メチルトランスフェラーゼファミリーは、DNA、RNA、タンパク質などの分子にメチル基を転移させる一連の酵素を指します。これらの酵素は、細胞内のエピジェネティックな遺伝子調節に重要な役割を果たしています。メチルトランスフェラーゼは、S-アデノシルメチオニン(SAM)をメチル供与体として使用し、特定の基質にメチル基を付加することで、遺伝子の発現を調節したり、細胞の分化を制御したりします[1][2][3]。
● 分類と機能
メチルトランスフェラーゼは、触媒する化学反応の種類に基づいて、以下のように分類されます[1]:
– m6Aメチルトランスフェラーゼ:N6-メチルアデニンを生成します。これらは遺伝子の発現調節や細胞周期の制御に関与しています。例えば、E. coliのEcoDamやCaulobacter crescentusのCcrMなどが知られています。
– m4Cメチルトランスフェラーゼ:N4-メチルシトシンを生成します。これらはプロカリオートのタイプII制限修飾システムの一部として機能し、特定のDNA配列を認識してメチル化することで、同じ配列を認識するタイプII制限酵素によるDNAの切断から保護します。
– m5Cメチルトランスフェラーゼ:C5-メチルシトシンを生成します。哺乳類細胞では、特定のCpG配列をメチル化して遺伝子の発現を調節し、細胞分化を制御します。細菌では、これらの酵素は制限修飾システムの一部として機能し、DNAの操作に有用なツールとなります。
● De novo vs. Maintenance
メチルトランスフェラーゼには、de novoとmaintenanceの2つのタイプがあります。De novoメチルトランスフェラーゼは、DNA内の何かを認識して新たにシトシンをメチル化し、主に初期胚発生で発現し、メチル化パターンを設定します。一方、maintenanceメチルトランスフェラーゼは、DNAのメチル化パターンを維持するために作用します[1]。
● 疾患との関連
メチルトランスフェラーゼは、がんや代謝病などの疾患の発生に関与していることが知られています。これらの酵素の活動の変化は、遺伝子の発現パターンに影響を与え、病態の発展に寄与する可能性があります。そのため、これらの酵素は新しいエピジェネティックな治療薬の開発のターゲットとして注目されています[2]。
● 昆虫における研究
昆虫のDNAメチルトランスフェラーゼファミリーに関する研究は、これらの酵素が昆虫の発達過程、環境への応答、さまざまな刺激に対する適応性などにどのように関与しているかを理解するのに役立ちます。昆虫では、完全なDNAメチル化ツールキットはほとんどの目には存在しませんが、de novoメチル化とメンテナンス機能は保存されていることが示されています[3]。
● 構造と機能
メチルトランスフェラーゼの構造は、一般に大きな触媒ドメインと小さなDNA認識ドメインの2つのドメインに分かれています。例えば、HhaIメチルトランスフェラーゼ(M.HhaI)の構造は2.5Åの解像度で解決されており、触媒および補因子結合部位を含む大きな触媒ドメインと、DNA認識ドメインに分かれています[1]。
これらの酵素は、細菌からヒトに至るまでのゲノムに存在し、多様な生物学的プロセスに関与しています。例えば、HEMK1はHemKメチルトランスフェラーゼファミリーに属し、グルタミンをメチル化する機能を持っています[5]。また、植物においても、メチルトランスフェラーゼは重要な役割を果たしており、例えば、コメのカフェ酸O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)遺伝子ファミリーが機能解析の対象となっています[6]。
- 参考文献・出典
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[1] en.wikipedia.org/wiki/DNA_methyltransferase
[2] pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29033456/
[3] pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34237376/
[4] shigen.nig.ac.jp/rice/oryzabase/gene/detail/22009
[5] www.signalchem.com/product_details.php?id=YTU3NzFiY2U5M2UyMDBjMzZmN2NkOWRmZDBlNWRlYWEtMTM0Nzc%3D
[6] shigen.nig.ac.jp/rice/oryzabase/gene/detail/10420
どうして特定の基質にメチル基を付加することで、遺伝子の発現を調節したり、細胞の分化を制御したりできるのですか
特定の基質にメチル基を付加することで遺伝子の発現を調節したり、細胞の分化を制御したりできるのは、メチル化がエピジェネティックな修飾の一種であり、DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子の機能を変化させるからです。具体的には、以下のメカニズムによります。
● DNAメチル化と遺伝子発現の調節
– プロモーター領域のメチル化: DNAメチル化は、特にシトシンとグアニンが連続するCpG配列において、シトシンの5位の炭素にメチル基が付加されることが多いです。遺伝子のプロモーター領域に多く存在するCpGアイランドがメチル化されると、その遺伝子の発現は通常抑制されます。これは、メチル化が転写因子の結合を阻害したり、メチル化DNA結合タンパク質(MBD)が結合してクロマチン構造を変化させることにより、遺伝子が転写されにくい状態になるためです[5][6][7][10]。
● 細胞分化の制御
– エピジェネティックな記憶: 細胞分化において、特定の細胞型に必要な遺伝子が活性化され、不要な遺伝子が抑制される必要があります。メチル化パターンは細胞が分裂しても維持されるため、細胞のアイデンティティを保持するエピジェネティックな記憶として機能します。例えば、血液細胞の分化においては、特定の遺伝子のプロモーター領域のメチル化状態が変化し、必要な遺伝子が活性化されることが示されています[1]。
● メチル化とヒストン修飾
– ヒストン修飾との相互作用: DNAはヒストンというタンパク質に巻き付いてクロマチンを形成しています。DNAメチル化はヒストン修飾と相互作用し、クロマチンの構造を変化させることができます。例えば、メチル化されたDNAはヒストン脱アセチル化酵素をリクルートし、クロマチンをコンパクトな状態にすることで遺伝子の発現を抑制します[5][7][8]。
● メチル化パターンの継承
– メチル化パターンの継承: DNAメチル化パターンは、細胞分裂時にも維持される必要があります。新生DNA鎖にメチル基を付加することで、親細胞のエピジェネティックな状態が娘細胞に伝達されます。これにより、細胞分化後も特定の細胞型の特性が保持されます[9]。
● メチル化と疾患
– 疾患との関連: DNAメチル化の異常は、がんや神経疾患など多くの疾患の発生に関与しています。例えば、がん細胞では、がん抑制遺伝子のプロモーター領域が異常にメチル化され、遺伝子の発現が抑制されることがあります[6][7]。
これらのメカニズムにより、メチル化は遺伝子の発現を調節し、細胞の分化を制御する重要な役割を果たしています。また、これらのプロセスは、エピジェネティックな変化として、遺伝情報自体の変化を伴わずに行われるため、環境因子や発達過程に応じて柔軟に遺伝子の機能を調節することが可能です。
- 参考文献・出典
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[1] www.riken.jp/press/2017/20170907_1/index.html
[5] www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/59/column2.html
[6] www.rhelixa.com/knowledgebase/dna-methylation-role/
[7] ruo.mbl.co.jp/bio/product/epigenome/article/DNA-methylation.html
[8] www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/51/3/51_3_124/_pdf
[9] www.ims.u-tokyo.ac.jp/cancer-cell-biology/hp2018/DNAme_maintenance.html
[10] bsw3.naist.jp/bsedge/0003.html
Methyltransferase familiesに属する遺伝子
AMT
ICMT
MGMT
MTR
PEMT
TRMO



