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AP1S1遺伝子の解説と関連疾患(MEDNIK症候群)


AP1S1遺伝子は、細胞内でのタンパク質輸送に重要な役割を果たすクラスリン被覆小胞に関連するタンパク質複合体の一部を形成します。この遺伝子の変異は、神経障害、難聴、腸症、魚鱗癬、角化症などの症状を特徴とするMEDNIK症候群という稀な遺伝性疾患を引き起こします。本記事では、AP1S1遺伝子の機能と、関連する疾患について詳しく解説します。

AP1S1遺伝子とは

AP1S1遺伝子(Adaptor-related Protein complex 1, Sigma-1 subunit)は、ヒトの7番染色体の長腕22.1領域(7q22.1)に位置しています。この遺伝子は、クラスリン被覆小胞によるタンパク質輸送に関わるAP-1複合体の小サブユニット(σ1サブユニット)をコードしています。

クラスリン被覆小胞とは

クラスリン被覆小胞は、細胞内で物質を選択的に輸送するための膜で覆われた袋状構造です。その最も特徴的な点は外側を覆うクラスリンというタンパク質で、これが三本の脚を持つ「トリスケリオン」と呼ばれる単位が集まってサッカーボールのような格子状の籠構造を形成します。

クラスリン被覆小胞の主な機能は:

  • 細胞膜での受容体介在性エンドサイトーシス(AP-2複合体が関与)
  • ゴルジ体からエンドソームやリソソームへの物質輸送(AP-1複合体が関与)
  • リサイクリングエンドソームから細胞膜への輸送

クラスリン格子と膜の間には、AP1S1が構成要素となるAP-1複合体などのアダプター複合体が存在し、積荷タンパク質の選別と小胞形成の両方に関わっています。クラスリン被覆小胞は細胞の「郵便配達システム」とも言える重要な仕組みであり、その機能不全は様々な疾患につながります。

AP1S1遺伝子の別称としては、以下のようなものがあります:

  • CLAPS1(Clathrin-Associated/Assembly/Adaptor Protein, Small 1)
  • AP19(Clathrin Adaptor Protein 19)
  • クラスリンアダプター複合体AP1、σ1Aサブユニット

🧬 遺伝子情報
染色体位置:7q22.1
ゲノム座標(GRCh38):7:101,154,476-101,161,276

AP1S1遺伝子の機能

AP1S1遺伝子がコードするタンパク質は、クラスリンとその関連するヘテロ四量体タンパク質複合体(APs)の一部を形成します。クラスリンと APsは、哺乳類細胞のゴルジ複合体や細胞膜に局在するクラスリン被覆構造の主要なタンパク質成分です。

AP-1複合体の構造と役割

AP-1複合体は、以下の4つのサブユニットから構成されています:

  • 2つの大サブユニット:β’-アダプチンとγ-アダプチン
  • 中サブユニット(μ):AP47
  • 小サブユニット(σ):AP19(AP1S1)

AP-1複合体は主にゴルジ体から他の細胞内コンパートメントへのタンパク質輸送に関与しています。特に、マンノース6-リン酸受容体などの積荷タンパク質の選別と輸送において重要な役割を果たしています。

細胞分裂における役割

研究によれば、AP1S1を含む37の遺伝子が細胞分裂に必要であることが確認されています。これらの遺伝子をノックダウンすると、有糸分裂紡錘体の欠陥が生じることがあります。このことから、AP1S1は細胞周期の正常な進行にも関与していると考えられています。

AP1S1遺伝子関連疾患:MEDNIK症候群

MEDNIK症候群(Mental retardation, Enteropathy, Deafness, peripheral Neuropathy, Ichthyosis, and Keratoderma syndrome)は、AP1S1遺伝子の変異によって引き起こされる稀な常染色体劣性(潜性)遺伝疾患です。

MEDNIK症候群の臨床症状

この症候群の主な特徴は、その頭字語が示すように以下の症状です:

  • Mental retardation – 知的発達障害
  • Enteropathy – 腸症(下痢や栄養吸収障害など)
  • Deafness – 難聴
  • Neuropathy – 末梢神経障害
  • Ichthyosis – 魚鱗癬(乾燥した鱗状の皮膚)
  • Keratoderma – 角化症(手掌や足底の皮膚肥厚)

患者さんは通常、幼少期から症状を示し、特に皮膚症状と神経学的症状が目立ちます。成長の遅れや肝機能障害などが見られることもあります。

MEDNIK症候群は非常に稀な疾患で、世界中でもごく少数の症例しか報告されていません。特にケベック州の特定の地域や、近親婚の背景を持つ家族での報告が多いことが特徴です。

遺伝子 疾患 遺伝形式 対象人口 保因者頻度 検出率 検査後保因確率 残存リスク
AP1S1 MEDNIK症候群 常染色体劣性(潜性) 一般集団 <1/500 99% 1/49,901 <1/1000万

AP1S1遺伝子のバリアント

MEDNIK症候群を引き起こすAP1S1遺伝子の主要な変異(バリアント)として、以下のようなものが報告されています:

スプライシング変異(IVS2AS, A-G, -2)

ケベック州の4家系のMEDNIK症候群患者で同定された変異で、AP1S1遺伝子のイントロン2におけるA→G置換(スプライス部位変異)です。この変異により、エクソン3のスキッピングと早期終止コドンの導入が起こり、機能の喪失につながります。

患者の線維芽細胞では、完全長のAP1S1 mRNAは見られませんが、隠れたスプライス受容部位の使用によって生成されるフレーム内欠失を持つmRNAアイソフォームが存在します。患者のmRNA量は予想される量の10%未満ですが、フレーム内欠失タンパク質が残存活性に貢献している可能性があります。

フレームシフト変異(1-BP DUP, 364G)

セファルディ系ユダヤ人の両親から生まれた8歳の女児と、近親婚のトルコ人の両親から生まれた10歳の女児のMEDNIK症候群患者で同定された変異です。AP1S1遺伝子のエクソン4における1塩基挿入(c.364dupG)で、フレームシフトを引き起こし、17アミノ酸後に終止コドンが生じます(Glu122GlyfsTer18)。

この変異を持つ患者の線維芽細胞では、AP1S1のmRNA発現が80倍減少し、AP1S1タンパク質の発現が消失していました。また、銅含有酵素の発現低下や、ATP7Aタンパク質の局在異常なども観察されています。

診断と治療

MEDNIK症候群の診断は、臨床症状、家族歴、およびAP1S1遺伝子の遺伝子検査に基づいて行われます。

診断

  • 臨床的特徴の評価(皮膚症状、神経学的評価、聴力検査など)
  • AP1S1遺伝子の遺伝子検査
  • 家族歴の詳細な調査

治療とケア

現在、MEDNIK症候群に対する特異的な治療法はありませんが、症状に対する対症療法とサポートが行われます:

  • 皮膚症状に対する皮膚科的ケア
  • 難聴に対する聴覚補助器具
  • 栄養サポートと腸症状の管理
  • 神経学的症状に対する物理療法とリハビリテーション
  • 発達支援と早期介入プログラム
遺伝性疾患について専門医に相談されたい方へ

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供しています。遺伝性疾患や遺伝子検査についてのご質問やご相談がありましたら、お気軽にご予約ください。

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AP1S1遺伝子の保因者検査

AP1S1遺伝子変異の保因者であるかどうかを調べるために、拡大版保因者検査が利用可能です。保因者検査は、自分自身は症状がなくても、将来子どもに遺伝性疾患を引き継ぐ可能性がある方に推奨されます。

保因者検査の重要性

常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとるMEDNIK症候群では、両親がともに保因者である場合、子どもが疾患を発症するリスクは25%となります。保因者検査によって、このようなリスクを事前に知ることができます。

検査対象者

  • MEDNIK症候群の家族歴がある方
  • ケベック州のフランス系カナダ人、セファルディ系ユダヤ人、トルコ人など、特定の民族的背景を持つ方
  • 妊娠を計画している、または妊娠初期のカップル
AP1S1遺伝子を含む拡大版保因者検査をご検討の方へ

ミネルバクリニックでは、AP1S1遺伝子を含む多数の遺伝子を対象とした拡大版保因者検査を提供しています。将来のお子さまの健康について不安がある方は、検査についてご相談ください。

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AP1S1遺伝子の動物モデル研究

ゼブラフィッシュにおけるAp1s1遺伝子のノックダウン実験は、MEDNIK症候群の病態理解に貢献しています。

ゼブラフィッシュモデルの知見

Ap1s1遺伝子をノックダウンしたゼブラフィッシュは、野生型と比較して体が小さく、色素沈着が減少していました。また、皮膚組織に顕著な変化が見られ、ヒレの構造も乱れていました。免疫標識によって、ラミニンやカドヘリンといった分子の皮膚における異常な局在が確認され、これが表皮層の完全性喪失につながると予測されています。

また、Ap1s1ノックダウンゼブラフィッシュでは、重度の運動障害や脊髄発達の障害も観察され、介在ニューロンの数が減少していました。これらの欠陥は、ヒトの野生型AP1S1の注入によって救済されることが示されています。Ap1s1のノックダウンは、後期胚発生段階では致命的でした。

これらの知見は、AP1S1遺伝子が皮膚の正常な発達と神経系の機能において重要な役割を果たしていることを裏付けています。

まとめ:AP1S1遺伝子の重要性

AP1S1遺伝子は、細胞内のタンパク質輸送システムにおいて重要な役割を果たしています。この遺伝子の変異によるMEDNIK症候群は、皮膚、神経系、聴覚、腸管などの多様な組織に影響を及ぼす複雑な疾患です。

AP1S1遺伝子の研究は、タンパク質輸送の基本的なメカニズムを理解するだけでなく、MEDNIK症候群などの稀な遺伝性疾患の治療法開発にも貢献する可能性があります。

遺伝性疾患に関する情報や検査についてご不明な点がありましたら、専門医による遺伝カウンセリングをご利用いただくことをお勧めします。

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ミネルバクリニックでは、遺伝学的知識に基づいた質の高い医療サービスを提供しています。AP1S1遺伝子関連疾患を含む遺伝性疾患についてのご質問は、臨床遺伝専門医にご相談ください。

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ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。

保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。

まずは、保因者検査について詳しく知りたい方のために、遺伝専門医が分かりやすく説明いたします。ぜひ一度ご相談ください。カウンセリング料金は30分16500円です。
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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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