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DPP6遺伝子

承認済シンボル:DPP6
遺伝子名:dipeptidyl peptidase like 6
参照:
HGNC: 3010
AllianceGenome : HGNC : 3010
NCBI1804
Ensembl :ENSG00000130226
UCSC : DPP6 (ENST00000377770.8) from GENCODE V46
遺伝子OMIM番号126141
●遺伝子のlocus type :タンパク質をコードする
●遺伝子のグループ:Potassium voltage-gated channel regulatory subunits
DASH family
●遺伝子座: 7q36.2
●ゲノム座標:7:153,748,133-154,894,285

遺伝子の別名

dipeptidylpeptidase VI
dipeptidylpeptidase 6
dipeptidyl-peptidase 6
dipeptidyl peptidase 6
DPPX
DPL1

遺伝子の概要

DPP6は、Kv4と呼ばれる電位依存性A型カリウムチャネル(Kv4チャネル)の補助サブユニットとして機能します。このチャネルは、主に神経細胞や興奮性細胞の興奮性(細胞が電気的刺激にどのように反応するか)や可塑性(細胞が刺激に適応する能力)を調節する役割を担っています【Lin et al., 2018】。

DPP6は、Kv4チャネルの電流特性を修飾することで、神経活動や信号伝達のタイミングに影響を与え、ニューロンの発火パターンやシナプス可塑性の調整に関与しています。
DPP6遺伝子は、ヒトにおいてDPP6(ジペプチジルペプチダーゼ様タンパク質6)をコードする遺伝子であり、主に中枢神経系の機能に関与しています。この遺伝子は、セリンプロテアーゼファミリーの一員ですが、酵素活性は持たず、電位依存性カリウムチャネルに結合してその発現や生物物理的特性を変化させます3。DPP6はKv4チャネルと相互作用し、その表面発現を増加させ、活性化や不活性化の速度を加速します。
DPP6の機能は多岐にわたり、シナプス形成や維持にも独立して関与しています。特に、樹状突起の形態形成や安定性に重要であり、その欠損は樹状突起フィロポディアの形成と安定性を低下させることが示されています。このような機能不全は、自閉症スペクトラム障害や統合失調症などの神経障害と関連しています。
DPP6はまた、シナプス発達における独立した役割を持ち、Kv4.2チャネルの電流を増強することで神経の過剰興奮性を防ぎます。このように、DPP6は神経機能と行動の発達において重要な役割を果たしており、その異常は様々な神経疾患の病因に寄与すると考えられています。

遺伝子と関係のある疾患

{Ventricular fibrillation, paroxysmal familial, 2} 家族性発作性心室細動2 612956 AD  3

Intellectual developmental disorder, autosomal dominant 33 常染色体優性知的発達障害33  616311 AD  3

遺伝子の発現とクローニング

Wadaら(1992)は、ウシおよびラットの脳ライブラリーから、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)関連タンパク質のcDNAクローンを単離しました。DPPIVは、セリン、アスパラギン酸、ヒスチジンからなる触媒三つ組を持つ酵素ファミリーに属していますが、このDPPIV関連タンパク質には、通常のDPPIVが持つ最初のセリン残基が認められないという特徴があります。このため、DPPIV関連タンパク質は、酵素活性が異なるか、あるいは非酵素的な機能を持っている可能性が示唆されました。

続いて、横谷ら(1993)は、ヒトにおけるDPPIV関連タンパク質の研究を行いました。彼らの研究は、この関連タンパク質がヒトにおいても存在し、その生理的役割や機能を解明することを目的としました。

遺伝子の構造

Liaoら(2013)は、DPP6遺伝子は26のエクソンから構成されていると述べています。

マッピング

横谷ら(1993年)は、ウシのDPPXクローンの断片をプローブとして用い、体細胞ハイブリッドのPCR分析を行い、ヒトのDPP6遺伝子を7番染色体上にマッピングしました。この研究により、ジペプチジルペプチダーゼIV関連タンパク質であるDPP6の遺伝的位置が明らかになりました。

一方、和田ら(1993年)は、マウスDpp6遺伝子が保存されたシンテニー領域(異なる種間で遺伝子の並びが似ている領域)のマウス5番染色体の近位末端に位置するマーカーと連鎖していることを示しました。これにより、ヒトとマウスの間で遺伝子の保存された相同性が確認され、DPP6遺伝子の進化的保存性についても新たな知見が得られました。

進化

Dorusら(2004年)は、ヒトの進化において脳のサイズと複雑性が劇的に増加したことに注目し、その遺伝的基盤を調査するために、神経系の生物学に関与する遺伝子の進化を詳しく分析しました。彼らの研究では、DPPXを含む複数の遺伝子が、齧歯類よりも霊長類において顕著に速い進化速度を示していることが明らかにされました。この進化の加速は、特に神経系の発達に関わる遺伝子群で顕著であり、ヒトの神経系の進化に深く関与していることが示唆されました。

さらに、霊長類の中でも、ヒトに至る系統、つまり祖先的な霊長類からヒトへと至る進化の過程で、これらの遺伝子の進化速度の加速が最も顕著に見られました。これに基づき、Dorusらは、ヒトの神経系の進化には遺伝子レベルでの進化的変化が大きく影響しており、特に神経系の発生に関連する遺伝子の進化がその基盤にあるという結論に達しました。

遺伝子の機能

Sun ら(2011年)は、Dpp6遺伝子が欠損したマウス(Dpp6-nullマウス)において、海馬CA1ニューロンの樹状突起におけるA型K+電流が著しく減少していることを報告しています。特に、遠位樹状突起でこの電流密度の減少が顕著に見られました。さらに、この電流の減少は、チャネルの活性化における電圧依存性が脱分極側にシフトすることで強化されており、これにより樹状突起の興奮性が増加しました。

この興奮性の増加は、樹状突起における逆伝播アクションポテンシャルの強化やカルシウムシグナルの上昇を引き起こし、結果としてシナプス性長期増強(LTP)の誘導が促進されました。これらの変化にもかかわらず、Dpp6ノックアウトマウスでは、体細胞に電流を注入して誘発される発火行動には大きな影響が見られませんでした。これは、神経細胞における興奮性が部位ごとに異なる制御を受けていることを示唆しています。

分子遺伝学

家族性発作性心室細動

Aldersら(2009年)は、特発性心室細動(VF2; 612956)を引き起こす遺伝子座をオランダの3家族において調査し、その原因遺伝子を7番染色体のDPP6遺伝子を含む領域にマッピングしました。DPP6遺伝子は、電位依存性カリウムチャネルの補助サブユニットであり、心筋の電気的活動に関与しています。しかし、これらの家族やその他の42人の候補者を対象にDPP6のコード領域をシークエンスしても、明確な変異は発見されませんでした。

一方で、DPP6アイソフォーム2の開始コドン上流340塩基に位置するC-to-T転位(612956.0001)が3家族の罹患者と7人の他の候補者で確認されました。この変異は、オランダのヨーロッパ系対照群350人には見られませんでした。この変異を持つ保因者の心筋では、DPP6のmRNAレベルが対照群の約20倍に増加していましたが、心電図や心臓の構造的な異常は見られませんでした。

家系の臨床評価によると、この変異を持つリスクハプロタイプの保因者の50%が58歳までに突然死を経験しており、特に心室細動が原因となっていることが示されました。Aldersらは、この特定の家系におけるVFの病態発生メカニズムとして、DPP6発現の異常な増加が強く関与していると提唱しました。この研究は、特定の遺伝子変異が突然死のリスクに関連する可能性があることを示し、心室細動の遺伝的要因に対する理解を深めるものでした。

常染色体優性知的発達障害33

Liaoら(2013年)は、常染色体優性小頭症および精神遅滞の患者に対するDPP6遺伝子のコピー数変異解析を行いました。この解析は、高解像度アレイベースのゲノムハイブリダイゼーション法を使用し、小頭症患者22人のDNAサンプルを調査した結果、DPP6遺伝子に新生欠失がある2人の患者が特定されました。

さらに、別の50人の小頭症患者を対象に配列解析を行い、小頭症と常染色体優性知的発達障害を隔世する家族において、DPP6遺伝子におけるミスセンス変異(M385L; 126141.0002)が確認されました。この変異は、DPP6の機能に影響を与え、これが患者の脳の発達に関連している可能性があります。

また、マウスモデルでDpp6遺伝子を短いヘアピンRNA(shRNA)でノックダウンしたところ、野生型のマウスと比較して脳が小さくなり、学習障害が確認されました。この結果は、DPP6遺伝子が脳の発達と機能において重要な役割を果たしていることを示しており、小頭症および精神遅滞との関連性を強く示唆しています。

動物モデル

Sunら(2011年)は、Dpp6ノックアウトマウスを作製し、エクソン2の欠失によりDpp6 mRNAおよびタンパク質が完全に消失していることを確認しました。また、Dpp6ノックアウトマウスの錐体樹状細胞において、関連するファミリーメンバーであるDpp10の発現が見られないこと、そしてDpp10がアップレギュレートされないことを示しました。このマウスでは、樹状突起におけるA型カリウム電流の勾配が欠如し、残存するA型カリウムチャネルはKv4(KCND1)が媒介していました。

Liaoら(2013年)は、Dpp6の転写産物1をノックダウンしたマウスが野生型と比較して脳が小さく、標準的なモリス水迷路試験で空間記憶障害および学習障害を示したことを発見しました。

さらに、Linら(2018年)の研究では、Dpp6ノックアウトマウスが野生型と比較して体重および脳重量が有意に低く、複数の学習および記憶課題で欠損が見られることが報告されました。Dpp6 -/- マウスの培養神経細胞を用いた分析では、シナプス形成および安定化における発達上の欠損が明らかにされ、顕微鏡分析によって成体マウスの海馬CA1領域におけるシナプス構造の欠損が確認されました。

これらの研究結果は、Dpp6遺伝子が脳の発達およびシナプスの機能に重要な役割を果たしていることを示しており、その欠損が学習障害や記憶障害に関連していることが明らかになっています。

アレリックバリアント

0.0001 心室細動、家族性、2、DPP6に対する感受性、
-340C-T(rs3807218)
オランダの3つの関連家族と、オランダの特発性心室細動(VF2; 612956)患者42人のうちの7人の発端者について、Alders ら(2009年)は、DPP6のアイソフォーム2のATG開始部位から340塩基上流のC-to-T転位(rs3807218)を特定しました。10人の発端者はすべて同じハプロタイプを保有していました。このバリアントは、ヨーロッパ系オランダ人350人の対照群には認められませんでした。このバリアントは、対照群と比較して、保有者の心筋におけるDPP6 mRNAレベルの発現が20倍増加していることと関連しています。

0.0002 知的発達障害、常染色体優性 33
DPP6、MET385LEU
常染色体優性精神発達障害および小頭症(MRD33; 616311)を分離する家系の5歳女児(BY2950)において、Liao ら(2013)は、 DPP6遺伝子におけるc.1153A-C転換(c.1153A-C、NM_130797)を同定し、met385-to-leu(M385L)置換をもたらしました。母親、母方の叔母、祖父もまた罹患していました。この家族において疾患と分離した変異は、100の対照染色体では同定されませんでした。

0.0003 知的発達障害、常染色体優性 33
DPP6、336-kb欠失
小頭症および精神発達障害(MRD33; 616311)を持つ12歳の少年(BY0712)において、Liao et al.(2013)は、 DPP6遺伝子(GRCh37、chr7.153,649,777-153,985,995)における新生ヘテロ接合型336kb欠失を特定しました。

参考文献

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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