互酬性(ごしゅうせい)とは?わかりやすく教えてください
互酬性(ごしゅうせい)は、人々の間で行われる贈り物やサービスの相互交換のことを指し、その交換には社会的な意味が含まれています。具体的には、何かを贈る行為、贈られたものを受け取る行為、そして贈り物に対して何かを返す行為の一連のプロセスを通じて、人々の間の関係が築かれ、維持されます。この互酬性は、単に物理的な「give and take」にとどまらず、感謝や尊敬、義務感などの道徳的な理念や社会的な価値観を反映しています。
互酬性は文化人類学において非常に重要な概念です。これは、人々が市場や金銭的な取引を介さずに物資やサービスを交換する行為を指します。互酬性の形態には大きく分けて二つあります。一つは、即時に物やサービスが交換される「直接的な物々交換」です。もう一つは、何らかの見返りが将来に期待される形で行われる「贈答交換」で、例えば誕生日プレゼントの交換がこれに該当します。このような交換は、単に物理的なものを交換するだけでなく、社会的な絆や義務、信頼関係を築く手段としても機能します。
3種類の互酬性とは?
マーシャル・サーリンズが1965年に発表した「互酬性」に関する研究は、文化人類学において重要な貢献をしました。彼は人間社会における互酬関係を、一般的互酬性、均衡互酬性、否定的互酬性の三つのタイプに分類しました。
1. 一般的互酬性(Generalized Reciprocity):
このタイプは、親密な関係、例えば家族や親しい友人間で見られます。贈り物やサービスが無条件で与えられ、返礼の具体的な期待がないか、または非常に遅延される形で期待されます。この形式は、互酬性の中で最も無私無欲な形態と見なされます。
2. 均衡互酬性(Balanced Reciprocity):
この形式では、贈与と返礼が比較的明確に期待され、時間的な間隔も比較的短いです。友人やより広い社会的ネットワーク内でよく見られ、互酬のバランスが取れている必要があります。これは、より計算的な関係性を示唆しており、社会的な結びつきを保持する機能を持ちます。
3. 否定的互酬性(Negative Reciprocity):
最も自己中心的な形式で、交換の相手から最大限を得ようとし、できるだけ少なく与えようとする行動を指します。このタイプの互酬性は、しばしば競争的または敵対的な関係で見られます。市場交渉や一部の競争的な商取引において顕著です。
サーリンズのこの理論は、経済活動だけでなく、社会的な絆や文化間の相互作用を理解する上で重要な洞察を提供します。互酬性は、単に物の交換以上の意味を持ち、社会の連帯感や信頼の構築にも寄与しているのです。
互酬性の規範とは?
互酬性の規範は、社会関係の中で非常に重要な役割を果たします。これは、個人間、集団間、さらには国家間での相互作用において、一方が何かを与えた際に、他方が何らかの形でそれに応えるべきだという期待を指します。この規範は、協力、信頼、および社会的結束を促進するのに役立つ基本的な社会的原則です。
● 互酬性の規範の機能
1. 社会的結束の強化:
互酬性は人々がお互いを支援し合うことを奨励し、社会的な繋がりを強化します。これにより、グループ内での協力が促進され、より強固なコミュニティが形成されます。
2. 信頼の構築:
互いに対する期待が果たされると、個人間の信頼が築かれます。互酬性の規範が守られることで、他人に対する信頼感が高まり、将来的な協力関係への基盤が形成されます。
3. 公平性と正義の促進:
互酬性は、与えたものと同等の価値を受け取るという公平性の感覚を提供します。これは、社会的な取引において公正が期待される文化において特に重要です。
4. 対人関係の調整:
互酬性は、人々がどのように互いに関わるかを調整し、異なる社会的および文化的背景を持つ人々間の相互作用をスムーズにします。
● 互酬性の類型
– 一般的互酬性: 対価を直接的に期待せずに行われる支援や贈り物。通常、親密な関係で見られます。
– 均衡互酬性: 明確な期限内に等価の対価が返されることが期待される交換。友人や知人間で一般的です。
– 否定的互酬性: 利己的な動機に基づいて、できる限り多くを得ようとする交換。競争的な関係や敵対的な状況で見られます。
● 社会科学における研究
互酬性の規範は、文化人類学、社会心理学、経済学など多岐にわたる分野で研究されています。これらの研究は、互酬性がどのようにして社会的行動や文化的な進化に影響を与えているかを明らかにしようと試みています。また、これらの原則がどのようにして社会的な制度や法律に組み込まれているかも探求しています。
このように、互酬性の規範は単なる社会的な礼儀以上のものであり、人々の行動や関係の構築に深く根ざした原則として機能しています。
互酬性と行動経済学
互酬性は行動経済学においても重要な概念であり、従来の経済学が仮定する「合理的な経済人」モデルを越えた人間の行動を説明するのに役立っています。行動経済学は、経済的意思決定が実際にはどのように影響を受けるか、特に心理的、社会的、感情的要因がどのように経済行動に影響を与えるかを研究する分野です。
● 互酬性の影響
行動経済学における互酬性は、人々が単に自己利益を最大化するだけでなく、他者の行動に応じて自分の行動を調整する傾向があることを示します。この傾向は以下のような形で現れます:
1. 正の互酬性:
他人から好意や利益を受けた際、人々はそれに対して同等またはそれ以上の好意を返そうとする傾向があります。これは「善意には善意で応える」という形で表れ、協力や信頼の形成に寄与します。
2. 負の互酬性:
他人からの不正行為や不利益に対しては、報復や懲罰の形で応える行動です。これにより、社会的なルールや公正を保つメカニズムとして機能します。
● 互酬性の実験
行動経済学の研究では、様々な実験が行われています。特に有名なのが「公共財ゲーム」や「アルティメイタムゲーム」です。これらのゲームは、参加者が共同で資源を分配する方法を決定する場面で実施され、互酬性が人々の選択にどのように影響するかを観察します。
– 公共財ゲーム:
参加者がプールされた共通資源に自由に貢献できる設定で、互酬性が高い個体は他者が協力的な場合により多く貢献することが見られます。
– アルティメイタムゲーム:
一方の参加者が提案者となり、ある金額をどのように分配するか提案し、もう一方がそれを受け入れるか拒否するゲームです。提案が不公平だと感じた場合、受け手は不利益を被ることを承知で提案を拒否することがあります。これは負の互酬性の一例です。
● 互酬性の経済的影響
互酬性は、労働市場、消費者行動、企業のガバナンスにも影響を及ぼします。例えば、従業員が会社から公正な扱いを受けていると感じると、より高いモチベーションと生産性を示すことがあります。また、消費者は企業が社会的責任を果たしていると感じると、その製品を選びやすくなります。
互酬性は、経済活動においても重要な役割を果たし、合理的な経済行動とは異なる多くの行動パターンを説明するのに役立っています。このように行動経済学は、互酬性を通じて人間の複雑な行動の背後にある原動力を解明しようとしています。



