優性
染色体上のある遺伝子の1つの変異体(対立遺伝子)が、もう1つの染色体上の同じ遺伝子の別の変異体の影響を覆い隠したり、無効にしたりする現象を優性dominantと呼ぶ。それぞれの染色体上に同じ遺伝子の異なる2つの変異体を持つこの状態は、もともとはどちらかの遺伝子に新しい(de novo)または遺伝性の変異があるために発生する。
非性染色体(常染色体)上の遺伝子変異とそれに伴う形質を常染色体優性、常染色体劣性と呼び、性染色体上の遺伝子変異をX連鎖優性、X連鎖劣性、Y連鎖と呼び、これらは親と子の両方の性に依存した遺伝と発現のパターンを持ち、遺伝の方法を遺伝形式という。
Y染色体は1本しかないので、Y連鎖形質は優性でも劣性でもない。
また、優性といっても、ある遺伝子変異が両方の染色体に存在する場合に比べて部分的な影響しか与えない不完全優性や、それぞれの染色体に存在する異なる遺伝子変異がともに関連する形質を示す共優性などがある。
優性は、対立遺伝子やその形質(表現型)に固有のものではなく、ある遺伝子の2つの対立遺伝子A1が、同じ遺伝子の2つ目の対立遺伝子A2に対して優性であったり、3つ目の対立遺伝子A3に対して劣性であったり、4つ目の対立遺伝子A4に対して共優性であったりとさまざまである。また、ある対立遺伝子が、ある形質に対しては優性であるが、他の形質に対しては劣性である場合もある。
優性は、メンデル遺伝や古典的な遺伝学の重要な概念である。優性の原理を教えるために、文字が使われ、優性対立遺伝子には大文字、劣性対立遺伝子には小文字を使用することが広く行われている。優位性の典型的な例として、エンドウの種子の形の遺伝がある。この場合、3つの対立遺伝子(遺伝子型)の組み合わせが可能である。RR, Rr, rrである。RR(ホモ接合)の個体は丸い豆、rr(ホモ接合)の個体はシワシワの豆になる。Rr(ヘテロ接合)の個体では、R対立遺伝子がr対立遺伝子の存在を覆い隠してしまうので、これらの個体も丸いエンドウ豆を持っている。このように、対立遺伝子Rは対立遺伝子rに対して優性であり、対立遺伝子rは対立遺伝子Rに対して劣性である。
優性は、表現型自体の性質、すなわち、正常か異常か、標準か非標準か、健康か病気か、強いか弱いか、あるいは極端かそうでないか、ということとは無関係である。優性または劣性の対立遺伝子は、これらの形質のいずれかを説明することができる。
優性は、対立遺伝子が有害であるか、中立であるか、有利であるかを決定するものではない。しかし、選択は表現型を通して間接的に遺伝子に作用しなければならず、優性は表現型における対立遺伝子の露出に影響を与え、したがって選択下における対立遺伝子頻度の変化率に影響を与える。致命的な劣性対立遺伝子は、低頻度で集団に存続し、ほとんどのコピーがヘテロ接合で運ばれ、その個体には負担がかからない。こうした稀な劣性対立遺伝子は、多くの遺伝性遺伝疾患の基礎となっている。
また、優性は集団内の対立遺伝子の分布とは無関係である。つまり優性だからといって多いわけではない。優性対立遺伝子も劣性対立遺伝子も、極端に多い場合と極端に少ない場合がある。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号