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Long range PCRとは?
Long range PCRは、5Kb以上の長いDNA断片を増幅するためのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の一種です。この方法では、特別な高忠実度のDNAポリメラーゼを使用して、長いDNA断片を効率的に増幅します。通常のPCRでは1,500から1,800bpのDNA断片を増幅することが可能ですが、Long range PCRを使用することで、5kb、10kb、さらには20kbといったより長いDNA断片の増幅が可能になります[1].
この技術は、特に長いDNA領域を扱う研究や診断において有用であり、高GC含有領域の増幅や、長いCpGリピートを含むテンプレートの診断に適しています。Long range PCRは、高い精度と専門的な実験設定を必要とし、通常のPCRよりも時間がかかり、成功率が低いというデメリットもありますが、特定のアプリケーションにおいては非常に有効な手法です[1].
- 参考文献・出典
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[1] geneticeducation.co.in/what-is-a-long-range-pcr/
[2] www.qiagen.com/us/knowledge-and-support/knowledge-hub/bench-guide/pcr/introduction/types-of-pcr
[3] www.nature.com/articles/srep05737
[4] en.wikipedia.org/wiki/Polymerase_chain_reaction
[5] www.neb.com/en/applications/dna-amplification-pcr-and-qpcr/specialty-pcr/long-range-pcr
[6] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7913364/
[7] www.sciencedirect.com/topics/medicine-and-dentistry/polymerase-chain-reaction
[8] www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.30.20234971v2.fullLong range PCRとは、通常のPCR法や試薬では増幅できない5kb以上の長さのDNAを増幅することである。20kbまでのDNA断片はlong-range PCRのプロトコルで増幅することができる。
従来の25μLや50μLの反応では、数千塩基対のDNA断片しか増幅することができない。通常のPCR反応では1500〜1800bpの断片までなら効率よく増幅できるが、5kb, 10kb, 20kbといった長い断片を増幅することは、通常のPCRでは不可能である。
長い断片を増幅したいのであれば、より多くの試薬、PCRサイクル、プライマーが必要なのは明らかである。また、より長いPCRを達成するためには、様々な化学物質の組み合わせを使用するための専門知識と経験が必要で、そのためには高い精度とハイエンドの実験装置が必要である。つまり、long-range PCRを成功させるためには広範なプロトコルの設定、メイクアップされたPCR反応バッファー、最適化されたTaq DNAポリメラーゼの3つが重要な要素である。
ロングレンジPCRはどのようにして長いDNA断片を効率的に増幅するのですか
ロングレンジPCRは、特別に設計されたDNAポリメラーゼを使用することで、長いDNA断片を効率的に増幅します。これらのポリメラーゼは、高いプロセス能力と忠実度を持ち、長いDNA領域の複製においても正確性を維持することができます。また、ロングレンジPCRには、特定のバッファーシステムやdNTPの最適化された濃度が使用されることが多く、これにより長いDNA断片の増幅が可能になります[1][2][3].
例えば、QIAGEN LongRange PCR Kitは最長40kbまでのPCR産物の増幅に最適化されており、専用のバッファーシステムとインキュベートしたDNAを使用することで、損傷したDNAでも効率的に増幅することができます[1]. また、Thermo Fisher Scientificによると、長鎖PCRではTaq DNAポリメラーゼ(高速伸長)とハイフィデリティ酵素(正確性)の混合物を使用することが一般的です[2]. これにより、長いDNA断片の増幅においても、速度と正確性のバランスを取ることができます。
さらに、Illuminaの技術資料によると、ロングレンジPCRにはさまざまなPCR酵素が使用され、それぞれの酵素が異なるTm(融解温度)や断片長に対して最適化されています。例えば、TaKaRa PrimeSTAR GXL DNA Polymeraseは、幅広いTmと断片長(5.8kb-12.9kb)に対して増幅効率が良いと報告されています[3].
これらの特殊な酵素と最適化された反応条件の組み合わせにより、ロングレンジPCRは長いDNA断片を効率的に増幅することができるのです。
- 参考文献・出典
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[1] www.qiagen.com/jp/resources/download.aspx?id=86cb37aa-32f5-4989-a2aa-c741fdb853fd&lang=ja-JP
[2] www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cloning/cloning-learning-center/invitrogen-school-of-molecular-biology/pcr-education/pcr-reagents-enzymes/pcr-methods.html
[3] jp.illumina.com/content/dam/illumina-marketing/apac/japan/documents/pdf/2014_techsupport_session12.pdf
long-range pcrを使用することの利点は何ですか?
Long-range PCRを使用することの利点は、以下のように多岐にわたります:
1. 長いDNA断片の増幅: Long-range PCRは、5kb以上の長いDNA断片を増幅する能力を持っています。これにより、通常のPCRでは扱えない長さのDNA領域も研究や診断に利用できるようになります[1].
2. 高忠実度: 高忠実度ポリメラーゼの使用により、長いDNA断片の増幅でも高い精度を保持することができます。これは、遺伝子クローニング、ゲノムマッピング、シーケンシングなどのアプリケーションにおいて重要です[1][7].
3. 特定の遺伝子領域の詳細な解析: Long-range PCRは、特定の遺伝子領域やその周辺領域を詳細に解析するために使用されることがあります。これにより、遺伝子の構造や機能に関する深い理解が可能になります[2].
4. 次世代シーケンシングとの組み合わせ: Long-range PCRは、次世代シーケンシング(NGS)と組み合わせて使用されることが多く、高感度でコスト効率の良い遺伝子解析が可能になります。これにより、特定の遺伝子領域の包括的なシーケンシングが行え、疾患関連遺伝子の同定や変異のスクリーニングに役立ちます[4][6].
5. 複雑なテンプレートの増幅: Long-range PCRは、GC含有率が高い領域や低いテンプレート量、PCR阻害物質を含むサンプルからもDNAを増幅する能力があります。これにより、難易度の高いサンプルでも遺伝子解析が可能になります[1][3].
6. 疾患診断への応用: 特定の遺伝性疾患やがんなどの診断において、Long-range PCRは重要なツールとなっています。特に、大きな遺伝子再編やコピー数変異(CNV)の検出に有効です[6].
これらの利点により、Long-range PCRは分子生物学、遺伝学、医学研究などの多くの分野で広く利用されています。
- 参考文献・出典
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[1] pcrbio.com/usa/applications/pcr/long-range-pcr/
[2] genome.cshlp.org/content/2/1/51.full.pdf
[3] pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37608112/
[4] www.nature.com/articles/srep05737
[5] bitesizebio.com/28629/long-range-pcr-choosing-right-enzyme/
[6] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7913364/
[7] www.promega.com/products/pcr/taq-polymerase/gotaq-long-range-pcr-master-mix/
ロングレンジPCRはどのような分野で何のために使用されていますか
ロングレンジPCRは、以下のような様々な分野で使用されています:
1. 遺伝子検査: 遺伝子の変異や遺伝的疾患の診断において、特定の遺伝子領域や大きな遺伝子断片を増幅し、その配列を解析するために使用されます。これにより、疾患関連の変異を特定し、遺伝的リスクの評価が可能になります[1].
2. 感染症検査: 特定の病原体のDNAやRNAを検出し、感染症の診断に利用されます。ロングレンジPCRにより、病原体の遺伝子断片を効率的に増幅し、迅速かつ正確な診断を支援します[1].
3. 食品検査: 食品中の微生物汚染や遺伝子組み換え成分の検出に使用されます。ロングレンジPCRは、食品の安全性評価や品質管理において重要な役割を果たします[1].
4. 全ゲノムシーケンスおよびターゲットシーケンス: ロングレンジPCRは、全ゲノムシーケンスや特定の遺伝子領域のターゲットシーケンスにも応用されます。これにより、ゲノム全体または特定の領域の詳細な遺伝情報を得ることができ、研究や臨床診断に役立てられます[2].
これらの分野でのロングレンジPCRの使用は、その高い感度と特異性により、様々な生物学的および医学的問題の解決に貢献しています。
long-range pcrを使用することでどのような遺伝子が検出できますか?
Long-range PCRを使用することで、特に大きな遺伝子や複雑な遺伝子領域が検出可能です。例えば、以下のような遺伝子が検出されています:
1. BRCA1およびBRCA2: これらの遺伝子は乳がんおよび卵巣がんのリスクと関連しており、long-range PCRを用いてこれらの遺伝子の長い領域を増幅し、次世代シーケンシングで詳細な解析を行うことができます[1].
2. COL1A1、COL1A2、COL2A1: これらの遺伝子は骨形成不全症(Osteogenesis Imperfecta)と関連しており、long-range PCRによりこれらの遺伝子の広範囲をカバーし、病原性変異を検出することができます[2].
3. IRD関連遺伝子: 網膜疾患に関連する遺伝子群もlong-range PCRを用いて増幅され、次世代シーケンシングにより解析されます。この方法は、特に全エクソームシーケンシングで診断されなかった症例において有用です[3].
これらの例からもわかるように、long-range PCRは特に大きな遺伝子領域や、複数のエクソンを持つ遺伝子、またはプロモーターやイントロンを含む遺伝子の全領域を効率的に増幅し、詳細な遺伝子解析を可能にする技術です。これにより、特定の遺伝性疾患の診断や研究において非常に有効なツールとなっています。
long-range pcrを使用することでどのような遺伝子が検出できないのでしょうか?
Long-range PCRを使用する際に検出できない遺伝子や遺伝子領域には、以下のようなものがあります:
1. プライマーバインディング領域にまたがる大きな欠失: プライマーがバインドする領域に大きな欠失がある場合、その領域は増幅されず、結果として検出されません。これはプライマーが適切に結合できないために起こります[8].
2. 高度に変異した領域: 非常に多くの変異を含む遺伝子領域は、プライマーが特異的にバインドするのが困難になるため、正確に増幅されない可能性があります。これにより、特定の変異や変異型が見逃されることがあります[1][3].
3. 非常に高いGC含有領域: 高GC含有領域は、二次構造を形成しやすく、PCR中に適切にデナチュレーションされないことがあります。これにより、これらの領域の増幅効率が低下し、検出が困難になることがあります[4].
4. 非常に長いDNA領域: たとえlong-range PCRが長いDNA断片の増幅に適しているとしても、非常に長い領域(例えば、数十kbを超える長さ)は、技術的な限界やポリメラーゼのプロセッシビティの限界により、効率的に増幅されないことがあります[2].
これらの制限は、特定の遺伝子や遺伝子領域の検出を困難にする可能性があり、研究者はこれらの問題を解決するために異なるアプローチや追加の技術を使用する必要があります。
- 参考文献・出典
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[1] bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-021-08272-z
[2] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4320859/
[3] www.qiagen.com/us/knowledge-and-support/knowledge-hub/bench-guide/pcr/introduction/amplification-of-long-pcr-products
[4] academic.oup.com/femsec/article/67/1/6/518537
[8] www.researchgate.net/figure/A-list-of-enzymes-for-long-range-PCR-reaction_tbl2_264054284
long-range pcrを使用することでどのような遺伝子が検出できない場合、他の方法はありますか?
Long-range PCRを使用して検出できない遺伝子や遺伝子領域がある場合、他の方法として以下の技術が利用可能です:
1. 次世代シーケンシング(NGS): 特に全エクソームシーケンシングや全ゲノムシーケンシングは、long-range PCRでカバーできない広範囲の遺伝子領域や高度に変異した領域を解析するのに適しています。これにより、多くの遺伝子変異を同時に検出できます[12].
2. シングルセルPCR: 非常に少量のDNAからも遺伝子を検出することが可能です。これは、特定の細胞や微小な組織サンプルからの遺伝子解析に有効です[2].
3. Multiplex PCR: 複数の遺伝子を同時に増幅することができるため、long-range PCRで検出困難な遺伝子が含まれるサンプルに対しても効果的です。これにより、一度のPCR反応で多くの遺伝子領域をカバーすることが可能です[2].
4. Nested PCR: 二段階のPCRを行うことで、特定の遺伝子領域の増幅効率と特異性を高めることができます。これは、特に低濃度のテンプレートや複雑な領域の検出に有効です[2].
5. In situ ハイブリダイゼーション: 組織切片や細胞に直接適用し、特定のDNAまたはRNA配列を視覚的に検出する方法です。これにより、遺伝子の局在や発現パターンを詳細に調べることができます。
これらの代替手法は、long-range PCRの限界を補完し、より広範囲または特定の遺伝子解析を可能にします。それぞれの手法は特定の状況やサンプルタイプに応じて選択されるべきです。



