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トランスポゾン

トランスポゾン

遺伝子工学のコンセプト

トランスポゾンとは?

トランスポゾン・エレメント(transposon element;TE)は、「ジャンピング・ジーン」とも呼ばれ、ゲノム上のある場所から別の場所に移動するDNA配列である。
トランスポゾンは、遺伝子のさまざまな部分に自分自身をコピー(またはカット)して貼り付けることで、遺伝子の構造を変化させることができる。トランスポゾンは何十億年にもわたって、進化の過程で生物の多様性を保ち滅亡から免れるという重要な役割を果たしてきた。

生物のゲノムは、出版された本のように不変であるという考えは、論理的には正しいように聞こえるが、実は違う。生物のゲノムには、ジャンピング・ジーン(トランスポゾン)があり、遺伝子の中を飛び回り、どこにでも挿入することができるからだ。ゲノムに潜むトランスポゾンは、文章の途中にランダムに挿入される言葉のようなもので、文章の意味を変え、身体機能に障害をもたらすこともあれば、無害なこともある。実際、ヒトのDNAの約46%は、トランスポゾンで構成されている。トランスポゾンは、実際には何の害もなく、ある時点で暴走するのである。

たとえばA遺伝子が「cat」を意味し、トランスポゾンが「dog」のような単語だとすると、トランスポゾンを「cdogat」のように遺伝子に挿入すると、元の単語の意味が失われることになり、A遺伝子が機能しないということを招く。

こうしては、ゲノムの中で繰り返される配列が、ゲノムの安定性やがんなどの疾患に影響することが明らかとなってきた。ほんの数十年前まで、生物学者はヒトゲノムの大部分を「ジャンクDNA」と呼び、タンパク質に翻訳されないもの(non coding DNA)は、実験室に持ち込む価値がないと考えられてきた。なぜ進化の過程でゴミを捨てなかったのかとさえ揶揄されてきて、多くの科学者にとってはコーディングDNAでない領域は興味のないものであった。

しかし、最終的には、コードのない「ジャンク」が遺伝的変異に重要な役割を果たしていることがわかってきたのである。特に、ノンコーディングの遺伝物質の多くは、トランスポゾン(ジャンピング・ジーン)と呼ばれるもので、トランスポゾンは、ゲノム上の新しい場所に自分自身をコピーしたり、切り貼りしたりすることができ、時にはがんの突然変異や重篤な遺伝病など、劇的な結果をもたらすこともある。

特定のトランスポゾンは、一人の人間で100万個以上もゲノム上に散らばっていることがある。

トランスポゾンが発見されたのは20世紀なかば

1900年代なかばにニューヨークのコールド・スプリング・ハーバー研究所の遺伝学者バーバラ・マクリントックが発見したが、当初、生物学者たちはマクリントックの発見に懐疑的であった。しかし、その後数十年の間に、TEは「ジャンプする」だけでなく、ほとんどすべての生物(原核生物と真核生物の両方)に存在し、しかも大量に存在することが明らかになった。例えば、TEは、ヒトゲノムの約50%、トウモロコシゲノムの最大90%を占めている(SanMiguel, 1996)と報告されている。

トランスポゾンの種類

トランスポゾン・エレメントTEには多くの種類があり、また、それらを分類する方法もいくつかある。最も一般的な分類の1つは、トランスポゾンになるために逆転写(RNAからDNAへの転写)を必要とするTEと、そうでないTEである。前者はレトロトランスポゾンまたはクラス1のTEと呼ばれ、後者はDNAトランスポゾンまたはクラス2のTEと呼ばれる。クラス1では「コピー&ペースト」、クラス2では「カット&ペースト」により遷移する。

真核生物のゲノムには、さまざまなクラスのトランスポゾンが存在し、真核生物の細胞分離と複製に必要な重要な染色体領域であるセントロメアには大量のタンデムリピートやトランスポゾンが存在するため、ほとんどの多細胞生物ではシークエンスが困難であり、その配列構造や進化はよくわかっていない

トランスポゾンの大部分は遺伝子と遺伝子の間の領域に位置しているが、遺伝子に存在するトランスポゾンも見つかっており、遺伝子の多様化や疾患の発症に関与している場合がある。

トランスポゾンは何をしているのか?トランスポゾンは良いものか悪いものか?

トランスポゾンが動き回ると、タンパク質をコードする遺伝子の真ん中に自分自身をコピー&ペーストすることがある。この挿入は、基本的には遺伝子の突然変異であり、タンパク質の働きを変えたり、完全に機能しなくなったりする可能性を持つ。DNAに組み込まれるタイプのウイルスも宿主細胞に感染する際に同じような技術を使っている。

ほとんどのトランスポゾンがそうであるように、LINE-1の移動は一般的に無害である。実際、LINE-1は人類の進化の過程で何度もゲノムに挿入されており、それだけでゲノムの18%を占めている。しかし、LINE-1の挿入は、大腸がんを含むさまざまな種類のがんに関連していることも事実である。

トランスポゾンによる破壊が起こりやすいゲノム領域を特定することは、出生時に現れる遺伝病の原因究明や、破壊や再配列によって癌化する可能性のある潜在的な危険領域を特定する上で重要である。

進化におけるトランスポゾン

トランスポゾンは、何百万年もの間、私たちのゲノムの周りで挿入を繰り返してきました。トランスポゾンは、進化するヒトのDNAの至る所に自分自身を挿入し、その変化が宿主である人間を特定の環境での生存に適さなくするようになるまで、可能な限りの時間をかけてきた。
ランダムに挿入されたことで、例えば特定の栄養素を吸収する能力が高まる、特定の感染症の流行地域で当該感染症にかかりにくくなるなど、何らかの生命上のメリットがあった場合や、悪影響を及ぼさない場合には、結果としてゲノムの修正が後世に伝えられた。一方、死や病気の原因となるような挿入は、一世代を経ることはほとんどなかった。こうして、トランスポゾンは何百万年もの試行錯誤を経て、私たちのゲノムの中に徐々に組み込まれていきた。最終的には、トランスポゾンの能力はほとんど飽和状態となり、結果として、ヒトゲノム上のトランスポゾンの99%以上は移動能力を失った。しかし、私たちはまだいくつかの活発なトランスポゾンを持っており、その働きで時には大混乱を引き起こし、病気を引き起こすこともある。

病気の原因となるトランスポゾン

LINE-1(long interspersed element 1)は、ヒトの体内で非常に活発に活動するトランスポゾンである。ほとんどのトランスポゾンと同様に、LINE-1の移動は一般的には無害である。実際、LINE-1は人間の進化の過程で何度もゲノムに挿入されており、LINE-1だけで人間のゲノムの18%を占めている。

しかし、ときにはLINE-1がAPC遺伝子に入ってしまうことがあり、APC遺伝子を破壊して健康に悪影響を及ぼす。LINE-1の挿入は、大腸がんを含むさまざまな種類のがんに関連している。一般的にLINE-1のレベルが異常に高いことが、複数の種類のがんの特徴であると考えられている。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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