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アルカン・アルケン・アルキンは、どれも炭素と水素だけでできた鎖状の炭化水素で、炭素どうしの結合の種類で分けられます。アルカンは単結合だけ(一般式CnH2n+2)、アルケンは二重結合を1つ(CnH2n)、アルキンは三重結合を1つ(CnH2n−2)持ちます[1][2][3]。このページでは、3つの違いを1つの表で比べ、構造式の模式図、炭素数ごとの名前の一覧、見分け方までまとめています。最後に、私たちの体の脂肪酸や細胞膜の中にある「アルカン型」「アルケン型」の構造についても説明します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧪 Q. アルカン・アルケン・アルキンの違いは?
違いは炭素どうしの結合です。アルカン=単結合だけ、アルケン=二重結合が1つ、アルキン=三重結合が1つ。結合が増えるほど水素が2個ずつ減り、形も立体(正四面体型)→平面→直線へと変わります。
📐 Q. 一般式と見分け方は?
アルカンCnH2n+2、アルケンCnH2n、アルキンCnH2n−2。分子式の水素の数を炭素数の2倍+2と比べると見分けられます。ただしCnH2nには環のあるシクロアルカンも入るので、構造式で確かめます。
🧬 Q. 医学や体とどう関係するの?
脂肪酸の長い炭化水素の鎖は、二重結合がなければアルカン型、cis型の二重結合があればアルケン型です。この違いが細胞膜のやわらかさ(流動性)を左右します[6]。
アルカン・アルケン・アルキンとは?
3つとも、炭素(C)と水素(H)だけでできた有機化合物のうち、環をつくらない(鎖状の)炭化水素です。国際純正・応用化学連合(IUPAC)の定義では、次のように区別されています[1][2][3]。
- アルカン(alkane):一般式CnH2n+2。炭素どうしが単結合だけでつながり、水素で「飽和」している炭化水素
- アルケン(alkene):一般式CnH2n。炭素–炭素の二重結合を1つ持つ炭化水素。二重結合が2つ以上のものはアルカジエン・アルカトリエンと呼びます。古い呼び名はオレフィンです
- アルキン(alkyne):一般式CnH2n−2。炭素–炭素の三重結合を1つ持つ炭化水素
アルカンは単結合だけなので飽和炭化水素、二重結合や三重結合を持つアルケンとアルキンは不飽和炭化水素に分類されます。名前は語尾で見分けられ、「-ane(アン)」はアルカン、「-ene(エン)」はアルケン、「-yne(イン)」はアルキンです(例:エタン・エテン・エチン)。
アルカン・アルケン・アルキンの違いを1つの表で比較
3つの違いは「炭素どうしの結合の数」から順につながっています。結合が単結合→二重結合→三重結合と増えるほど、水素は2個ずつ減り、結合は短く強くなり、分子の形は立体から平面、直線へと変わります[1][2][3][4]。
📊 アルカン・アルケン・アルキンの比較表
| 項目 | アルカン | アルケン | アルキン |
|---|---|---|---|
| 炭素どうしの結合 | 単結合(C–C)だけ | 二重結合(C=C)が1つ | 三重結合(C≡C)が1つ |
| 一般式 | CnH2n+2(n≥1) | CnH2n(n≥2) | CnH2n−2(n≥2) |
| 飽和・不飽和 | 飽和炭化水素 | 不飽和炭化水素 | 不飽和炭化水素 |
| 炭素の混成軌道 | sp3 | sp2(二重結合の炭素) | sp(三重結合の炭素) |
| 形(代表例の結合角) | 正四面体型(エタンのC–C–Hは111.2°) | 平面(エチレンのH–C–Cは121.3°) | 直線(アセチレンのH–C–Cは180°) |
| 炭素–炭素の結合距離・強さ | 154 pm・376 kJ/mol(エタン) | 134 pm・728 kJ/mol(エチレン) | 120 pm・965 kJ/mol(アセチレン) |
| 結合のまわりの回転 | 自由に回転できる | 回転できない(シス・トランスの区別が生じる) | 直線なので区別なし |
| おもな反応 | 反応しにくい。燃焼、光をあてたハロゲンとの置換反応 | 付加反応(H2・ハロゲン・水など)、付加重合、酸化開裂 | 付加反応(2段階で起こる)、水の付加でケトン |
| いちばん小さい例 | メタン CH4 | エテン(エチレン)C2H4 | エチン(アセチレン)C2H2 |
定義・一般式はIUPAC[1][2][3]、結合角・結合距離・結合の強さは有機化学の教科書(LibreTexts)[4][5][8]の値です。
構造式で見る違い(模式図)
炭素2個どうしで比べると、違いがひと目で分かります。線1本が共有電子対1組(単結合)、2本が二重結合、3本が三重結合です。
図:エタン・エチレン・アセチレンの構造式(模式図。当院作成)。実際のエタンは立体(正四面体型)ですが、ここでは平面に描いています。
一般式の覚え方と見分け方
一般式は、アルカンのCnH2n+2を出発点にすると覚えやすくなります。炭素どうしの結合が1本増えるたびに、両側の炭素から水素が1個ずつ(合計2個)外れるからです。二重結合が1つならCnH2n、三重結合が1つならさらに2個減ってCnH2n−2になります。
💡 用語解説:不飽和度で見分ける
分子式CnHmから「不飽和度=(2n+2−m)÷2」を計算すると、二重結合と環の数の合計が分かります。不飽和度0ならアルカン、1ならアルケン(または環が1つのシクロアルカン)、2ならアルキン(または二重結合2つ・環を含むものなど)の候補です。
C4H8はアルケン?シクロアルカンとの違い
C4H8の不飽和度は(2×4+2−8)÷2=1です。これは二重結合が1つあるブテン(アルケン)かもしれませんし、環が1つあるシクロブタン(シクロアルカン)かもしれません。アルケンとシクロアルカンは同じ一般式CnH2nになるため、分子式だけでは決められず、構造式で二重結合があるかどうかを確かめます。なお、IUPACの定義ではアルカン・アルケン・アルキンは鎖状(環をつくらない)のものを指します[1][2][3]。
炭素数ごとの名前の一覧(アルカン・アルケン・アルキン)
名前は「炭素数を表す部分+語尾」でできています。炭素数5以上は、ギリシャ語の数詞(ペンタ=5、ヘキサ=6…)が使われます。アルケンとアルキンは二重結合・三重結合をつくるために炭素が2個以上必要なので、炭素数1のものはありません。
📋 アルカン・アルケン・アルキンの一覧(直鎖、C1〜C10)
| 炭素数 | アルカン(CnH2n+2) | アルケン(CnH2n) | アルキン(CnH2n−2) |
|---|---|---|---|
| 1 | メタン CH4 | ― | ― |
| 2 | エタン C2H6 | エテン(エチレン)C2H4 | エチン(アセチレン)C2H2 |
| 3 | プロパン C3H8 | プロペン(プロピレン)C3H6 | プロピン C3H4 |
| 4 | ブタン C4H10 | ブテン C4H8 | ブチン C4H6 |
| 5 | ペンタン C5H12 | ペンテン C5H10 | ペンチン C5H8 |
| 6 | ヘキサン C6H14 | ヘキセン C6H12 | ヘキシン C6H10 |
| 7 | ヘプタン C7H16 | ヘプテン C7H14 | ヘプチン C7H12 |
| 8 | オクタン C8H18 | オクテン C8H16 | オクチン C8H14 |
| 9 | ノナン C9H20 | ノネン C9H18 | ノニン C9H16 |
| 10 | デカン C10H22 | デセン C10H20 | デシン C10H18 |
炭素数4以上のアルケン・アルキンは、二重結合・三重結合の位置によって異性体があり、正式には「1-ブテン」「2-ブチン」のように位置番号をつけて呼びます。
アルカンから水素を1個とった形の部分(メチル基CH3–、エチル基C2H5–など)はアルキル基と呼ばれ、一般式はCnH2n+1です[7]。ほかの分子にアルキル基をつける反応がアルキル化です。
性質と反応の違い
アルカン:反応しにくく、水に溶けない
アルカンは単結合だけでできていて、極性がほとんどないため、水にはほとんど溶けず、ふだんの条件ではほかの物質と反応しにくいのが特徴です。一方で、火をつければよく燃え(燃焼して二酸化炭素と水になります)、天然ガスのメタンや、液化石油ガスのプロパン・ブタンとして燃料に使われています。光をあてるとハロゲン(塩素など)と水素が入れ替わる置換反応も起こします。同じ仲間では、炭素数が増えて分子が大きくなるほど沸点が高くなり、気体→液体→固体へと変わっていきます。
💡 元の記述からの訂正
以前のこのページには「アルカンは空気中で燃焼しにくい」「アルカンの重合でプラスチックができる」と書いていましたが、正しくありません。アルカンは火をつければよく燃え、ポリエチレンなどのプラスチックはアルケン(エチレンなど)の付加重合でつくられます[8]。
アルケン:付加反応と付加重合、シス・トランス
アルケンの二重結合は、強いσ結合1本と、切れやすいπ結合1本でできています。そのため、二重結合に水素・ハロゲン・水などが付け加わる付加反応を起こしやすく、付加すると単結合になります。二重結合を次々に開いてつながるポリマー(高分子)づくりが付加重合で、エチレンからポリエチレン、プロピレンからポリプロピレンができます。オゾンなどの酸化剤で二重結合を切ると、アルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物ができます(酸化開裂)[8]。
また、二重結合はまわりの回転ができないため、置換基が同じ側にあるシス形と反対側にあるトランス形が別の物質として存在します(シス・トランス異性体)。この「シス形の二重結合」が、あとで説明する脂肪酸と細胞膜で大切になります。
アルキン:直線形で、付加反応が2段階で起こる
アルキンの三重結合はσ結合1本とπ結合2本からなり、三重結合の炭素とその両隣の原子は一直線に並びます[4]。π結合が2本あるので付加反応は2段階で起こり、水素が1分子付加するとアルケンに、2分子付加するとアルカンになります。酸と水銀イオンを触媒に水を付加すると、まずエノールができ、すぐにケトンへ変わります(末端アルキンではメチルケトン)[9]。いちばん小さいアルキンであるアセチレンは、酸素と燃やした高温の炎で金属の溶接・切断に使われています。
体の中のアルカン型・アルケン型:脂肪酸と細胞膜
アルカン・アルケンは化学の授業の言葉に思えますが、私たちの体の中にも同じ構造があります。代表が脂肪酸です。脂肪酸は、長い炭化水素の鎖の端にカルボキシル基(–COOH)がついたカルボン酸で、鎖の部分に二重結合がなければ飽和脂肪酸(アルカン型の鎖)、二重結合があれば不飽和脂肪酸(アルケン型の鎖)です。
細胞膜をつくるリン脂質には、たいてい飽和の鎖と不飽和の鎖が1本ずつついています。不飽和の鎖にあるシス形の二重結合は鎖に小さな折れ曲がりをつくり、脂質どうしがぎっしり詰まるのを妨げます。そのため、シス形の二重結合が多いほど膜は固まりにくく、やわらかさ(流動性)が保たれます。体温が変わる生物は、温度が下がるとシス形の二重結合を持つ脂肪酸を増やして膜の流動性を保つことが知られています[6]。単結合しかないアルカン型の鎖はまっすぐで、すき間なく並びやすいという、この記事の表の違いがそのまま膜の性質に表れているのです。
脂肪酸は、エネルギーとして使われるときにミトコンドリアでβ酸化によって炭素2個ずつ切り分けられます。このβ酸化にかかわる酵素の遺伝子に変化があると、空腹や発熱のときなどに脂肪酸をエネルギーに変えられない脂肪酸酸化異常症が起こります。当院では、こうした病気の原因遺伝子を調べる脂肪酸酸化異常症(FAOD)遺伝子パネル検査や、低血糖症・脂肪酸β酸化異常症遺伝子パネル検査を、臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリングとあわせて行っています。
🩺 院長コラム【遺伝医療の用語集に「アルカン」がある理由】
遺伝子の変化で起こる病気の多くは、体の中の化学反応のどこかが止まってしまう病気です。脂肪酸の鎖が単結合だけか二重結合を含むか、という違いは、そのまま代謝の経路や細胞膜の性質の違いにつながっています。遺伝性の代謝の病気を理解するには、こうした化学の基本が土台になると考えています。
このサイトを「遺伝の辞書」として作っているのは、病気の説明だけでなく、その下にある化学・分子生物学の言葉まで一続きで読めるようにしたいからです。化学の授業で覚えたアルカン・アルケン・アルキンが、細胞膜や代謝の話とつながる面白さも感じていただければと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. アルカン・アルケン・アルキンの違いは何ですか?
炭素どうしの結合の種類が違います。アルカンは単結合だけ(一般式CnH2n+2)、アルケンは二重結合を1つ(CnH2n)、アルキンは三重結合を1つ(CnH2n−2)持つ鎖状の炭化水素です。結合が増えるほど水素が2個ずつ減り、形は正四面体型・平面・直線と変わります。
Q2. 一般式はどう覚えればよいですか?
アルカンのCnH2n+2を基準にします。炭素どうしの結合が1本増えるたびに水素が2個減るので、二重結合1つのアルケンはCnH2n、三重結合1つのアルキンはCnH2n−2になります。名前の語尾も、アン(-ane)・エン(-ene)・イン(-yne)で区別できます。
Q3. C4H8はアルケンですか?
アルケンのブテンの場合もありますが、環を1つ持つシクロブタン(シクロアルカン)の場合もあります。アルケンとシクロアルカンは同じ一般式CnH2nになるため、分子式だけでは決められず、構造式で二重結合があるかどうかを確かめます。
Q4. アルケンとオレフィンは違うものですか?
同じものを指します。オレフィンはアルケンの古い呼び名で、今もエチレンやプロピレンなどを工業的に「オレフィン」と呼ぶことがあります。
Q5. アルカン・アルケン・アルキンは水に溶けますか?
どれも炭素と水素だけでできていて極性がほとんどないため、水にはほとんど溶けません。油やほかの有機溶媒には溶けやすい性質があります。
Q6. 体の中にアルカンやアルケンの構造はありますか?
脂肪酸の炭化水素の鎖がその例です。二重結合のない飽和脂肪酸の鎖はアルカン型、シス形の二重結合を持つ不飽和脂肪酸の鎖はアルケン型で、シス形の二重結合は鎖を折り曲げて細胞膜のやわらかさ(流動性)を保つ働きをしています。
🏥 脂肪酸の代謝にかかわる遺伝子を調べる
β酸化など脂肪酸の代謝にかかわる遺伝子を、NGSパネル検査でまとめて調べられます。臨床遺伝専門医が常駐し、検査の前後の遺伝カウンセリングまで院内で行っています。
ほかの検査も見る:取扱い遺伝子検査の一覧 | 低血糖症・脂肪酸β酸化異常症パネル
関連記事
参考文献
- [1] IUPAC. Compendium of Chemical Terminology (the “Gold Book”): alkanes. [DOI 10.1351/goldbook.A00222]
- [2] IUPAC. Compendium of Chemical Terminology (the “Gold Book”): alkenes. [DOI 10.1351/goldbook.A00224]
- [3] IUPAC. Compendium of Chemical Terminology (the “Gold Book”): alkynes. [DOI 10.1351/goldbook.A00236]
- [4] Farmer S, Kennepohl D, Cunningham K, et al. 1.9: sp Hybrid Orbitals and the Structure of Acetylene. In: Organic Chemistry (Morsch et al.). Chemistry LibreTexts. [LibreTexts]
- [5] Farmer S, Kennepohl D, Cunningham K, et al. 1.8: sp2 Hybrid Orbitals and the Structure of Ethylene. In: Organic Chemistry (Morsch et al.). Chemistry LibreTexts. [LibreTexts]
- [6] Alberts B, Johnson A, Lewis J, et al. The Lipid Bilayer. In: Molecular Biology of the Cell. 4th ed. New York: Garland Science; 2002. [NCBI Bookshelf NBK26871]
- [7] IUPAC. Compendium of Chemical Terminology (the “Gold Book”): alkyl groups. [DOI 10.1351/goldbook.A00228]
- [8] 8: Alkenes – Reactions and Synthesis. In: Organic Chemistry (Morsch et al.). Chemistry LibreTexts. [LibreTexts]
- [9] 9.4: Hydration of Alkynes. In: Organic Chemistry (Morsch et al.). Chemistry LibreTexts. [LibreTexts]



