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ドミナントネガティブ(分子生物学)
ドミナントネガティブとは、分子生物学の用語で、同一の細胞内で、ある遺伝子産物が野生型の遺伝子産物に悪影響を及ぼすような突然変異が起こる状況をいう。
ドミナント(優性)なのにネガティブとはいったいどういう事かとわかりにくい概念ではあるが、優性突然変異は、正常な遺伝子のコピーが存在する場合、突然変異の表現型をもたらす。優性突然変異に伴う表現型は、機能の喪失または獲得のいずれかを表している。
これに対して、ドミナントネガティブは同じ細胞内で、突然変異をおこした遺伝子産物が、正常な野生型の遺伝子産物に悪影響を及ぼすには、通常、その変異した産物(タンパク)が野生型遺伝子産物と相互作用することはできるが、その機能のいくつかの側面を阻害する場合に起こる。
- 1. 転写因子の突然変異により、活性化ドメインが除去されるが、DNA結合ドメインは残っている。
- この変異タンパクは、野生型の転写因子がDNA部位に結合するのを阻害し、遺伝子の活性化レベルを低下させることができる。
- 2. 二量体として機能するタンパク
- 機能ドメインがダメになったまま二量体化するドメインが残ったタイプの突然変異タンパクは、タンパク質二量体の一部が機能ドメインの一方を欠くことになるため、機能活性が足らなくなり、ドミナントネガティブな表現型を引き起こす。
ドミナントネガティブ変異は、このようなメカニズムで野生型の対立遺伝子と拮抗して作用する。これらの突然変異は、通常、分子機能の変化(多くの場合、不活性)をもたらし、優性または半優性の表現型を特徴とする。
多くのたんぱく質は多量体で存在し、活動している
多くのタンパク質は、通常、同じタンパク質の複数のコピーの集合体である多量体の形で活動している。生物の酵素の60%は、ホモオリゴマーを表している。野生型のタンパクと変異型のタンパクが共存すると、野生型と変異型の混合多量体が形成される。多量体中の野生型タンパク質の活性を阻害する変異タンパク質をもたらす変異をドミナントネガティブ変異という。
ドミナントネガティブ変異の病原性とは
ドミナントネガティブ変異がヒトの細胞に生じると、その変異細胞に増殖上の優位性を与え、そのクローンの拡大につながる可能性がある。例えば、DNAの損傷に反応してプログラムされた細胞死(アポトーシス)の正常なプロセスに必要な遺伝子にドミナントネガティブな変異があると、アポトーシスに対して抵抗性のある細胞になり、過剰なDNA損傷があってもクローンの増殖が可能となる。
TP53遺伝子のドミナントネガティブ変異
このようなドミナントネガティブ変異は、腫瘍抑制遺伝子p53で有名である。P53の野生型タンパク質は、通常、4つのタンパク質の多量体(ホモオリゴテトラマー)として存在している。ドミナントネガティブなp53の変異は、多くの異なるタイプのがんや前がん病変でみられる。
その他の遺伝子のドミナントネガティブ変異
また、ドミナントネガティブ変異は、他のがん遺伝子でも発生します。
- ATM(Ataxia telangiectasia mutated)遺伝子
- ATM(Ataxia telangiectasia mutated)遺伝子は、乳がんの感受性を高める2つのドミナントネガティブな生殖細胞系列変異が確認されている。
- CEBPA遺伝子
- 転写因子C/EBPαをコードするCEBPA遺伝子のドミナントネガティブ変異は、急性骨髄性白血病を引き起こす可能性がある。
- PPARGC1A遺伝子
- Peroxisome proliferator-activated receptor gamma (PPARγ)をコードするPPARGC1A遺伝子のドミナントネガティブ変異は、重度のインスリン抵抗性、糖尿病、高血圧と関連している。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号