ASNS遺伝子は、アスパラギン合成酵素というタンパク質をコードする遺伝子です。この遺伝子に変異が生じるとアスパラギン合成酵素欠損症という稀な遺伝性疾患を引き起こします。この記事では、ASNS遺伝子の機能や関連する疾患について詳しく解説します。


ASNS遺伝子とは

ASNS遺伝子(アスパラギン合成酵素遺伝子)は、第7染色体長腕21.3領域(7q21.3)に位置しています。この遺伝子はアスパラギン合成酵素(EC 6.3.5.4)というタンパク質を産生するための設計図となっています。

アスパラギン合成酵素は、グルタミンからアンモニアをアスパラギン酸に転移し、アミノ酸の一種であるアスパラギンを合成する酵素です。ほとんどの哺乳類細胞で発現しており、特に脳の発達において重要な役割を果たしています。

ASNS遺伝子は13個のエクソンを持ち、約35kbにわたって広がっています。多くのハウスキーピング遺伝子と同様に、この遺伝子の5’上流領域には従来のTATAボックスやCAATボックスが欠けています。


ASNS遺伝子の機能

ASNS遺伝子が産生するアスパラギン合成酵素は以下のような重要な機能を持っています:

  • アミノ酸アスパラギンのde novo合成(体内での新規合成)
  • 脳の発達と機能の維持
  • 神経細胞の正常な活動のサポート
  • 細胞増殖周期の調節への関与

研究によると、栄養ストレスに応答してASNS遺伝子の転写を活性化する過程では、ATF4(Activating Transcription Factor 4)が重要な役割を果たしていることが示されています。ATF4は栄養感知応答エレメント-1(NSRE1)に結合することで、この遺伝子の発現を調節しています。


アスパラギン合成酵素欠損症について

ASNS遺伝子の両アレルに病原性バリアント(変異)が存在すると、アスパラギン合成酵素欠損症(Asparagine Synthetase Deficiency, ASNSD)を引き起こします。この疾患は常染色体劣性(潜性)の遺伝形式をとります。

重要な特徴

アスパラギン合成酵素欠損症は、重篤な神経発達障害を特徴とする稀な遺伝性疾患です。出生前検査や保因者検査による早期の情報取得が重要です。

アスパラギン合成酵素欠損症の主な特徴は以下の通りです:

  • 小頭症(頭囲が標準より小さい)
  • 重度の精神運動発達遅滞
  • 進行性脳症
  • てんかん発作または過剰驚愕反応(hyperekplexia)
  • 脳画像検査での大脳皮質萎縮、脳室拡大、皮質形成異常

患者家族向け情報

当院では、アスパラギン合成酵素欠損症に関連する遺伝子変異について、NIPT検査や保因者検査を提供しています。遺伝カウンセリングで詳しい情報をお伝えします。

この疾患は子宮内または出生時に発症し、多くの場合は乳児期に死亡する重篤な疾患です。


ASNS遺伝子の病原性バリアント

変異に関する重要情報

ASNS遺伝子の変異は主にミスセンス変異であり、酵素機能の低下を引き起こします。特定の民族集団で頻度が高い変異が確認されています。

ASNS遺伝子には複数の病原性バリアント(変異)が報告されています。主なものには以下があります:

変異名 変異の種類 報告された集団
F362V (Phe362Val) ミスセンス変異 イラン系ユダヤ人家系
R550C (Arg550Cys) ミスセンス変異 バングラデシュ系、フランス系カナダ人家系
A6E (Ala6Glu) ミスセンス変異 フランス系カナダ人家系
R340H (Arg340His) ミスセンス変異 インド系家系
G366E (Gly366Glu) ミスセンス変異 複合ヘテロ接合体報告例
V243A (Val243Ala) ミスセンス変異 複合ヘテロ接合体報告例
A380S (Ala380Ser) ミスセンス変異 インド系家系
R49Q (Arg49Gln) ミスセンス変異 エミラティ系家系

特定集団における注意点

F362V変異はイラン系ユダヤ人集団に創始者効果(founder effect)が認められており、この集団での保因者頻度は80人に1人と高値です。該当する方は保因者検査をご検討ください。

これらの変異は、アスパラギン合成酵素の機能を低下させるか、タンパク質の安定性に影響を与えることで疾患を引き起こすと考えられています。


ASNS遺伝子の保因者頻度と検査情報

ASNS遺伝子変異の保因者頻度は集団によって異なります。以下に保因者頻度と関連情報をまとめました:

遺伝子 疾患 遺伝形式 対象人口 保因者頻度 検出率 検査後保因確率 残存リスク
ASNS アスパラギン合成酵素欠損症 常染色体劣性(潜性) 一般集団 500人に1人未満 99% 49,901人に1人 1,000万人に1人未満
ASNS アスパラギン合成酵素欠損症 常染色体劣性(潜性) イラン系ユダヤ人集団 80人に1人 99% 7,901人に1人 2,528,320人に1人

一般集団ではASNS遺伝子変異の保因者頻度は比較的低いですが、特定の集団(特にイラン系ユダヤ人集団)では頻度が高くなっています。この遺伝子は拡大版保因者検査で調べることができます。


ASNS遺伝子と疾患メカニズム

ASNS遺伝子の機能喪失型変異は、アスパラギン合成酵素の活性低下や安定性の問題を引き起こします。研究によると、脳は局所的なアスパラギンのde novo合成に依存していると考えられており、これが疾患の症状が主に神経学的に限定される理由かもしれません。

アスパラギン合成酵素が機能しないと、以下のような問題が生じます:

  • 脳内のアスパラギン濃度の低下
  • アスパラギン酸やグルタミン酸などの前駆体の蓄積
  • 神経興奮性の増加、発作活動、神経細胞障害
  • 脳の構造的発達異常

マウスモデル研究では、Asns遺伝子の低形成変異(残存酵素活性約20%)を持つホモ接合体マウスは、皮質厚の減少や脳室の拡大などの構造的脳異常を示し、学習や記憶にも欠陥があることが報告されています。


ミネルバクリニックのNIPTでのASNS遺伝子検査

ミネルバクリニックでは、NIPT(非侵襲的出生前検査)によって、ASNS遺伝子の以下の特定の病的変異を検査することが可能です:

  • c.1648C>T(R550C変異)
  • c.1193A>G
  • c.1084T>G(F362V変異)
  • c.17C>A(A6E変異)
  • c.1614G>A
  • c.1556G>A
  • c.1165G>C
  • c.146G>A(R49Q変異)
  • c.139T>G

これらの変異は、アスパラギン合成酵素欠損症を引き起こすことが知られている特定のバリアントです。妊娠中にこれらの変異について胎児の検査を希望される方は、当院のNIPT検査をご検討ください。


保因者検査と遺伝カウンセリング

ASNS遺伝子変異の保因者であるかどうかを調べるには、拡大版保因者検査が有効です。特に以下のような方には検査をお勧めします:

  • アスパラギン合成酵素欠損症の家族歴がある方
  • イラン系ユダヤ人など、特定の民族的背景を持つ方
  • 妊娠を計画している方で、家族計画について情報を得たい方
  • 血縁結婚のカップル

保因者検査の結果を正しく理解し、その後の選択肢について検討するためには、遺伝カウンセリングが重要です。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐し、患者様一人ひとりに合わせた遺伝カウンセリングを提供しています。


まとめ

ASNS遺伝子は、アミノ酸アスパラギンの合成に関わる重要な酵素をコードしています。この遺伝子の両アレルに変異があると、重篤な神経発達障害であるアスパラギン合成酵素欠損症を引き起こします。

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検査オプションのまとめ

  • NIPT検査:特定の9つの病的変異について胎児の検査が可能
  • 拡大版保因者検査:妊娠前のパートナー両方の保因者状態を確認可能
  • 遺伝カウンセリング:臨床遺伝専門医による個別相談

一般集団ではASNS遺伝子変異の保因者頻度は低いですが、特定の集団では高くなっています。拡大版保因者検査を受けることで、自分が保因者であるかどうかを知ることができます。

遺伝子検査に関するご質問や不安がある方は、当院の臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングをご利用ください。

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ミネルバクリニックでは、ASNS遺伝子に関連する各種検査について、臨床遺伝専門医による詳しい説明と遺伝カウンセリングを提供しています。ご不明な点やご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。

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ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。

保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。

まずは、保因者検査について詳しく知りたい方のために、遺伝専門医が分かりやすく説明いたします。ぜひ一度ご相談ください。カウンセリング料金は30分16500円です。
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