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核酸の基本とその生物学的役割: DNAとRNAの重要性をわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

⏱ 30秒でわかる要約

Q. ホスホジエステル結合とは?

DNAやRNAの中で、となり合うヌクレオチドどうしをつなぐ共有結合です。1個のリン酸が、片方の糖の3’炭素側と、もう片方の糖の5’炭素側の両方とエステル結合をつくって橋渡しします。別名はリン酸ジエステル結合です。

Q. DNAのどこにある結合ですか?

糖とリン酸が交互に並ぶ「骨格(バックボーン)」の部分です。塩基と塩基の間ではなく、糖と糖の間(3’と5’の間)にあります。塩基どうしは水素結合、糖と塩基はN-グリコシド結合でつながっています。

Q. どうやってでき、何が切るのですか?

DNAポリメラーゼが鎖の3’末端に次のヌクレオチドをつなぐときにでき、DNAリガーゼは切れ目をつなぎ直します。切るのはヌクレアーゼ(制限酵素を含む)です。合成はいつも5’→3’の向きに進みます。

Q. 遺伝や病気とどう関係しますか?

遺伝情報である塩基の並びは、この結合がつくる鎖の上に保たれています。DNAの2本の鎖がどちらも切れる「二本鎖切断」をつなぎ直す酵素の遺伝子(LIG4)の変化で起こる病気があるほか、遺伝子検査のサンガー法や、核酸医薬の設計もこの結合のしくみを利用しています。

ホスホジエステル結合とは?DNAのどこをつなぐ結合か・リン酸ジエステル結合とグリコシド結合との違い

ホスホジエステル結合(リン酸ジエステル結合)は、DNAやRNAの中でとなり合うヌクレオチドどうしをつなぐ共有結合です。一方のヌクレオチドの糖の3’側と、次のヌクレオチドの糖の5’側が、1個のリン酸を介してつながっています[1]。この結合がくり返されてできる「糖-リン酸骨格」の上に、塩基(A・T・G・C、RNAではTの代わりにU)が並び、その並びが遺伝情報になります。ホスホジエステル結合があるのは塩基と塩基の間ではなく、糖と糖の間です。この記事では、結合の場所・向き・ほかの結合との違い・できかたと切れかたを整理したうえで、遺伝子検査や遺伝性の病気とのつながりまでを解説します。

1. ホスホジエステル結合とは?

ホスホジエステル結合とは、1個のリン酸が2つの分子の水酸基(-OH)とそれぞれエステル結合をつくり、2つの分子を橋渡ししている結合のことです。核酸(DNA・RNA)では、この橋渡しが「あるヌクレオチドの糖の3’の位置」と「次のヌクレオチドの糖の5’の位置」の間で起こります。ヌクレオチドはこの結合で次々とつながり、長い1本の鎖になります[1]。

ヌクレオチドは、リン酸・糖・塩基の3つの部品でできた核酸の単位です。糖はDNAではデオキシリボース、RNAではリボースです。ヌクレオチドそのものの構造はヌクレオチドとはで詳しく解説しています。このページでは、ヌクレオチドとヌクレオチドの「つなぎ目」に焦点を当てます。

名前の意味:「ホスホ」「ジ」「エステル」

ホスホジエステル結合は、英語の phosphodiester bond をカタカナにした言葉で、「リン酸(ホスホ)が2つ(ジ)のエステル結合をつくっている結合」という意味です。「ホスホ(phospho-)」は化学の名前でリンやリン酸を含むことを示す接頭語で、ホスホリパーゼやホスホリラーゼの「ホスホ」も同じです。「ジ(di-)」は2を表す接頭語です。

「エステル」は、酸とアルコール(-OHをもつ分子)が水を1分子失ってつながってできる化合物で、そのつながり方をエステル結合と呼びます。高校化学で習う酢酸エチルは、酢酸とエタノールがエステル結合でつながったものです。核酸の場合、酸にあたるのがリン酸、アルコールにあたるのが糖の-OHです。リン酸1個が左右2つの糖とエステル結合をつくるので「ジエステル」になります。

リン酸はもともと3つの-OHをもつ分子です。そのうち2つが糖とのエステル結合に使われ、残る1つの酸素は体の中の条件では水素イオンを手放し、マイナスの電荷を帯びています。このマイナスの電荷は、核酸の名前の「酸」の由来であり、後で説明するように、DNAが水の中で壊れにくい理由のひとつにもなっています[2]。

💡 用語解説:エステル結合

酸の-OHとアルコールの-OHから水1分子が取れて、酸とアルコールが酸素原子を介してつながった結合です。カルボン酸がつくるものは「カルボン酸エステル」、リン酸がつくるものは「リン酸エステル」と呼ばれます。リン酸が1つの相手とだけ結合したものがリン酸モノエステル、2つの相手と結合したものがリン酸ジエステルです。

ホスホジエステル結合は共有結合?別名は?

ホスホジエステル結合は共有結合です。別名は「リン酸ジエステル結合」で、指しているものは同じです。共有結合とは、原子どうしが電子を出し合って共有することでつながる結合で、分子の骨組みをつくる強い結合です。これに対して、DNAの2本の鎖を向かい合わせにつないでいる水素結合は、共有結合よりずっと弱い結合です。

教科書や問題集では「ホスホジエステル結合」「リン酸ジエステル結合」のどちらも使われます。核酸のつなぎ目であることを強調して「3′,5′-ホスホジエステル結合」と書かれることもあります。英語では phosphodiester bond のほか、phosphodiester linkage(ホスホジエステル連結)とも呼ばれます。試験で別の名前が出てきても、同じ結合を指していると考えてかまいません。

2. ホスホジエステル結合はDNAのどこにある?

ホスホジエステル結合は、DNAの「糖-リン酸骨格」の中にあり、ある糖の3’炭素についた酸素と、次の糖の5’炭素についた酸素を、リン酸のリン原子が橋渡ししています。「どこ」と「何と何」をまとめると、「3’の酸素-リン-5’の酸素」という並びの部分です[1]。

糖の3’炭素と次の糖の5’炭素をリン酸がつなぐ

核酸の糖(デオキシリボースやリボース)には5つの炭素があり、1’から5’まで番号が振られています。番号にダッシュ(’)を付けるのは、塩基の中の原子の番号と区別するためです。1’の炭素には塩基がつき、5’の炭素には(ヌクレオチドの状態では)リン酸がつき、3’の炭素には-OHがついています。

ヌクレオチドどうしがつながるときは、前のヌクレオチドの3’の-OHと、次のヌクレオチドの5’についているリン酸が結びつきます。その結果、「前の糖の3’炭素-O-P-O-次の糖の5’炭素」という並びができます。このPを中心にした2つのエステル結合をまとめて、ホスホジエステル結合と呼びます[1]。デオキシリボースの構造についてはデオキシリボースで解説しています。

ホスホジエステル結合5’末端糖①3′P糖②5′… 3’末端OON-グリコシド結合N-グリコシド結合塩基塩基糖とリン酸が交互に並んで骨格をつくり、塩基は骨格から横に出ている

図:ホスホジエステル結合の位置(模式図)。糖①の3’の酸素と糖②の5’の酸素を、リン酸(P)が橋渡しする。

糖-リン酸骨格と塩基の位置

ホスホジエステル結合が次々とつながると、糖とリン酸が交互に並んだ長い「糖-リン酸骨格(バックボーン)」ができます。塩基は骨格の一部ではなく、それぞれの糖の1’炭素から横に突き出しています。DNAの二重らせんでは、2本の鎖の骨格が外側に、塩基が内側に位置し、向かい合う塩基どうしが水素結合で対をつくります[1]。二重らせん全体のつくりはDNAの基本構造で、塩基の組み合わせは塩基対で解説しています。

ここでいう「塩基」は、窒素を含む環状の分子(核酸塩基)を指します。核酸塩基という名前は、これらの化合物が示す塩基性に由来しますが、一般にいうアルカリ性の水溶液そのものを意味するわけではありません。DNAではアデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)、RNAではTの代わりにウラシル(U)が使われます。AとGは二重の環をもつプリン塩基、C・T・Uは一重の環をもつピリミジン塩基です。

骨格は、どの塩基がついていても同じ形のくり返しです。だからこそ、骨格は塩基の種類にかかわらず鎖をつなぎとめる「土台」として働き、情報の中身である塩基の並び(塩基配列)を自由に変えられます。遺伝情報が「どの塩基が、どの順番で並んでいるか」で決まり、骨格のほうには情報が書かれていないのは、このつくりのためです。

5’→3’の向き(鎖の方向性)

ホスホジエステル結合はいつも「3’側と5’側」をつなぐので、核酸の鎖には向きができます。鎖の一方の端は、5’炭素側が次のヌクレオチドとつながっていない「5’末端」、もう一方の端は、3’の-OHが空いている「3’末端」です。遺伝子の塩基配列は、5’末端を左にして5’→3’の向きで書くのが慣例です。

二重らせんでは、2本の鎖は逆向き(逆平行)に並んでいます。一方が上から下へ5’→3’なら、もう一方は上から下へ3’→5’です[1]。この向きの違いは、どちらの鎖が転写の鋳型になるか(アンチセンス鎖とセンス鎖)や、DNA複製で鎖の伸び方が左右で違う理由(第4章)につながります。

3. ほかの結合との違い(グリコシド結合・水素結合・エステル結合)

核酸の中には、ホスホジエステル結合のほかに、糖と塩基をつなぐN-グリコシド結合と、向かい合う塩基どうしをつなぐ水素結合があります。3つの結合は、つないでいるもの・強さ・切れる場面がそれぞれ違います。試験で問われやすいのもこの区別です。

📘 核酸の中の3つの結合の違い

結合 何と何をつなぐ 種類 切れる・切る場面の例
ホスホジエステル結合 糖の3’とリン酸、リン酸と次の糖の5’(ヌクレオチドどうし) 共有結合 ヌクレアーゼ(制限酵素を含む)による切断、DNAの切断
N-グリコシド結合 糖の1’炭素と塩基の窒素原子(ヌクレオチドの中) 共有結合 DNAグリコシラーゼが傷ついた塩基を外す(塩基除去修復)
水素結合 向かい合う塩基どうし(A-Tは2本・G-Cは3本、RNAではA-U) 共有結合より弱い結合 DNA複製・転写のときのほどけ、PCRの熱変性

※結合の位置と種類はMinchin & Lodge[1]、水素結合の本数はOpenStax Biology 2e[3]による。表は要点を整理したもの。

N-グリコシド結合:糖と塩基の結合

「糖と塩基の結合」はホスホジエステル結合ではなく、N-グリコシド結合です。塩基の窒素原子(N)と、糖の1’炭素が共有結合でつながっています[1]。「グリコシド結合」は糖が別の分子とつながる結合の総称で、相手が窒素原子のときに「N-グリコシド結合」と呼びます。でんぷんやセルロースで糖どうしをつなぐ結合は、酸素原子を介した「O-グリコシド結合」です。

糖と塩基がN-グリコシド結合でつながったものをヌクレオシド、そこにリン酸がついたものをヌクレオチドと呼びます。ヌクレオチドを鎖にするのがホスホジエステル結合なので、「ヌクレオチドの中の結合=N-グリコシド結合」「ヌクレオチドとヌクレオチドの間の結合=ホスホジエステル結合」と覚えると混同しません。

この区別は、DNAの修復のしくみを理解するときにも役立ちます。傷ついた塩基を1つだけ取り除く塩基除去修復では、最初にN-グリコシド結合が切られて塩基だけが外れ、そのあとで骨格のホスホジエステル結合が切られて、正しいヌクレオチドに入れ替えられます。どの結合がどの順番で切られるかを追うと、修復の流れが整理しやすくなります。

水素結合:向かい合う塩基どうしの結合

DNAの2本の鎖を向かい合わせに保っているのは水素結合で、1本の鎖をつないでいるのがホスホジエステル結合です。AはTと、GはCと水素結合で対をつくり[1]、AとTの間には2本、GとCの間には3本の水素結合ができます[3]。水素結合は共有結合よりずっと弱いため、2本の鎖は必要なときにほどくことができます。

たとえばPCRで温度を上げて2本鎖を1本ずつに分ける「熱変性」で切れるのは、塩基どうしの水素結合です。それぞれの鎖のホスホジエステル結合は切れないので、ほどけた1本鎖はそのまま次の鋳型になります。「熱変性でホスホジエステル結合が切れる」は誤りで、ここは試験でも問われやすい点です。

エステル結合・リン酸エステル結合との違い

ホスホジエステル結合はエステル結合の一種で、リン酸がつくるエステル結合(リン酸エステル結合)のうち、リン酸1個が2つの相手と結合しているものです。リン酸が1つの相手とだけエステル結合したものはリン酸モノエステルと呼ばれます。ヌクレオシド一リン酸の5’リン酸や、タンパク質がリン酸化されたときのリン酸は、モノエステルです。一方、DNA合成の材料となるヌクレオシド三リン酸では、糖と最初のリン酸がエステル結合し、リン酸どうしはリン酸無水結合でつながっています。

ATPのリン酸どうしをつなぐ結合は、エステル結合ではなく「リン酸無水結合(酸無水物結合)」で、いわゆる高エネルギーリン酸結合です。ホスホジエステル結合とは別のものです。DNAが合成されるときには、材料のヌクレオチドがもつリン酸無水結合が切れ、そのエネルギーを使ってホスホジエステル結合がつくられます(第4章)。

ホスホジエステル結合は核酸だけにあるわけではありません。細胞の中で情報を伝えるcAMP(サイクリックAMP)は、1つのリボースの3’と5’が同じリン酸でつながって環になった分子で、分子の中にホスホジエステル結合をもちます。この環を開いてcAMPの働きを止める酵素が「ホスホジエステラーゼ」で、名前は「ホスホジエステル結合を分解する酵素」という意味です。cAMPの働きはPKA(プロテインキナーゼA)/cAMPで解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【名前より「どの原子どうしか」で覚える】

核酸の結合は、ホスホジエステル結合・グリコシド結合・水素結合と名前が並ぶため、丸暗記しようとすると混ざりやすいと考えています。名前ではなく、「3’の酸素とリン」「1’の炭素と塩基の窒素」「向かい合う塩基どうし」と、どの原子どうしがつながっているかで整理すると、取り違えが起きにくくなります。

遺伝子検査の結果を読むときも同じです。報告書には塩基の置き換わりや欠けた位置が番号で書かれていますが、その裏では、鎖のどこが切れて、どこがつながったのかという化学の出来事が起きています。結合の場所を正しく理解しておくことは、学生の試験対策にとどまらず、遺伝の情報を正しく読み解く土台になると考えています。

4. ホスホジエステル結合はどのようにでき、どのように切れる?

細胞の中でホスホジエステル結合をつくるのはDNAポリメラーゼ(RNAではRNAポリメラーゼ)とDNAリガーゼ、切るのはヌクレアーゼと呼ばれる酵素です。また、酵素がなくても、水との反応(加水分解)でゆっくり切れることがあります。DNAとRNAでは、その切れやすさが大きく違います。

DNAポリメラーゼが鎖の3’末端に次のヌクレオチドをつなぐ

DNAポリメラーゼは、伸びている鎖の3’末端にある-OHに、次のヌクレオチドをホスホジエステル結合でつなぎます。DNAポリメラーゼは既存の鎖の3’末端にしかヌクレオチドを付け足せず、空いている3’の-OHとの間で結合をつくります[1]。このため、DNAの合成はいつも5’→3’の方向に進みます。

材料になるのは、リン酸を3つもつヌクレオチド(デオキシヌクレオシド三リン酸)です。DNAポリメラーゼの活性中心では、通常2つのマグネシウムイオンが反応を助けます。これらの金属イオンは鎖の3′-OHを反応しやすい状態にし、その酸素が材料のヌクレオチドのαリン酸のリン原子を攻撃する反応を促進します。こうして新しいホスホジエステル結合ができ、ピロリン酸が外れます[4]。金属イオンは、リン酸基のマイナスの電荷を安定させる役目も担っています[4]。

合成が5’→3’の一方向に限られることは、DNA複製のしくみに直結します。二重らせんの2本の鎖は逆向きなので、ほどけていく方向にそのまま伸ばせる鎖と、短い断片(岡崎フラグメント)を少しずつつくってからつなぐ鎖ができます。複製全体の流れはDNA複製で解説しています。

教科書の「脱水縮合」と、細胞の中で実際に起きていること

高校の教科書や問題集では、ホスホジエステル結合ができる反応を「脱水縮合」と説明することがあります。これは、できあがる結合だけを見れば正しい説明です。リン酸の-OHと糖の-OHから水1分子が取れてエステル結合ができる、という形式で見れば、酸とアルコールからエステルができる反応と同じだからです。

ただし、細胞の中では、リン酸と糖が直接水を失ってつながっているわけではありません。前の節のとおり、材料はリン酸を3つもつヌクレオチドで、反応のときに外れるのは水ではなくピロリン酸です[4]。リン酸無水結合が切れるエネルギーを使うことで、水の中では起こりにくい結合を、酵素が素早く正確につくっています。試験で「脱水縮合」と答える場面と、生化学で反応のしくみを答える場面とで、説明の深さが違うと理解しておくとよいでしょう。

DNAリガーゼがつなぎ、ヌクレアーゼが切る

DNAリガーゼは、DNAの鎖の切れ目(ニック)にホスホジエステル結合をつくって、鎖をつなぎ直す酵素です。ヒトなど真核生物のDNAリガーゼはATPのエネルギーを使って働き、切れ目のある2本鎖DNAを取り囲むように結合します。DNAリガーゼは、DNA複製、修復、組換えのいずれにも必要です[5]。複製では、岡崎フラグメントどうしの間の切れ目をつなぐのもDNAリガーゼの仕事です。

反対に、ホスホジエステル結合を切る酵素をまとめてヌクレアーゼと呼びます。鎖の端から1つずつ切るものをエキソヌクレアーゼ、鎖の途中を切るものをエンドヌクレアーゼといいます。特定の塩基配列を見分けてその場所の骨格を切るエンドヌクレアーゼが、遺伝子工学で使われる「制限酵素」です。ヌクレアーゼの種類と働きはヌクレアーゼ(エキソ・エンドヌクレアーゼ)で解説しています。

「ヌクレオチドをホスホジエステル結合でつなぐ酵素は?」と問われたら、新しい鎖を伸ばすのはDNAポリメラーゼ、すでにある鎖の切れ目をつなぐのはDNAリガーゼ、と分けて答えます。どちらもホスホジエステル結合をつくりますが、ポリメラーゼは「1個ずつ付け足す」、リガーゼは「すでに並んでいる鎖どうしの最後のすき間をふさぐ」という違いがあります。

DNAが水に強く、RNAが分解されやすいのはなぜ?

DNAのホスホジエステル結合は、酵素がない状態では水との反応でほとんど切れません。DNAの結合のモデルとなる化合物(ジネオペンチルリン酸)では、水がリン原子を攻撃して結合が切れる反応の半減期が、25℃で約3,000万年と見積もられています[6]。これは試験管の中のモデル化合物の値で、細胞の中のDNAの寿命そのものではありませんが、DNAの骨格が水に対してきわめて安定であることを示しています。

この安定性には、骨格のリン酸がもつマイナスの電荷がかかわっています。ヌクレオチドどうしをつないだあとにリン酸に残るマイナスの電荷は、ジエステルを加水分解から守り、同時に分子を細胞膜の内側にとどめる働きもあると考えられています[2]。生命が遺伝情報の保存にリン酸のつなぎ目を使っている理由のひとつと説明されています。

一方、RNAの糖であるリボースには、2’の炭素にも-OHがあります(デオキシリボースの「デオキシ」は、この2’の酸素がないという意味です)。RNAではこの2′-OHが、隣接するヌクレオチドとの間にあるホスホジエステル結合のリン原子を分子内から攻撃し、結合が切れる反応が起こります。中性からアルカリ性で起こりやすく、水酸化物イオンやマグネシウムイオンの濃度、温度が上がると速くなります[7]。RNAがDNAより壊れやすい理由の中心は、この2′-OHにあります。リボースの構造はリボースで解説しています。

⚠️ 間違えやすいポイント

DNAが長い年月にわたって情報を保てるのは「ホスホジエステル結合が強い共有結合だから」だけではなく、「2′-OHがないので、鎖の内側から結合を切る反応が起こらないから」でもあります。DNAとRNAの違いを「糖の種類」と答えるだけでなく、その違いが結合の切れやすさにどう影響するかまで説明できると、理解が一段深まります。

5. 遺伝・医療とのつながり

ホスホジエステル結合は、遺伝情報の「入れ物」をつくる結合です。遺伝子のバリアント(配列の違い)の表し方、DNAの切断と修復の病気、遺伝子検査の原理、核酸医薬の設計と、遺伝医療の多くの場面がこの結合の理解の上に成り立っています。化学や生物の解説ではあまり触れられないこのつながりを、臨床遺伝専門医の視点で整理します。

遺伝情報は塩基の並び、その並びを支えるのがホスホジエステル結合

遺伝情報は塩基の並びに書かれており、その並びを1本の鎖として保っているのがホスホジエステル結合です。塩基の並びが変わったものを遺伝子のバリアントと呼び、国際的な表記法(HGVS命名法)では、変わり方を次のような種類に分けて書きます[8][9]。

🧬 塩基の並びの変わり方(HGVS命名法の記号)

種類 記号と例 鎖(骨格)から見ると
置換 >(例:g.123456G>A) ヌクレオチドの数は変わらず、1か所の塩基の種類が入れ替わる
欠失 del(例:c.76del) ヌクレオチドが抜け、前後が直接つながった鎖になる
重複 dup(例:c.76dup) 同じ並びが1回分多く鎖に組み込まれる
挿入 ins(例:c.76_77insG) となり合う2つのヌクレオチドの間に、別のヌクレオチドが入る
逆位 inv(例:c.76_83inv) ある区間が向きを反対にしてつながる

※記号と例はHGVS命名法[9]による。右の列は、鎖のつながりとして見た場合の説明。

置換では鎖のつながり方は変わらず、塩基の種類だけが変わります。一方、欠失・重複・挿入・逆位では、結果として「どのヌクレオチドとどのヌクレオチドがホスホジエステル結合でつながっているか」が元の配列と変わっています。1塩基の置換についてはSNV(一塩基バリアント)、塩基の数が3の倍数でない欠失・挿入で読み枠がずれる変化はフレームシフト変異で解説しています。バリアントの種類と影響の全体像は遺伝子のバリアントをご覧ください。

DNAの二本鎖切断とDNAリガーゼIVの病気

DNAの2本の鎖が同じ場所で両方とも切れた状態を「二本鎖切断」と呼びます。2本の骨格のホスホジエステル結合がどちらも切れた状態で、細胞にとって危険な傷です。切れた端を最終的につなぎ直すのはDNAリガーゼで、ヒトではこの働きを担う酵素のひとつがDNAリガーゼIV(遺伝子名LIG4)です。

LIG4遺伝子の病的バリアントは、免疫不全、発達の遅れ、成長の遅れがみられた4人の患者さんで報告されました。患者さんの細胞は放射線にとても弱く、二本鎖切断をつなぎ直す働きが低下していました[10]。この病気はLIG4症候群と呼ばれます。免疫の細胞が多様な抗体やT細胞受容体をつくる過程(V(D)J組換え)でもDNAを切ってつなぎ直す必要があるため、つなぎ直しの障害が免疫不全につながります[10]。

また、哺乳類ではDNAをつなぐ働きの欠陥が、がんの増加や神経変性と関連すると報告されています[5]。「鎖をつなぐ」というごく基本的な化学反応が、免疫や神経、がんの起こりやすさにまでかかわっていることは、ホスホジエステル結合を学ぶ意味を考えるうえでよい例です。DNAの修復のしくみはDNA修復、二本鎖切断の修復と遺伝性腫瘍とのかかわりはDNA修復機構②危険なDNA二本鎖損傷で解説しています。

サンガー法:3′-OHがないと次の結合がつくれない

塩基配列を読む代表的な方法のひとつであるサンガー法(ジデオキシ法)は、「3′-OHがなければ次のホスホジエステル結合がつくれない」というしくみを利用しています。1977年にサンガーらが報告した方法で、2′,3′-ジデオキシヌクレオチドを、DNAポリメラーゼの反応を止める「鎖停止剤」として使います[11]。

ジデオキシヌクレオチドは3’の位置に-OHをもちません。DNAポリメラーゼがこれを鎖に取り込むと、次のヌクレオチドをつなぐ相手の-OHがないため、鎖はそこで止まります。どの長さで止まったかを調べれば、その位置の塩基がわかります。第4章で見た「ポリメラーゼは3′-OHにしかつなげない」という性質が、そのまま検査の原理になっているわけです。塩基配列を読む方法の全体はDNAシークエンシングで解説しています。

核酸医薬:ホスホジエステル結合を作り替えて薬にする

短い核酸を薬として使う核酸医薬では、体内のヌクレアーゼによる分解を抑えたり、薬としての性質を調整したりするため、核酸の骨格や糖などに化学修飾を加えることがあります。代表的な骨格修飾が、ホスホジエステル結合のうち糖とつながっていない酸素1つを硫黄に置き換えた「ホスホロチオエート結合」です[12]。

ホスホロチオエート結合は、もとの結合よりヌクレアーゼに分解されにくいことから、アンチセンスの研究で使われ始めました。細胞への取り込みや体内での利用率も高まることがわかり、現在の核酸医薬の多くに含まれています[12]。一方で、酸素1つを硫黄に替えるとリン原子のまわりの配置に左右の区別(Rp体・Sp体)が生まれ、性質の違う分子が混ざるという課題も生じます[12]。

遺伝性の病気の治療に使われるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)も、こうした骨格の工夫の上に成り立っています。骨格の化学修飾の詳細はホスホロチオエート/GalNAc/ギャップマー、全体像は核酸医薬の総論で解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【基礎の化学が、新しい検査や薬を読む力になる】

ホスホジエステル結合は高校生物で最初に出会う用語のひとつですが、遺伝医療の新しい技術を理解するときにも何度も立ち戻る概念だと考えています。サンガー法は3′-OHを除いたヌクレオチドで鎖を止め、核酸医薬は骨格の酸素を硫黄に替えて分解を防ぎます。どちらも「この結合がどうでき、どう切れるか」を正確に知っていれば、しくみの見当がつきます。

新しい検査や治療の説明を受けるとき、その技術が骨格・塩基・糖のどこに手を加えているのかを考えてみると、利点と限界が見えやすくなります。基礎の知識を、遺伝の情報を自分で判断するための道具として使っていただきたいと考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. ホスホジエステル結合の別名は何ですか?

リン酸ジエステル結合です。指しているものは同じで、教科書や問題集ではどちらの名前も使われます。核酸のつなぎ目であることを示して「3′,5′-ホスホジエステル結合」と書かれることもあります。

Q2. ホスホジエステル結合は何と何の結合ですか?DNAのどこにありますか?

あるヌクレオチドの糖の3’炭素についた酸素と、次のヌクレオチドの糖の5’炭素についた酸素を、リン酸のリン原子が橋渡ししている結合です。DNAでは糖とリン酸が交互に並ぶ骨格の部分にあり、塩基と塩基の間にあるわけではありません。

Q3. ホスホジエステル結合は共有結合ですか?

はい、共有結合です。DNAの2本の鎖を向かい合わせにつないでいる水素結合よりずっと強く、1本の鎖の骨組みをつくっています。

Q4. ホスホジエステル結合と水素結合の違いは何ですか?

ホスホジエステル結合はヌクレオチドどうしをつないで1本の鎖をつくる共有結合で、水素結合は向かい合う塩基どうし(AとT、GとC)をつないで2本の鎖を対にしている弱い結合です。PCRの熱変性やDNA複製でほどけるときに切れるのは水素結合で、ホスホジエステル結合は切れません。

Q5. 糖と塩基の結合もホスホジエステル結合ですか?

いいえ。糖と塩基をつないでいるのはN-グリコシド結合で、塩基の窒素原子と糖の1’炭素が結合しています。ヌクレオチドの中の結合がN-グリコシド結合、ヌクレオチドとヌクレオチドの間の結合がホスホジエステル結合です。

Q6. ホスホジエステル結合をつくる酵素・切る酵素は何ですか?

つくる酵素は、新しい鎖を伸ばすDNAポリメラーゼ(RNAではRNAポリメラーゼ)と、鎖の切れ目をつなぐDNAリガーゼです。切る酵素はヌクレアーゼで、鎖の端から切るエキソヌクレアーゼと、鎖の途中を切るエンドヌクレアーゼがあり、制限酵素はエンドヌクレアーゼの一種です。

まとめ

ホスホジエステル結合(リン酸ジエステル結合)は、ある糖の3’と次の糖の5’を1個のリン酸が橋渡しする共有結合で、DNA・RNAの糖-リン酸骨格をつくっています[1]。結合がいつも3’と5’の間にできるため鎖には向きがあり、DNAポリメラーゼは3’末端にしかヌクレオチドを付け足せません[1][4]。糖と塩基はN-グリコシド結合、向かい合う塩基どうしは水素結合で、ホスホジエステル結合とは場所も種類も違います。

DNAの骨格は水に対してきわめて安定で[6]、RNAは2′-OHのために切れやすい性質をもちます[7]。この結合の切断とつなぎ直しは、二本鎖切断の修復の病気[10]、サンガー法[11]、核酸医薬[12]にまでつながっています。DNAの構成要素としてのヌクレオチドや、DNAとRNAの全体像は核酸のページもあわせてご覧ください。

📘 この記事について

この記事は、DNA・RNAのホスホジエステル結合を解説する用語ページです。個別の検査結果の解釈を行うものではありません。なお、遺伝学的検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。

参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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