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大動脈弓 aortic arch

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

大動脈弓(だいどうみゃくきゅう、aortic arch)とは、心臓から上に向かって出た大動脈が、胸の上部で弓のように後ろ・左へ曲がり、背中側を下る大動脈へとつながる部分です。ここから腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈の3本が分かれ、頭・首・両腕に血液を送ります[1]。この記事では、大動脈弓の場所と3本の分岐、圧受容器の働き、鰓弓動脈(咽頭弓動脈)からの発生、右側大動脈弓・重複大動脈弓・大動脈弓離断といった形の違いを順に説明します。大動脈弓の形の違いの一部は22q11.2欠失症候群という染色体の病気と関係するため、遺伝医療の立場からそのつながりも解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🫀 Q. 大動脈弓とは何ですか?どこにありますか?

心臓から出た大動脈が、胸の上部で弓のように後ろ・左へ曲がる部分です。気管の左側を通り、第4胸椎の高さで下行大動脈へ続きます[1]。

🫀 Q. 大動脈弓から分岐する3本の血管は?

心臓に近い順に腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈です。ただし分かれ方には個人差があり、3本の基本形でない人も珍しくありません[2]。

🫀 Q. 右側大動脈弓とは?何人に1人ですか?

大動脈弓が気管の左ではなく右を通る形で、頻度は約0.1%(およそ1,000人に1人)と見積もられています[5]。気管や食道を囲む「血管輪」をつくることがあります。

🫀 Q. 大動脈弓の異常は遺伝と関係しますか?

大動脈弓離断B型の約半数に22q11.2欠失症候群がみられます[6][7]。胎児で右側大動脈弓が見つかった研究のまとめでは、22q11.2欠失は6.1%でした[5]。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🫀 解剖・発生・形の違い・遺伝
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤大動脈弓とは → 上行大動脈と下行大動脈をつなぐ、弓形に曲がった大動脈の部分
  • ➤3本の分岐 → 腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈(分かれ方には個人差がある)
  • ➤発生 → 胎児期の鰓弓動脈(咽頭弓動脈)のうち、左の第4動脈がもとになる
  • ➤形の違い → 右側大動脈弓・重複大動脈弓・大動脈弓離断(A型・B型・C型)
  • ➤遺伝とのつながり → 大動脈弓離断B型・右側大動脈弓と22q11.2欠失症候群の関係、調べ方

大動脈弓

1. 大動脈弓とは?どこにある?

大動脈弓とは、心臓(左心室)から出た大動脈のうち、上に向かう上行大動脈と、背中側を下る下行大動脈とのあいだで、弓のように曲がっている部分です。大動脈は全身へ血液を送り出す最も太い動脈で、その通り道は「上行大動脈 → 大動脈弓 → 下行大動脈」の順に名前が変わります。大動脈弓は、その中でも頭・首・腕へ向かう枝が出る「分かれ道」にあたる区間です[1]。

大動脈弓はどこにある?上行大動脈・下行大動脈との違い

大動脈弓は、胸の上部、胸骨の裏側あたりにあり、上行大動脈から続いて気管の左側を少し後ろへ回り込むように走ります。そのあと第4胸椎の高さで向きを下へ変え、下行大動脈になります[1]。つまり、前から見ると「心臓から上がった血管が、体の左後ろへ曲がって背骨の横を下りていく」形です。

上行大動脈・大動脈弓・下行大動脈は、1本の大動脈を区間で呼び分けたものです。境目に壁があるわけではなく、血液はそのまま流れていきます。区間の名前は、画像検査の報告書や病気・手術の説明で、どの場所の話かをはっきりさせるために使われます。

読み方・英語・「大動脈弓部」との違い

大動脈弓の読み方は「だいどうみゃくきゅう」、英語では aortic arch(エイオーティック・アーチ)です。ラテン語の解剖学名は arcus aortae です。「大動脈弓部」「弓部大動脈」も同じ区間を指す言い方で、画像検査の報告書や手術の説明では「弓部」という呼び方がよく使われます。

似た言葉に「鰓弓(さいきゅう)」や「咽頭弓(いんとうきゅう)」があります。こちらは胎児の首の部分にできる構造の名前で、大動脈弓のもとになる血管(鰓弓動脈)とも関係します。詳しくは第4章で説明します。

2. 大動脈弓から分岐する3本の血管は?

大動脈弓から分岐するのは、心臓に近い順に、腕頭動脈(わんとうどうみゃく)、左総頸動脈(ひだりそうけいどうみゃく)、左鎖骨下動脈(ひだりさこつかどうみゃく)の3本です。腕頭動脈は体の右側の腕・頭・首へ、左総頸動脈は頭と首の左側へ、左鎖骨下動脈は左腕へ血液を送ります[1]。右側には「右総頸動脈」「右鎖骨下動脈」が大動脈弓から直接は出ておらず、腕頭動脈がいったん出てから右の2本に分かれる点が、左右で形が違うところです。

📐 大動脈弓と3本の分岐(模式図)

気管 ①腕頭動脈 右の腕・頭・首へ ②左総頸動脈 ③左鎖骨下動脈 右鎖骨下動脈 右総頸動脈 上行大動脈 下行大動脈 大動脈弓 心臓から

※模式図です。体を正面から見た図で、向かって右が体の左側です。実際の大動脈弓は気管の左側を前から後ろへ回り込むため、正面から見ると気管と重なって見えます。

腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈は、どこへ血液を送る?

3本の枝が受け持つ範囲を表にまとめます。右側の総頸動脈と鎖骨下動脈は、腕頭動脈から分かれて出ます[1]。

🩸 大動脈弓の3本の枝と流れ先

順番 枝の名前(英語) 血液を送る先
1本目 腕頭動脈(brachiocephalic trunk) 右の腕・頭・首(右鎖骨下動脈と右総頸動脈に分かれる)
2本目 左総頸動脈(left common carotid artery) 頭と首の左側
3本目 左鎖骨下動脈(left subclavian artery) 左腕

※StatPearls「Anatomy, Thorax, Aortic Arch」[1]による。

分岐のしかたには個人差がある(bovine arch など)

大動脈弓の分岐が教科書どおりの「3本」でない人は、珍しくありません。大動脈弓の分岐の変異を扱った24の研究をまとめた文献レビューでは、基本の3本の形は研究によって約61.2〜92.59%で、残りの人には別の分岐の形がみられました。よく知られるのは、腕頭動脈と左総頸動脈が根元を共有する形(いわゆる bovine arch、ウシ型の大動脈弓)で、研究によって約4.95〜31.2%と報告されています。ほかに、左椎骨動脈が大動脈弓から直接出る形(約0.17〜15.3%)、右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として出る「右鎖骨下動脈起始異常」(約0.08〜3.33%)などがあります[2]。

数字の幅が大きいのは、調べた国や地域、CT・解剖など調べ方が研究ごとに違うためです。こうした分岐の違いの多くは、それだけで症状を起こすものではありません。カテーテル治療や首・胸の手術の前に知っておくと役立つため、画像検査の報告書に書かれることがあります。

3. 大動脈弓の働きは?圧受容器と周りの構造

大動脈弓の働きは、頭・首・腕へ血液を分ける通り道になることに加えて、壁にある圧受容器で血圧の変化を感じ取ることです。大動脈弓の周りには気管・食道・神経が接しているため、形の違いがこれらの構造に影響することもあります[1]。

圧受容器とは?血圧の急な変化を抑えるしくみ

大動脈弓の壁には圧受容器があり、血管の壁が引き伸ばされる程度から血圧の変化を感じ取ります。その情報は迷走神経を通って脳幹の孤束核に伝えられ、体が反応することで、血圧が急に大きく変わるのを防いでいます[1]。

大動脈弓には、血液中の酸素や二酸化炭素の分圧を感じ取る「大動脈小体」という化学受容器もあります[1]。圧受容器は「圧」を、化学受容器は「血液の中身」を見張っている、と分けて覚えると区別しやすくなります。

動脈管索と左反回神経

大動脈弓の下側には、胎児期に肺動脈と大動脈をつないでいた動脈管の名残である「動脈管索」が付いています。動脈管は生まれてまもなく閉じて、動脈管索になります[1]。胎児は肺で呼吸をしないため、肺へ送る必要のない血液を動脈管で大動脈へ流しており、生まれて肺呼吸が始まるとこの近道は役目を終えます。

声帯を動かす左反回神経は、大動脈弓の下をくぐってから上に戻る道を通ります。そのため、大動脈弓の手術で傷つくと声のかすれや声帯の麻痺が起こることがあります[1]。右の反回神経は右鎖骨下動脈の下をくぐるため、左右で神経の通り道の高さが違います。この左右差は、次の章で説明する胎児期の血管のでき方から説明できます[3]。

4. 大動脈弓はどうやってできる?鰓弓動脈(咽頭弓動脈)からの発生

大動脈弓は、胎児期の第4週ごろ、首の部分にできる咽頭弓(鰓弓)を通る血管のうち、左側の第4の血管(第4鰓弓動脈)をもとにしてできます。[1]。胎児の初期には、心臓から出た血管が左右対称のはしごのような形で何本も並び、その一部が残り、一部が消えることで、大人の左右非対称の血管の形ができあがります。咽頭弓そのものについては咽頭弓(鰓弓)の解説で、胚の発生の全体像は胚発生の概要で詳しく説明しています。

鰓弓動脈(咽頭弓動脈)は、それぞれ何になる?

鰓弓動脈は頭側から第1〜第6と番号が付けられ、第3は総頸動脈、第4の左は大動脈弓の中央部、第4の右は右鎖骨下動脈の根元、第6は肺動脈の根元と動脈管になります。第1・第2は小さく、第5はできないか、すぐに消えます[3]。

🌱 鰓弓動脈(咽頭弓動脈)とその行き先

鰓弓動脈 右側 左側
第1・第2 小さな痕跡的な血管で、大人の主な動脈にはならない
第3 左右の総頸動脈と、内頸動脈の根元
第4 右鎖骨下動脈の根元 大動脈弓の中央部
第5 できないか、すぐに消える
第6 右肺動脈の根元 左肺動脈の根元と動脈管(のちの動脈管索)

※Washington State University の解剖学教科書[3]と StatPearls[1]による。

この表から、左右の反回神経の通り道が違う理由もわかります。反回神経はもともと第6の血管の下をくぐっていました。左は第6の血管の名残である動脈管索が残るため、神経は大動脈弓の下で折り返します。右は第6の血管の遠い側が消え、第5もないため、神経は第4からできた右鎖骨下動脈の下まで上がって折り返すことになります[3]。

「どの血管が残り、どれが消えるか」で形の違いが生まれる

大動脈弓の形の違いの多くは、このはしご状の血管のうち、本来消えるはずのものが残ったり、残るはずのものが消えたりすることで説明されます。左の第4ではなく右の第4の側が残れば右側大動脈弓に、左右両方が残れば重複大動脈弓に、左の第4の一部ができなければ大動脈弓が途切れる「大動脈弓離断」になります。発生の段階で起こることなので、これらは生まれつきの形の違い(先天性の血管の異常)です。

💡 用語解説:鰓弓(さいきゅう)と咽頭弓(いんとうきゅう)

魚のえら(鰓)に当たる構造がヒトの胎児にも一時的にできることから、昔は「鰓弓」と呼ばれていました。ヒトにはえらはできないため、今は「咽頭弓」と呼ぶことが多くなっています。そこを通る血管も「鰓弓動脈」「咽頭弓動脈」、あるいは「大動脈弓動脈(aortic arch arteries)」と呼ばれます。最後の呼び方は、大人の「大動脈弓」と混同しやすいので注意が必要です。

5. 大動脈弓の形の違い:右側大動脈弓・重複大動脈弓・大動脈弓離断

大動脈弓の主な形の違いには、右側大動脈弓、重複大動脈弓、大動脈弓離断があり、症状が出ないものから、生まれてすぐに治療が必要なものまで幅があります。まず違いを表で整理します。

🔀 大動脈弓の主な形の違い

形 どんな形か 頻度・特徴
右側大動脈弓 大動脈弓が気管の右側を通る 約0.1%と見積もられる[5]。血管輪をつくることがある
重複大動脈弓 大動脈弓が2本あり、気管と食道を囲む とてもまれ。血管輪の半分あまりを占める[4]
大動脈弓離断 大動脈弓の途中が途切れている 全型あわせて約15,000出生に1人[6]。B型は22q11.2欠失との関係が深い

右側大動脈弓とは?何人に1人?

右側大動脈弓とは、大動脈弓がふつうとは逆に気管の右側を通る形で、頻度は約0.1%、およそ1,000人に1人と見積もられています。[5]。右側大動脈弓そのものは血液の流れを妨げるわけではありませんが、枝の出方や動脈管(動脈管索)の位置によっては、血管が気管と食道をぐるりと囲む「血管輪」をつくります。

心臓のほかの異常がない右側大動脈弓の胎児を調べた多施設研究では、86例のうち41例に血管輪がありました。同じ論文で16の研究(312例)をまとめた解析では、2歳以上まで追跡したときに血管輪による症状が出たのは25.2%、手術を受けたのは17.1%でした[5]。言いかえると、多くの人は手術をせずに過ごしています。

重複大動脈弓と血管輪

重複大動脈弓とは、大動脈弓が2本あり、その間に気管と食道がはさまれて輪のように囲まれる形です。本来消えるはずの血管の一部が残るために起こり、とてもまれな病気ですが、血管輪のうち半分あまりは重複大動脈弓によるものです[4]。

気管が押されると、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)、肺炎のくり返しが、食道が押されると、むせる・飲み込みにくい・吐くといった症状が出ます。症状が軽いと数歳まで気づかれないこともあります。診断には胸部X線、CT、MRI、心エコーなどを使い、治療は細いほうの弓を切り離す手術です[4]。

大動脈弓離断とは?A型・B型・C型

大動脈弓離断とは、大動脈弓の途中が途切れている生まれつきの心臓・血管の病気で、どこで途切れているかによってA型・B型・C型に分けられます。生まれる頻度は全型あわせて約15,000出生に1人です[6]。

✂️ 大動脈弓離断の3つの型

型 途切れている場所 特徴
A型 左鎖骨下動脈より先(心臓から遠い側) 大動脈縮窄が起こる場所に近い
B型 左総頸動脈と左鎖骨下動脈のあいだ 最も多い型。22q11.2欠失が50%以上にみられる
C型 腕頭動脈と左総頸動脈のあいだ まれ

※米国疾病予防管理センター(CDC)の先天異常サーベイランスの資料[6]による。

大動脈弓が途切れていると、途切れた先の体の下半身へは、胎児期の通り道である動脈管を通って血液が届いています。生まれて動脈管が閉じはじめると、新生児期に心不全やショックの状態へ急に悪くなることがあり、上半身と下半身で血液の酸素の量が違ったり、チアノーゼが出たりすることもあります[6]。そのため、生まれてすぐに診断して治療につなぐことが重要です。新生児の皮膚が青く見える理由については新生児のチアノーゼで解説しています。

健診の「大動脈弓突出」「大動脈弓の石灰化」とは?

健診の胸部X線で書かれる「大動脈弓突出」は、大動脈の上部のループが大きく広がって見えるという所見で、動脈硬化などのときにみられます。「大動脈の石灰化」は大動脈の壁にカルシウムが沈着している所見で、これも動脈硬化などでみられます[9]。どちらも大人になってから血管が変化したことを示すもので、ここまで説明してきた生まれつきの形の違いとは別の話です。

これらの所見があるときに、追加の検査や血圧・脂質の管理が必要かどうかは、年齢やほかの検査結果を合わせて判断されます。健診結果の判定と、判定に書かれた受診先の案内に沿って確認してください。胸部大動脈の病気の一部には、マルファン症候群のように遺伝が関わるものもあります。家族に若くして大動脈瘤・大動脈解離を起こした人がいる場合は、遺伝性大動脈疾患の総論も参考にしてください。

6. 遺伝・医療とのつながり:大動脈弓の異常と22q11.2欠失症候群

大動脈弓の形の違いの一部は、22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)という染色体の病気の手がかりになります。22q11.2欠失症候群は、22番染色体の一部(22q11.2という場所)が小さく欠けている病気で、心臓や血管の形の違い、免疫や副甲状腺の働き、発達など、体のさまざまなところに影響が出ることがあります。米国の集団調査では、白人・黒人・アジア系で約6,000人に1人、ヒスパニック系で約3,800人に1人と報告されています[8]。病気の全体像は22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)の解説をご覧ください。

大動脈弓離断B型の約半数に22q11.2欠失がある

大動脈弓離断B型の子どもの約半数(50%以上)に22q11.2欠失症候群がみられ、ほかの型ではまれです。[6][7]。反対に、22q11.2欠失症候群の人の側から見ると、1,421人の集計で64%に先天性心疾患があり、その種類には大動脈弓離断や、右側大動脈弓・血管輪などの大動脈弓の異常、ファロー四徴症などが含まれます[8]。

大動脈弓離断B型が「左の第4鰓弓動脈から大動脈弓の中央部ができる」という発生の話とつながっている点は、遺伝医療の目から見て大事なところです。典型的な22q11.2欠失の範囲にはTBX1遺伝子が含まれており、欠失がないのにTBX1の病的バリアントで同じような特徴が出る人も報告されています[8]。つまり、大動脈弓離断B型は「たまたま起きた血管の形の違い」としてだけ見るのではなく、染色体の検査を考えるきっかけになる所見です。

大動脈弓離断B型と診断されたのに、22q11.2欠失を調べるかどうかが話題にならなかった場合は、主治医に相談してみてください。22q11.2欠失症候群では、副甲状腺の働きが弱く血液のカルシウムが低くなること(17〜60%)や、免疫の弱さ(77%)がみられることがあり[8]、診断がつくと心臓以外の点も前もって確かめる計画が立てやすくなります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【血管の形は「発生の記録」です】

大動脈弓の形は、胎児期にどの血管が残り、どれが消えたかの記録だと考えています。発生のしくみを知ると、ある形の違いが、特定の遺伝子や染色体の変化と結びつく理由が見えてきます。大動脈弓離断B型と22q11.2欠失症候群の関係は、その代表例です。

心臓の手術は小児循環器・心臓外科の専門の先生方の領域です。臨床遺伝専門医として大事だと考えているのは、その形の違いが「全身の体質の一部」かどうかを見極め、心臓以外に気をつけることや、ご家族にとっての意味まで含めて整理することです。

胎児の心エコーで右側大動脈弓が見つかったら

胎児の心臓にほかの異常がない右側大動脈弓では、16研究・312例をまとめた解析で、22q11.2欠失が6.1%、心臓以外の異常もない例に限ると5.1%にみられました。染色体の異常全体では9.0%(心臓以外の異常がない例では4.6%)でした[5]。論文の著者らは、多くの例はほかに異常のない単独の所見だとまとめています。

この数字は「右側大動脈弓が見つかった胎児の集団」での割合で、一人ひとりの赤ちゃんの確率を決めるものではありません。それでも、およそ16人に1人の割合で22q11.2欠失が見つかっているという事実は、検査を考える材料になります。

エコーで形の異常がすでに見つかっている場合、赤ちゃんの染色体を確かめる基本は確定検査です。羊水検査や絨毛検査で赤ちゃんの細胞を採り、染色体マイクロアレイ検査で22q11.2欠失があるかを確かめます。当院のマイクロアレイ染色体検査(CMA)は、羊水検査・絨毛検査で採った細胞でも行え、結果は2週間ほどです。羊水検査・絨毛検査は当院の院内で受けられます。2つの検査の違いは絨毛検査と羊水検査の違いで説明しています。受けるかどうか、どちらの検査を選ぶかは、遺伝カウンセリングで相談して決めるのがよいと考えています。

一方、まだエコーで何も言われていないけれど22q11.2欠失症候群が心配、という段階の妊婦さんには、お母さんの採血で行うNIPT(新型出生前診断)という選択肢があります。当院のNIPTは、スタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・双子マックス・インペリアルのすべてのプランで22q11.2欠失症候群を調べられます。ただしNIPTはふるい分け(スクリーニング)の検査です。22q11.2のような微小欠失症候群は、ダウン症候群などの染色体の数の異常に比べて陽性的中率が低めなので、陽性なら羊水検査・絨毛検査で確かめる必要があります。当院では確定検査まで院内で受けられます。

⚠️ 注意:数字の読み方

上の6.1%は、心臓のほかの異常がない右側大動脈弓の胎児を集めた研究の数字です。心臓にほかの異常がある場合や、ほかの臓器にも所見がある場合は、割合が変わります。また、22q11.2欠失がない場合でも、右側大動脈弓に血管輪を伴うかどうかで生まれたあとの経過は変わるため、生まれたあとの心臓の検査は別に必要です。

22q11.2欠失症候群は遺伝する?

22q11.2欠失症候群の90%以上は、両親には欠失がなく、その子どもで新しく起きたもの(新生突然変異)です。残りのおよそ10%は、欠失を持つ親から受け継いでいます。欠失を持つ人の子どもが欠失を受け継ぐ確率は、妊娠ごとに50%です[8]。

欠失を持つ親は、症状がごく軽く気づかれていないことがあります。そのため、子どもに22q11.2欠失が見つかったときは、次の妊娠での確率を正しく見積もるために、両親も同じ欠失がないかを調べることが勧められています[8]。「家族に心臓病の人がいないから遺伝ではない」とは言い切れない点に注意が必要です。

生まれたあとに調べる方法

生まれたあとに22q11.2欠失を調べるのは、染色体マイクロアレイ検査です。当院のマイクロアレイ染色体検査は、年齢の制限なく赤ちゃんから大人まで受けられ、血液で行うのが基本で、結果は2〜3週間です。

当院には心臓の遺伝子を調べる検査もありますが、目的が違います。先天性心疾患(CHD)遺伝子検査パネルは115の遺伝子の配列を読む検査で、心血管疾患包括パネル(264遺伝子)は大動脈・結合組織の病気なども含めて調べる検査です。どちらも、22q11.2欠失のような染色体の一部の欠失を調べる検査ではないため、22q11.2欠失を確かめたいときはマイクロアレイ検査を選びます。22q11.2欠失がないとわかったうえで、ほかの遺伝子の関わりを調べたい場合に、これらのパネル検査が候補になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【検査は「何を知りたいか」から選ぶ】

遺伝子の検査は、調べる対象が違えば、同じ「陰性」でも意味が変わります。遺伝子の配列を読むパネル検査で異常がなくても、染色体の一部の欠失は見えていないことがあります。逆に、マイクロアレイ検査は欠失や重複を見る検査で、遺伝子の中の小さな変化は見えません。

大動脈弓の所見から遺伝の検査を考えるときは、まず「22q11.2欠失を確かめたいのか」「ほかの原因まで広く探したいのか」を決め、それに合った検査を選ぶことが大切だと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 大動脈弓の読み方と英語は?

「だいどうみゃくきゅう」と読み、英語では aortic arch です。「大動脈弓部」「弓部大動脈」も同じ区間を指す言い方です。

Q2. 大動脈弓から分岐する3本の血管は何ですか?

心臓に近い順に、腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈です。右の総頸動脈と鎖骨下動脈は、腕頭動脈から分かれて出ます。分かれ方には個人差があり、腕頭動脈と左総頸動脈が根元を共有する形などもみられます。

Q3. 大動脈弓はどこにありますか?

胸の上部にあり、上行大動脈から続いて気管の左側を後ろへ回り込み、第4胸椎の高さで下行大動脈へ続きます。

Q4. 大動脈弓の圧受容器とは何ですか?

大動脈弓の壁にあるセンサーで、壁の引き伸ばされ方から血圧の変化を感じ取り、迷走神経を通して脳幹へ伝えます。血圧が急に大きく変わるのを防ぐ働きがあります。

Q5. 右側大動脈弓は何人に1人ですか?

頻度は約0.1%、およそ1,000人に1人と見積もられています。気管や食道を囲む血管輪をつくることがありますが、胎児で見つかった例の解析では、手術を受けたのは17.1%でした。

Q6. 胎児エコーで右側大動脈弓と言われました。染色体の病気の可能性はありますか?

心臓のほかの異常がない右側大動脈弓の胎児を集めた解析では、22q11.2欠失が6.1%にみられました。集団での割合なので、一人ひとりの確率ではありません。エコーで形の異常がすでに見つかっている場合、確かめる基本は羊水検査・絨毛検査で採った細胞での染色体マイクロアレイ検査(確定検査)です。

Q7. 大動脈弓離断とは何ですか?

大動脈弓の途中が途切れている生まれつきの病気で、途切れている場所によってA型・B型・C型に分けられます。B型が最も多く、その50%以上に22q11.2欠失症候群がみられます。

Q8. 健診で「大動脈弓突出」と言われました。どういう意味ですか?

胸部X線で大動脈の上部のループが大きく広がって見える所見で、動脈硬化などのときにみられます。追加の検査が必要かどうかは、健診結果の判定と案内に沿って確認してください。

まとめ

大動脈弓は、心臓から出た大動脈が胸の上部で弓のように曲がる部分で、腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈の3本が分かれます[1]。分岐の形には個人差があり、基本の3本でない人も少なくありません[2]。壁の圧受容器は血圧の急な変化を抑える働きをしています。

大動脈弓は胎児期の左の第4鰓弓動脈をもとにでき、どの血管が残るかによって、右側大動脈弓・重複大動脈弓・大動脈弓離断といった形の違いが生まれます[3]。大動脈弓離断B型の約半数には22q11.2欠失症候群がみられ[6][7]、胎児の右側大動脈弓でも6.1%に22q11.2欠失が見つかっています[5]。大動脈弓の所見は、心臓だけの話で終わらず、染色体の検査を考える入口になることがあります。

🫀 胎児の大動脈弓の所見や、22q11.2欠失症候群が気になる方へ

ミネルバクリニックでは臨床遺伝専門医が常駐し、22q11.2欠失症候群をすべてのプランで調べられるNIPTから、羊水検査・絨毛検査、マイクロアレイ染色体検査まで院内で行っています。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、先に22q11.2欠失症候群の解説やマイクロアレイ染色体検査のページで、検査でわかることをご覧ください。

参考文献

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  • [7] Ron HA, Crowley TB, Liu Y, et al. Improved Outcomes in Patients with 22q11.2 Deletion Syndrome and Diagnosis of Interrupted Aortic Arch Prior to Birth Hospital Discharge, a Retrospective Study. Genes (Basel). 2023;14(1):62. [DOI 10.3390/genes14010062]
  • [8] McDonald-McGinn DM, Hain HS, Emanuel BS, Zackai EH. 22q11.2 Deletion Syndrome. GeneReviews®. Seattle (WA): University of Washington; 1999 Sep 23 [revised 2025 May 8]. [NCBI Bookshelf NBK1523]
  • [9] 日本人間ドック・予防医療学会. 所見の説明「1 胸部X線」. [日本人間ドック・予防医療学会]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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