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BMPER遺伝子とは? 関連疾患・保因者検査について徹底解説

BMPER遺伝子(Bone Morphogenetic Protein-Binding Endothelial Regulator)は、骨形成や血管発達に関わる重要な調節因子をコードしています。この遺伝子の変異は稀な骨格系疾患である透明脊椎異骨症(Diaphanospondylodysostosis)の原因となることが知られています。本記事では、BMPER遺伝子の機能、関連する疾患、保因者検査の意義について詳しく解説します。

BMPER遺伝子の基本情報

BMPER遺伝子は、7番染色体の短腕(7p14.3)に位置しています。この遺伝子は「BMP-Binding Endothelial Cell Precursor-Derived Regulator」とも呼ばれ、ショウジョウバエの「Crossveinless 2」の相同遺伝子として同定されました。

BMPER遺伝子の主な特徴

  • 染色体位置: 7p14.3
  • ゲノム座標 (GRCh38): 7:33,904,915-34,156,427
  • エクソン数: 15個のコーディングエクソン
  • HGNC承認遺伝子記号: BMPER

BMPER遺伝子の構造と機能

BMPER遺伝子がコードするタンパク質は、685アミノ酸からなり、分子量は約76.1kDaです。このタンパク質は以下のような特徴的なドメイン構造を持っています:

  • N末端に39アミノ酸のシグナルペプチド
  • 5つのタンデムシステインリッチなvon Willebrand C(VWC)様ドメイン
  • 1つのvon Willebrand Dドメイン
  • C末端にトリプシン阻害ドメイン

BMPERタンパク質の発現パターン

BMPERタンパク質は、胚発生期から成体にかけて特定の組織で発現しています:

  • 心臓、肺、皮膚で高い発現
  • 脳では比較的低い発現
  • 胚発生中の血管内皮細胞および周囲の間葉系細胞
  • 卵黄嚢の血管

BMPER遺伝子の機能

BMPERタンパク質は、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達を調節する重要な役割を果たしています。BMPは骨や軟骨の形成、血管新生など、様々な発生過程に関わる成長因子です。

研究により、BMPERタンパク質は:

  • BMP2、BMP4、BMP6などの骨形成タンパク質と直接結合する
  • 濃度依存的にBMPシグナルを調節する
  • 低濃度ではBMPシグナルを促進し、高濃度では抑制する二相性の作用を示す
  • 特にBMPタンパク質のI型受容体(BMPR1A)やII型受容体(BMPR2)への結合を調節する

重要なポイント

BMPERタンパク質は血管新生(新しい血管の形成)においても重要な役割を担っています。このタンパク質は内皮細胞の発芽、分岐、移動などの過程を調節し、正常な血管形成に不可欠です。

BMPER遺伝子と関連疾患

透明脊椎異骨症(Diaphanospondylodysostosis)

BMPER遺伝子の両アレルの変異(ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)は、稀な骨格系疾患である透明脊椎不全症(MIM番号:608022)を引き起こします。この疾患は常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとります。

臨床的特徴

透明脊椎不全症の主な特徴には以下のようなものがあります:

  • 脊椎の異常(脊椎椎体の骨化不全)
  • 肋骨の異常
  • 腎臓の形成異常または欠損
  • 指の異常(多指症など)
  • 頭蓋骨の異常

この疾患は多くの場合、周産期致死性であり、生存例は非常に稀です。

臨床的重要性

透明脊椎不全症は非常に重篤な疾患であり、遺伝的リスクがある場合には、妊娠前または妊娠初期の遺伝カウンセリングが推奨されます。両親が共に保因者である場合、子どもが疾患を発症するリスクは25%(1/4)となります。

BMPER遺伝子の病的バリアント

現在までに、BMPER遺伝子には透明脊椎不全症の原因となる複数の病的バリアントが報告されています。主な変異タイプには以下のようなものがあります:

主要な病的バリアント

  • ナンセンス変異:例えばQ309X(グルタミンからストップコドンへの変異)、C546X(システインからストップコドンへの変異)
  • ミスセンス変異:例えばP370L(プロリンからロイシンへの変異)、V137D(バリンからアスパラギン酸への変異)
  • スプライシング変異:例えばイントロン11のスプライスドナー部位における1031+5G-A変異
  • フレームシフト変異:挿入/欠失による読み枠のずれ

これらの変異は、BMPERタンパク質の機能喪失を引き起こし、BMP関連のシグナル伝達の異常を通じて、骨格系や腎臓などの発生異常につながると考えられています。

バリアント情報

Funari らの研究(2010年)では、透明脊椎不全症の患者から複数のBMPER遺伝子変異が同定されています。また、Greenbaum らの研究(2019年)では、バルカン系ユダヤ人の家系において、V137D変異がこの疾患と関連していることが報告されています。

BMPER遺伝子の保因者検査

BMPER遺伝子の保因者検査は、自分が透明脊椎不全症の保因者であるかどうかを知るための重要な手段です。特に家族計画を考えているカップルにとって、この検査は重要な情報を提供します。

保因者検査の重要性

以下のような方にはBMPER遺伝子を含む拡大版保因者検査が推奨されます:

  • 透明脊椎不全症の家族歴がある方
  • パートナーが保因者であることが判明している方
  • 妊娠前に遺伝的リスクを評価したいカップル
  • 遺伝性疾患のリスクを包括的に理解したい方

BMPER遺伝子保因者頻度と検査情報

遺伝子 疾患 遺伝形式 対象人口 保因者頻度 検出率
BMPER 透明脊椎不全症
(Diaphanospondylodysostosis)
常染色体劣性(潜性) 一般集団 500人に1人未満 99%

ミネルバクリニックでの保因者検査

ミネルバクリニックでは、BMPER遺伝子を含む275以上の遺伝子を一度に調べることができる拡大版保因者検査を提供しています。この検査により、透明脊椎不全症を含む、様々な遺伝性疾患の保因者状態を調べることができます。

検査の流れは以下の通りです:

  1. 遺伝専門医による事前カウンセリング
  2. 唾液または血液による検体採取
  3. 最新の次世代シーケンサーによる解析
  4. 結果説明と必要に応じた遺伝カウンセリング

遺伝カウンセリングの重要性

遺伝子検査の結果を正しく理解し、適切な選択をするためには、専門家による遺伝カウンセリングが重要です。特にBMPER遺伝子の変異が関わる透明脊椎不全症のような重篤な疾患については、検査前後のカウンセリングが推奨されます。

遺伝カウンセリングで得られるもの

  • 検査結果の正確な解釈と意味の理解
  • 家族計画における具体的な選択肢の提示
  • 将来の妊娠に関する出生前診断などの選択肢の説明
  • 心理的サポートと意思決定の援助

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、遺伝子検査の前後に専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。

遺伝カウンセリングを受けるタイミング

  • 保因者検査を検討している時
  • 検査結果を受け取った後
  • パートナーと共に家族計画を立てる時
  • 家族歴に遺伝性疾患がある場合

まとめ

BMPER遺伝子は、骨形成や血管発達に重要な役割を果たす調節因子をコードしています。この遺伝子の両アレルの変異は、透明脊椎不全症という重篤な骨格系疾患を引き起こします。

家族計画を考えているカップルや、家族歴に遺伝性疾患がある方は、拡大版保因者検査を検討することで、将来の妊娠におけるリスクを理解し、適切な選択をすることができます。

ミネルバクリニックでは、BMPER遺伝子を含む包括的な保因者検査と専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。あなたやパートナーの遺伝的リスクを理解し、情報に基づいた選択をするためのサポートを行っています。

参考文献

  1. Moser M, et al. (2003). BMPER, a novel endothelial cell precursor-derived protein, antagonizes bone morphogenetic protein signaling and endothelial cell differentiation. Mol Cell Biol, 23(16):5664-5679.
  2. Funari VA, et al. (2010). BMPER mutation in diaphanospondylodysostosis implicates BMP signaling in the regulation of vertebral segmentation and ossification. Am J Hum Genet, 86(4):547-558.
  3. Greenbaum L, et al. (2019). Diaphanospondylodysostosis: First report in individuals of Jewish origin and homozygosity for a novel BMPER variant. Am J Med Genet A, 179(11):2274-2280.
  4. Heinke J, et al. (2008). BMPER is an endothelial cell regulator and controls bone morphogenetic protein-4-dependent angiogenesis. Circ Res, 103(8):804-812.
  5. Zhang JL, et al. (2007). Binding of BMP receptors to the BMP-CV2 complex facilitates BMP signaling in early Xenopus embryos. Dev Biol, 308(1):34-45.
プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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