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セルフリーDNAを用いた非侵襲的出生前検査(NIPT): 胎児の染色体異常を早期に検出

この記事では、妊娠中の女性とその胎児の健康状態を調べるための革新的な技術であるセルフリーDNA(cfDNA)検査に焦点を当てます。特に、NIPT(非侵襲的出生前検査)として知られるこの検査法により、染色体異常のリスクを早期に検出する方法について詳しく解説します。この記事を通じて、セルフリーDNA検査の基礎、実施方法、利点、および考慮すべき事項について理解を深めます。

第1章 セルフリーDNA検査(NIPT)とは

セルフリーDNA検査の概要

セルフリーDNA(cfDNA)とは、細胞がアポトーシス(プログラムされた細胞死)やネクローシス(細胞の傷害による死)などのプロセスを経て死滅した際に、血液中に放出されるDNA断片のことです[1][6][7]. これらのDNA断片は、健常者では主に血球系細胞の死滅に由来し、微量に存在しますが、がん患者や妊婦、その他組織損傷がある場合には、血中のcfDNA濃度が上昇します[6]. cfDNAは、リキッドバイオプシーという非侵襲的な検査手法で利用され、がんや遺伝病、胎児の染色体異常などの診断に役立てられています[1][4][6].

● NIPTの基本的な仕組み

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing、新型出生前診断)は、妊娠中の母体血液中に存在する胎児由来のcfDNAを分析することで、胎児の染色体異常を非侵襲的に検出する検査です[2][5]. 妊娠中、胎盤から母体血液に胎児由来のcfDNAが放出され、これを利用して胎児の染色体異常を検出します[5]. NIPTは、主に21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)などの染色体数異常を検出するために用いられます[2][5][12].

NIPTのプロセスは、母体から採血し、血液サンプルからcfDNAを抽出した後、次世代シーケンシング(NGS)やデジタルPCRなどの高度な分子生物学的手法を用いて、cfDNAの配列を解析します[5]. 解析により、胎児由来のcfDNAの量的な割合を標準値と比較し、特定の染色体に異常があるかどうかを判定します[15]. 例えば、21トリソミーの場合、21番染色体由来のcfDNAの割合が通常よりも高いことが確認されます[15].

NIPTはスクリーニング検査であり、陽性結果が出た場合には、羊水検査や絨毛検査などの確定診断が必要になることがあります[12]. また、NIPTは胎児の全ての遺伝的状態を検出するわけではなく、染色体数異常に限定されるため、超音波検査など他の診断手法と組み合わせて使用されることが一般的です[12].

NIPTの歴史と発展

● NIPTの歴史

NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、妊娠中の女性の血液から胎児のDNAを分析し、特定の染色体異常を検出する技術です。この技術の歴史は、香港中文大学の化学病理学教授である盧煜明によって発明されたことに始まります[16]。初期の段階では、胎児の性別診断やRhD血液型診断のみが実用化されていましたが、2011年にアメリカ合衆国のシーケノム社によって商業化され、広く利用されるようになりました[16]。

日本においては、2013年に日本医学会が実施施設を認定する制度を設け、臨床研究としてNIPTが開始されました[7]。その後、技術の進歩とともに、NIPTは染色体トリソミーの検査として母体血清マーカー検査よりも高い感度と特異度を持つ遺伝学的検査として実用化されました[18]。

● 現代におけるNIPTの地位

現代医療において、NIPTは出生前診断の分野に革命をもたらし、急速に普及しています[12]。この検査は、リスクの低い方法で胎児の染色体異常を検出することができるため、妊娠中の女性と医師にとって重要な情報源となっています[5]。また、技術革新により、従来のトリソミー21、18、13の検出に加え、性染色体異常や微細な染色体の編成変化まで検出できるようになりました[5]。

しかし、NIPTの普及に伴い、倫理的・社会的な問題も指摘されています。特に、遺伝カウンセリングなしで採血だけを行う無認可施設が出現するなど、適切な情報提供やカウンセリングの重要性が強調されています[10]。また、母体血中のcfDNAの多くは母体由来であり、非常に稀ではあるが、NIPTにより母体の悪性腫瘍が見出されることがあるという問題も存在します[10]。

● まとめ

NIPTは、その発展の歴史を通じて、出生前診断の分野における重要な技術としての地位を確立しました。現代においては、その高い精度と低リスクな特性から、広く利用されています。しかし、その普及に伴う倫理的・社会的な課題に対しても、適切な対応が求められています。

第2章 NIPTの実施方法

NIPTのためのサンプル採取

● 検査に必要なサンプルの種類
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)では、妊婦さんの血液を用いて胎児の遺伝学的情報を得るためのサンプルとしています。この検査は、妊娠中の母体から採取した血液中に含まれる胎児由来のDNA(cfDNA)を分析することにより、特定の染色体異常をスクリーニングする方法です[1][2][6][7][8][9][10][11][12][14][15][16][17]。

● 採血プロセスと検体の取り扱い
採血プロセスは、妊婦さんから一般的に10mlから20mlの血液を採取することから始まります[7][10][17]。採取された血液は、冷蔵保存されて日本国内の検査施設に搬送されます[1]。検査施設では、次世代シーケンサーを用いて母体由来と胎児由来のcfDNAを分離せずに併せて読み取り、総量としての差を解析することで、胎児染色体の数的異常(トリソミー)を検出します[9]。

解析後の血液検体は、1週間の冷蔵保存の後、マイナス80度で1ヶ月の凍結保存され、その後廃棄されます。廃棄方法としては、廃棄物処理業者に委託し、焼却処分されることが一般的です[1]。

また、検査施行前には遺伝カウンセリングを行い、検査の目的や検査で分かること・分からないことなどについて十分な理解を得た上で、検査を受けることに同意します[14]。検査結果が陽性の場合は、確定診断のために羊水検査などの確定的検査を受ける必要があります[14]。

このように、NIPTは母体と胎児にとって侵襲がなく、採血のみで行われる非確定的検査であり、検査の精度が高いことが特徴ですが、あくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではないため、陽性結果が出た場合にはさらなる確定的検査が必要となります[2][4][9][10][11][12][14][15][16][17]。

検査プロセスとタイムライン

● 検査の流れ

1. 予約と遺伝カウンセリング:
– 妊婦はNIPTを提供するクリニックや医療機関で予約を行います。
– 予約時には、遺伝カウンセリングを受けることが一般的です。このカウンセリングでは、検査の意義、可能性、結果の解釈について詳しく説明されます[17].

2. 採血:
– 妊婦はクリニックを訪れ、専門の医療スタッフによって血液が採取されます。この採血は通常、妊娠10週目以降に行われます[15][17].

3. DNAの解析:
– 採取された血液から胎児由来のDNA断片が抽出され、次世代シーケンサーを用いて解析されます。この解析により、胎児の染色体異常の有無が調べられます[16].

4. 結果の受領:
– 検査結果は、採血から一定期間後に妊婦に通知されます。結果は「陽性」「陰性」「判定保留」として示されることが一般的です[4].

5. 結果に基づくフォローアップ:
– 陽性または判定保留の結果を受けた場合、妊婦はさらなる確定的検査(羊水検査など)を受けることが推奨されます。これにより、NIPTの結果に基づく最終的な診断が行われます[4].

● 結果が出るまでの期間

– 一般的なタイムライン:
– 結果は通常、採血から1〜2週間程度で妊婦に届けられます[4].

– 施設による差異:
– 施設によっては、結果が出るまでの期間が異なる場合があります。最短7日から平均10日前後で結果が出る施設もあります[8].

– 検査の種類による差異:
– 基本検査の結果は最短7日で、全染色体検査の結果は平均10日前後、全染色体+微小欠失検査の場合は平均14日前後で結果が出ることがあります[8].

以上の情報は、検査を提供する各施設のウェブサイトや公開されている資料に基づいています。具体的な検査プロセスやタイムラインは、受診する施設によって異なる場合があるため、事前に確認することが重要です。

第3章 NIPTが検出可能な染色体異常

主な染色体異常の種類

NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊娠中の母体の血液から胎児の染色体異常を検出する検査です。この検査で主に検出される染色体異常は以下の3つです。

1. ダウン症候群(トリソミー21):
ダウン症候群は、21番染色体が通常の2本ではなく3本存在することによって起こります。この染色体異常は、知的障害や特徴的な顔貌、心疾患などを伴うことがあります[1][2][4][5][7][9][10][12][13][14][15][16]。

2. エドワーズ症候群(トリソミー18):
エドワーズ症候群は、18番染色体が3本ある状態です。この症候群は重篤な発達障害や多くの先天性異常を引き起こし、生存率が非常に低いとされています[1][2][4][5][7][9][10][12][13][14][15][16]。

3. パトウ症候群(トリソミー13):
パトウ症候群は、13番染色体が3本ある状態です。この症候群もまた重篤な発達障害や多くの先天性異常を引き起こし、生存率が非常に低いとされています[1][2][4][5][7][9][10][12][13][14][15][16]。

これらの3つのトリソミー以外にも、NIPTで検出可能な染色体異常があります。最新の技術進歩により、性染色体異常や微細な染色体の編成変化まで検出できるようになっています。性染色体異常には、クラインフェルター症候群(47,XXY)やトリプルX症候群(47,XXX)などがあります[4][13][14]。

ただし、NIPTは確定診断を下すものではなく、あくまでスクリーニング検査です。検査結果が陽性であった場合、確定診断のためには羊水検査や絨毛検査などの侵襲的な検査が必要になることがあります[5][9][10][12][13][14][15][16]。また、NIPTで検出できる染色体異常は、検査技術や提供する施設によって異なる場合があるため、具体的な検査内容については、実施する医療機関に確認する必要があります。

検査の精度と信頼性

● NIPTの感度と特異性

非侵襲的出生前検査(NIPT)は、妊娠中の胎児における特定の染色体異常のリスクを評価するためのスクリーニング検査です。NIPTは、母親の血液中に存在する胎盤由来の細胞フリーDNA(cfDNA)を分析することにより、ダウン症候群(トリソミー21)、エドワーズ症候群(トリソミー18)、パトー症候群(トリソミー13)などの一般的なトリソミー症のリスクを検出します[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17][18]。

NIPTの感度は、検査が特定の染色体異常を持つ胎児を正しく識別する能力を指し、特異性は、異常がない胎児を正しく識別する能力を指します。NIPTの感度と特異性は、検査の信頼性を評価する上で重要な指標です。

– 感度: NIPTの感度は、トリソミー21に対しては99%以上、トリソミー18に対しては97%以上、トリソミー13に対しては87%以上と報告されています[7][12][13][14][16][17][18]。これは、これらのトリソミーを持つ胎児を正確に識別できることを意味します。

– 特異性: NIPTの特異性は、トリソミー21、18、13に対して99%以上と非常に高い値が報告されています[7][12][13][14][16][17][18]。これは、これらのトリソミーを持たない胎児を正確に識別できることを意味します。

● 検査結果の解釈

NIPTの結果は、「高リスク(High Probability)」または「低リスク(Low Probability)」として報告されます[1]。高リスクの結果は、胎児が特定の染色体異常を持つ可能性が高いことを示し、低リスクの結果は、その可能性が低いことを示します。しかし、NIPTはスクリーニング検査であり、診断検査ではないため、高リスクの結果を得た場合でも、必ずしも胎児がその染色体異常を持っているとは限りません。そのため、高リスクの結果を得た場合は、羊水検査や絨毛膜検査などの侵襲的な診断検査による確認が推奨されます[1][4][14]。

一方で、低リスクの結果は、胎児が特定の染色体異常を持たない可能性が非常に高いことを示しますが、100%の確実性はありません。他のリスク因子が存在する場合や、さらなる確認を希望する場合には、追加の検査が推奨されることがあります[3][5]。

NIPTの結果は、母親の年齢、妊娠歴、超音波検査の結果など、個々のリスク要因を考慮して解釈する必要があります。また、検査結果の解釈には、遺伝カウンセラーや医療提供者との相談が重要です[2][6][10][14]。

● 結論

NIPTは、一般的なトリソミー症のリスクを非侵襲的にスクリーニングするための高感度・高特異性の検査です。しかし、検査結果は診断ではなくリスク評価であるため、高リスクの結果を得た場合は、侵襲的な診断検査による確認が必要です。低リスクの結果も、絶対的な安全性を保証するものではなく、個々の状況に応じた適切な医療的判断が求められます。

第4章 NIPTの利点と考慮すべき事項

NIPTの主な利点

● 非侵襲性とその意義
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊娠中の女性の血液から胎児の遺伝情報を調べる検査です。この検査の最大の利点は、その非侵襲性にあります。従来の出生前診断方法である羊水検査や絨毛検査は、胎児に直接影響を与える可能性がある侵襲的な手法であり、流産などのリスクを伴います[4][7][11][12][13][14][15][16][17][18][19][20]。一方で、NIPTは母体の採血のみで行われるため、胎児へのリスクがなく、母体にとっても採血の痛み以外のリスクがほとんどありません[7][11][17]。

● 検査の安全性と利便性
NIPTは、母体や胎児へのリスクが少ないだけでなく、手軽に行える点も大きな利点です。採血による検査であるため、特別な準備や入院が不要で、クリニックや病院で簡単に受けられます[7][11][17]。また、検査結果の精度が高く、特にダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)といった主な染色体異常については、高い検出率を持っています[4][5][7][13][14][15][16][17][18][19][20]。ただし、NIPTは確定診断ではなく、陽性結果が出た場合には確定的検査を行う必要があります[13][14][15][16][17][18][19][20]。

NIPTの導入により、侵襲的な検査を受ける妊婦の数が減少し、妊娠中のストレスや不安を軽減することにも寄与しています[13][14][15][16][17][18][19][20]。また、検査の利便性を重視する妊婦が多いことも、NIPTの普及に影響を与えています[9]。

検査前の遺伝カウンセリングの重要性

遺伝カウンセリングは、妊娠中の女性やそのパートナーが直面する様々な遺伝学的問題に対して、専門的な情報提供と意思決定のサポートを行う重要なプロセスです。特に、非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)を受ける前には、遺伝カウンセリングが不可欠とされています。

● 遺伝カウンセリングの役割

遺伝カウンセリングでは、以下のような役割を果たします:

1. 情報提供:
– 遺伝カウンセリングでは、妊婦とそのパートナーに対して、遺伝学的リスクや疾患に関する正確な医学的情報を提供します[1][3][5][16][17][18].
– 検査の適応、検査の限界、心配する疾患の頻度や病態、具体的な検査内容、倫理的な問題点などについて十分に説明することが求められます[7].

2. 意思決定のサポート:
– カウンセリングでは、検査を受けるかどうか、検査結果が陽性だった場合の妊娠継続や中絶の選択など、重要な意思決定についてサポートします[5].
– カウンセラーは、クライエントが自らの意思で決断できるように、非指示的かつ共感的な態度で対応し、問題解決能力を高めるコミュニケーションプロセスを提供します[18][20].

● 検査前の遺伝カウンセリングの重要性

– リスクの理解:
検査前のカウンセリングにより、妊婦とそのパートナーは、胎児に遺伝的異常があるリスクを理解し、検査の意義と限界を把握することができます[2][3][5][7].

– 心理的サポート:
遺伝カウンセリングは、遺伝的リスクに関連する不安やストレスに対処し、心理的なサポートを提供します[3][16].

– 医療倫理と法律:
カウンセリングは医療倫理と法的規制に関連しており、適切な情報提供とインフォームド・コンセントの尊重に貢献します[3].

– 科学と医療の進歩:
遺伝学と医学の進歩により、遺伝カウンセリングの重要性が増しており、遺伝カウンセラーと遺伝専門医は連携して患者のケアを最適化します[3].

遺伝カウンセリングは、妊婦とそのパートナーが遺伝学的リスクを理解し、適切な意思決定を行うために不可欠なサービスです。NIPT検査を受ける前に、遺伝カウンセリングを受けることで、検査の結果に基づいた意思決定を、より良く行うことができます。

第5章 NIPTとその後の選択肢

異常検出時の対応

異常検出時には、NIPT(非侵襲性出生前診断)の結果が陽性である場合、確定診断を行うための追加検査が必要となります。これは、NIPTがスクリーニング検査であり、確定診断ではないためです。陽性結果は、胎児に染色体異常が存在する可能性を示していますが、必ずしも実際の状態を反映しているわけではありません。したがって、陽性結果を受けた後は、より精密な診断手法を用いて結果を確認することが推奨されます。

● 追加検査の選択肢

追加検査には主に以下の方法があります:

1. 羊水検査(アミニオセンテシス):羊水から胎児の細胞を採取し、染色体分析を行います。この検査は高い精度を持つが、流産のリスクが0.3〜0.5%程度あるとされています。

2. 絨毛検査(CVS:Chorionic Villus Sampling):胎盤から絨毛を採取し、染色体異常を調べます。羊水検査よりも早い妊娠週数で実施可能ですが、流産のリスクがあることに注意が必要です[3]。

3. 胎児血液サンプリング:胎児の血液を直接採取して染色体分析を行う方法ですが、非常に高いリスクが伴います。

● 医療チームとの協議

異常検出時の対応は、医療チームとの協議を通じて行われます。医師、遺伝カウンセラー、専門家から成るチームが、検査結果の意味、追加検査の選択肢、それぞれのリスクと利益、そして今後の妊娠管理についての情報を提供します。妊婦とそのパートナーは、これらの情報を基に、追加検査を受けるかどうか、そしてどの検査を選択するかを決定します。

遺伝カウンセリングは、検査結果を理解し、今後の選択肢についての意思決定を支援するために非常に重要です。カウンセリングでは、検査結果の意味、可能なリスク、治療やサポートのオプション、家族計画に関する考慮事項などが詳細に説明されます[16]。

最終的な決定は、妊婦とそのパートナーが、医療チームからの情報とサポートを受けた上で、自身の価値観、希望、状況を考慮して行います。医療チームは、妊婦とその家族が情報に基づいた選択を行えるように支援する役割を担います。

出生前診断と出生後のケア

出生前診断、特にNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊娠中の胎児に染色体異常があるかどうかを調べるための検査です。この検査は、妊婦さんの血液から胎児のDNAを分析することにより、ダウン症(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)などの染色体異常の有無を調べることができます[19]。NIPTは、母体に対するリスクが非常に低く、流産のリスクがないため、安全な検査方法として注目されています[2]。

● 出生前診断の選択

出生前診断を受けるかどうかの選択は、妊婦さんとそのパートナーにとって重要な決断です。検査によって胎児に染色体異常があることが判明した場合、その情報をどのように受け止め、どのような対応を取るかを事前に考えておく必要があります。また、検査結果が「陽性」であった場合には、確定的検査を受けることで診断を確定させる必要がありますが、これらの検査には一定のリスクが伴います[19]。

● 胎児診断後の支援とケア

胎児に染色体異常があると診断された場合、妊婦さんとその家族には適切な情報提供とサポートが必要です。出生前診断で問題が見つかれば、妊娠中から病気や障害についての理解を深めることができ、赤ちゃんを育てていく環境整備の準備ができます[12]。また、病気によっては出産後すぐ、あるいは胎児のうちに治療ができる可能性もあります。

出生前診断の結果に基づき、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。遺伝カウンセラーや専門医から、診断結果の意味、可能な治療オプション、将来の妊娠におけるリスクなどについての情報を提供されます。また、心理的なサポートも重要であり、診断結果を受け入れる過程で感じるかもしれない不安やストレスに対処するための支援が提供されるべきです[1][15]。

出生後のケアについては、診断された疾患に応じて、適切な医療ケアや療育サービスが必要になります。例えば、ダウン症候群の場合、発達支援や早期介入プログラムが有効です。また、家族全体をサポートするためのリソースやコミュニティサービスの情報も提供されるべきです。

出生前診断は、妊娠中の不安を軽減し、出生後の準備を整えるための重要なツールですが、その結果をどのように受け止め、どのように対応するかについては、個々の家族の価値観や状況によって異なります。したがって、出生前診断を受けるかどうかの決定は、十分な情報に基づいて慎重に行う必要があります。

第6章 NIPTの未来と展望

技術の進歩と新たな応用

## 技術の進歩と新たな応用

● 新型NIPTの開発動向

NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、妊娠初期に母体血液から胎児の遺伝情報を調べることで、染色体異常のリスクを評価する技術です。近年、技術の進歩により、NIPTの精度が向上し、検査範囲が拡大しています。全ゲノムシーケンス技術を用いたNIPTでは、ゲノム全体を包括的に見ることができ、最も情報量の多い結果が得られます。この技術は、ターゲットシーケンスまたはアレイベースのプラットフォームよりも一貫して失敗率が低く抑えられるとされています[20]。

● 広がる検査範囲と応用分野

従来のNIPTでは、主に21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの3つの染色体異常についての可能性を調べることが一般的でした。しかし、技術の進歩により、タナトフォリック骨異形成症、血友病、サラセミア、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、遺伝性難聴などの単一遺伝子疾患の遺伝子変異の推定が可能となっています[16]。これにより、NIPTの検査範囲は大幅に拡大し、より多くの遺伝性疾患の早期発見に貢献する可能性があります。

また、NIPTは胎児情報のみならず、予期せぬ母体情報が得られることがあるという特徴もあります。母体血中のcfDNAの多くは母体由来であり、非常に稀ですが、NIPTにより母体の悪性腫瘍が見出されることがあります[16]。このように、NIPTの応用分野は出生前診断に留まらず、母体の健康状態の評価にも役立つ可能性が示されています。

● 結論

NIPTの技術進歩は、検査の精度向上と検査範囲の拡大をもたらし、出生前診断のみならず、母体の健康管理にも貢献する可能性を秘めています。今後も技術の進化により、さらに多くの遺伝性疾患の早期発見や、母体の健康状態の評価に役立つ情報が提供されることが期待されます[16][20]。

倫理的、社会的な考慮事項

● NIPTに関する倫理的な議論

NIPT(Non-Invasive Prenatal Testing、非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、母体の血液から胎児の染色体異常を検出する技術です。この検査は、母体や胎児へのリスクを最小限に抑えつつ、ダウン症候群など特定の染色体異常のリスクを評価することができるため、多くの妊婦にとって有益な選択肢となっています[1][2][3][11][12][14][15][16][17][18][19][20]。

しかし、NIPTの普及には倫理的な問題が伴います。特に、検査結果に基づく中絶の選択が「命の選別」と見なされることがあり、障害を持つ人々の排除ではなく共存を目指すべきだとする意見があります[12]。また、検査結果が陽性であった場合の確定診断には侵襲的な検査が必要であり、陽性結果を受け取った妊婦が精神的な負担を感じることも指摘されています[12]。

● 社会への影響と受容性

NIPTの社会への影響は、検査の普及によって妊娠中の不安を軽減し、より安心した妊娠生活を送ることが可能になるという肯定的な側面があります[18]。しかし、検査の結果に基づく中絶の選択が増加することにより、社会における障害を持つ人々への受容性が低下する可能性も懸念されています[12][19]。

日本においては、NIPTは高齢妊婦や染色体異常の疑いがあるケースなど限られた適応で行われており、検査前の遺伝カウンセリングが重要視されています[11][14]。しかし、遺伝カウンセリングなしで採血だけを行う無認可施設が出現するなど、適切な情報提供や支援体制の不足が問題となっています[14]。

NIPTに関する倫理的な議論は、検査の技術的進歩とともに進化し続けており、将来的にはより多くの遺伝的異常を検出できる可能性があることから、出生前診断に関する新たな倫理的課題が生じることが予想されます[17]。これにより、出生前診断の倫理的・社会的位置づけについての議論が必要とされています[14][20]。

NIPTの導入により、妊娠中絶の選択が増加することに対する懸念や、障害を持つ人々への社会的受容性の低下など、倫理的な問題が指摘されています。また、遺伝カウンセリングの不足や無認可施設での検査実施など、社会的な問題も存在します。これらの問題に対する意識の高まりとともに、出生前診断に関する倫理的な議論は今後も続くことが予想されます。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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