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過剰診断の問題点と対策

過剰診断の意味とは?

過剰診断(overdiagnosis)は、症状が出ず、死亡に至らないような状態が診断されることを指します。具体的には、検診や他の医療検査によって、生涯にわたって何の害も及ぼさない可能性が高い、治療の必要のなかった病変を見つけ出し、治療を要するものと診断してしまう状況を言います[3][7].

この概念は、特にがん検診において重要であり、検診により本来は生命予後に影響しないがんを発見することが過剰診断と定義されます[6][8]. 例えば、がん検診で発見されたがんが、その人の寿命に影響を与えることなく、自然に消失するか、非常にゆっくりと進行する場合、そのがんの診断は過剰診断に該当する可能性があります。

過剰診断は、不必要な治療や検査、不安を引き起こすことがあり、医療資源の無駄遣いにもつながるため、診断プロセスの改善が求められています[1][3].

双極性障害の過剰診断

双極性障害の過剰診断は、特に精神医学の分野で注目されている問題です。過剰診断とは、実際には双極性障害の診断基準を満たしていないにも関わらず、双極性障害と診断されるケースを指します。この問題は、不必要な治療や薬物の処方、患者の精神的な負担増加につながる可能性があります。

● 過剰診断の背景と原因

過剰診断の一因として、診断基準の適用の仕方に問題があることが挙げられます。DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)やその他の診断基準が、あまりに広範に解釈されることがあります。例えば、一時的な気分の変動や生活のストレスが原因で一過性の症状が現れた場合でも、誤って双極性障害と診断されることがあります[1][2][4].

また、文化的な要因や社会的な期待も過剰診断に影響を与えることがあります。特に、双極性障害の症状がメディアや一般文化によって誤解されやすいことが、過剰診断を助長しています[3][19].

● 過剰診断の影響

双極性障害の過剰診断は、患者に多大な影響を及ぼします。不必要な薬物療法やその副作用、精神的なレッテル、自己認識の歪みなどが生じる可能性があります。また、過剰診断は医療資源の無駄遣いにもつながり、他の必要な治療が遅れる原因にもなり得ます[1][4].

● 対策と考察

双極性障害の過剰診断を防ぐためには、診断基準の厳格な適用と、医師の継続的な教育が重要です。患者の詳細な病歴の把握や、複数の専門家による評価が推奨されます。また、患者自身や家族が症状や治療選択について正確な情報を持つことも、過剰診断を防ぐ上で効果的です[1][2][3][4].

双極性障害の過剰診断は、診断と治療の過程で慎重な判断が求められる問題であり、患者の生活の質を大きく左右するため、精神医学の分野ではこの問題に対する意識が高まっています。

発達障害の過剰診断

発達障害の過剰診断に関する問題は、多くの専門家によって指摘されています。過剰診断は、診断基準の変更、医療提供者の診断傾向、社会的認識の広がりなど、さまざまな要因によって引き起こされる可能性があります。

● 過剰診断の原因と影響

1. 診断基準の変更: DSM-5の導入により、診断基準が変更されたことが過剰診断を引き起こす一因とされています。これにより、以前は診断されなかった軽度の症状を持つ人々が発達障害と診断されるようになりました[2]。

2. 医療提供者の診断傾向: 医療提供者の間で、発達障害の認識が広がる一方で、診断を行う際の基準が不統一であることが問題とされています。特に、ADHDや自閉スペクトラム症の診断において、過剰に診断されるケースが報告されています[1][9][10]。

3. 社会的認識の広がり: 発達障害に対する認識が広がることで、親や教育関係者からの圧力が医師にかかり、診断が行われることがあります。これが過剰診断につながることがあります[9][10]。

● 過剰診断の問題点

– 不必要なレッテル: 過剰診断により、発達障害の診断を受けた人々が不必要なレッテルを貼られ、その後の教育や社会生活に悪影響を及ぼす可能性があります[1][5][9]。
– 治療資源の無駄遣い: 過剰診断は、限られた医療資源の無駄遣いにつながります。本当に支援が必要な人々が適切な治療を受けられない可能性があります[1][5]。

● 対策と考慮事項

– 診断基準の厳格化: 医療提供者による診断基準の適用を厳格化し、不必要な診断を避けるための研修やガイドラインの整備が求められます[2][5]。
– 多角的な評価: 発達障害の診断にあたっては、医療的な評価だけでなく、教育的な観点や心理社会的な背景も考慮することが重要です[1][2]。
– 社会的な支援の強化: 発達障害のある人々が社会で自立し、活躍できるような支援体制の整備が必要です。これには教育機関や職場での理解促進も含まれます[1][5]。

過剰診断は、発達障害の理解を深め、適切な支援を行う上での大きな障害となり得ます。医療提供者、教育関係者、社会全体が連携し、適切な診断と支援が行われることが望まれます。

がんの過剰診断

がんの過剰診断は、がん検診において特に重要な問題です。過剰診断とは、患者にとって害となる可能性があるにも関わらず、必要のない診断が行われることを指します。この問題は、がん検診の精度、医療技術の進歩、および検診プログラムの設計に関連しています。

● 過剰診断の原因

1. 検診技術の進歩: 新しい診断技術の導入により、非常に小さながんや、進行が非常に遅いがんが発見されるようになりました。これにより、実際には臨床的に意味をなさないがんが診断されることがあります[3][5][6].

2. 検診プログラムの設計: 検診プログラムが広範囲にわたる人々を対象としているため、多くの健康な人々が検診を受けることになります。これにより、必要のないがん診断が増えることがあります[1][2].

3. 医療提供者の判断: 医療提供者が過剰に慎重になることも、過剰診断の一因となります。特に、医療訴訟を恐れる文化がある場合、医師は診断を行い過ぎる傾向があります[3][5].

● 過剰診断の影響

– 不必要な治療: 過剰診断は、不必要な治療や手術を引き起こす可能性があります。これにより、患者は無駄なリスクや副作用にさらされることになります[3][5][6].
– 心理的ストレス: 「がん」と診断されることは、患者に大きな心理的ストレスを与えます。過剰診断により、実際には治療の必要がないにもかかわらず、患者が不安や恐怖を感じることがあります[3][5].
– 医療資源の浪費: 過剰診断は医療資源の無駄遣いにつながります。不必要な診断や治療により、本当に治療が必要な患者への資源が割り当てられなくなる可能性があります[3][5].

● 対策と考慮事項

– 検診基準の見直し: 過剰診断を減らすためには、がん検診の基準を見直し、より科学的根拠に基づいたアプローチが必要です[10].
– 情報提供の強化: 患者に対して、検診の利益とリスクについて正確かつ透明性のある情報を提供することが重要です。これにより、患者自身が情報に基づいた意思決定を行うことができます[10][11].
– 医療提供者の教育: 医療提供者に対する教育を強化し、過剰診断のリスクとその影響についての認識を高めることが重要です[3][5].

過剰診断は、がん検診の効果を最大化し、患者にとって最善の結果をもたらすために、適切に管理される必要があります。

乳がんの過剰診断と検診

スイスにおける乳がん検診の見直しは、過剰診断の問題を重く見た結果です。スイスの医療委員会は、マンモグラフィによる乳がん検診が死亡率を低下させないこと、治療しなくてもよい乳がんを発見してしまうことを理由に、乳がん検診の廃止を勧告しました[6][7][9][10][12]。この勧告は、乳がん検診が必ずしも予想されるほどの利益をもたらさないという研究結果に基づいています。

スイスの医療委員会は、マンモグラフィ検診による過剰診断が、不必要な治療や心理的ストレス、医療資源の浪費につながると判断しました。過剰診断は、実際には症状を示さない、進行が遅い、または生涯にわたって健康を脅かすことのないがんを指摘することが多く、これにより患者は不必要な医療介入を受けるリスクがあります。

スイスの事例は、乳がん検診プログラムの有効性とリスクを再評価する国際的な動きの一部と見ることができます。他の国々でも、乳がん検診の利益とリスクについて慎重な検討が行われており、検診プログラムの見直しや、検診の頻度と対象年齢の調整が行われています。

乳がん検診に関する政策は、国によって異なりますが、スイスのように検診プログラムを廃止する勧告を行う国はまだ少ないです。しかし、過剰診断の問題は国際的に認識されており、今後もこの問題に対する議論は続くと考えられます。

甲状腺がんの過剰診断

甲状腺がんの過剰診断については、特に甲状腺超音波検査の普及により、無症状で非致死性の微小な甲状腺がんが大量に発見されるようになったことが主な原因です。これにより、罹患率は劇的に増加していますが、死亡率はほぼ一定であるため、過剰診断が行われている可能性が指摘されています[7]。

● 過剰診断の背景

1. 技術の進歩と普及: 甲状腺超音波検査の技術進歩と普及により、非常に小さな甲状腺がんが発見されるようになりました。これは、特に韓国で顕著で、甲状腺がんの罹患率が国全体で15倍以上に増加したと報告されています[5]。

2. 臨床的意義の乏しいがんの発見: 多くの発見される甲状腺がんは、乳頭がんであり、これらの多くは臨床的に意味をなさない小さなものです。これらのがんは、一生患者に悪さをしない可能性が高いです[5][9].

● 対策と考慮事項

– 検診基準の見直し: 過剰診断を減らすためには、甲状腺がん検診の基準を見直し、より科学的根拠に基づいたアプローチが必要です[7].
– 情報提供の強化: 患者に対して、検診の利益とリスクについて正確かつ透明性のある情報を提供することが重要です。これにより、患者自身が情報に基づいた意思決定を行うことができます[7].

甲状腺がんの過剰診断は、がん検診の効果を最大化し、患者にとって最善の結果をもたらすために、適切に管理される必要があります。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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