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遺伝情報の欠失とは

遺伝情報の欠失とは

遺伝情報の欠失とは、染色体またはDNAの塩基配列の一部が失われることを指します[6]。この現象は、遺伝子のDNA配列において、塩基対の一部が欠けることにより生じ、その結果、遺伝子から作られるタンパク質の機能に影響を及ぼす可能性があります[4]。欠失は、遺伝子内の1つから数個の塩基対が欠ける小さなものから、遺伝子全体またはいくつかの隣接する遺伝子が欠ける大きなものまで様々です[4]。

欠失がある遺伝子から作り出されるタンパク質は、適切に機能しない可能性があり、これが様々な遺伝病の原因となることがあります[7]。例えば、特定の染色体領域の欠失によって引き起こされる疾患として、3p欠失症候群があり、これは成長遅延、発達遅延、精神遅滞、異形、小頭症、眼瞼下垂などの特徴を持つまれな疾患です。また、18p欠失症候群は、低身長、知的障害、顔面異形などの臨床的特徴を伴うことが多く、その頻度は5万人に1人程度と推定されています[1]。

遺伝子変異の一種として、欠失はがんなどの病気の原因となることもあります。何らかの理由でDNAの文字が抜けてしまうと、間違った情報が伝わり、細胞の機能に異常が生じることがあります[3]。欠失は、原癌遺伝子や癌抑制遺伝子に影響を与えることにより、がんの発生に関与することもあります[6]。

遺伝情報の欠失は、遺伝学的評価や遺伝カウンセリングにおいて重要な要素であり、遺伝病の診断や治療における理解を深めるためにも、そのメカニズムや影響を知ることが重要です[7]。

遺伝情報の欠失の種類

遺伝情報の欠失は、染色体またはDNA配列中の特定の部分が失われる遺伝的変異です。この種類の変異は、個体の形質や健康に影響を与える可能性があり、いくつかの異なる形態があります。以下に主なタイプを説明します。

1. デリーション(欠失変異)deletion
デリーションは、DNA分子から一つ以上のヌクレオチドが失われる変異です。この変異は非常に小さなスケール(数ヌクレオチドの欠失)から、大きな染色体領域、さらには全染色体の喪失に至るまで様々です。デリーションは遺伝病の原因となることが多く、その影響は欠失のサイズと位置によって異なります。

欠失はDNAレベルと染色体レベルがあります。

染色体欠失によって引き起こされる症状は、欠失が発生する染色体の位置と、欠失の大きさによって異なります。例えば、1p36欠失症候群は1番染色体の短腕末端の欠失によって引き起こされ、成長障害、重度の精神発達遅滞、難治性てんかんなどの症状が現れます。また、22q11.2欠失症候群は22番染色体の特定の領域が欠けることによって生じ、免疫系の問題や心臓の欠陥など、多岐にわたる影響が出ることが知られています。

染色体欠失は、通常の染色体構造から一部が失われることにより、遺伝子のコピー数が減少し、その遺伝子がコードするタンパク質の量や機能に影響を与えることがあります。これにより、細胞や組織の正常な機能が妨げられ、様々な発達障害や健康問題を引き起こす原因となります。

このような染色体欠失は、遺伝的検査によって診断されることが多く、特に新生児や小児の異常な発達が見られる場合に調べられることがあります。治療方法は、症状に応じた対症療法が主であり、根本的な治療法はまだ確立されていないのが現状です。

2. マイクロデリーション microdeletion 微細欠失
マイクロデリーションは、比較的小さいDNA領域の欠失を指し、数千から数百万ヌクレオチドまでの範囲で発生します。これらの変異はしばしば遺伝的疾患と関連しており、例えばプラダー・ウィリー症候群やアンジェルマン症候群などがこれに該当します。
染色体欠失とは、染色体の一部が失われる遺伝的変異です。この変異により、通常存在するはずの遺伝子が欠けてしまい、様々な生物学的機能に影響を及ぼす可能性があります。染色体欠失は、特定の症状を引き起こす染色体異常症候群の原因となることがあります。

3. クロモソームの非整列
クロモソームの非整列(chromosome misalignment)は、細胞分裂の過程で特に重要な段階である紡錘体形成時に、クロモソームが正しく紡錘体の中央(赤道面)に配置されない状態を指します。通常、正常な細胞分裂では、全てのクロモソームが紡錘体の赤道面に整列し、その後姉妹染色分体が細胞の反対側へ均等に引き寄せられ分かれていきますが、非整列が起こるとこのプロセスがうまく行われません。
クロモソームの非整列は、次のような問題を引き起こす可能性があります:
異常な細胞分裂:クロモソームが正しく分配されないことで、娘細胞に染色体の不均等な分配が起こります。これにより、染色体異常を持つ細胞が生じることがあります。
遺伝子の不安定性:染色体の不均等分配は遺伝子の不安定性を引き起こし、突然変異やがんなどの病状のリスクを高めることがあります。
細胞死:極端な場合、クロモソームの非整列は細胞の生存に致命的で、細胞死を引き起こすことがあります。
クロモソームの非整列は、特にがん細胞で見られることが多い現象です。がん細胞はしばしば正常な細胞周期の調節機構が損なわれているため、非整列を含む分裂異常が頻繁に生じます。このような異常が累積すると、細胞の悪性化や腫瘍の進行につながる可能性があります。

4. 環状染色体異常
環状染色体異常は、染色体の端部が欠失し、残った部分が環状になる変異です。これにより遺伝情報が失われることがあり、独特な症状や発達遅滞を引き起こす可能性があります。

5. コピーナンバー変異(CNV)
コピーナンバー変異は、遺伝子のコピー数が通常よりも多いか少ない状態を指します。これは数キロベースから数百キロベースのDNA配列の欠失や増加によって生じることがあります。CNVは通常、健康な個体でも見られるが、特定の病気と関連する場合もある。

これらの遺伝情報の欠失は、遺伝病の診断、遺伝カウンセリング、および治療計画において重要な考慮事項です。それぞれの種類に応じた適切な遺伝的検査や治療法が選択されます。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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