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ATM遺伝子と毛細血管拡張性運動失調症:保因者検査で未来を守る

ATM遺伝子は私たちの体の中で重要な役割を担う遺伝子です。この遺伝子に変異が生じると、毛細血管拡張性運動失調症(毛細血管拡張性運動失調症、AT)という重篤な遺伝性疾患の原因となります。将来お子様を持つ予定のあるカップルや家族計画を考えている方にとって、ATM遺伝子について知り、保因者検査を検討することは重要な選択肢となります。

重要ポイント:

  • ATM遺伝子はDNA修復や細胞周期制御に関わる重要な遺伝子です
  • 両親ともにATM遺伝子の変異を保因している場合、子どもが毛細血管拡張性運動失調症を発症するリスクがあります
  • 一般集団におけるATM遺伝子変異の保因者頻度は約100人に1人とされています
  • 保因者検査によって、事前に自分が変異を持っているかどうかを知ることができます

ATM遺伝子とは

ATM遺伝子(Ataxia Telangiectasia Mutated)は、第11番染色体(11q22.3)に位置する遺伝子で、細胞のDNA損傷に対する応答や修復に重要な役割を果たしています。この遺伝子は66個のエクソンから成り、約150キロベースにわたる非常に大きな遺伝子です。

ATM遺伝子がコードするATMタンパク質は、DNA二本鎖切断などの損傷が生じた際に活性化され、細胞周期のチェックポイント制御やDNA修復に関わる様々なタンパク質をリン酸化します。これにより、細胞はDNA損傷を修復するための時間を確保したり、修復不可能な場合はアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導したりします。

このような重要な機能を持つATM遺伝子に変異が生じると、細胞のDNA損傷応答機構が正常に機能せず、神経変性、免疫不全、放射線感受性の増加、癌リスクの上昇など、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。

ATM遺伝子変異に関連する主な疾患

毛細血管拡張性運動失調症)

ATM遺伝子の両アレルに病原性変異がある場合、毛細血管拡張性運動失調症(AT)という常染色体劣性(潜性)の遺伝性疾患を発症します。ATの主な特徴は以下の通りです:

  • 進行性小脳性運動失調症:通常、幼児期(1〜4歳頃)に歩行時のふらつきとして現れ、徐々に進行します
  • 毛細血管拡張症:目の結膜や顔面、耳などに現れる特徴的な血管拡張
  • 免疫不全:繰り返す感染症、特に呼吸器感染を引き起こすことがあります
  • 放射線高感受性:放射線治療に対して通常よりも強い反応を示します
  • 癌リスクの上昇:特にリンパ腫や白血病などの悪性腫瘍のリスクが増加します
  • 神経学的症状:眼球運動障害、構音障害、ジストニアなどの症状が現れることがあります

この疾患の患者さんは通常、10代後半から20代で車椅子が必要になることが多く、平均寿命は短縮します。ただし、症状の重症度や進行速度には個人差があり、ATM遺伝子変異の種類によっても異なります。

ATM遺伝子と乳がんリスク

ATM遺伝子の変異を一つだけ持つ(ヘテロ接合体)場合、毛細血管拡張性運動失調症を発症することはありませんが、乳がんのリスクが約2〜5倍に増加するという研究結果があります。特に、特定のATM遺伝子変異(例:7271T>G変異)ではリスクがより高くなる可能性があります。

しかし、ATM遺伝子変異と乳がんリスクの関係については、さらなる研究が必要とされている分野でもあります。

その他の関連疾患

ATM遺伝子変異は、以下のような他の疾患や状態とも関連している可能性があります:

  • 膵臓がんのリスク増加
  • リンパ腫(特にマントル細胞リンパ腫)
  • 一部の白血病(T細胞前リンパ球性白血病など)
  • 放射線感受性の増加

ATM遺伝子変異の種類と発症メカニズム

ATM遺伝子変異には様々な種類があり、これまでに100種類以上の病原性変異が報告されています。主な変異タイプには以下のものがあります:

  • フレームシフト変異:塩基の挿入や欠失によって読み取り枠がずれ、異常なタンパク質が生成される
  • ナンセンス変異:早期終止コドンが生じ、タンパク質が途中で切断される
  • ミスセンス変異:アミノ酸が別のアミノ酸に置換される
  • スプライシング変異:mRNAのスプライシング(不要な部分の切除)に異常が生じる

毛細血管拡張性運動失調症の約70%は、タンパク質の切断(トランケーション)をもたらす変異によるものです。これらの変異によって、ATMタンパク質の機能が失われるか大幅に減少することで、疾患が発症します。

また、ATM遺伝子変異の中には、特定の民族集団で高頻度に見られるものもあります。例えば:

  • 北アフリカ系ユダヤ人集団における103C>T(R35X)変異
  • ノルウェー人におけるATCからTGATへの変異(3245delATCinsTGAT)
  • 英国人における7271T>G(V2424G)変異

このような創始者効果(founder effect)による変異の存在は、特定の民族背景を持つ方々にとって、保因者検査をより重要なものにしています。

ATM遺伝子の保因者検査について

ATM遺伝子の保因者とは、遺伝子の2つのコピーのうち1つに病原性変異を持っているが、自身は症状を示さない状態を指します。保因者同士がパートナーとなった場合、子どもが毛細血管拡張性運動失調症を発症するリスクが生じます。

ATM遺伝子に関する保因者情報
項目 内容
遺伝子 ATM
疾患 毛細血管拡張性運動失調症
遺伝形式 常染色体劣性(潜性)
対象人口 一般集団
保因者頻度 約100人に1人
検出率 約92%
検査後保因確率 1,239人に1人
残存リスク 495,600人に1人

保因者検査の意義

ATM遺伝子の保因者検査を受けることで、以下のようなメリットがあります:

  • 将来の家族計画に役立つ情報を得られる:両親が共に保因者である場合、子どもが毛細血管拡張性運動失調症を発症するリスクは25%となります
  • 様々な選択肢を検討できる:リスクを知った上で自然妊娠を選択する、配偶子提供を検討する、着床前診断や出生前診断などの選択肢を考慮するなど
  • 自身の健康管理に役立てられる:特定のATM遺伝子変異では乳がんなどのリスクが上昇する可能性があり、適切な健康管理に活かせます

保因者検査の受け方

ミネルバクリニックでは、ATM遺伝子を含む多数の遺伝子を一度に検査できる拡大版保因者検査を提供しています。この検査では、唾液や血液のサンプルから遺伝子解析を行い、様々な遺伝性疾患の保因者状態を調べることができます。

保因者検査を検討される方は、事前に遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。遺伝カウンセリングでは、検査の目的、メリット・デメリット、結果の解釈など、詳しい説明を受けることができます。

ATM遺伝子変異保因者の方へのアドバイス

ATM遺伝子変異の保因者であることが判明した場合、以下のことを考慮するとよいでしょう:

  1. パートナーの検査:パートナーもATM遺伝子変異の保因者であるかどうかを検査することで、子どもへのリスクをより正確に評価できます
  2. 家族への情報共有:血縁者も同じ変異を持っている可能性があるため、適切な情報共有と必要に応じた検査の検討が重要です
  3. 医療専門家との相談:保因者状態が判明した後の健康管理や家族計画について、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします
  4. がん検診の適切な実施:特定のATM遺伝子変異を持つ方は、乳がんなどのリスクが高まる可能性があるため、適切ながん検診の実施が重要です

保因者検査の結果は複雑な感情を引き起こすことがあります。不安や心配を感じることは自然なことですが、適切な情報と支援を得ることで、今後の選択に役立てることができます。

ミネルバクリニックからのメッセージ

遺伝情報は個人の健康や将来の家族計画に重要な影響を与える可能性がありますが、それはあくまで情報の一つです。当クリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、遺伝情報を踏まえた上で最適な選択ができるようサポートしています。どのような選択をされるかは、最終的には皆様自身の価値観や希望に基づくものです。

まとめ:ATM遺伝子と保因者検査の重要性

ATM遺伝子は、私たちの体の細胞がDNA損傷に対応するための重要な役割を担っています。この遺伝子に変異が生じると、毛細血管拡張性運動失調症という深刻な遺伝性疾患の原因となります。

保因者検査は、自分がATM遺伝子変異を持っているかどうかを知るための重要なツールです。検査結果は、将来の家族計画や健康管理に役立つ情報を提供します。

ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査を通じてATM遺伝子を含む様々な遺伝子の検査を提供しています。また、臨床遺伝専門医による適切な説明とサポートを受けることができます。

遺伝情報は時に複雑で理解しづらいものですが、適切な情報と支援があれば、ご自身やご家族の健康に関する意思決定に役立てることができます。

よくある質問

Q: ATM遺伝子変異の保因者は何か症状が出ますか?

A: 通常、ATM遺伝子変異の保因者(1つの変異を持つ方)は、毛細血管拡張性運動失調症の症状を示しません。ただし、特定の変異では乳がんなどのリスクが若干高まる可能性があります。

Q: 保因者検査はどのような方に推奨されますか?

A: 妊娠を計画しているカップル、家族内に毛細血管拡張性運動失調症や他の遺伝性疾患の患者がいる方、特定の民族背景(例:アシュケナージ系ユダヤ人、北アフリカ系ユダヤ人など)を持つ方などが検討されることが多いです。

Q: 保因者検査の結果、両親が共に保因者だった場合の選択肢は?

A: 両親が共に保因者の場合、子どもが毛細血管拡張性運動失調症を発症するリスクは25%です。選択肢としては、自然妊娠を試みる、着床前診断(体外受精で作成した胚を移植前に検査)を検討する、出生前診断を検討する、配偶子提供を検討する、養子縁組を検討するなどがあります。どの選択肢が適切かは、個人の価値観や状況によって異なります。

Q: ATM遺伝子変異と乳がんリスクの関係は?

A: 特定のATM遺伝子変異を持つ女性は、乳がんのリスクが約2〜5倍高くなる可能性があります。ただし、全てのATM遺伝子変異がリスク上昇に関連するわけではなく、リスクの程度は変異の種類によって異なります。

Q: ATM遺伝子変異の保因者が知っておくべき健康管理のポイントは?

A: 特定のATM遺伝子変異を持つ方、特に女性は、乳がん検診を適切に受けることが重要です。また、放射線診断や治療を受ける際には、主治医にATM遺伝子変異の保因者であることを伝えておくとよいでしょう。具体的な健康管理については、医療専門家に相談することをお勧めします。

この記事で提供される情報は一般的な知識を目的としたものであり、医学的アドバイスに代わるものではありません。遺伝子検査や具体的な健康上の懸念については、必ず医療専門家にご相談ください。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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