InstagramInstagram

卵巣過剰刺激症候群OHSSとは?妊娠成立で症状悪化・合併症・予防法

卵巣過剰刺激症候群OHSSとは?妊娠成立で症状悪化・合併症・予防法

卵巣過剰刺激症候群の症状

卵巣過剰刺激症候群とは、過剰なホルモンで卵巣が刺激されることに対する生体の反応のことです。通常、卵巣での卵の発育を促すために注射用のホルモン剤を服用している女性に起こります。卵巣過剰刺激症候群OHSS)では、卵巣が腫れて痛みを伴います。

卵巣過剰刺激症候群OHSSは、注射剤を用いた体外受精(IVF)や排卵誘発を行っている女性に起こる可能性があります。OHSSは、クロミフェンなどの経口薬を用いた不妊治療中に発生することも少なくありません。クロミッドでは、約3%の割合でOHSSが発生しますが、体外受精に伴う過排卵誘発法では7〜8%と経口薬に比べて高くなります。

治療は、症状の重さによって異なります。OHSSは、軽度の場合は自然に改善することがありますが、重度の場合は入院して追加の治療を行う必要があります。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの原因とは

卵巣過剰刺激症候群の原因は、完全には解明されていません。通常、妊娠中に産生されるホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピンhCG)が体内に大量に取り込まれることが一因と考えられています。卵巣の血管はHCGに敏感に反応し、血管の透過性が高まり、体液が血管外に漏れ始めます。この漏出した体液が卵巣を膨らませ、時には腹水が見られたりします。

不妊治療では、成熟した卵胞が卵を放出するための引き金となる目的でヒト絨毛性ゴナドトロピンhCGを投与することがあります。OHSSは通常、HCG注射を受けてから1週間以内に起こります。治療中に妊娠した場合、妊娠に反応して自らhCGが作られるため、hCGの濃度が維持されたり増えたりして、OHSSが悪化することがあります。

注射による排卵誘発剤は、クロミフェン(口から飲む薬)による治療よりもOHSSを引き起こす可能性が高いと言われています(約8%対約3%)。もちろん、まったく自然な生理周期で自然に卵巣過剰刺激症候群OHSSが起こることもあります。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの症状

卵巣過剰刺激症候群OHSSの症状は、排卵を促す注射薬を使用してから1週間以内に始まることが多いですが、2週間以上たって症状が現れることもあります。症状は、軽度から重度まであります。

軽度から中等度の卵巣過剰刺激症候群OHSSの症状

軽度から中等度の卵巣過剰刺激症候群では、以下のような症状が見られます。

  • 軽度から中等度の腹痛
  • 腹部の膨満感(おなかが張る感じ)、ウエストサイズの増加
  • 吐き気、嘔吐(おうと)
  • 下痢
  • 卵巣の周辺の圧痛(押すと痛い)

軽度のOHSSを発症する人もいます。これは通常、1週間程度で治まりますが、妊娠した場合は、OHSSの症状が悪化し、数週間と長引くことがあります。

重度の卵巣過剰刺激症候群OHSSの症状

重度の卵巣過剰刺激症候群では、以下のような症状が見られます。

  • 24時間で1キロ以上の急激な体重増加
  • 重度の腹痛
  • 重度で持続的な吐き気や嘔吐
  • 血栓(足が痛くなる)
  • 尿量の減少
  • 息切れ
  • 腹部の締め付けられる感じ

病院を受診するタイミング

不妊治療を受けていて、卵巣過剰刺激症候群の症状が出た場合は、医師に連絡してください。軽度のOHSSであっても、急激な体重増加や症状の悪化がないかどうかを観察する必要があります。

不妊治療中に呼吸困難や足の痛みが生じた場合は、迅速な治療を必要とする緊急の状況を示している可能性がありますので、すぐに医師に連絡してください。

卵巣過剰刺激症候群OHSSのリスク要因

OHSSは、危険因子が全くない女性に起こることもあります。しかし、OHSSのリスクを高めることが知られている要因は以下の通りです。

  • 多嚢胞性卵巣症候群PCOSがある
  • 卵胞の数が多い
  • 35歳以下
  • 低体重(医学的にはBMI18.5以下)
  • hCGを排卵誘発のトリガーショットをする前にエストラジオールエストロゲン)の血中濃度が高い
  • 過去にOHSSを発症したことがある

卵巣過剰刺激症候群OHSSの合併症

重度の卵巣過剰刺激症候群はまれですが、生命を脅かす可能性があります。合併症には以下のようなものがあります。

  • 腹部、時には胸部への体液の貯留
  • ナトリウム、カリウムその他の電解質異常
  • 血管の血栓(通常は脚)
  • 腎不全
  • 卵巣が捻じれる(卵巣捻転)
  • 卵巣の嚢胞が破裂して大出血
  • 呼吸困難
  • 合併症による流産
  • まれに死亡

気になる死亡率は、正確な数値化はされていませんが、割合は報告によると約1/45,000~1/500,000で、ほとんどが血栓塞栓症の合併症によるものです。

血栓塞栓症の合併症は稀であるため、卵巣刺激を受ける予定の女性に対して,血栓症の定期的なスクリーニングを行うことは推奨されていません。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの予防法

卵巣過剰刺激症候群になる可能性を減らすためには、不妊治療薬の個別の計画が必要です。医師が卵胞の発育を確認するために頻繁に超音波検査を行い、ホルモンレベルを確認するために血液検査を行うなど、各治療サイクルを注意深くモニターし、個別の症例にあわせた卵巣刺激法を選択することを期待します。

卵巣過剰刺激症候群OHSSを予防するための戦略は以下の通りです。

薬物量を調整
卵巣を刺激して排卵を誘発するために、可能な限り低用量のゴナドトロピンを使用します。
薬物の追加投与
妊娠の確率に影響を与えることなく、卵巣過剰刺激症候群OHSSのリスクを減少させる薬がいくつかあります。低用量アスピリン、カルベルゴリンなどのドパミンアゴニスト、カルシウム輸液などです。多嚢胞性卵巣症候群の女性には、卵巣刺激時にメトホルミンを投与することで、過剰刺激を防ぐことができます。
コースティング
エストロゲンレベルE2が高い場合、または発育した卵胞が多数ある場合、医師は、注射薬を中止して数日待ち、E2の血中レベルが3,000ぐらいに下がってから採卵排卵を誘発するhCGを投与するように指示することがあります。
hCGトリガーショットを避ける
HCGトリガーショットを投与した後にOHSSが発症することが多いため、hCGに代わるトリガーショットとして、リュープロリド(ルプロン)などのGn-RHアゴニストを用いた方法が開発されていますが、これはOHSSを予防または制限するための方法です。
胚の凍結
体外受精を受ける場合、OHSSの可能性を減らすために、卵巣から成熟卵胞と未成熟卵胞を取り除き、成熟した卵胞は受精させて凍結し、卵巣を休ませます。後日、体調を整えて、体外受精を再開します。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの診断方法

診断結果を患者さんに伝えている医師

卵巣過剰刺激症候群の診断には以下の情報が参考になります。

身体検査理学所見
体重増加、ウエストサイズの増加、腹痛の有無などを確認します。
超音波検査
OHSSの場合、超音波検査では、卵巣が通常よりも大きく、卵胞が形成され、大きな液体の詰まった嚢胞が見られることがあります。排卵誘発剤による治療中、医師は定期的に経膣超音波検査で卵巣を評価します。
血液検査
血液の異常やOHSSによる腎機能の低下がないかチェックします。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの重症度分類

卵巣過剰刺激症候群は、症状、徴候、検査所見の重症度に基づいて、4つに分類されます。

軽度OHSS

多数の卵胞嚢と黄体嚢を伴う両側卵巣腫大、腹部の膨満感と不快感、軽度の吐き気、そして頻度は低いものの嘔吐と下痢を特徴とします。血液検査で異常はありません。
軽度のOHSSは、卵巣の反応が強い女性が体外受精(IVF)のためにゴナドトロピンで卵巣を刺激した後に頻繁に見られます。通常、特別なケアは必要ありませんが、患者さんのモニタリングが必要です。

中等度のOHSS

中等度のOHSSは、軽度のOHSSに超音波検査による腹水の所見が加わったものです。卵巣は拡大し、大きな人だと12センチメートルに達する人もいます。腹部の不快感や、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状は、軽度のOHSSよりも多くかつ強くなります。また、3kgを超える体重の急激な増加は、中等度のOHSSの初期徴候である可能性がありますので注意が必要でしょう。
血液検査では、ヘマトクリットが41%以上、白血球濃度(WBC)が15,000/μL以上で、低タンパク血症が見られます。

重度OHSS

中等度OHSSの所見に加えて、激しい腹痛や、胸水を伴う腹水がみられます。重度のOHSSになると、5~10日間で15~20kgも体重が増加し、進行性の白血球増加を示します。腹水および胸水は肺機能を低下させ、低酸素症を引き起こす可能性があります。

低カリウム血症や乏尿または無尿、吐き気がおさまらない、嘔吐が頻繁に見られます。血清クレアチニン値は1.6mg/dL以上となります。肝臓を流れる血液量がの低下するので、肝機能に影響を及ぼし、抗血液凝固因子が最初に枯渇し、トランスアミナーゼ(ALT,AST)が増加します。その他の臨床検査所見には、ヘマトクリット 55%以上、WBC 25,000/μL以上、電解質不均衡(低ナトリウム血症、高カリウム血症)などがあり、血液濃縮は血栓塞栓症のリスクを高めます。

致命的なOHSS

致命的なOHSSでは、重要な臓器やシステムの機能が著しく低下します。急性腎不全を伴う無尿、不整脈、呼吸不全、播種性血管内凝固などの多臓器不全により死に至ることもあります。心嚢貯留もみられます。

卵巣過剰刺激症候群OHSSの治療方法

卵巣過剰刺激症候群は、一般的には1~2週間以内に自然治癒しますが、妊娠するとそれ以上に長引きます。治療は、快適な状態を保ち、卵巣の活動を低下させ、合併症を回避することを目的としています。

軽度のOHSSの治療

軽度のOHSSは、通常、自然に治癒しますので特に何もする必要はありません。

中等度のOHSSの治療

中等度のOHSSの治療には、以下が含まれます。

  • 水分摂取量の増加
  • 頻繁な健康診断と超音波検査
  • 毎日の体重測定とウエスト測定で、急激な変化がないかを確認する
  • 1日の尿量の測定する
  • 脱水症状、電解質バランスの乱れ、その他の問題を監視するための血液検査
  • 血栓を防ぐための薬(抗凝固剤)の投与

重度のOHSS

重度のOHSSでは、入院してモニタリングを行い、輸液などの積極的な治療を行う必要があります。症状を軽減するために、カベルゴリンと呼ばれる薬を投与することがあります。また、ゴナドトロピン放出ホルモンGnRH)アンタゴニストやレトロゾール(フェマーラ)など、卵巣の活動を抑制するための他の薬剤が投与されることもあります。

重篤な合併症が発生した場合は、卵巣嚢腫の破裂に対する手術や、肝臓や肺の合併症に対する集中治療など、別の治療が必要になることがあります。また、足の血栓のリスクを減らすために、抗凝固薬が必要になることもあります。

家庭での対処法

軽度の卵巣過剰刺激症候群を発症しても、大多数の女性は日常生活を続けることができます。

腹部の不快感には、アセトアミノフェンのような市販の鎮痛剤を試して結構です。ただし、イブプロフェンやナプロキセンナトリウムは、胚移植を行ったばかりの方は、胚の着床を妨げる可能性があるため、避けてください。

毎日、同じ体重計で体重を計り、お腹周りを測り、異常な増加があれば医師に報告してください。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移