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Rhマイナスの出産は怖くない!二人目のリスクや「抗D人免疫グロブリン注射」の重要性を専門医が解説

Rhマイナスの出産は怖くない!二人目のリスクや「抗D人免疫グロブリン注射」の重要性を専門医が解説

Rhマイナスの出産は怖くない!二人目のリスクや「抗D人免疫グロブリン注射」の重要性を専門医が解説

執筆・監修:仲田 洋美|ミネルバクリニック院長・臨床遺伝専門医
最終更新:2025年12月5日

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
📊 約9,000文字
臨床遺伝専門医監修


  • 「二人目が危険」の医学的理由 → なぜ一人目は大丈夫で、二人目からリスクが上がるのか?「感作(アロ免疫)」のメカニズムをわかりやすく解説。

  • 最強の予防策「抗D人免疫グロブリン」妊娠28週と産後72時間以内に打つこの注射が、どのように胎児を守るのか。

  • 病院選びの正解と費用 → 個人病院でも産める?大学病院へ行くべき?「自己血貯血」の必要性と保険適用について。

  • 新生児への影響と対処法 → もし抗体ができてしまったらどうなる?黄疸(おうだん)や貧血への最新治療について。

  • NIPTで胎児のRh型がわかる? → 最新の出生前診断技術による胎児Rh型判定について。

1. そもそも「Rhマイナス」とは?基本知識

【定義】Rhマイナスとは

血液型には「ABO式」と「Rh式」の2つの分類があります。Rh式血液型は、赤血球の表面に「D抗原」と呼ばれるタンパク質があるかどうかで決まります。D抗原がある人を「Rhプラス(Rh+)」、ない人を「Rhマイナス(Rh-)」と呼びます。

日本人の約99.5%は「Rhプラス」であり、「Rhマイナス」の方は約0.5%(200人に1人)と非常に稀です。一方、欧米では約15%がRhマイナスであり、人種によって頻度が大きく異なります。

Rhマイナスであること自体は病気ではなく、日常生活には全く影響しません。しかし、妊娠・出産や輸血の場面では特別な配慮が必要になります。

2. なぜ「Rhマイナス」の出産は注意が必要なのか?

ご自身がRhマイナスであると知った時、多くの妊婦さんが「赤ちゃんに障害が出るのではないか」「普通の出産ができないのではないか」と不安を抱かれます。

結論から申し上げますと、適切な医療介入(注射)を行えば、Rhマイナスの方でもRhプラスの方と同様に、安全に出産することが期待できます。

問題となるのは、母体が「Rhマイナス」で、お腹の赤ちゃんが「Rhプラス」である場合(Rh不適合妊娠)です。この時、母体の免疫システムが赤ちゃんを「異物」と誤認して攻撃してしまうリスクがあります。これを医学的に「RhD同種免疫(感作)」と呼びます。

1️⃣ 感作(アロ免疫)の発生

通常、胎盤があるため母と子の血液は混じり合いません。しかし、出産時や胎盤剥離などのトラブル時に、わずかに赤ちゃんの血液(Rhプラス)が母体(Rhマイナス)へ漏れ出ることがあります。すると母体は「Rhプラス赤血球」に対する抗体(抗D抗体)を作り始めます。

2️⃣ 二人目への攻撃

一度作られた抗体(IgG)は、次の妊娠時に胎盤を通過します。もし二人目もRhプラスだった場合、この抗体が胎児の赤血球を破壊(溶血)し、貧血や黄疸、最悪の場合は胎児水腫を引き起こします。これが「二人目が危ない」と言われる理由です。

3️⃣ 現代医療による解決

現在は「抗D人免疫グロブリン」という製剤を予防投与することで、母体が抗体を作ってしまうこと(感作)を非常に高い確率で防ぐことができます。この注射の登場により、重症化するケースは劇的に減少しました。

3. データで見るRhマイナス出産のリスクと予防効果

実際にどのくらいの確率で抗体ができてしまうのか、予防注射をした場合どうなるのか、具体的な統計データを見てみましょう。現代の管理がいかに優秀であるかがわかります。

📊 Rh不適合妊娠の統計データ
  • もし何も処置をしなかったら(昔のデータ):
    2人目以降の妊娠で、約13~16%の妊婦さんが抗体を作ってしまいます(感作)。
  • 産後のみ注射を打った場合:
    感作率は約1~2%まで激減します。
  • 妊娠中(28週)と産後の両方に打った場合(現在の標準):
    感作率は0.1~0.3%まで低下することが報告されています。
    現在、日本のガイドラインではこの「妊娠中+産後」の2回投与が推奨されており、極めて高い予防効果が期待できます。

予防措置 感作率 予防効果
何もしない(無処置) 13~16%
産後のみ注射 1~2% 約90%
妊娠28週+産後(推奨) 0.1~0.3% 約99%

4. 必須!「抗D人免疫グロブリン注射」のスケジュール

Rhマイナスの妊婦さんにとっての「命綱」とも言えるのが、このグロブリン注射です。この注射は、万が一赤ちゃんの血液が母体に入ってきても、母体が「抗体」を作る前に先回りして赤ちゃんの血液を処理してしまう(マスクする)役割を果たします。

✅ 絶対に忘れてはいけない2つのタイミング

  • 妊娠28週前後

    妊娠後期に入ると、目に見えないレベルで赤ちゃんの血液が母体へ移行する可能性がわずかに高まります。念には念を入れて、出産前のこの時期に1回目の予防接種を行います。

  • 産後72時間以内

    出産時が最も大量に血液が混ざるリスクがあります。生まれた赤ちゃんが「Rhプラス」であった場合、必ず72時間以内に注射を打ちます。これで次回の妊娠への備えは完了です。

    ※生まれた赤ちゃんがRhマイナスであれば、この注射は不要です。

これ以外にも注射が必要なケース

出産時だけでなく、以下のような「お腹に衝撃が加わったり、出血したりするイベント」があった場合も、念のためグロブリン注射を打つことが推奨されています。

  • 羊水検査や絨毛検査を受けた時
  • 妊娠中に腹部を強く打撲した時(交通事故や転倒)
  • 切迫流産などで性器出血があった時
  • 流産手術、中絶手術、子宮外妊娠の手術を行った時

特に「流産・中絶後」は見落とされがちですが、次の妊娠を守るために非常に重要です。必ず医師にRhマイナスであることを伝え、処置を受けてください。

5. 病院選びの基準と「自己血貯血」

「Rhマイナスだと、大きな大学病院や総合病院じゃないと産めないの?」という質問をよく頂きます。基本的には、抗D人免疫グロブリンを用意できる施設であれば、個人病院(クリニック)でも出産は可能です。

ただし、Rhマイナスの方特有の備えとして「万が一の大出血」への対応を考慮する必要があります。Rhマイナスの血液は在庫が少ないため、緊急時の輸血確保に時間がかかることがあるからです。

🅰️ 自己血貯血(じこけつちょけつ)

出産予定日の数週間前から、ご自身の血液を採血して保存しておく方法です。これならRhの型を気にする必要がなく、副作用のリスクもありません。多くの施設で推奨されています。

🅱️ 病院選びのチェックポイント

  • グロブリン注射の在庫または常時入手ルートがあるか?
  • 自己血貯血に対応しているか?
  • 緊急時に高次医療機関(血液センターと連携できる病院)へ搬送する体制があるか?

里帰り出産や個人クリニックを希望される場合は、妊娠初期の段階で「Rhマイナスですが、対応可能ですか?」と必ず電話で確認することをお勧めします。

6. 費用と保険適用について

Rhマイナスの妊婦さんが気になるのが、追加でかかる費用についてです。以下に目安をまとめました。

💰 費用の目安(2025年現在)

  • 抗D人免疫グロブリン注射(1回)
    約15,000〜30,000円
  • 自己血貯血(採血・保管)
    約10,000〜20,000円/回
  • 不規則抗体検査
    約1,000〜3,000円

※費用は医療機関によって異なります。事前にご確認ください。

✅ 保険適用について:抗D人免疫グロブリン注射は、Rh不適合妊娠の予防目的で健康保険が適用されます。ただし、妊婦健診は自費診療のため、注射のタイミングによっては自費となる場合もあります。詳細は各医療機関にお問い合わせください。

7. NIPTで胎児のRh型を調べる方法

「お腹の赤ちゃんがRhプラスかRhマイナスか、生まれる前にわかったらいいのに…」と思われる方も多いでしょう。実は、NIPTの技術を応用して、母体血から胎児のRhD型を判定することが可能になっています。

🧬 胎児RhD型判定のメリット

  • 胎児がRhマイナスと判明した場合:不要な注射を避けられる
  • 胎児がRhプラスと判明した場合:より注意深い管理計画を立てられる
  • 非侵襲的:採血のみで検査可能(羊水検査不要)

海外(特にヨーロッパ)では、Rhマイナスの妊婦さん全員に胎児RhD型の出生前判定を行い、胎児がRhマイナスの場合は予防注射を省略するというプロトコルが広がっています。日本ではまだ一般的ではありませんが、一部の施設で検査を受けることができます。

ご興味のある方は、NIPTを行っている医療機関にお問い合わせください。

8. もし赤ちゃんに影響が出たら?(黄疸と治療)

予防をしていても、稀に抗体が作られてしまったり(既感作)、予防注射の普及前にご出産経験があったりする方もいらっしゃいます。もし母体の抗体が胎児を攻撃してしまった場合、以下のような症状が出ることがありますが、現在は治療法が確立されています。

  • 新生児溶血性黄疸(おうだん):
    赤血球が壊れる際に「ビリルビン」という黄色い物質が出ます。これが強くなると肌が黄色くなります。多くの場合は、青い光を当てる「光線療法」でビリルビンを分解し、治療できます。
  • 貧血:
    赤血球が減ってしまうため貧血になります。重症の場合は、お腹の中にいる間に輸血をする(胎児輸血)や、生まれた後に血液を入れ替える(交換輸血)を行うことで、命を救い、後遺症を防ぐことができます。

定期的な妊婦健診で「抗体価(抗体の量)」を測っていれば、赤ちゃんが貧血気味かどうかを早期に発見できます。Rhマイナスの妊婦さんにとって、妊婦健診を飛ばさずに受けることは、他の妊婦さん以上に重要な意味を持つのです。

9. 臨床現場からのメッセージ

👩‍⚕️ 院長からのメッセージ

私も臨床遺伝専門医として、Rhマイナスの妊婦さんからご相談を受けることがあります。

最も多いご相談は「二人目を産んでも大丈夫ですか?」というものです。インターネットで調べると怖いことばかり書いてあって、不安になってしまうお気持ちはよくわかります。

しかし、私が臨床の現場で実感しているのは、「きちんと管理さえすれば、Rhマイナスであることを過度に恐れる必要はない」ということです。抗D人免疫グロブリン注射が普及した現在、重症化するケースは本当に稀になりました。

むしろ心配なのは、「Rhマイナスだから子どもは一人でいい」と諦めてしまう方や、過去に流産した際に注射を打っていなかったことに後から気づく方です。正しい知識を持ち、適切なタイミングで医療介入を受ければ、何人でもお子さんを持つことができます。

一人で悩まずに、どうぞ専門家にご相談ください。私たちは、あなたの不安に寄り添い、最善の選択ができるようサポートいたします。

ミネルバクリニック院長 仲田 洋美

まとめ

Rhマイナスの出産は、昔は確かにリスクの高いものでした。しかし現在は、グロブリン注射という強力な予防法が確立され、管理さえしっかり行えば、恐れる必要は全くありません。

重要なのは、「自分がRhマイナスであることを正しく認識し、医師と共有すること」、そして「決められた時期に必ず注射を受けること」の2点です。これさえ守れば、Rhプラスのお母さんと同じように、元気な赤ちゃんを胸に抱くことが期待できます。

ミネルバクリニックでは、NIPT(新型出生前診断)を通じて多くの妊婦さんの不安に寄り添っています。血液型のリスクだけでなく、染色体や遺伝子のリスクについても、臨床遺伝専門医が正確な知識と温かいサポートを提供いたします。妊娠中のあらゆる不安について、どうぞお一人で悩まずご相談ください。

Rhマイナス妊婦さんからよくある質問(FAQ)

Q1. 夫もRhマイナスなら注射は不要ですか?

はい、生物学的な父親が確実にRhマイナスであれば、生まれてくる子供は必ずRhマイナスになるため、不適合妊娠は起こりません。注射も不要です。ただし、父親の血液型判定に間違いがないか、改めて検査することをお勧めします。

Q2. 1人目の時は注射を打った記憶がありません。2人目は大丈夫?

もし1人目のお子さんがRhマイナスだった場合、注射は不要だったので打っていない可能性があります。あるいは、1人目がRhプラスで注射を打ち忘れていた場合、すでに抗体ができている(感作している)可能性があります。まずは産婦人科で「不規則抗体スクリーニング検査」を受け、抗体があるかどうかを確認してください。

Q3. 注射に副作用はありますか?

筋肉注射なので、打った部位の痛みや腫れが出ることがありますが、数日で治ります。極めて稀にアレルギー反応が出ることがありますが、重篤な副作用は非常に少ない安全な製剤です。血液製剤の一種ですが、ウイルスチェックなどは厳重に行われています。

Q4. 帝王切開でもリスクは変わりませんか?

帝王切開は経腟分娩に比べて出血量が多くなりやすく、赤ちゃんの血液が母体に混ざるリスクも同等かそれ以上です。帝王切開であっても、産後72時間以内の注射は必須です。

Q5. Rhマイナスの血液型は遺伝しますか?

はい、Rh式血液型は遺伝によって決まります。両親がともにRhマイナスであれば、お子さんは必ずRhマイナスになります。両親のどちらかがRhプラスの場合、お子さんはRhプラスまたはRhマイナスのいずれかになります。詳しく知りたい方は、遺伝カウンセリングをご利用ください。

Q6. すでに抗体ができてしまっている場合、もう妊娠できませんか?

いいえ、妊娠は可能です。ただし、より慎重な管理が必要になります。抗体価(抗体の量)を定期的に測定し、胎児に貧血の兆候がないかをエコーで監視します。必要に応じて、胎児輸血などの治療を行える高次医療機関での管理が推奨されます。詳しくは産婦人科医にご相談ください。

🏥 遺伝と妊娠の不安は専門医へ

Rhマイナスのリスク管理だけでなく、赤ちゃんの染色体リスク(NIPT)についてもお悩みではありませんか?
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が最新の医学に基づき、あなたの不安に寄り添います。

参考文献

  • [1] ACOG Practice Bulletin No. 181: Prevention of Rh D Alloimmunization. Obstet Gynecol 2017. [PubMed]
  • [2] Bhutani VK, et al. Neonatal hyperbilirubinemia and Rhesus disease of the newborn: incidence and impairment estimates for 2010 at regional and global levels. Pediatr Res 2013.
  • [3] 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―産科編2023. [JSOG]
  • [4] UpToDate: RhD alloimmunization in pregnancy: Overview / Prevention / Management. ※医療従事者向け有料データベース
  • [5] de Haas M, et al. Anti-D prophylaxis: past, present and future. Transfus Med. 2014.



プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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