目次
医行為(いこうい)は、医師法第17条が医師以外の人に禁じている「医業」の中身を決める、法律上の概念です。よく似た言葉に「医療行為」がありますが、両者は同じ意味ではありません。医行為には最高裁判所の決定と厚生労働省の通知による定義の裏付けがある一方、医療行為は法令上の定義を持たない一般的な言葉です。この違いを曖昧にしたままだと、介護や家庭のケアの現場で「本来は問題のない行為まで禁止してしまう」、あるいは逆に「医師や看護師でなければ行えない行為に踏み込んでしまう」という両方向の誤りが起こります。この記事では、判例・法律・行政通知という一次資料に基づいて、医行為の定義、医療行為との違い、例外として認められている行為、そして「医行為でないもの」の線引きを、医師の立場から整理します。
Q. 医行為とは何ですか?医療行為とは違うのですか?
A. 医行為とは、「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」をいいます(最高裁判所 令和2年9月16日決定)。医師でない人が医行為を反復継続する意思をもって行うこと(=医業)は、医師法第17条で禁止されています。一方、「医療行為」は法令上の定義がない一般的な用語で、看護・リハビリ・調剤なども含めた、医療に関わる行為全般を指して広く使われます。法律上の線引きに使われるのは「医行為」のほうです。
- ➤定義 → 医療・保健指導に属し、医師が行わなければ保健衛生上の危害が生じるおそれのある行為
- ➤医療行為との違い → 医行為は判例と行政解釈に裏付けられた法律概念、医療行為は定義のない一般用語
- ➤例外 → 看護師の「診療の補助」、特定行為(21区分38行為)、介護職員の喀痰吸引等は法律で認められた枠組み
- ➤医行為でないもの → 体温測定や一包化された薬の服薬介助などは、平成17年・令和4年・令和7年の厚労省通知で「原則として医行為ではない」と整理
- ➤注意点 → 通知に載っている行為でも、病状が不安定なら医行為とされる場合がある
⚖️ 医行為の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方 | いこうい |
| 根拠となる法律 | 医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」。罰則は同法第31条[4] |
| 判例による定義 | 医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為(最高裁 令和2年9月16日決定)[1] |
| 行政解釈 | 医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為[2] |
| 医師以外が行える枠組み | 看護師等の診療の補助、看護師の特定行為、介護福祉士・研修修了介護職員の喀痰吸引等 |
| 「医行為でないもの」の目安 | 平成17年通知(医政発第0726005号)、令和4年通知(医政発1201第4号)、令和7年通知(医政発1226第12号)[2][3] |
※本記事は医行為の概念を解説する用語記事です。個別の行為が医行為に当たるかどうかは状況により異なるため、実際の判断は主治医・看護職員や所管の行政機関にご確認ください。
1. 医行為とは ─ 判例と行政解釈による定義
医行為とは、医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為のことです。この定義は、2020年(令和2年)9月16日の最高裁判所第二小法廷決定で示されました[1]。医師法そのものには「医行為」という言葉の定義規定がないため、その意味は長く学説・行政解釈・判例によって形づくられてきました。
最高裁判所が示した定義(令和2年決定)
この決定は、医師免許を持たない彫り師がタトゥー(入れ墨)を施した行為が医師法第17条違反に問われた事件に対するものです。第一審の大阪地方裁判所は、タトゥー施術は医師が行わなければ皮膚障害などを生じるおそれがあるとして医行為に当たると判断し、有罪としました。これに対して控訴審の大阪高等裁判所は、医行為とは「医療及び保健指導に属する行為」であることが前提だとして医行為該当性を否定し、最高裁判所もこの判断を支持しました[1]。
最高裁の定義は、次の2つの要素から成り立っています。
| 要素 | 意味 |
|---|---|
| ① 医療及び保健指導に属する行為であること | その行為が社会通念上、医療や保健指導の範囲に含まれるものとして受け止められていること |
| ② 医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれがあること | 医師の医学的な知識・技能がなければ、人の健康に危害が及ぶ危険があること |
さらに最高裁は、ある行為が医行為に当たるかどうかは、行為の方法や作用だけでなく、その目的、行為者と相手方との関係、行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方なども考慮し、社会通念に照らして判断すると述べました[1]。つまり、針を皮膚に刺すという外形だけで医行為かどうかが決まるわけではない、ということです。タトゥーについては、装飾的・象徴的な要素や美術的な意義を持つ社会的な風俗として受け止められてきたこと、医学とは異質の美術的な知識・技能を要すること、長年にわたり医師免許を持たない彫り師が担ってきた実情があることなどから、医療及び保健指導に属する行為とは認め難いとされました[1]。
💡 用語解説:保健衛生上の危害と「侵襲」
「保健衛生上の危害」とは、人の健康や衛生状態に悪影響が生じることを指します。医療の世界では、皮膚を切る・刺す、薬を体内に入れるなど、体に何らかの負担や変化を加えることを侵襲(しんしゅう)と呼び、侵襲の大きい行為ほど医行為と判断されやすくなります。ただし、最高裁決定が示したように、侵襲があるかどうかだけで機械的に決まるものではありません。問診や診断のように体に触れない行為でも、医師の医学的判断を要するものは医行為の中核に位置づけられます。
厚生労働省の行政解釈
厚生労働省は通知の中で、医業を「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うこと」と解釈しています[2][3]。この行政解釈は、介護現場向けの通知(平成17年・令和4年)の冒頭にも同じ文言で示されており、現在も行政実務の基準となっています。
判例の定義と行政解釈は、「医師でなければ危害が生じるおそれ」という中心部分で一致しています。違いは、最高裁決定が「医療及び保健指導に属する行為であること」を明示の要件として加えた点です。これにより、医療とは別の文脈で社会に根づいてきた行為は、危険性があっても直ちに医行為とはされない、という枠組みがはっきりしました。
タトゥーは医行為でないが、アートメイクは医行為
最高裁決定の考え方がよく表れているのが、アートメイクの扱いです。眉やアイラインを描くために、針先に色素を付けて皮膚の表面に墨を入れる行為について、厚生労働省は2023年(令和5年)7月3日付の回答で、医行為に該当し、医師免許を持たない人が業として行えば医師法第17条に違反するとの見解を示しました[5]。その理由として、アートメイクは医療の一環として医師・看護師などの医療従事者が関与している実態があるため、タトゥーに関する最高裁決定があっても医行為該当性は否定されない、と説明されています[5]。
針で皮膚に色素を入れるという作用はタトゥーとほぼ同じでも、その行為が社会の中でどう位置づけられてきたかによって結論が変わる。これが、「社会通念に照らして判断する」という最高裁の枠組みの具体的な意味です。
2. 医行為と医療行為の違い
医行為は判例と行政解釈に裏付けられた法律上の概念で、医療行為は法令上の定義を持たない一般的な用語です。医師法や保健師助産師看護師法は「医行為」を軸に運用されており、「医療行為」という言葉で医師の業務範囲が線引きされているわけではありません。
📋 医行為と医療行為の比較
| 項目 | 医行為 | 医療行為 |
|---|---|---|
| 法的な定義・解釈 | あり(最高裁決定・厚労省の行政解釈。医師法に「医行為」の定義規定はない) | 統一された法令上の定義はない |
| 意味の範囲 | 医師が行わなければ保健衛生上の危害が生じるおそれのある行為に限られる | 診療・看護・リハビリ・調剤・検査など、医療に関わる行為全般を指して広く使われる |
| 行える人 | 原則として医師。法律で認められた範囲で看護師などが診療の補助として行う | 文脈によりさまざま(医療従事者全般を指すことが多い) |
| 主な使われ方 | 法律・判例・行政通知 | 報道・日常会話・一般向けの説明、行政の周知文書など |
| 違反した場合 | 医師でない人が業として行えば医師法第17条違反(刑事罰あり) | 「医療行為」であることだけを根拠に違法かどうかは判断されない |
「医療行為」は法律上の定義語ではない
「医療行為」は、ニュースや行政の周知文書、介護の研修テキストなどで頻繁に使われる言葉です。しかし、医師法には「医療行為」を定義する条文がなく、医師以外の人に禁止される範囲を決めているのはあくまで「医業」とその中身である「医行為」です[4]。そのため、ある行為が法的に許されるかどうかを考えるときには、「医療行為かどうか」ではなく「医行為かどうか」「医行為だとしても法律で認められた枠組みの中か」を問う必要があります。
両者の関係を大まかに言えば、医行為は医療行為と呼ばれるものの中核部分にあたります。ただし、医療行為という言葉の範囲自体が文脈によって揺れるため、「医行為は医療行為の一部」と単純に包含関係で覚えるより、「法律上の線引きに使えるのは医行為だけ」と理解しておくほうが実務上の誤解を防げます。
混同すると何が困るのか
言葉の混同は、現場で2つの方向の問題を生みます。1つ目は過剰な禁止です。厚生労働省自身、平成17年通知の中で、高齢者介護や障害者介護の現場で医行為の範囲が「不必要に拡大解釈されている」との声があることを発出理由として挙げています[2]。体温を測る、湿布を貼るといった日常的なケアまで「医療行為だから介護職員はできない」と扱われると、利用者の生活に必要な支援が滞ります。
2つ目は、その逆の過小評価です。「医師の指示があれば大丈夫」「簡単な処置だから問題ない」と考えて、法律上の資格や手続きなしに医行為に踏み込んでしまうケースです。どちらの誤りも、「医行為」という法律概念を正確に理解することで避けられます。
3. 医師法第17条と「医業」─「業として」の意味
医師法第17条が禁止しているのは、医師でない人が「医業」を行うこと、つまり医行為を「業として」行うことです。医行為を1回行ったかどうかではなく、反復継続する意思があるかどうかが、違反の成否を分けるもう1つの要件になります。
「業として」とは反復継続の意思
「業として」とは、反復継続する意思をもって行うことと解されています(最高裁判所 昭和28年11月20日決定)[8]。厚生労働省の通知も、医業を「医行為を、反復継続する意思をもって行うこと」と表現しています[2]。ここで重要なのは、実際に何度も行ったかどうかではなく「意思」が問われる点です。繰り返し行うつもりで始めたのであれば、1回目の行為から「業として」に当たりうる、ということになります。また、報酬を受け取っているかどうかは要件ではありません。
自分自身や家族へのケアはどう考えるか
在宅医療では、家族がたんの吸引や経管栄養を担うことがあります。日本小児医療保健協議会がまとめた学校での医療的ケアに関するQ&Aでは、「業」を「反復継続する意思をもって、不特定の人に対して行う行為」と説明したうえで、自分自身や家族は不特定の人にあたらないため、これらの行為を反復継続しても「医業」とはならないという考え方が示されています[9]。
ただし、これは家族によるケアが医学的に安全であることを意味するものではありません。在宅で医療的ケアを行う家族は、主治医や訪問看護師から手技の指導を受け、状態が変化したときの連絡先を確認しておくことが前提になります。
違反した場合の罰則
医師でない人が医業を行った場合、医師法第31条により3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科されます[4]。2025年6月1日に改正刑法が施行され、それまでの「懲役」は「拘禁刑」に一本化されたため、それ以前の資料では「3年以下の懲役」と書かれています。医師やこれに紛らわしい名称を使って医業を行った場合は、罰金の上限が200万円に引き上げられます[4]。
緊急時の応急手当
目の前で人が倒れたときに、居合わせた一般の人が心肺蘇生を行ったり、自動体外式除細動器(AED)を使ったりすることは、反復継続する意思をもって行う「業」には当たらず、医師法違反の問題にはならないと一般に理解されています。救命の場面で医師法を理由にためらう必要はありません。
4. 絶対的医行為と相対的医行為 ─ 看護師が行える範囲
医行為は、医師自らが行わなければならない「絶対的医行為」と、医師の指示の下で看護師などが診療の補助として行える「相対的医行為」に分けて整理されます。この区分は法律の条文にある言葉ではなく、学説や行政の検討で用いられてきた整理の仕方ですが、医療現場の役割分担を理解する基本的な枠組みです。
絶対的医行為と相対的医行為の違い
絶対的医行為とは、行為の性質上、医師(歯科医師)の高度な医学的判断や技術がなければ危険が大きく、他の職種に任せることができない行為です。診断を下すこと、手術の執刀、処方箋の交付などが典型例です。一方、相対的医行為とは、医師が患者の状態や看護師などの能力を踏まえて指示を出せば、有資格者が診療の補助として実施できる行為で、注射や採血などがこれに当たります。
ここで注意したいのは、相対的医行為も「医行為」であることに変わりはないという点です。医師の指示があれば誰でもできるわけではなく、看護師・准看護師・臨床検査技師・診療放射線技師など、それぞれの資格法で診療の補助が認められた職種が、その範囲内で行うことができます。
看護師の「診療の補助」と保健師助産師看護師法
保健師助産師看護師法は、看護師の業務を「療養上の世話」と「診療の補助」の2つと定めています。看護師でない人がこれらを業として行うことは同法第31条で禁止されており、医師法第17条と並んで、医行為を含む医療的なケアの担い手を限定する役割を果たしています[2]。また同法第37条は、看護師などが医師の指示なく診療機械を使用したり医薬品を授与したりすること、その他医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為を行うことを、臨時応急の手当などを除いて禁じています。看護師が相対的医行為を行えるのは、あくまで「医師の指示」が前提だということです。
特定行為(21区分38行為)
相対的医行為の中でも、看護師が手順書に基づいて行う場合に、高度かつ専門的な知識と技能が特に必要とされるものを特定行為といいます。保健師助産師看護師法第37条の2に基づく制度で、2015年(平成27年)10月1日に施行されました。特定行為は21の特定行為区分に整理された38の行為で、手順書により特定行為を行う看護師は、厚生労働大臣が指定する研修機関で該当区分の特定行為研修を修了しなければなりません[6]。
特定行為の特徴は、医師が事前に作成した「手順書」によって、患者の状態が一定の範囲内であれば、看護師がその都度医師の判断を待たずに行為を実施できる点です。厚生労働省が示している脱水の例では、次のような流れになります[6]。
特定行為であっても医行為であることに変わりはなく、医師がどの患者について手順書による指示を出すかを判断する仕組みになっています。在宅医療や救急の現場など、医師がすぐに判断できない状況で、タイムリーに必要な処置を行えるようにするための制度です。
5. 医行為でないもの ─ 平成17年通知と令和4年通知
厚生労働省は、介護現場などで判断に迷うことの多い行為のうち「原則として医行為ではない」と考えられるものを、平成17年、令和4年、令和7年の通知で具体的に示しています。これらの行為は医師法第17条などの規制の対象とする必要がないとされ、介護職員や家族以外の支援者でも行うことができます。
平成17年通知で示された主な行為
2005年(平成17年)7月26日の通知(医政発第0726005号)は、医療機関以外の高齢者介護・障害者介護の現場を想定して、次のような行為を列挙しました[2]。多くの行為には、行ってよい条件が付いている点が重要です。
📋 原則として医行為ではないとされる主な行為(平成17年通知)
| 分野 | 行為 | 主な条件・注意点 |
|---|---|---|
| 測定 | 水銀体温計・電子体温計による腋下の体温測定、耳式電子体温計による外耳道での体温測定 | ─ |
| 測定 | 自動血圧測定器による血圧測定 | ─ |
| 測定 | パルスオキシメータの装着 | 新生児以外で入院治療の必要がない人が対象 |
| 処置 | 軽微な切り傷・擦り傷・やけどなどの処置(ガーゼ交換を含む) | 専門的な判断や技術を必要としないもの |
| 医薬品の使用介助 | 皮膚への軟膏塗布、湿布の貼付、点眼、一包化された内服薬の内服(舌下錠を含む)、坐薬の挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧 | 軟膏塗布は褥瘡の処置を除く。容態が安定している、副作用の危険性や投薬量の調整のための経過観察が必要でない等の条件を、医師・看護職員が確認していることが前提 |
| 日常のケア | 爪切り・爪やすりがけ、歯ブラシや綿棒による口腔清掃、耳垢の除去 | 爪や周囲の皮膚に異常がない、糖尿病などで専門的管理が必要でない場合など。耳垢は塞栓の除去を除く |
| 排泄関連 | ストーマ装具のパウチにたまった排泄物の除去、自己導尿の補助(カテーテルの準備・体位保持など)、市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器による浣腸 | ストーマは肌への接着面に皮膚保護機能を有する装具の場合(パウチの取り替えを除く)。浣腸は容量などの条件あり |
※通知の記載を要約したものです。正確な文言と条件は通知原文でご確認ください。
令和4年通知・令和7年通知で追加された行為
2022年(令和4年)12月1日の通知(医政発1201第4号)は、規制改革実施計画(令和2年7月17日閣議決定)を受けて、平成17年通知に記載のない行為のうち介護現場で実施されることが多いものを中心に、原則として医行為ではないと考えられる行為を追加で整理したものです[3]。あわせて、介護職員がそれらの行為を安心して行えるよう、本人・家族・介護職員・看護職員・主治医などが事前に合意し協力する体制づくりについても示しています[3]。
代表的な例が、在宅などでのインスリン注射に関わる周辺の行為です。患者本人がインスリン注射を行う際に、医師から指示されたタイミングで声かけをして見守ること、未使用の注射器などを本人に手渡すこと、使用後の注射器を片付けること(注射器の針を抜いて処分する行為は除く)、そしてそれらを記録することなどが挙げられています。また、患者本人が測った血糖値が、医師から指示されたインスリン注射を行う範囲内にあるかを確認することも含まれます。注射そのものを介護職員が打つことが認められたわけではない点に注意が必要です。
これらの通知で示された行為については、2025年3月に老人保健健康増進等事業として、現場での運用を整理したガイドラインもまとめられています[10]。
さらに2025年(令和7年)12月26日の通知(医政発1226第12号)では、介護現場で判断に迷いやすい行為について追加整理が行われました[12]。具体的には、一定の前提・条件の下で、一包化された医薬品等をお薬カレンダーへセットすること、服薬直前にPTPシートから薬剤を取り出すこと、専門的な管理が必要ないことを医師または看護職員が確認した皮膚への湿布の貼付、一定の条件下で膀胱留置カテーテルと未開封・未使用の蓄尿バッグを接続することなどが、原則として医行為ではない行為として整理されました。したがって、医行為でない行為の確認では、平成17年通知と令和4年通知だけでなく、令和7年通知も確認する必要があります。
通知に載っていても「必ず医行為でない」わけではない
⚠️ 注意:病状が不安定なときは医行為になりうる
平成17年通知は、列挙した行為について、病状が不安定であることなどにより専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もありうると明記しています[2]。そのため介護サービス事業者は、サービス担当者会議などの機会に、必要に応じて医師・歯科医師・看護職員に専門的な管理が必要な状態かどうかを確認すること、病状の急変時には速やかに連絡することが求められています。また、測定した体温や血圧などの数値をもとに投薬の要否などを判断することは、医学的判断そのものであり、介護職員が行うものではありません。
6. 介護職員の喀痰吸引等 ─「医行為だが法律で認められた」行為
たんの吸引と経管栄養は「医行為」です。そのうえで、2012年(平成24年)4月から、法律に基づく研修と登録を経た介護福祉士・介護職員が、一定の条件の下で実施できるようになりました。前の章の「医行為でないもの」とは、法的な位置づけがまったく異なります。
3つの区分で整理する
介護職員が関わりうる医療的なケアは、法的には次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
📋 介護職員から見た医療的ケアの3区分
| 区分 | 法的な位置づけ | 例 |
|---|---|---|
| ① 医行為でない行為 | 原則として医師法等の規制の対象外(通知で整理) | 腋下の体温測定、自動血圧計、湿布の貼付、一包化薬の服薬介助など |
| ② 法律で認められた医行為 | 医行為だが、社会福祉士及び介護福祉士法に基づき、研修・登録・医師の指示などの条件下で実施可能 | たんの吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)、経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻) |
| ③ 上記以外の医行為 | 介護職員は実施できない(医師・看護師等の有資格者が行う) | 注射、褥瘡の処置、インスリンの投与量の判断など |
対象となる行為と実施の範囲
社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、介護福祉士や一定の研修を受けた介護職員が、医療や看護との連携による安全確保が図られていることなどを条件に、たんの吸引等を行えるようになりました[7]。対象はたんの吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう又は腸ろう・経鼻経管栄養)です。口腔内・鼻腔内の吸引は咽頭の手前までが限度とされ、経管栄養を始める前には、胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことや、経鼻の栄養チューブが正確に胃の中に挿入されていることを、医師または看護職員が確認する必要があります[11]。
誰が、どこで実施できるのか
実施できるのは、実地研修を修了して介護福祉士登録証に行為の付記登録を受けた介護福祉士と、登録研修機関で喀痰吸引等研修を修了し「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けた介護職員です。さらに、介護職員等による喀痰吸引等を業務として行う事業所は、都道府県に登録喀痰吸引等事業者または登録特定行為事業者として登録しなければなりません。実施には医師の指示、看護職員との連携・役割分担、計画書・報告書の作成、本人や家族への説明と同意などが求められ、医療機関はこの制度の対象外とされています[11]。資格や登録を欠いたまま実施した場合は、社会福祉士及び介護福祉士法に基づく罰則や登録取消しの対象となりえます[11]。
7. 医行為についてのよくある誤解
医行為の線引きは、インターネット上の解説でも不正確に説明されていることが少なくありません。特に誤解が多い4つの点を整理します。
誤解①「医師の指示があれば、介護職員も医行為ができる」
誤りです。医師の指示の下で診療の補助として医行為を行えるのは、看護師など資格法で認められた職種に限られます。介護職員が実施できる医行為は、法律に基づくたんの吸引等(研修・登録が必要)に限られます。
誤解②「褥瘡(床ずれ)の処置は介護職員でもできる」
誤りです。平成17年通知で原則として医行為でないとされた軟膏塗布は、褥瘡の処置を除くと明記されています[2]。褥瘡のケアは医師・看護職員の判断の下で行う必要があります。
誤解③「介護職員初任者研修を受ければ、たんの吸引ができる」
誤りです。たんの吸引等を行うには、喀痰吸引等研修の修了と認定証の交付、または介護福祉士としての実地研修と付記登録が必要で、所属事業所の登録も求められます[11]。
誤解④「医療行為は医師しかできない」
正確ではありません。医行為の中にも看護師などが診療の補助として行えるもの(相対的医行為)があり、特定行為のように手順書で実施できるものもあります。また、体温測定のように原則として医行為ではない行為は、資格がなくても行えます。
8. 判断に迷ったときの考え方
ある行為が医行為に当たるかどうか迷ったときは、「通知に載っているか」「条件を満たしているか」「法律で認められた医行為か」の順に確認し、どれにも当たらなければ医師・看護職員に委ねるのが基本です。
まず、その行為が平成17年通知・令和4年通知・令和7年通知に「原則として医行為ではない」ものとして挙げられているかを確認します。次に、挙げられている場合でも、容態が安定しているか、医師・看護職員が必要な条件を確認しているか、といった付帯条件を満たしているかを確かめます。通知に載っていない行為であれば、喀痰吸引等のように法律で認められた医行為に当たるか、そのための研修・登録・指示の条件がそろっているかを確認します。いずれにも該当しない場合は、医行為である可能性を前提に、医師や看護職員に判断と実施を委ねます。判断に迷う事例は、所管の都道府県や市区町村に照会することもできます。
🩺 院長コラム【医行為の核心は「判断」にある】
医行為というと、注射や手術のように体に直接手を加える行為を思い浮かべる方が多いと思います。しかし法的な定義をたどると、その中心にあるのは「医師の医学的判断」です。測った数値をもとに薬を使うかどうかを決めること、症状や検査結果から病気を診断すること、その結果が本人や家族にとって何を意味するかを説明すること。これらは体に触れなくても、医学的判断を要する行為です。
遺伝医療でも同じことが言えます。遺伝子検査の結果は、同じ変化が見つかっても、家族歴や症状、検査の種類によって解釈が変わります。結果の解釈と、それにもとづく医学的な説明は、医学的判断を伴う医療の中核部分であり、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセリングの枠組みで扱われるべきものです。医行為の線引きを知ることは、「誰がどこまで判断してよいのか」を知ることでもあります。
まとめ
医行為とは、医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であり、その判断は行為の方法・作用だけでなく目的や社会での受け止め方も含めた社会通念によって行われます[1]。医療行為は法令上の定義を持たない一般用語であり、法律上の線引きには医行為の概念を用います。
医師でない人が医行為を業として行うことは医師法第17条で禁止されていますが、看護師などの診療の補助、特定行為、介護職員の喀痰吸引等は、それぞれ法律で認められた枠組みです。また、体温測定や一包化薬の服薬介助などは通知で「原則として医行為ではない」と整理されていますが、病状が不安定な場合には医行為とされることがある点も押さえておく必要があります。「医行為でない」「法律で認められた医行為」「それ以外の医行為」の3区分で考えることが、現場での誤解を防ぐ近道です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 医行為とは簡単に言うと何ですか?
医師が行わなければ、人の健康に危害が生じるおそれのある医療上の行為のことです。最高裁判所は2020年9月16日の決定で、医行為を「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と定義しました。医師でない人がこれを反復継続する意思をもって行うことは、医師法第17条で禁止されています。
Q2. 医行為と医療行為の違いは何ですか?
医行為は判例と厚生労働省の行政解釈に裏付けられた法律上の概念で、医師法による規制の対象を決めるものです。医療行為は法令上の統一された定義がない一般的な用語で、看護・リハビリ・調剤なども含めた医療に関わる行為全般を指して広く使われます。ある行為が法的に許されるかどうかは、医行為に当たるかどうか、当たる場合は法律で認められた枠組みの中かどうかで判断します。
Q3. 介護職員が行ってよい医療的なケアにはどのようなものがありますか?
大きく2種類あります。1つは、厚生労働省の平成17年・令和4年・令和7年の通知で原則として医行為ではないとされた行為で、腋下の体温測定、自動血圧測定器による血圧測定、湿布の貼付、一包化された内服薬の服薬介助などが含まれます(条件付きのものが多くあります)。もう1つは、医行為であるたんの吸引と経管栄養で、喀痰吸引等研修の修了や事業所の登録、医師の指示などの条件を満たした場合に限り実施できます。
Q4. 家族がたんの吸引や経管栄養を行うのは医師法違反になりますか?
自分自身や家族に対するケアは、不特定の人に対して反復継続して行う「業」には当たらず、医業とはならないという考え方が示されています。ただし、医学的な安全性が保証されるわけではないため、主治医や訪問看護師から手技の指導を受け、状態が変化したときの連絡先を確認したうえで行うことが大切です。
Q5. 医師法第17条に違反した場合の罰則はどうなりますか?
医師でない人が医業を行った場合、医師法第31条により3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科されます。2025年6月1日の改正刑法施行により懲役は拘禁刑に一本化されたため、それ以前の資料では「3年以下の懲役」と表記されています。医師やこれに紛らわしい名称を用いた場合は、罰金の上限が200万円になります。
参考文献
- [1] 最高裁判所第二小法廷 令和2年9月16日決定(平成30年(あ)第1790号 医師法違反被告事件). [裁判所ウェブサイト]
- [2] 厚生労働省医政局長通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」平成17年7月26日 医政発第0726005号. [厚生労働省法令等データベース]
- [3] 厚生労働省医政局長通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)」令和4年12月1日 医政発1201第4号. [厚生労働省]
- [4] 医師法(昭和23年法律第201号)第17条・第31条. [厚生労働省法令等データベース]
- [5] 厚生労働省医政局医事課長回答「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」令和5年7月3日 医政医発0703第5号. [厚生労働省法令等データベース]
- [6] 厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度」. [厚生労働省]
- [7] 厚生労働省「平成24年4月から、介護職員等による喀痰吸引等(たんの吸引・経管栄養)についての制度がはじまります」(平成23年9月). [富山県掲載資料]
- [8] 日本医事新報「医行為における,『実害の有無』と刑事罰」(最高裁昭和28年11月20日決定の解説を含む). [Web医事新報]
- [9] 日本小児医療保健協議会 重症心身障害児(者)・在宅医療委員会「学校における医療行為の判断、解釈についてのQ&A(案)」2018年9月17日. [文部科学省掲載資料]
- [10] 令和6年度老人保健健康増進等事業「原則として医行為ではない行為に関するガイドライン」2025年3月. [PDF]
- [11] 厚生労働省「喀痰吸引等制度の概要」. [厚生労働省]
- [12] 厚生労働省医政局長通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その3)」令和7年12月26日 医政発1226第12号. [厚生労働省]



