き起こし、結果として異なる細胞型や組織の特性を決定します[1][2][5][6]。

総じて、CpGアイランドは遺伝子発現の調節において中心的な役割を果たし、そのメチル化状態は遺伝子発現パターンの形成において重要な要素です。

CpGアイランドと遺伝子発現の変動

CpGアイランドは、シトシンとグアニンがCG配列として連続して存在するDNA領域であり、平均して1kbの長さを持ちます。これらの領域は、遺伝子のプロモーター領域や転写開始点の近くに豊富に存在し、遺伝子発現の調節に重要な役割を果たしています[1][2][3][6][7][8][9][12][13][17]。

● 環境因子による影響

環境因子、特に汚染物質の曝露は、DNAメチル化パターンに変化をもたらし、それが遺伝子発現の変動に影響を及ぼすことが示されています。例えば、特定の化学物質に曝露されることで、CpGアイランドのメチル化状態が変化し、それによって遺伝子の発現が抑制されたり、逆に活性化されたりすることがあります[14][15]。このようなエピジェネティックな変化は、発達障害や疾患の発生に関与する可能性があります。

● 発生と分化過程での役割

発生と分化の過程では、CpGアイランドのメチル化状態が細胞の運命決定に重要な役割を果たします。CpGアイランドがメチル化されることで、遺伝子の発現が抑制され、細胞分化や発生過程で特定の遺伝子が適切なタイミングでオンまたはオフにされることが保証されます[1][2][3][6][7][8][9][12][13][17]。また、ポリコーム複合体などのエピジェネティックな修飾機構がCpGアイランドに作用することで、遺伝子発現の長期的な抑制が行われ、細胞の恒常性維持や発生過程での細胞の特異的な分化パターンが形成されます[13]。

● 結論

CpGアイランドは、遺伝子発現の調節において中心的な役割を果たし、環境因子によるエピジェネティックな変化や発生・分化過程での細胞の運命決定に重要な影響を与えます。これらの知見は、疾患の発生機序の理解や新たな治療法の開発に貢献する可能性があります。

参考文献・出典
[1] www.jsbmg.jp/backnumber/pdf/BG35-4/35-4_27-37.pdf
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[5] www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/26/1/26_7/_pdf
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[12] www.dojindo.co.jp/letterj/101/reviews_01_main.html
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[14] www.jstage.jst.go.jp/article/shinshumedj/60/5/60_241/_pdf/-char/ja
[15] diagenode.co.jp/mailmag/newsletter170829
[16] www.naro.go.jp/laboratory/brain/contents/brain_techno_news_104.pdf
[17] www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/0317/press_release_20150317.pdf
[18] www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/body/report/pdf/h30_06.pdf
[19] mhlw-grants.niph.go.jp/project/3051
プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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