キナーゼとは
キナーゼ(kinase)は、ATPやGTPなどのリン酸基(PO43-)を他の化合物に転移させる酵素の総称です。この用語の語源は、古代ギリシャ語の「kinein」(動かす)から来ており、酵素を表す接尾語「-ase」が付け加えられています。したがって、「キナーゼ」という言葉自体にはリン酸の意味は含まれておらず、リン酸基を移動させるという機能を表しています。
キナーゼは、生化学において、ATP(アデノシン三リン酸)などの高エネルギーリン酸結合を有する分子からリン酸基を基質あるいはターゲット分子に転移する酵素の総称です[1][2][3][7]. このリン酸化プロセスは、タンパク質の機能、活性、位置、およびタンパク質間の相互作用を変化させることにより、細胞内のシグナル伝達や機能調節に重要な役割を果たします[1].
キナーゼは、その基質の種類によって分類されることがあります。例えば、プロテインキナーゼは特にタンパク質分子にリン酸基を付加するキナーゼであり、細胞のシグナル伝達において中心的な役割を担います[1][8]. ヒトのゲノムには約530種類のプロテインキナーゼが存在するとされています[1].
キナーゼの活性は、細胞の成長、分裂、死などの生物学的プロセスを調節するために、細胞外からの刺激に応じてON/OFFが切り替わることで制御されます[4]. しかし、キナーゼの異常活性化はがんなどの疾患を引き起こす原因となることがあり、このためキナーゼは創薬の重要なターゲットとなっています[4][6].
キナーゼには他にも多くの種類があり、それぞれが異なる基質や生化学的プロセスに特化しています。例えば、ヘキソキナーゼはグルコースをリン酸化することで代謝プロセスに関与し、ピロホスホキナーゼは二リン酸基を転移することが知られています[3].
- 参照・引用
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[1] www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3065.html
[2] www.weblio.jp/content/%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC
[3] kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC-51213
[4] www.carnabio.com/japanese/corporate/medicine-role.html
[5] dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC/
[6] www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/59/4/59_174/_pdf
[7] ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC
[8] ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC
キナーゼはどのように機能するか
キナーゼは、細胞内のシグナル伝達や代謝プロセスにおいて中心的な役割を果たす酵素です。これらの酵素は、アデノシン三リン酸(ATP)からリン酸基を取り出し、特定のタンパク質のアミノ酸残基に転移させることにより、タンパク質のリン酸化を行います。このリン酸化は、タンパク質の構造と機能を変化させ、細胞内での多くの生物学的プロセスを調節します[1][2][3][5].
● キナーゼの基本的な機能
キナーゼは主に、タンパク質のアミノ酸残基(主にセリン、スレオニン、チロシン)にリン酸基を付加することで、そのタンパク質の活性を調節します。リン酸化されたタンパク質は、その構造が変わり、活性化または非活性化されることがあります。このプロセスは、細胞の成長、分裂、死、代謝などの調節に不可欠です[1][2][3].
● キナーゼの種類と分類
キナーゼはその基質の種類によって大きく分けられます。プロテインキナーゼはタンパク質を基質とし、セリン/スレオニンキナーゼとチロシンキナーゼに分類されます。セリン/スレオニンキナーゼはセリンまたはスレオニン残基をリン酸化し、チロシンキナーゼはチロシン残基をリン酸化します[1][2][3].
● キナーゼの調節機構
キナーゼの活性は、細胞外からのシグナル(例えば、ホルモンや成長因子)に応答して調節されます。これらのシグナルは、キナーゼを直接活性化するか、または他のキナーゼを介して間接的に活性化します。キナーゼは通常、リン酸化されることによって活性化され、特定のリン酸化部位の脱リン酸化によって非活性化されます[1][2][3].
● 病理学的側面と治療への応用
キナーゼの異常な活性化は、がんを含む多くの疾患の原因となることがあります。このため、特定の異常キナーゼを標的としたキナーゼ阻害薬が、がん治療において重要な役割を果たしています。これらの薬剤は、異常に活性化されたキナーゼのリン酸化活性を阻害し、細胞の異常な増殖を抑制することができます[1][4].
キナーゼは、細胞の機能を調節するための重要な酵素であり、その精密な制御が生体の健康を維持するために不可欠です。そのため、キナーゼの研究は医学研究の中でも特に重要な分野とされています[1][2][3][4].
キナーゼがどのようにタンパク質のリン酸化を調節するか
キナーゼはタンパク質のリン酸化を調節するために、特定のアミノ酸残基(主にセリン、スレオニン、チロシン)にリン酸基を転移させることでタンパク質の構造と機能を変化させます。このリン酸化は、タンパク質の活性、細胞内局在、およびタンパク質間の相互作用を変えることにより、細胞のシグナル伝達と機能調節に重要な役割を果たします[1][2][3][7].
● タンパク質のリン酸化におけるキナーゼの役割
1. 特異的なアミノ酸残基のリン酸化: キナーゼは、タンパク質の特定のセリン、スレオニン、またはチロシン残基にリン酸基を付加します。これにより、タンパク質の活性が変化し、細胞内でのその機能が調節されます[1][7].
2. シグナル伝達の調節: キナーゼはシグナル伝達経路において重要な役割を果たし、細胞の応答を調節します。例えば、成長因子によって活性化されたキナーゼは、細胞増殖や分化などのプロセスを促進することがあります[4].
3. タンパク質間の相互作用: リン酸化はタンパク質同士の相互作用を変化させることがあります。リン酸化依存的なタンパク質結合ドメインは、リン酸化されたモチーフを認識し、結合することで、タンパク質複合体の形成やシグナル伝達経路の調節に寄与します[1].
4. 細胞内局在の制御: タンパク質のリン酸化は、その細胞内での位置を変えることがあります。例えば、リン酸化によって細胞膜への移行や細胞核への入り込みが促進されることがあります[1].
5. シグナルの増幅: キナーゼはシグナル伝達経路において、初期のシグナルを増幅する役割も果たします。一つのキナーゼが複数のキナーゼを活性化し、さらに追加のキナーゼを活性化することで、シグナルが拡大されます[7].
● キナーゼの活性調節機構
キナーゼの活性は、細胞外からのシグナルに応答して調節されます。これには以下のような機構が関与しています:
1. 活性化リガンドの除去: シグナル分子が細胞表面の受容体から取り除かれることで、キナーゼの活性が調節されます[7].
2. キナーゼまたは基質のプロテオリシス: タンパク質の分解によって、キナーゼの活性が調節されることがあります[7].
3. 自己リン酸化: 一部のキナーゼは、自己リン酸化によって活性化されます。これは、キナーゼ自体がリン酸化されることによって活性化されるプロセスです[3].
4. アロステリック調節: キナーゼは、アロステリック部位の変化によって活性が変化することがあります。これにより、キナーゼの活性が増加または減少します[6].
キナーゼは、これらの機構を通じて、細胞内のリン酸化依存的なシグナル伝達を精密に調節し、細胞の様々な生物学的プロセスを制御する重要な役割を担っています[1][2][3][4][6][7].
- 参照・引用
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[1] www.cellsignal.jp/learn-and-support/protein-domains-and-interactions/interactions
[2] www.amed.go.jp/news/release_20220214-03.html
[3] www.nips.ac.jp/huinfo/research/ns_Res05.htm
[4] www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cancer9/
[5] www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj/59/4/59_174/_pdf
[6] www.cosmobio.co.jp/product/detail/ampk-antibody-pgi.asp?entry_id=38059
[7] www.thermofisher.com/us/en/home/life-science/protein-biology/protein-biology-learning-center/protein-biology-resource-library/pierce-protein-methods/phosphorylation.html
[8] yumenavi.info/vue/lecture.html?gnkcd=g001989
キナーゼはどのような疾患に関係するか
キナーゼが関与する疾患は多岐にわたります。キナーゼは細胞の成長、分裂、死、代謝などのプロセスを調節するため、その異常はがん、自己免疫疾患、神経変性疾患、糖尿病など多くの疾患の発症に密接に関与しています[1][4][6][16].
● がん
キナーゼの異常活性化や機能不全は、細胞の無秩序な増殖や生存を促進し、がんの発症や進行に寄与します。特に、MAPキナーゼ経路の異常は、がん細胞の増殖、生存、転移に関与しています[1][4][6]. また、キナーゼ阻害剤はがん治療において重要な役割を果たしており、多くのがん種に対する効果的な治療オプションとなっています[5][7].
● 自己免疫疾患
キナーゼの調節失敗は、自己免疫反応の誤調節を引き起こすことがあります。例えば、MAPキナーゼ経路の異常は、炎症反応の過剰活性化を引き起こし、リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患の発症に関与しています[4][6].
● 神経変性疾患
キナーゼの異常は、神経細胞の死や機能不全を引き起こし、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関与します。特に、キナーゼの過剰活性化は、神経細胞のアポトーシスを誘導し、疾患の進行に寄与することが知られています[4][6].
● 糖尿病
インスリンシグナリング経路におけるキナーゼの機能不全は、インスリン抵抗性の発生につながり、2型糖尿病の発症に関与します。キナーゼはグルコースの取り込みと代謝の調節に重要な役割を果たしており、その異常は糖尿病の主要な病態の一つです[4][6].
これらの疾患において、キナーゼのリン酸化調節機構の解明は、新たな治療標的の同定や効果的な治療法の開発に寄与するため、医学研究において非常に重要です[1][4][6][16].
- 参照・引用
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[1] www.jstage.jst.go.jp/article/electroph/60/1/60_7/_pdf
[2] ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html
[3] pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068692.pdf
[4] www.ims.u-tokyo.ac.jp/dcsmm/DCSMM/j/naiyou-J.html
[5] medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf830b.html
[6] www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/events/gakuyukai/archive_post_330.html
[7] www.carnabio.com/japanese/corporate/medicine-role.html
[8] pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00065741.pdf
[9] www.jstage.jst.go.jp/article/naika/96/7/96_1411/_pdf
[10] labeling.pfizer.com/ShowLabeling.aspx?id=15791
[11] medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf833f.html
[12] labchem-wako.fujifilm.com/jp/category/lifescience/protein/kinase/index.html
[13] www.med.kobe-u.ac.jp/kiso/news/20.pdf
[14] www.cellsignal.jp/learn-and-support/reference-tables/kinasedisease-associations
[15] www.jstage.jst.go.jp/article/jscc1971b/33/3-4/33_163/_pdf/-char/ja
[16] kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19390081/