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ASPA遺伝子とカナバン病の関連性 – 遺伝子検査で知っておくべきこと

ASPA遺伝子はカナバン病という神経変性疾患の原因遺伝子として知られています。本記事ではASPA遺伝子の機能、変異によって引き起こされる疾患、検査の重要性について解説します。遺伝カウンセリングを検討されている方、保因者検査をお考えの方に役立つ情報をご提供します。

ASPA遺伝子とは

ASPA遺伝子(正式名称:Aspartoacylase)は、17番染色体の短腕13.2領域(17p13.2)に位置する遺伝子です。この遺伝子はN-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)をアスパラギン酸と酢酸に分解する酵素(アスパルトアシラーゼ、EC 3.5.1.15)をコードしています。

ASPA遺伝子によって作られる酵素は、特に脳の白質形成に重要な役割を果たしています。この酵素が正常に機能しないと、N-アセチル-L-アスパラギン酸が脳内に蓄積し、神経変性疾患の一つであるカナバン病を引き起こします。

N-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)とは

N-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)は、脳内に高濃度で存在するアミノ酸誘導体で、主に神経細胞のミトコンドリアで合成されます。健康な脳では、この物質は以下の重要な役割を担っています:

  • 神経細胞のエネルギー代謝への関与
  • 髄鞘(神経線維を覆う絶縁体)の形成に必要な脂質合成の材料提供
  • 神経細胞間の情報伝達に関与する可能性

NAAの神経毒性メカニズム:

ASPA遺伝子の変異によりアスパルトアシラーゼ酵素が機能しないと、NAAが分解されずに脳内に蓄積します。この過剰蓄積が神経毒性を示す主なメカニズムとして以下が考えられています:

  1. 浸透圧の上昇:NAA濃度の上昇により細胞内の浸透圧が高まり、水分が流入して細胞が膨張・損傷する
  2. 酢酸不足:NAA分解による酢酸供給が減少し、髄鞘形成に必要な脂質合成が阻害される
  3. 細胞内pH変化:NAA蓄積によりpHバランスが崩れ、細胞機能に影響を与える
  4. ミトコンドリア機能障害:NAAの過剰蓄積がミトコンドリアのエネルギー代謝を阻害する
  5. グリア細胞の活性化:NAA蓄積により炎症反応が誘発され、神経細胞に二次的な障害をもたらす

これらの複合的な要因により、カナバン病患者では白質(神経線維が密集する脳組織)のスポンジ状変性が生じ、進行性の神経症状を引き起こします。MRI検査ではNAAの蓄積を検出することが可能で、カナバン病の診断マーカーとしても利用されています。

ASPA遺伝子の構造と機能

ヒトのASPA遺伝子は6つのエキソンから構成されており、313個のアミノ酸からなるタンパク質をコードしています。このタンパク質は分子量約36kDaで、主に肝臓、腎臓、骨格筋、脳などの組織で発現しています。

ASPA遺伝子がコードするアスパルトアシラーゼは、次のような重要な機能を持っています:

  • 脳内でのN-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)の分解
  • 髄鞘形成に必要な脂質合成のための酢酸の供給
  • 神経系の正常な発達と機能の維持

研究により、ASPA遺伝子はヒトだけでなく、酵母、ニワトリ、ウサギ、ウシ、イヌ、マウス、ラット、サルなど様々な生物種で保存されていることが明らかになっており、進化の過程で重要な役割を果たしてきたと考えられています。

ASPA遺伝子変異とカナバン病

ASPA遺伝子の変異は、カナバン病(Canavan disease、OMIM #271900)という常染色体劣性(潜性)遺伝形式の神経変性疾患を引き起こします。カナバン病は主に乳児期に発症し、進行性の白質ジストロフィーを特徴とします。

カナバン病の主な症状

  • 巨頭症(頭囲の異常な拡大)
  • 発達の遅れ
  • 筋緊張低下(乳児期)から筋緊張亢進(成長とともに)への移行
  • 視覚・聴覚障害
  • けいれん発作
  • 摂食困難

現在、カナバン病に対する根本的な治療法は確立されていませんが、症状を緩和するための対症療法や支持療法が行われています。そのため、ASPA遺伝子の変異を早期に特定することで、適切な医療ケアの計画を立てることが重要です。

ASPA遺伝子の主な変異タイプ

ASPA遺伝子には多くの病原性変異が報告されていますが、特に頻度が高いものとして以下の変異が知られています:

主要なASPA遺伝子変異

  • E285A(Glu285Ala):854A-C変異。アシュケナージ系ユダヤ人で高頻度に見られる創始者変異で、この集団のカナバン病患者の約83%の染色体に見られます。
  • Y231X(Tyr231Ter):693C-A変異。アシュケナージ系ユダヤ人で2番目に多い変異で、この集団のカナバン病患者の約15%の染色体に見られます。
  • A305E(Ala305Glu):914C-A変異。主に非ユダヤ系ヨーロッパ人に見られ、この集団のカナバン病患者の約60%の染色体に見られます。

その他にも、C152R(Cys152Arg)、C218X(Cys218Ter)、4塩基欠失(876AGAA)、エキソン4の欠失など、様々な変異が報告されています。これらの変異はASPA遺伝子の機能を低下または喪失させ、酵素活性の減少や消失を引き起こします。

カナバン病の軽症型

一部のASPA遺伝子変異は、典型的なカナバン病よりも症状が軽い「軽症型カナバン病」を引き起こすことが知られています。例えば、R71H(Arg71His)変異は残存酵素活性を有するため、発症が遅く、症状も軽度である傾向があります。

軽症型カナバン病の特徴

  • 巨頭症がない場合がある
  • 発達の遅れは軽度から中等度
  • けいれん発作がないことがある
  • 脳内N-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)レベルの上昇が典型例より低い

このように、ASPA遺伝子の変異タイプによって症状の重症度が異なるため、遺伝子検査による正確な変異の特定が予後や治療方針の決定に重要です。

ASPA遺伝子と保因者検査

カナバン病は常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとるため、両親がともにASPA遺伝子の変異を1つずつ持つ保因者である場合、子どもがカナバン病を発症するリスクは25%となります。そのため、特にリスクが高い集団(アシュケナージ系ユダヤ人など)では、ASPA遺伝子の保因者検査が推奨されています。

ASPA遺伝子の保因者頻度

遺伝子 疾患 遺伝形式 対象人口 保因者頻度 検出率
ASPA カナバン病 常染色体劣性(潜性) 一般集団 1/300 97%
アシュケナージ系ユダヤ人集団 1/55 96%

ミネルバクリニックでは、ASPA遺伝子を含む多数の遺伝子を検査する「拡大版保因者検査」を提供しています。この検査により、カナバン病をはじめとする様々な遺伝性疾患の保因者であるかどうかを調べることができます。

カナバン病の診断と検査

カナバン病の診断は、臨床症状、画像検査(MRIなど)、生化学的検査、ASPA遺伝子検査などの組み合わせによって行われます。

診断方法

  • 生化学的検査:尿中のN-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)レベルの測定
  • 画像検査:MRIで特徴的な白質の異常が確認される
  • 遺伝子検査ASPA遺伝子の変異解析による確定診断

カナバン病が疑われる場合や、家族歴がある場合には、早期にASPA遺伝子検査を受けることをお勧めします。また、妊娠を考えているカップルで、特にリスクの高い集団に属する場合は、妊娠前の保因者検査も選択肢の一つです。

遺伝カウンセリングの重要性

ASPA遺伝子検査を受ける前後には、遺伝カウンセリングを受けることが重要です。遺伝カウンセリングでは、検査の意義、結果の解釈、今後の選択肢などについて、専門的な立場から情報提供やサポートを受けることができます。

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、ASPA遺伝子を含む遺伝子検査に関する遺伝カウンセリングを提供しています。検査前後のご不安やご質問にお答えし、患者様一人ひとりに合わせた情報提供を行っています。

ASPA遺伝子研究の最新動向

ASPA遺伝子とカナバン病に関する研究は現在も進行中です。特に治療法の開発に向けた研究が活発に行われています:

治療法開発の研究動向

  • 遺伝子治療:正常なASPA遺伝子を導入する方法
  • 酵素補充療法:不足している酵素を外部から補充する方法
  • 薬物療法:N-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)の蓄積を抑制する薬剤の開発
  • 幹細胞治療:健康な細胞を移植する方法

2021年の研究では、ナトリウム依存性ジカルボン酸トランスポーター(SLC13A3)の阻害がカナバン病モデルマウスの症状を改善することが報告されており、新たな治療標的として注目されています。

まとめ

ASPA遺伝子はカナバン病という深刻な神経変性疾患の原因遺伝子です。この遺伝子の変異により、脳内でのN-アセチル-L-アスパラギン酸(NAA)の代謝が障害され、白質の形成や機能に問題が生じます。

ASPA遺伝子の保因者検査は、特にリスクの高い集団において重要な役割を果たします。ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査を通じてASPA遺伝子を含む多数の遺伝子を検査することができます。

遺伝子検査を検討される際には、専門的な知識を持つ臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。適切な情報提供と心理的サポートを受けながら、ご自身やご家族に最適な選択を行うことが重要です。

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参考文献

  1. Kaul R, Gao GP, Balamurugan K, Matalon R. Cloning of the human aspartoacylase cDNA and a common missense mutation in Canavan disease. Nat Genet. 1993;5(2):118-123.
  2. Matalon R, Michals K, Kaul R. Canavan disease: from spongy degeneration to molecular analysis. J Pediatr. 1995;127(4):511-517.
  3. Madhavarao CN, Arun P, Moffett JR, et al. Defective N-acetylaspartate catabolism reduces brain acetate levels and myelin lipid synthesis in Canavan’s disease. Proc Natl Acad Sci USA. 2005;102(14):5221-5226.
  4. Wang W, Zhao Y, Hui Y, et al. Inhibition of Slc13a3 promotes recovery from Canavan disease by modulating NAA catabolism. J Clin Invest. 2021;131(19):e148101.
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保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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