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AMT遺伝子とは?機能・変異・関連疾患を徹底解説


AMT遺伝子は、グリシン代謝に必須の酵素系である「グリシン開裂システム」の重要な構成成分をコードする遺伝子です。この遺伝子の変異は、主にグリシン脳症(非ケトーシス型高グリシン血症)という重篤な代謝性疾患を引き起こします。このページでは、AMT遺伝子の構造、機能、関連疾患、そして遺伝子検査の重要性について詳しく解説します。

AMT遺伝子の基本情報

AMT遺伝子(Aminomethyltransferase)は、染色体3p21.31に位置しており、グリシン開裂システムのT蛋白質をコードしています。このシステムは、体内でのグリシン分解に不可欠であり、中枢神経系の正常な機能維持に重要な役割を果たしています。

AMT遺伝子の特徴

  • 公式名称: Aminomethyltransferase (AMT)
  • 染色体上の位置: 3p21.31
  • ゲノム座標 (GRCh38): 3:49,416,778-49,422,473
  • 遺伝子サイズ: 約6kb
  • エクソン数: 9個

この遺伝子は、グルココルチコイド応答性エレメントや甲状腺ホルモン応答性エレメントを含むことが確認されており、これらはホルモンによる遺伝子発現調節に関わっています。

グリシン開裂システムとAMT遺伝子の役割

グリシン開裂システム(EC 2.1.2.10)は、ミトコンドリア内に局在する酵素複合体で、4つの主要なタンパク質成分から構成されています:

  1. P蛋白質(ピリドキサルリン酸依存性グリシン脱炭酸酵素; GLDC)
  2. H蛋白質(リポ酸含有タンパク質; GCSH)
  3. T蛋白質(テトラヒドロ葉酸要求性酵素; AMT
  4. L蛋白質(リポアミドデヒドロゲナーゼ; DLD)

AMT遺伝子がコードするT蛋白質はアミノメチルトランスフェラーゼとも呼ばれ、グリシンの分解過程において中間代謝物を処理する重要な働きをしています。この酵素活性が低下すると、体内でグリシンが蓄積し、特に中枢神経系に悪影響を及ぼします。

研究によると、AMT遺伝子は胃と骨髄を除くほとんどすべての組織で発現しており、特に中枢神経系における発現が重要視されています。

AMT遺伝子変異と関連疾患:グリシン脳症

グリシン脳症(Glycine encephalopathy、GCE2; OMIM 620398)は、非ケトーシス型高グリシン血症(NKH)とも呼ばれる代謝性疾患です。この疾患は主にAMT遺伝子の変異によって引き起こされます。

疾患の特徴

  • 遺伝形式: 常染色体劣性(潜性)
  • 主な症状: 新生児期の筋緊張低下、けいれん、呼吸障害、意識障害
  • 重症度: 典型的には重症だが、変異の種類により軽症例も存在
  • 診断: 血液および脳脊髄液中のグリシン濃度上昇、グリシン/セリン比の上昇
  • 予後: 早期発症の重症例では予後不良、一部の軽症例ではより良好な発達予後

グリシン脳症患者の中で、約20%がAMT遺伝子の変異を持つと報告されています。残りの約80%はGLDC遺伝子の変異によるものが大部分を占めています。

遺伝性疾患について詳しく知りたい方、ご家族に類似の症状がある方は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングをご検討ください。当院では専門的な知識と経験を持つ臨床遺伝専門医が常駐しております。

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AMT遺伝子の主要なバリアント(変異)

AMT遺伝子には複数の病原性バリアントが報告されており、それぞれが異なる臨床症状や重症度と関連しています。以下に主要なバリアントをいくつか紹介します:

代表的なAMT遺伝子バリアント

  • G269D (Gly269Asp): 典型的なグリシン脳症との関連が強い変異で、保存性の高いアミノ酸残基の変化により酵素活性が著しく低下します。
  • G47R (Gly47Arg): 比較的軽症のグリシン脳症と関連する変異です。
  • R320H (Arg320His): G47Rとともに複合ヘテロ接合性を示す例があり、典型例より軽症の臨床像を呈することがあります。非ケトーシス型高グリシン血症患者のアレルの約7%を占めるとの報告があります。
  • H42R (His42Arg): イスラエル系アラブ人の大家系で見つかった変異です。
  • 183delC: エクソン1での1塩基欠失により、短縮型ペプチドが生成される変異です。
  • D276H (Asp276His): 日本人患者で183delCとの複合ヘテロ接合性を示した例があります。
  • Q192X (Gln192Ter): 新生児発症型グリシン脳症との関連が報告されています。
  • IVS7, G-A, -1: イントロン7のスプライス部位における変異で、複数の無関係な家系で同定されています。
  • S117L (Ser117Leu): 高度に保存されたアミノ酸残基の変異で、タンパク質が不安定化し、酵素活性が正常の約9%まで低下します。

興味深いことに、より保存性の高いアミノ酸残基に変異が生じると、より重篤な臨床症状を呈する傾向があります。例えば、G269DはE.coliを含む様々な種で保存されている残基に影響するため、典型的な重症例との関連が強いです。一方、G47RやR320Hは大腸菌では別のアミノ酸に置換されている部位であり、比較的軽症の表現型と関連しています。

AMT遺伝子の保因者検査について

AMT遺伝子変異の保因者検査は、将来的に子どもを持つことを考えているカップルにとって重要な情報となる場合があります。特に家族歴がある場合や、特定の集団に属する場合は検討の価値があります。

保因者頻度と検査の意義

対象集団 保因者頻度 検出率 検査後保因確率 残存リスク
一般集団 1/373人 98% 1/18,601人 1,000万人に1人未満
フィンランド人集団 1/117人 98% 1/5,801人 1/2,714,868人

ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査の一環としてAMT遺伝子を含む多数の遺伝子について検査を提供しています。両親がともに保因者である場合、子どもがグリシン脳症を発症するリスクは25%(4分の1)となります。

ご自身やパートナーが保因者であるかどうかを知ることで、家族計画に役立てることができます。ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査を通じてAMT遺伝子を含む多数の遺伝子変異を検出可能です。

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グリシン脳症の診断と管理

グリシン脳症の診断は、臨床症状の評価に加えて、以下の検査に基づいて行われます:

  • 血液および脳脊髄液中のグリシン濃度測定
  • 酵素活性測定(肝生検等の組織サンプルを用いる場合あり)
  • AMT遺伝子を含むグリシン開裂システム関連遺伝子の遺伝子検査

現時点では、グリシン脳症に対する根治的治療法は確立されていませんが、症状管理を目的とした対症療法が行われます:

  • 抗てんかん薬によるけいれんのコントロール
  • ベンゾエート投与によるグリシン濃度の低減
  • デキストロメトルファンなどのNMDA受容体拮抗薬(一部の患者で有効)
  • 理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーション
  • 栄養サポートと呼吸管理

早期診断と適切な管理により、特に軽症例では発達予後が改善する可能性があります。また、出生前診断や着床前診断も選択肢として考慮されることがあります。

AMT遺伝子関連疾患と遺伝カウンセリングの重要性

AMT遺伝子変異によるグリシン脳症は常染色体劣性(潜性)遺伝形式を示すため、両親がともに保因者である場合に子どもが発症するリスクがあります。このような遺伝性疾患に関する理解と対応策を検討するためには、専門的な遺伝カウンセリングが非常に重要です。

遺伝カウンセリングでは、以下のような情報提供と支援が行われます:

  • 疾患の性質、遺伝形式、再発リスクに関する情報提供
  • 遺伝子検査の選択肢と限界についての説明
  • 家族計画に関する選択肢の提示(出生前診断、着床前診断など)
  • 心理的サポートと適切な医療・福祉リソースへの紹介

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が常駐しており、AMT遺伝子を含む遺伝性疾患に関する専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。

グリシン脳症の家族歴がある方、保因者検査をご検討の方、または遺伝性疾患について詳しく知りたい方は、専門家による遺伝カウンセリングをお勧めします。

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AMT遺伝子研究の進展と将来展望

グリシン開裂システムとそれに関連する遺伝子の研究は、新たな治療法開発の可能性を広げています。AMT遺伝子に関する最新の研究では、以下のような進展が見られています:

  • 遺伝子治療アプローチの検討
  • 薬理学的シャペロンによる変異タンパク質の安定化
  • 新規薬剤によるグリシン代謝経路の修飾
  • モデル動物やオルガノイドを用いた病態メカニズムの解明

特に、遺伝子型と表現型の相関に関する理解が深まることで、より個別化された治療アプローチの開発が期待されています。また、患者レジストリの整備と国際的な研究協力により、希少疾患であるグリシン脳症に対する治療法開発が加速される可能性があります。

まとめ:AMT遺伝子と健康管理

AMT遺伝子は、グリシン代謝における重要な役割を担っており、その変異はグリシン脳症という深刻な代謝性疾患を引き起こす可能性があります。この遺伝子に関する理解を深めることは、リスク評価、早期診断、適切な治療管理において非常に重要です。

特に家族計画を考えているカップルにとって、保因者検査は重要な選択肢となり得ます。ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査を通じてAMT遺伝子を含む多数の遺伝子変異を検出可能であり、結果に基づいた専門的な遺伝カウンセリングも提供しています。

遺伝性疾患に関するご不安やご質問がある方は、ぜひミネルバクリニックにご相談ください。臨床遺伝専門医による専門的なアドバイスと、一人ひとりに合わせた遺伝カウンセリングをご提供しています。

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参考文献

  1. Nanao K, et al. (1994) Identification of a nonsense mutation in the glycine decarboxylase gene in a family with non-ketotic hyperglycinemia.
  2. Kure S, et al. (1998) Mutations and polymorphisms in GLDC gene in patients with nonketotic hyperglycinemia.
  3. Toone JR, et al. (2000) Molecular genetic analysis of 22 families with non-ketotic hyperglycinemia.
  4. Applegarth DA and Toone JR. (2001) Nonketotic hyperglycinemia (glycine encephalopathy): laboratory diagnosis.
  5. Swanson MA, et al. (2017) Cooccurrence of 2 inborn errors of metabolism: Glycine encephalopathy and D-glyceric aciduria.
  6. OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man) #238310: Aminomethyltransferase; AMT.
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ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。

保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。

まずは、保因者検査について詳しく知りたい方のために、遺伝専門医が分かりやすく説明いたします。ぜひ一度ご相談ください。カウンセリング料金は30分16500円です。
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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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