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BCKDHA遺伝子は、分岐鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、バリン)の代謝に重要な役割を果たす酵素の一部をコードしています。この遺伝子に病的バリアントが存在すると、メープルシロップ尿症タイプIaと呼ばれる遺伝性代謝疾患を引き起こす可能性があります。
本記事では、BCKDHA遺伝子の機能、関連する疾患の特徴、そして保因者検査の重要性について詳しく解説します。遺伝性疾患に関する正確な情報を得ることで、ご自身やご家族の健康管理や家族計画に役立てていただければ幸いです。
BCKDHA遺伝子について
基本情報
BCKDHA遺伝子(Branched-Chain Keto Acid Dehydrogenase E1, Alpha Polypeptide)は、染色体19q13.2に位置しています。この遺伝子は、分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体(BCKD)のE1-αサブユニットをコードしています。
BCKDHA遺伝子の基本データ
● 染色体位置: 19q13.2
● ゲノム座標 (GRCh38): 19:41,397,818-41,425,002
● 別名: BCKD E1-ALPHA SUBUNIT (BCKDE1A)
● エクソン数: 9
遺伝子の機能
BCKDHA遺伝子がコードするE1-αサブユニットは、分岐鎖アミノ酸(イソロイシン、ロイシン、バリン)の代謝における重要な役割を担っています。具体的には、これらのアミノ酸から派生した分岐鎖α-ケト酸の酸化的脱炭酸を触媒する酵素複合体の一部として機能します。
BCKD複合体は以下の3つの触媒成分で構成されています:
● ヘテロ四量体(α2-β2)分岐鎖α-ケト酸脱炭酸酵素(E1)
● ホモ24量体ジヒドロリポイルトランスアシラーゼ(E2)
● ホモ二量体ジヒドロリポアミド脱水素酵素(E3)
E1はチアミンピロリン酸(TPP)依存性酵素であり、この反応は不可逆的で分岐鎖アミノ酸酸化の第一段階を構成しています。BCKD複合体には、キナーゼとホスホリラーゼという2つの調節酵素も含まれています。
メープルシロップ尿症タイプIaとBCKDHA遺伝子の関連
疾患の概要
メープルシロップ尿症(Maple Syrup Urine Disease: MSUD)タイプIaは、BCKDHA遺伝子の両アレルに病的バリアントがある場合に発症する常染色体劣性(潜性)遺伝疾患です。この疾患では、分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン、バリンの代謝が障害され、体内に蓄積します。
メープルシロップ尿症の主な症状
● 新生児期からの哺乳不良や嘔吐
● 尿や耳垢からメープルシロップに似た甘い香りがする
● 筋緊張低下や筋緊張亢進
● 発達の遅れ
● けいれん発作
● 昏睡状態(重症の場合)
早期診断と適切な治療が行われない場合、重度の神経学的障害や生命を脅かす合併症を引き起こす可能性があります。しかし、早期に診断され適切に管理された場合、多くの患者さんは良好な予後を期待できます。
遺伝形式
メープルシロップ尿症タイプIaは常染色体劣性(潜性)で遺伝します。つまり、両親からそれぞれ変異したBCKDHA遺伝子のコピーを1つずつ受け継いだ場合(両アレルに変異がある場合)にのみ発症します。片方の親からのみ変異遺伝子を受け継いだ場合、その人は保因者となり、通常は症状を示しませんが、子どもに変異遺伝子を伝える可能性があります。
常染色体劣性遺伝の特徴
● 両親が保因者の場合、子どもが疾患を発症する確率は25%
● 子どもが保因者となる確率は50%
● 子どもが変異を全く受け継がない確率は25%
● 男女同様に発症する
BCKDHA遺伝子の主な病的バリアント
BCKDHA遺伝子には、メープルシロップ尿症タイプIaを引き起こす多数の病的バリアントが報告されています。以下に代表的なバリアントをいくつか紹介します:
メンノナイト集団の創始者変異
最も有名なバリアントの一つは、ペンシルバニア州のメンノナイト集団に高頻度で見られるTyr393Asn(Y393N)変異です。この変異により、E1酵素サブユニットの正常な組み立てが妨げられ、酵素活性が完全に失われます。
2003年の報告によると、旧秩序メンノナイト集団では約7.96%がこの変異の保因者であり、出生約358人に1人の割合でMSUDタイプIaが発症しています。
その他の主要なバリアント
● 8塩基欠失(887_894del): フレームシフトを引き起こし、機能的なタンパク質が産生されない
● Gly245Arg(G245R): 中間型MSUDを引き起こし、正常の約2.66%の酵素活性が残存
● Phe364Cys(F364C): E1テトラマーの形成を妨げ、酵素活性が完全に失われる
● Cys219Trp(C219W): 触媒活性の欠如とBCKDサブユニットの組み立て不全をもたらす
● 117delC:ポルトガルのジプシーコミュニティにおける創始者変異
バリアントの機能的影響
● E1サブユニットの組み立て障害
● 酵素活性の低下または消失
● タンパク質の熱安定性の低下
● コファクター(チアミン)との結合親和性の低下
● 早期終止コドンによるタンパク質切断
BCKDHA遺伝子の保因者検査
保因者検査の重要性
メープルシロップ尿症タイプIaは深刻な影響をもたらす可能性がある疾患であるため、家族計画を考えるカップルにとって、保因者検査が重要な選択肢となります。特に、家族歴がある場合や特定の集団(メンノナイト集団など)に属している場合は、検査を検討する価値があります。
BCKDHA遺伝子の保因者頻度と検査情報
対象集団 | 保因者頻度 | 検出率 | 検査後保因確率 | 残存リスク |
---|---|---|---|---|
一般集団 | 1/321 | 98% | 1/16,001 | 1,000万人に1人未満 |
メンノナイト集団 | 1/10 | 98% | 1/451 | 1/18,040 |
拡大版保因者検査
ミネルバクリニックでは、BCKDHA遺伝子を含む多数の遺伝子を同時に調べることができる拡大版保因者検査を提供しています。この検査では、常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとる多くの遺伝性疾患の保因者状態を一度に調べることができます。
保因者検査は、単に遺伝的リスクを知るだけでなく、以下のようなメリットがあります:
● リスクを正確に把握し、情報に基づいた家族計画の決定ができる
● パートナーも保因者である場合、妊娠前診断や出生前診断などの選択肢を検討できる
● 家族の他のメンバーに関連する情報を提供できる
検査結果が陽性だった場合でも、パートナーが保因者でない限り、お子さんが疾患を発症するリスクは非常に低いことを理解することが重要です。
いつ保因者検査を検討すべきか
● メープルシロップ尿症の家族歴がある場合
● メンノナイト集団などの高リスク集団に属している場合
● 妊娠を計画している、または妊娠初期のカップル
● 血族結婚のカップル
● パートナーがメープルシロップ尿症の保因者と判明している場合
遺伝カウンセリングの重要性
遺伝子検査を受ける前後には、遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。遺伝カウンセリングでは、遺伝性疾患のリスク、検査の意義と限界、結果の解釈、そして利用可能な選択肢について専門家から詳しい説明を受けることができます。
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、BCKDHA遺伝子を含む遺伝子検査に関する専門的なアドバイスを提供しています。検査前後のカウンセリングを通じて、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたサポートを行っています。
遺伝カウンセリングは、以下のような点で重要です:
● 家系図の作成と家族歴の評価
● 適切な遺伝子検査の選択
● 検査結果の意味と影響の理解
● 心理的・感情的サポートの提供
● 今後の家族計画に関する選択肢の説明
まとめ
BCKDHA遺伝子の変異は、メープルシロップ尿症タイプIaという重篤な代謝疾患を引き起こす可能性があります。この疾患は早期発見と適切な管理によって良好な予後が期待できるため、リスクのある方々にとって保因者検査は重要な選択肢となります。
ミネルバクリニックでは、BCKDHA遺伝子を含む拡大版保因者検査を提供しており、臨床遺伝専門医によるサポートのもと、遺伝的リスクの評価と家族計画のお手伝いをしています。
遺伝性疾患に関する情報を得ることで、ご自身やご家族の健康管理に役立てることができます。詳しい情報や個別のご相談については、ぜひミネルバクリニックの遺伝子検査部門までお問い合わせください。

ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。
保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。
まずは、保因者検査について詳しく知りたい方のために、遺伝専門医が分かりやすく説明いたします。ぜひ一度ご相談ください。カウンセリング料金は30分16500円です。
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