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ADAMTS2遺伝子と関連疾患:エーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)の原因遺伝子について

ADAMTS2遺伝子は、コラーゲン形成に重要な役割を果たすプロテアーゼをコードしており、この遺伝子の変異はエーラス・ダンロス症候群の皮膚弛緩型(デルマトスパラクシス型)を引き起こします。このページでは、ADAMTS2遺伝子の機能、関連疾患、遺伝形式、および遺伝子検査の重要性について詳しく解説します。

ADAMTS2遺伝子とは

ADAMTS2遺伝子は、正式名称「A Disintegrin-like And Metalloproteinase with Thrombospondin type 1 motif, 2」の略称で、ヒトの5番染色体長腕(5q35.3)に位置しています。この遺伝子は、プロコラーゲンI N-プロテイナーゼ(NPI)と呼ばれる酵素をコードしており、この酵素はI型およびII型プロコラーゲンのN-プロペプチドを切断する重要な役割を担っています。

ADAMTS2は、ADAMTS(アダムツ)ファミリーに属する遺伝子で、このファミリーは複数のメンバーからなり、それぞれが組織の発達や恒常性維持に重要な役割を果たしています。ADAMTS2は特に結合組織の形成において中心的な役割を担っています。

遺伝子の構造としては、22個のエクソンからなり、複数の転写バリアントが存在します。主な転写産物は異なる3’UTR(非翻訳領域)を持つ2種類の長い転写物と、より短いスプライスバリアントがあります。長い転写物は同一の1,211アミノ酸タンパク質をコードしており、短いスプライスバリアントは最初の543アミノ酸は同じですが、C末端ドメインが異なる23アミノ酸配列に置き換わっています。

ADAMTS2遺伝子がコードするタンパク質は、以下のような重要な構造ドメインを持っています:

  • N末端シグナルペプチド:タンパク質の分泌経路を決定
  • プロドメイン:タンパク質の活性を調節
  • メタロプロテイナーゼ触媒ドメイン:亜鉛結合部位を含み、酵素活性の中心
  • ディスインテグリンドメイン:細胞接着や相互作用に関与
  • トロンボスポンジン1型リピート:基質認識や結合に重要
  • システインリッチドメイン:タンパク質の立体構造の維持に関与
  • さらに3つのトロンボスポンジン1型リピート:酵素活性の増強に寄与
  • C末端プロパージンドメイン:酵素活性の負の調節に関与

ヒトADAMTS2タンパク質はウシのものと93%の相同性を示し、両者とも2つの潜在的なサブチリシン様切断部位、RGDモチーフ、および主にC末端ドメインに潜在的な糖鎖付加部位を持っています。

ADAMTS2遺伝子の最も重要な機能は、I型およびII型プロコラーゲンのN-プロペプチドを切断することですが、研究によれば、V型プロコラーゲンの処理など他の基質に対しても作用する可能性が示唆されています。この酵素活性はコラーゲン繊維の適切な形成と成熟に不可欠であり、皮膚、骨、軟骨、腱、靭帯などの結合組織の正常な発達と強度を支えています。

近年の研究では、ADAMTS2タンパク質は様々な処理形態が存在し、それぞれが異なる触媒活性とターゲット部位を持つことが明らかになっています。このことから、ADAMTS2遺伝子は繊維性プロコラーゲンの処理以外にも、まだ完全に解明されていない機能を持つ可能性が考えられています。

ADAMTS2遺伝子の機能

ADAMTS2がコードするタンパク質は、1,211アミノ酸からなり、N末端側に亜鉛結合触媒部位、C末端側に4つのプロパージン繰り返し配列を持っています。このタンパク質は以下の重要な構造を含んでいます:

  • N末端シグナルペプチド
  • プロドメイン
  • メタロプロテイナーゼ触媒ドメイン
  • ディスインテグリンドメイン
  • トロンボスポンジン1型リピート
  • システインリッチドメイン
  • さらに3つのトロンボスポンジン1型リピート
  • C末端プロパージンドメイン

主な機能として、ADAMTS2遺伝子のタンパク質は、I型およびII型プロコラーゲンのN末端プロペプチドを切断し、成熟したコラーゲン分子の形成を促進します。この過程は皮膚、靭帯、腱などの結合組織の正常な発達と強度に不可欠です。

研究によると、ADAMTS2タンパク質はさまざまな処理形態があり、これらは触媒活性やI型プロコラーゲンとV型プロコラーゲンの処理標的部位が異なることが分かっています。また、繊維性プロコラーゲンの処理以外にも機能を持つ可能性が示唆されています。

ADAMTS2遺伝子の主な変異

エーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)を引き起こすADAMTS2遺伝子の変異には、以下のような例があります:

1. Q225X変異(OMIM: 604539.0001)

673C-T遷移によるグルタミン225から終止コドンへの置換(Q225X)。エーラス・ダンロス症候群皮膚弛緩型の5人の患者で同定されたこの変異は、アシュケナージ・ユダヤ人に多く見られます。アメリカ、イギリス、メキシコの患者で確認されており、この変異は異なるハプロタイプ背景で少なくとも2回発生したと考えられています。この変異は切断型タンパク質を生じさせ、酵素活性を失わせます。

2. W795X変異(OMIM: 604539.0002)

2384G-A遷移によるトリプトファン795から終止コドンへの置換(W795X)。エーラス・ダンロス症候群皮膚弛緩型の患者1人で同定されたこの変異もタンパク質の早期終結を引き起こし、機能不全をもたらします。

3. エクソン3-5欠失(OMIM: 604539.0003)

ADAMTS2遺伝子のエクソン3から5の欠失。エーラス・ダンロス症候群皮膚弛緩型の患者で同定されたこの大きな欠失は、イントロン2で始まりイントロン5で終わります。両親はともにこの変異のヘテロ接合体でした。出生時には臍帯破裂と全身性浮腫、腫れた瞼が見られました。頭蓋顔面の特徴として短い額、平らな眉上隆起、幅広い鼻根部、広い鼻孔、大きな口、小顎症、歯の形成不全、歯肉過形成、多毛症がありました。また、短い手、腕、足、関節の過可動性、打撲の起こりやすさ、脆弱な皮膚、青色強膜なども特徴として現れました。試験管内の研究では、アミノコラーゲンの処理障害が示されました。

Van Damme等(2016年)は、4つの血縁関係のない家族の5人の患者において、3つの新しいホモ接合機能喪失変異と1つの複合ヘテロ接合変異をADAMTS2遺伝子に同定しています。

動物モデルでも、ヒトのエーラス・ダンロス症候群皮膚弛緩型に似た皮膚弛緩症状を示す子牛において、Adamts2遺伝子のホモ接合17bp欠失が同定されています。

これらの変異はすべて、ADAMTS2タンパク質の機能不全を引き起こし、コラーゲン分子の適切な処理を妨げることで、特徴的な結合組織の異常をもたらします。

ADAMTS2遺伝子検査の重要性

ADAMTS2遺伝子検査は、以下のような場合に考慮されます:

  • エーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)が疑われる臨床症状がある
  • 家族にエーラス・ダンロス症候群の診断歴がある
  • 保因者検査として、将来の家族計画のため

当クリニックでは、拡大版保因者検査ADAMTS2遺伝子を含む多数の疾患関連遺伝子を調べることができます。これにより、将来のお子さんへの遺伝リスクを事前に知ることができます。

遺伝子検査を受ける前には、検査の意義や結果の解釈について十分な情報を得ることが大切です。当クリニックでは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供しており、遺伝子検査に関するご質問や不安にお答えしています。

遺伝カウンセリングの役割

ADAMTS2遺伝子変異に関連する疾患の理解や遺伝的リスクの評価には、専門的な知識と配慮が必要です。当クリニックでは常駐する臨床遺伝専門医が、以下のようなサポートを提供しています:

  • 詳細な家族歴の聴取と遺伝形式の説明
  • 遺伝子検査の選択肢と限界についての説明
  • 検査結果の詳細な解釈
  • 疾患の自然歴と予後に関する情報提供
  • 家族計画に関するサポート
  • 心理的・社会的サポート

遺伝情報は個人だけでなく家族全体に影響する可能性があるため、遺伝カウンセリングでは患者さんとそのご家族のプライバシーと心理的側面にも配慮しています。詳しくは遺伝カウンセリングとはのページをご覧ください。

ADAMTS2遺伝子の保因者検査について

エーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)は常染色体劣性遺伝形式をとるため、両親がともにADAMTS2遺伝子変異の保因者である場合、子どもが疾患を発症するリスクは25%となります。

ミネルバクリニックでは、拡大版保因者検査を提供しており、ADAMTS2遺伝子を含む多数の遺伝子変異の保因者状態を調べることができます。これにより、将来のお子さんの健康リスクを事前に把握し、適切な家族計画を立てることが可能になります。

保因者検査は特に以下のような方に推奨されます:

  • 家族にエーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)の患者さんがいる方
  • アシュケナージ・ユダヤ人の血統を持つ方(特定の変異の頻度が高いため)
  • 妊娠を計画している、または妊娠初期のカップル
  • 遺伝性疾患に関する家族歴がある方

保因者検査の結果によって、必要に応じて出生前診断や着床前診断などの選択肢についても検討することができます。

まとめ:ADAMTS2遺伝子と健康管理

ADAMTS2遺伝子は、コラーゲン形成に不可欠な酵素をコードする重要な遺伝子です。この遺伝子の両アレル変異はエーラス・ダンロス症候群(皮膚弛緩型)という稀な結合組織疾患を引き起こします。

当クリニックでは、ADAMTS2遺伝子を含む遺伝子検査と専門的な遺伝カウンセリングを提供しています。遺伝性疾患に関する不安や疑問がある方は、臨床遺伝専門医による適切な情報提供とサポートを受けることをお勧めします。

ADAMTS2遺伝子検査や遺伝カウンセリングについて詳しく知りたい方は、下記のリンクからお問い合わせいただくか、ミネルバクリニックまでお電話でご連絡ください。

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ミネルバクリニックでは、「未来のお子さまの健康を考えるすべての方へ」という想いのもと、東京都港区青山にて保因者検査を提供しています。遺伝性疾患のリスクを事前に把握し、より安心して妊娠・出産に臨めるよう、当院では世界最先端の特許技術を活用した高精度な検査を採用しています。これにより、幅広い遺伝性疾患のリスクを確認し、ご家族の将来に向けた適切な選択をサポートします。

保因者検査は唾液または口腔粘膜の採取で行えるため、採血は不要です。 検体の採取はご自宅で簡単に行え、検査の全過程がミネルバクリニックとのオンラインでのやり取りのみで完結します。全国どこからでもご利用いただけるため、遠方にお住まいの方でも安心して検査を受けられます。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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