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心臓の筋肉がいっせいに縮むことができるのは、隣り合う細胞どうしがギャップ結合(ギャップジャンクション)という小さな通り道でつながり、電気信号を次々に受け渡しているからです。ギャップ結合は心臓だけでなく、神経、平滑筋、上皮、目の水晶体など体の多くの組織にあり、細胞どうしの「連絡通路」として働いています。この記事では、ギャップ結合とは何か、どんな構造でできていて何が通れるのか、心筋での役割、ほかの細胞間結合との違いを順に解説します。あわせて、ギャップ結合をつくるタンパク質コネキシンの遺伝子の変化が遺伝性難聴などの病気につながる仕組みを、臨床遺伝専門医の視点から整理します。
Q. ギャップ結合とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. ギャップ結合(ギャップジャンクション、gap junction)とは、隣り合う細胞の細胞膜にある通り道(チャネル)で両方の細胞質を直接つなぎ、イオンや小さな分子、電気信号を受け渡す細胞間結合です。通り道はコネキシンというタンパク質でできています。心筋では介在板にあり、電気信号を素早く伝えて心房・心室をまとまって収縮させます[1]。
- ➤正体 → 細胞と細胞のあいだをつなぐ、開け閉めできる小さなトンネルの集まり
- ➤構造 → コネキシン6個で「コネクソン」、コネクソン2つで1本のチャネル
- ➤働き → イオン・小さな分子の受け渡しと、電気信号の伝達
- ➤どこにある → 心筋・平滑筋・神経・上皮など多くの組織。成熟した骨格筋線維どうしの間にはほとんどない
- ➤病気との関係 → コネキシン遺伝子の変化は難聴・末梢神経の病気・白内障などの原因になる
🧬 ギャップ結合の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・別名 | ぎゃっぷけつごう/ギャップジャンクション(gap junction)、ネクサス(nexus)、細隙結合。高校生物では「チャネル形成結合」とも呼ばれる |
| 定義 | 隣り合う細胞の細胞質を、コネキシンでできたチャネルで直接つなぐ細胞間結合 |
| 構成タンパク質 | コネキシン(connexin、Cx)。ヒトでは21種類の遺伝子が知られる[2] |
| 通れるもの | イオンや、おおむね分子量1,000前後までの小さな分子(コネキシンの種類で異なる) |
| 主な場所 | 心筋(介在板)、平滑筋、神経、上皮、水晶体など |
| 関連する病気の例 | GJB2(コネキシン26)変異による遺伝性難聴、GJB1(コネキシン32)変異によるX連鎖シャルコー・マリー・トゥース病など |
※本記事は用語解説です。特定の検査や治療を勧めるものではありません。

ギャップ結合では、隣り合う細胞の細胞膜にあるコネクソン(ヘミチャネル)どうしが結合し、2つの細胞質を直接つなぐチャネルを形成します。1つのコネクソンは6個のコネキシンから構成され、イオンやcAMPなどの小分子を細胞間で受け渡すことができます。一方、タンパク質などの大きな分子は通常このチャネルを通過できません。
ギャップ結合とは?

ギャップ結合とは、隣り合う2つの細胞の細胞質を直接つなぎ、イオンや小さな分子、電気信号を細胞から細胞へ通す特殊な細胞間結合です。2つの細胞の細胞膜は、ここでは2〜3nmほどのすき間(ギャップ)をはさんで接近していて、そのすき間を多数の細いトンネルが橋渡ししています。「すき間のある結合」という意味で、ギャップ結合と呼ばれます。
ギャップ結合は、もともと神経や筋肉のような電気的に興奮する細胞をつなぐ電気抵抗の低いイオンの通り道として見つかりました。その後の研究で、固形の組織ではほぼすべての細胞がギャップ結合でつながっていることがわかっています[1]。体の表面や臓器の内側を覆う上皮をはじめ、神経、心筋、腸などの内臓にある平滑筋にも存在します。
別名と英語表記
英語ではgap junctionで、カタカナのまま「ギャップジャンクション」とも呼ばれます。古い文献では、心筋の研究から生まれた「ネクサス(nexus)」という名前も使われました。日本語では「細隙(さいげき)結合」と訳されることもあります。高校生物の教科書では、中空のタンパク質で細胞どうしをつなぐことから「チャネル形成結合」と説明されることがあります。どれも同じ構造を指しています。
ギャップ結合の2つの役割(ひとことで)
ギャップ結合の役割は、大きく次の2つにまとめられます。1つめは、小さな分子を細胞から細胞へ直接受け渡すことです。栄養や、細胞内で信号を伝える分子を、隣の細胞と共有できます。2つめは、電気信号を伝えることです。イオンが通り抜けることで、隣り合う細胞の電気的な状態がつながり、興奮が一気に広がります。どちらも「細胞どうしの連絡」であり、ギャップ結合の本質は接着ではなく連絡にあります。詳しくはH2「ギャップ結合の働き」で説明します。
ギャップ結合の構造|コネキシンとコネクソン

ギャップ結合をつくるチャネルの立体構造モデル(左:上から見た図、右:横から見た図)。コネキシンというタンパク質が輪のように集まり、中央にイオンや小さな分子の通り道をつくります。色の違いは1つひとつのコネキシンを表します。
ギャップ結合は「コネキシン → コネクソン → チャネル → ギャップ結合(プラーク)」という4段階の階層でできています。いちばん小さな部品はコネキシンというタンパク質で、それが6個集まって筒になり、2つの細胞の筒が向かい合ってつながることで、1本のトンネルが完成します。
コネキシンとは
コネキシン(connexin、Cx)は、細胞膜を4回貫通する膜タンパク質で、ギャップ結合のチャネルをつくる部品です。ヒトのゲノムには21種類のコネキシン遺伝子があるとされています[2]。コネキシンは分子量の数字で呼ばれ、たとえば分子量が約43kDaのものはコネキシン43(Cx43)、約26kDaのものはコネキシン26(Cx26)です。遺伝子としては「GJ(gap junction)」で始まる記号で表され、Cx43はGJA1、Cx26はGJB2という遺伝子からつくられます。多くの組織は1種類ではなく複数のコネキシンを使い分けていて、組織ごとに異なる性質のチャネルをつくっています[2]。
コネクソン(ヘミチャネル)とは
コネキシンが6個、輪のように並んでできた筒をコネクソン(connexon)といいます。チャネル全体のちょうど半分にあたるため、ヘミチャネル(hemichannel、半チャネル)とも呼ばれます。2009年には、ヒトのコネキシン26でできたギャップ結合チャネルの立体構造がX線結晶解析で明らかにされ、膜を貫く2つのヘミチャネルと、それぞれを構成する6つのコネキシンの4本の膜貫通部分の配置が示されました[3]。この解析は日本の研究グループによるもので、チャネルの入り口や内側の電荷の分布まで見えるようになりました。
コネキシンとコネクソンの違い
コネキシンは1個のタンパク質の名前、コネクソンはコネキシンが6個集まった筒の名前です。さらに、隣り合う2つの細胞のコネクソンがつながったものが「ギャップ結合チャネル」、そのチャネルが数百〜数千個集まって斑点状に並んだ場所が「ギャップ結合(ギャップ結合プラーク)」です。
🔬 ギャップ結合をつくる4つの階層
| 名前 | 何か | 数の関係 |
|---|---|---|
| コネキシン | 細胞膜を4回貫通するタンパク質(部品) | 1個 |
| コネクソン(ヘミチャネル) | コネキシンが輪になった筒。片側の細胞の膜にある | コネキシン6個 |
| ギャップ結合チャネル | 2つの細胞のコネクソンが向かい合ってつながったトンネル | コネクソン2個(コネキシン12個) |
| ギャップ結合(プラーク) | チャネルが多数集まった斑点状の領域 | チャネル多数 |
※1つのコネクソンが同じ種類のコネキシンだけでできる場合と、異なる種類が混ざる場合があります。
ギャップ結合はタンパク質でできているの?
はい。ギャップ結合の通り道そのものは、コネキシンというタンパク質でできています。脊椎動物などの脊索動物ではコネキシンが使われ、それ以前に分かれた無脊椎動物ではイネキシンという別のタンパク質が同じ役割を担っています[1]。
ギャップ結合の働き

ギャップ結合の働きは、小さな分子の受け渡しと電気信号の伝達であり、その通り道は状況に応じて開いたり閉じたりします。細胞がばらばらに動くのではなく、組織としてまとまって働けるのは、この連絡網があるからです。
小さな分子を細胞間で受け渡す
ギャップ結合で結ばれた細胞のあいだを通れるのは、無機イオン、糖、アミノ酸、ヌクレオチドなどの小さな分子です。細胞の中で信号を伝えるcAMP、カルシウムイオン(Ca²⁺)、イノシトール三リン酸(IP3)、ATPなども通過します[13]。通れる大きさの目安は、おおむね分子量1,000前後までとされますが、上限の値は資料によって幅があり、コネキシンの種類によって通しやすい分子も変わります。一方、タンパク質やDNAのような大きな分子は通れません。
この受け渡しがとくに重要になるのが、血管のない組織です。たとえば目の水晶体には血管がなく、奥の細胞まで直接栄養を届けることができません。水晶体ではCx43・Cx46・Cx50の3種類のコネキシンがギャップ結合をつくり、細胞どうしのイオン濃度や電位をそろえて、組織全体の恒常性を保っています[5]。ギャップ結合がうまく働かないと水晶体が濁ることがあり、これは後で述べる遺伝性の先天白内障につながります。
電気信号を伝える(電気的結合)
ギャップ結合は電気抵抗の低い通り道なので、イオンの流れに乗って電気信号(インパルス)が化学シナプスに比べて非常に小さな遅延で隣の細胞へ伝わります[1]。このように細胞どうしが電気的につながった状態を「電気的結合」といいます。心臓では、心筋細胞がギャップ結合で結ばれていることで、電気信号が心筋細胞に速やかに伝わり、心房、心室の単位で同期した収縮が可能になっています。神経では、この仕組みが「電気シナプス」として働きます(次の章で説明します)。
開いたり閉じたりする
ギャップ結合は常に開いた穴ではなく、細胞の状態に応じて透過性が変わる動的なチャネルです。細胞の中のカルシウムイオン濃度が上がったり、細胞内が酸性に傾いたりすると、チャネルは閉じる方向に働きます[4]。細胞が傷つくと細胞内のカルシウム濃度が大きく上がるため、傷ついた細胞とのつながりを断ち、周囲の健康な細胞に障害が広がるのを防ぐ仕組みとして働くと考えられています[14]。閉じる詳しい分子機構(カルモジュリンというタンパク質が関わるかどうかなど)は、現在も研究が続いています。
💡 用語解説:セカンドメッセンジャー
ホルモンなどの信号を受けた細胞の中で、信号を伝える役目を担う小さな分子をセカンドメッセンジャー(二次メッセンジャー)といいます。cAMPやCa²⁺、IP3が代表です。ギャップ結合はこれらを隣の細胞に分けることができるため、1つの細胞が受け取った信号を、周囲の細胞集団に広げる働きもあります。
ギャップ結合はどこにある?
ギャップ結合は、心筋・平滑筋・神経・上皮・肝臓・水晶体など、体の多くの組織にあります。ただし例外があり、成熟した骨格筋の筋線維どうしのあいだには、ギャップ結合はほとんどありません。同じ「筋肉」でも、心筋・平滑筋と骨格筋とで扱いが違うのが、試験でもよく問われるポイントです。
心筋のギャップ結合の役割
心筋のギャップ結合は、心筋細胞どうしの境目にある「介在板」に集まっていて、電気信号を隣の細胞へ素早く伝え、心房・心室を1つのまとまりとして同期して収縮させる役割を担っています。心筋細胞は一つひとつ独立した細胞ですが、ギャップ結合でつながっているため、心房や心室は電気的にあたかも1個の大きな細胞のようにふるまいます。これを機能的合胞体と呼びます。
心臓で主に使われているコネキシンは、Cx43・Cx40・Cx45の3種類です。ヒトの心臓では、GJA1遺伝子がつくるコネキシン43が、心房と心室の4つの部屋すべての心筋細胞で豊富に発現していることが確認されています[6]。Cx40は心房筋や刺激伝導系に多く、Cx45は洞房結節や房室結節など、電気信号をゆっくり伝える部位に分布します。電気を速く伝えたい場所と、あえて少し遅らせたい場所とで、コネキシンの種類が使い分けられているのです。房室結節で信号がわずかに遅れることで、心房が血液を送り出し終えてから心室が縮むという、ポンプとしての順序が保たれます。マウスの研究では、Cx43やCx45の遺伝子を完全に失わせると、生後まもなく、あるいは胎児期に死亡することが示されており[2]、心臓のコネキシンが生命維持に欠かせないことがうかがえます。
💡 用語解説:機能的合胞体
合胞体とは、本来は多数の核を持つ1つの大きな細胞のことです。心筋細胞はそれぞれ独立した細胞ですが、ギャップ結合で電気的につながっているため、心房や心室は電気的な働きのうえで1つの細胞のようにふるまいます。この状態を「機能的合胞体」と呼びます。これに対し骨格筋の筋線維は、実際に細胞どうしが融合してできた本物の多核細胞です。
心筋梗塞などで障害を受けた心臓では、本来は介在板に集まっているCx43が心筋細胞の側面に散らばるなど、ギャップ結合の配置が乱れることが観察されています[7]。こうした変化は、電気の伝わり方を不均一にし、不整脈の起こりやすさに関わると考えられています。ただし、これは病気の心臓で見られる所見であり、ギャップ結合の変化だけで不整脈のすべてが説明できるわけではありません。
介在板とギャップ結合の違い
介在板は、心筋細胞どうしがつながる境目の構造全体を指す名前で、ギャップ結合はその中に含まれる部品の1つです。介在板には、細胞どうしを機械的にしっかり固定する接着結合(アドヘレンスジャンクション)とデスモソーム、そして電気信号を伝えるギャップ結合が並んでいます。前の2つが「心臓が縮んでも細胞がはがれないようにする」役割、ギャップ結合が「信号を伝える」役割と、分業しています。
平滑筋のギャップ結合
平滑筋にもギャップ結合はあります。腸などの内臓の平滑筋では、ギャップ結合でつながった筋細胞がまとまって動きます。よく研究されている例が子宮の筋肉(子宮筋)です。ヒトの子宮筋では、妊娠の終わりに向けてCx43の遺伝子発現が増え、分娩が始まると、妊娠中には見られなかったギャップ結合が筋細胞の膜に現れることが報告されています[8]。分娩時に子宮全体が一斉に収縮できるのは、この連絡網が整うためだと考えられています。
神経のギャップ結合=電気シナプス
神経細胞どうしのあいだにあるギャップ結合は電気シナプスと呼ばれます。一般によく知られる化学シナプスが神経伝達物質という化学物質を介して信号を伝えるのに対し、電気シナプスはイオンの流れで直接信号を伝えます。多くの電気シナプスでは双方向に電流が流れますが、整流性を示して一方向へ流れやすいものもあります。脳の電気シナプスの多くは、神経細胞どうしをつなぐCx36というコネキシンに依存しており、神経細胞の集団の活動をそろえる(同期させる)働きがあります[9]。
骨格筋にほとんどないのはなぜ?
骨格筋の筋線維は、多数の筋芽細胞が融合してできた1つの大きな多核細胞であり、1本ずつ運動神経の指令で収縮するため、隣の筋線維と電気的につながる必要がないと説明されます。興味深いのは、骨格筋ができる途中の段階ではギャップ結合が使われていることです。筋芽細胞が融合して筋管になる前には、Cx43によるギャップ結合が一時的に増え、融合して多核の筋管になると急速に減ります[10]。さらに成熟して神経の支配を受けると、筋線維はコネキシンの発現をやめ、けがをして再生するときに再びコネキシンが現れます[11]。なお、骨格筋という組織の中にも血管や結合組織の細胞があり、そこにはコネキシンがあるため、正確には「骨格筋の筋線維どうしのあいだにはほとんどない」と表現します。
ほかの細胞間結合との違い
動物の細胞どうしをつなぐ結合は、高校生物では「密着結合」「固定結合」「ギャップ結合」の3種類に分けて整理されます。このうち固定結合には、接着結合、デスモソーム、ヘミデスモソームが含まれます。ギャップ結合だけが、細胞の中身を直接つなぐ「連絡」を担う点で、ほかの結合と大きく異なります。
🧩 主な細胞間結合の比較
| 結合の種類 | 主な構成タンパク質 | 主な役割 | 代表的な場所 |
|---|---|---|---|
| 密着結合(タイトジャンクション) | クローディン、オクルディン | 細胞のすき間をふさぎ、水やイオンがすき間を通り抜けないようにする | 消化管などの上皮 |
| 固定結合:接着結合 | カドヘリン(細胞内でアクチンと結合) | 細胞どうしを帯状に結びつけ、形を保つ | 上皮、心筋の介在板 |
| 固定結合:デスモソーム | カドヘリンの仲間(細胞内で中間径フィラメントと結合) | 細胞どうしをボタン状に強く固定する | 皮膚、心筋の介在板 |
| 固定結合:ヘミデスモソーム | インテグリンなど | 細胞を細胞外の基底膜につなぎとめる | 上皮の底面 |
| ギャップ結合 | コネキシン | 細胞質を直接つなぎ、イオン・小分子・電気信号を受け渡す | 心筋、平滑筋、神経、上皮など |
※ヘミデスモソームは細胞と細胞ではなく、細胞と細胞外基質をつなぐ構造です。
密着結合は、上皮の細胞どうしをぴったり貼り合わせ、物質がすき間から漏れないようにする「シール」です。接着結合とデスモソームは、細胞骨格と結びついて細胞どうしを機械的に固定する「留め具」で、とくにデスモソームは強い力がかかる皮膚や心筋で発達しています。ヘミデスモソームは、インテグリンなどを使って細胞を基底膜に固定します。これらに対してギャップ結合は、細胞と細胞のあいだに「通路」をつくる、性格の違う結合です。
⚠️ よくある誤解:「ギャップ結合は細胞をくっつけるもの」
分類上、ギャップ結合は細胞間結合(高校生物では細胞接着の1つ)に含まれます。そのため「細胞どうしを接着する構造」と説明されることがありますが、ギャップ結合の主な役割は接着ではなく、物質と電気信号の受け渡しという「連絡」です。細胞どうしが近づいてつながっていることは、この連絡を成り立たせるための前提と考えると整理しやすくなります。
植物の細胞にはコネキシンがなく、ギャップ結合もありません。植物では、細胞壁を貫く「原形質連絡」という別の構造が、隣の細胞との物質のやりとりを担っています。似た働きを持ちますが、成り立ちはまったく異なります。
コネキシン遺伝子の異常で起こる病気
コネキシンをつくる遺伝子に病的な変化(バリアント)があると、ギャップ結合がうまく働かなくなり、耳・皮膚・末梢神経・目・歯や指などに病気が起こることがあります。コネキシン遺伝子の変異による遺伝性疾患は数十種類が報告されており、とくにCx26(GJB2)とCx43(GJA1)の2つの遺伝子だけで多くの病気が説明されます[12]。疾患の数は、どこまでを別の病気として数えるかによって総説ごとに異なります。
コネキシンの病気には、共通する特徴があります。同じ細胞に別の種類のコネキシンがあっても、変化したコネキシンの代わりを十分に果たせないこと、そして変化したコネキシンが正常なコネキシンの働きまで妨げてしまうことがある点です[12]。後者は、1つの遺伝子の片方だけの変化で病気になる「顕性(優性)遺伝」の病気が生じる理由の1つになります。
🧬 コネキシン遺伝子と主な病気
| 遺伝子(タンパク質) | 主な病気 | 遺伝形式 |
|---|---|---|
| GJB2(Cx26) | 非症候群性の感音難聴。一部の変異は皮膚症状を伴う難聴の原因になる[12][15] | 多くは常染色体潜性(劣性)。一部は常染色体顕性(優性) |
| GJB6(Cx30) | 難聴、皮膚・毛・爪の病気など[12] | 変異の種類による |
| GJB1(Cx32) | X連鎖シャルコー・マリー・トゥース病(CMTX1)。末梢神経の髄鞘をつくるシュワン細胞などに発現する[19] | X連鎖 |
| GJA1(Cx43) | 眼歯指異形成症(ODDD):目・歯・指などに特徴が出る[17] | 主に常染色体顕性 |
| GJA3・GJA8(Cx46・Cx50) | 先天白内障。水晶体のギャップ結合をつくる[5][12](先天性白内障の遺伝子検査) | 主に常染色体顕性 |
| GJA5(Cx40) | 心房細動との関連が報告されている(選ばれた少数例の研究)[18] | 心臓の組織に限った体細胞変異の報告を含む |
| GJA4(Cx37) | 血管の内皮細胞に発現するコネキシン[6] | ― |
※代表的な例を示したもので、すべての病気や遺伝形式を網羅したものではありません。同じ遺伝子でも、変化の種類によって症状や遺伝形式が異なることがあります。
GJB2(コネキシン26)と遺伝性難聴
GJB2遺伝子がつくるコネキシン26は、内耳(蝸牛)のギャップ結合をつくり、音を感じるのに必要なカリウムイオンの環境を保つ働きをしています[16]。GJB2遺伝子の変化による常染色体潜性の非症候群性難聴は、世界の多くの集団で、生まれつきの重度〜最重度の感音難聴の最も多い遺伝的原因とされています。一方で、GJB2による難聴には軽度〜中等度のものもあり、軽い難聴は新生児聴覚スクリーニングでは見つからないことがあります。GJB2による非症候群性難聴では、聞こえ以外の全身の症状は伴いません[15]。
日本人については、1,000家系を超える難聴患者を調べた研究があります。それによると、難聴の方全体の14.2%、先天性難聴の方では25.2%にGJB2の変異が見つかりました。変異の中で最も多かったのはc.235delCで(変異アレルの49.8%)、より重い難聴と関連し、多くは3歳までに診断されていました。2番目に多いp.V37Iは、より軽い難聴と関連していました。同じ研究では、GJB2の変異による難聴では耳鳴りやめまい(前庭機能の障害)、内耳の形の異常がほとんど見られないことも報告されています[20]。また、日本人の一般集団509人を調べた研究では、c.235delCの保因者頻度は1.57%、p.V37Iは1.77%でした[21]。これらは集団全体での割合であり、ある人が保因者である確率をそのまま示すものではありません。
GJB2による難聴の多くは常染色体潜性遺伝の形をとります。両親はともに聞こえに問題のない保因者で、子どもが両親から1つずつ変化を受け継いだときに難聴になる、というパターンです。一般原則として、両親がともに同じ遺伝子の保因者である場合、子ども1人ごとに難聴となる可能性は4分の1(25%)です。ただし、一部の変異は片方の変化だけで難聴を起こす顕性遺伝の形をとり[22]、どの変化がどちらの形をとるかは変異ごとに異なります。個々のご家族にあてはまる確率は、実際に見つかった変化と家系の情報をもとに判断する必要があります。出生前に調べられるかどうかについては、GJB2遺伝子の出生前診断の記事で解説しています。
🩺 院長コラム【基礎用語が遺伝カウンセリングにつながる理由】
ギャップ結合は細胞生物学の基礎用語ですが、遺伝医学ではとても身近な言葉です。GJB2という遺伝子記号の「GJ」は、gap junction(ギャップ結合)の頭文字です。遺伝子検査の報告書にこの遺伝子名が書かれていたとき、「内耳のギャップ結合をつくるタンパク質の設計図に変化がある」と理解できると、なぜ聞こえに影響するのかがつながって見えてきます。
もう1つ大切なのは、コネキシンは多くの組織で複数の種類が使われているにもかかわらず、病気は特定の臓器に限られやすいという点です。医学的には、組織ごとに頼っているコネキシンの種類が違い、他のコネキシンでは代わりがきかないためと考えられています。どの遺伝子のどの変化で、どの臓器に何が起こりうるのかを整理することが、検査結果を解釈するときの出発点になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. ギャップ結合は何を通して、何を通さないのですか?
イオン、糖、アミノ酸、ヌクレオチド、cAMPやカルシウムイオン、IP3、ATPなどの小さな分子を通します。通れる大きさの目安はおおむね分子量1,000前後までですが、コネキシンの種類によって異なります。タンパク質やDNAのような大きな分子は通れません。
Q2. 植物にもギャップ結合はありますか?
植物にはコネキシンがなく、ギャップ結合もありません。植物の細胞どうしは、細胞壁を貫く「原形質連絡」という別の構造で物質をやりとりしています。働きは似ていますが、成り立ちの異なる構造です。
Q3. 電気シナプスとギャップ結合は同じものですか?
神経細胞どうしのあいだにあるギャップ結合を、電気シナプスと呼びます。化学シナプスが神経伝達物質を介して信号を伝えるのに対し、電気シナプスはイオンの流れで直接信号を伝えます。多くは双方向性ですが、整流性を示す電気シナプスもあり、神経細胞の集団の活動をそろえる働きがあります。
Q4. 骨格筋にギャップ結合がないのはなぜですか?
骨格筋の筋線維は、多数の筋芽細胞が融合してできた1つの多核細胞で、1本ずつ運動神経の指令で収縮するため、隣の筋線維と電気的につながる必要がないと説明されます。筋芽細胞が融合する前の段階ではコネキシン43によるギャップ結合が使われ、成熟するとほとんど見られなくなります。
Q5. コネクソンとコネキシンの違いは何ですか?
コネキシンはギャップ結合をつくる1個のタンパク質で、コネクソンはコネキシンが6個集まってできた筒(ヘミチャネル)です。隣り合う2つの細胞のコネクソンがつながると、1本のギャップ結合チャネルになります。
Q6. ギャップ結合の遺伝子の病気が家族にある場合はどうすればよいですか?
コネキシン遺伝子の病気は、遺伝子や変化の種類によって遺伝形式や症状が異なります。ご家族に遺伝性の難聴などがあり、子どもへの影響や検査について知りたい場合は、見つかった変化と家系の情報をもとに、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで具体的に確認することができます。
まとめ
ギャップ結合は、隣り合う細胞の細胞質をコネキシンでできたチャネルで直接つなぎ、イオンや小さな分子、電気信号を受け渡す細胞間結合です。コネキシン6個でコネクソン、コネクソン2個で1本のチャネルとなり、それが多数集まってギャップ結合をつくります。心筋では介在板に集まって電気信号を素早く伝え、心房・心室を同期して収縮させます。平滑筋や神経、水晶体などでも働く一方、成熟した骨格筋の筋線維どうしのあいだにはほとんどありません。ほかの細胞間結合が「シール」や「留め具」であるのに対し、ギャップ結合の本質は「連絡」にあります。
また、コネキシン遺伝子の変化は、遺伝性難聴(GJB2)、X連鎖シャルコー・マリー・トゥース病(GJB1)、眼歯指異形成症(GJA1)、先天白内障(GJA3・GJA8)などの原因になります。基礎用語としてのギャップ結合を理解しておくことは、こうした遺伝子の検査結果が何を意味するのかを読み解く助けになります。
参考文献
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