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遺伝学
遺伝学とは、遺伝子と遺伝に関する科学的研究をする科学の分野であり、DNA配列の変化の結果として、特定の形質が親から子へどのように受け継がれるかを研究する学問分野である。遺伝子はDNAの一部で、体の働きを助ける1つまたは複数の分子を構築するための命令を含んでいる。DNAは、二重らせん構造をしていて、梯子の2本のレールはバックボーンと呼ばれ、梯子には塩基と呼ばれる4つの構成要素(アデニン、チミン、グアニン、シトシン)の対がある。これらの塩基の配列そのものが遺伝子から分子を構築するための命令(遺伝暗号)となり、そのほとんどがタンパク質である。ヒトには約2万8千個の遺伝子があると推定されている。
生物の遺伝物質のすべてをその生物のゲノムと呼び、遺伝子とその遺伝子の活動を制御する他の要素のすべてがゲノムである。生物の全ゲノムは、そのほぼすべての細胞に含まれている。ヒト、植物、動物などの細胞では、ゲノムは核と呼ばれる構造体に格納されている。
遺伝子はどのように受け継がれるのか?
ヒトのDNAは、すべての遺伝子を含めて、染色体という構造体に格納されている。染色体は、タンパク質がDNAを核に収まるようにしっかりと巻き上げた構造体である。人間は通常、23対の染色体を細胞内に持っていて、各対の染色体には同じ遺伝情報が含まれているが、片方の染色体は母親から、もう片方は父親から受け継ぐため、異なるバージョンの遺伝子を持つ可能性がある。生殖細胞(卵と精子)は、受精卵が典型的な発生に必要な23対の染色体を含むように、23対の片方のセットだけを持っている。
遺伝子は健康や病気にどのように影響するのか?
遺伝子に変化が生じると、その遺伝子が通常行うはずの働きができなくなることがある。例えば、DNAの変化で、その産物であるタンパクが機能を果たすことができないような構造異常を来す結果につながることもある。また、遺伝子の変異は、特定の薬への反応や病気の発症の可能性 に影響を与えることがある。親は自分の遺伝子を子供に伝えるので、いくつかの病気や特定の薬に対する効果の得られやすさや有害事象の出やすさは、他の遺伝形質と同様に、家系に集中する傾向がある。ほとんどの形質の場合、複数の遺伝子が関与している。DNAの塩基配列を決定することによって、その人のゲノムの変異を特定することができ、ゲノム変異がそうした遺伝形質の発現、つまり表現型と関係している場合がある。
個人間の変異の中には、エピジェネティックな差異に起因するものもある。これは、遺伝子を発現させるスイッチの機能の変化であり、その一部は遺伝する可能性があるが、DNA配列の変化の結果ではない。
他の生物の遺伝子を研究する理由とは?
すべての生物は共通の祖先から進化してきたため、人間、動物、その他の生物は多くの同じ遺伝子を持ち、その遺伝子から作られる分子は似たような働きをする。これが他の生物の遺伝子を科学者たちが研究する理由である。
何百万年もの進化の過程で保存され、現在生きているさまざまな生物に存在する多くの遺伝子が発見されてきた。これらの高度に保存された遺伝子を研究し、異なる種のゲノムを比較することで、類似点や相違点を明らかにし、ヒトの遺伝子がどのように機能し、制御されているのかについての理解を深めることができる。このような知識は、研究者がヒトの病気を治療・予防するための新しい戦略を開発するのに役立つ。研究者たちは、細菌、ウイルス、真菌の遺伝子をも研究し、感染症の予防や治療のための解決策を探っている。これらの研究により、体内および体外の微生物が私たちの健康にどのような影響を与え、時には有益な影響を与えるかについて、ますます多くの知見が得られている。
遺伝学にはそのほかにどんな分野の研究があるのか?
遺伝学には例えば、遺伝子がいつ活性化するかを制御する因子、DNA が壊れたり損傷した部分を修復するメカニズム、形質が次世代に受け継がれる複雑な方法などが研究されている。また、遺伝子の変異を時系列で追跡し、人類の進化の歴史や、病気に関連する特性の出現を突き止めることも研究の焦点となっている。このような基礎研究により、疾病に特化した研究のための強固な基盤が構築されることになる。遺伝学のなかで医学に特化した分野を遺伝医学とよぶ。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号