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併存疾患(併存症)とは?合併症・既往歴との違いを表で解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

⏱ 30秒でわかる要約

Q. 併存疾患(併存症)とは?

ある病気と同じ時期にあるものの、その病気が原因で起きたわけではない別の病気のことです。読み方は「へいぞんしっかん」「へいぞんしょう」で、英語ではcomorbidityといいます。

Q. 合併症との違いは?

分かれ目は因果関係です。もとの病気が原因で起こるのが合併症(糖尿病による網膜症など)、原因のつながりがなく同時にあるのが併存症(糖尿病の人の花粉症など)です。

Q. 既往歴との違いは?

分かれ目は時間です。併存疾患は「いま同時にある別の病気」、既往歴は「これまでにかかった病気や受けた医療」です。

Q. 遺伝の病気ではどう考える?

ダウン症候群の心臓病のように「合併症」と呼ばれる症状の多くは、1つの遺伝的な原因から同時に出る症状(多面発現)です。症状どうしの因果関係とは別に、共通の原因を考えることが診断と家族の検査につながります。

併存疾患(併存症)と合併症・既往歴の違いを解説するアイキャッチ画像

併存疾患(へいぞんしっかん)とは、ある病気と同じ時期にあるものの、その病気が原因で起きたわけではない別の病気のことです。併存症(へいぞんしょう)ともいい、英語ではcomorbidityと書きます。よく似た言葉の「合併症」は、もとの病気が原因となって起こる別の病気を指します。併存疾患と合併症を分けるのは、病気どうしに因果関係があるかどうかです。この記事では、合併症・既往歴・併発症などとの違いを比較表で整理し、カルテや研究での使われ方、そして遺伝性の病気で「合併症」と呼ばれている症状の本当の成り立ちまで解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🩺 併存疾患・合併症・既往歴
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤併存疾患(併存症) → もとの病気と同時にあるが、その病気が原因ではない別の病気
  • ➤合併症 → もとの病気(または手術・検査)が原因となって起こる別の病気
  • ➤既往歴 → これまでにかかった病気や受けた医療の記録
  • ➤英語 → 併存疾患はcomorbidity、合併症はcomplication、多疾患併存はmultimorbidity
  • ➤遺伝の病気 → 1つの原因から複数の症状が出る「多面発現」は、合併症とも併存疾患とも成り立ちが違う

1. 併存疾患(併存症)とは?意味と読み方

併存疾患とは、ある病気と同時に起きているが、その病気とは関係がない別の病気のことです[1]。東京大学などが運営する医学研究用語の手引きでは、一般の人向けに「現在かかっている別の病気」「現在治療中の別の病気」と言い換える例が示されています[1]。読み方は「へいぞんしっかん」、併存症は「へいぞんしょう」です。2つは同じ意味で使われます。

この言葉を理解するときに押さえておきたいのは、併存疾患には必ず「基準になる病気」があるという点です。米国のファインスタイン(Feinstein)は、1970年の論文で、comorbidity(併存疾患)を「調べている病気をもつ患者の経過中に、すでに存在した、あるいは新たに起こりうる、はっきり区別できる別の病態」と定義しました[2][3]。ここで言う「調べている病気」は、研究や診療で中心にすえる病気で、英語ではindex disease(指標疾患)と呼ばれます[3]。

つまり、同じ人がもつ同じ2つの病気でも、どちらを基準にするかで呼び方が入れ替わります。糖尿病の治療をしている内科から見れば、喘息は「糖尿病の併存疾患」です。一方、喘息を診ている呼吸器科から見れば、糖尿病が「喘息の併存疾患」になります。2009年の総説も、どの病気を基準にするかは自明ではなく、研究の目的や診療の場面、診療科によって変わると指摘しています[3]。

併存疾患の具体例

具体例で考えてみます。2型糖尿病で通院している人が、子どものころからの花粉症をもっている場合、花粉症は糖尿病が原因で起きたわけではないので、糖尿病の併存疾患です。同じ人が、がんの手術を受けることになったとすると、手術を担当する外科から見て糖尿病は「がんの併存疾患」として扱われます。糖尿病があると手術の前後の血糖の管理や傷の治り方に配慮が必要になるため、手術の計画を立てるときに併存疾患の一覧を確認するのです。

このように、併存疾患は「もとの病気とは原因のつながりがない」病気ですが、治療や経過に影響しないという意味ではありません。薬の飲み合わせ、検査の受け方、手術の安全性などに影響するからこそ、診療では「いまほかにどんな病気があるか」を必ず確かめます。言葉の意味としては因果関係がないことがポイントで、治療への影響の大きさとは別の話だと考えると混乱しません。

💡 用語解説:指標疾患(index disease)

併存疾患を考えるときに基準にする病気のことです。研究であれば「この研究で調べている病気」、診療であれば「いま主に治療している病気」が指標疾患になります。指標疾患を決めないと、ある病気が「併存疾患」なのか「主病」なのかが決まりません。

2. 合併症と併存症(併存疾患)の違い

合併症と併存症の違いは、もとの病気との因果関係があるかどうかです。合併症は、ある病気(または手術や検査)が原因となって起こる別の病気です。併存症は、もとの病気と同時にあるものの、その病気が原因で起きたわけではない別の病気です[1][4]。

🔎 図:合併症・併存疾患・多面発現の関係(模式図)

合併症
もとの病気A例:糖尿病
▶
Aが原因で起こる病気B例:糖尿病網膜症
併存疾患
もとの病気A例:糖尿病
+
Aとは別の原因の病気C例:花粉症
多面発現
共通の原因例:染色体・遺伝子の変化
▶
症状1例:心臓の病気
症状2例:口蓋の病気
症状3例:免疫の病気

※矢印は原因から結果への向きを示します。多面発現では、症状1〜3は互いに原因と結果の関係ではなく、同じ原因から並んで出てきます(第6章で解説)。

合併症には2つの意味がある

国立国語研究所の「病院の言葉」委員会は、合併症という言葉には2つの意味があると整理しています[4]。1つ目は、ある病気が原因となって起こる別の病気です。糖尿病が原因で血管が傷み、動脈硬化や脳梗塞が起こる場合がこれにあたります。2つ目は、手術や検査のあと、それらがもとになって起こることがある病気です。消化器の手術のあとに起こる腸閉塞などが例として挙げられています[4]。

同じ委員会は、2つ目の意味(手術や検査がもとになる病気)については「併発症」「手術併発症」「検査併発症」と言い換えて、意味を説明しながら使うことを提案しています[4]。1つの言葉で2つのことを表すと誤解が生まれやすいためです。併存症は、このどちらの意味の合併症とも違い、原因のつながりがない病気を指します。

📊 合併症と併存症(併存疾患)の比較表

項目 合併症 併存症(併存疾患)
読み方 がっぺいしょう へいぞんしょう(へいぞんしっかん)
もとの病気との関係 もとの病気(または手術・検査)が原因 もとの病気が原因ではない
起こる時期 もとの病気や処置のあとに起こる 前からあっても、あとから見つかってもよい
例(もとの病気が糖尿病) 網膜症・腎症・神経障害、動脈硬化による脳梗塞 花粉症、子どものころからの喘息
予防の考え方 もとの病気の治療で防げることがある それぞれの病気として別に治療する
英語 complication comorbidity

※合併症の2つの意味は国立国語研究所「病院の言葉」委員会[4]、併存疾患の定義は医学研究用語の手引き[1]による。糖尿病の例は説明のための典型例です。

「合併症」は誤解されやすい言葉

合併症は、医療の言葉の中でも特に誤解の多い言葉です。国立国語研究所の調査では、「合併症」という言葉を知っている人(認知率)は97.6%と非常に高い一方、意味を正しく理解している人(理解率)は、1つ目の意味(病気が原因で起こる別の病気)で54.0%、2つ目の意味(手術や検査がもとになる病気)では18.5%にとどまりました[4]。

誤解の中身もはっきりしています。1つ目の意味については、「何かの病気と一緒に必ず起こる」と考える人が28.8%、「偶然に起こる」と考える人が31.1%いました。2つ目の意味については、医療ミスや医療事故のことだと考える人が19.1%いて、訴訟につながることもあると報告されています[4]。委員会は、日常語の「合併」が「別々のものが一つになる」という意味なので、医療用語の意味とずれていることを原因の1つに挙げています[4]。

「偶然に起こる」という受け止め方は、実は「併存症」の意味に近いものです。つまり、合併症という言葉だけで説明すると、聞き手によっては合併症と併存症の区別そのものがあいまいになってしまいます。説明する側は「この病気が原因で起こるもの」「この病気とは別に、たまたま一緒にあるもの」と、原因のつながりを言葉にして伝える必要があります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「合併症」の一言で済ませないこと】

合併症という言葉は、医師にとっては説明を短くできる便利な言葉です。けれども調査が示すとおり、受け取る側の理解は大きく割れています。「必ず起こる」と受け取れば過度に心配しますし、「医療ミス」と受け取れば不信が生まれます。

総合内科専門医として多くの臓器の病気を横断的に学んできた立場からは、「何が原因で、何が起こりうるのか」を言葉にすることこそが、合併症の説明の中身だと考えています。併存疾患との違いも、因果関係という1つの軸で説明すれば、多くの方にすっきり伝わると考えています。

見分け方:因果関係が分からないときは?

実際の医療では、2つの病気の間に因果関係があるかどうかがはっきりしないこともあります。たとえば、ある病気があると別の病気にかかりやすくなる傾向が研究で示されていても、その人の場合に本当に原因と結果の関係なのかは確かめられないことがあります。2009年の総説も、病気どうしの関係には、直接の原因と結果の関係のほか、共通の危険因子をもつ場合など、いくつかの型がありうると整理しています[3]。

このようなときは、呼び方を決めることより「どの病気から何が起こりうるのか」を整理しておくことが大事です。呼び方は、病気の成り立ちについての理解を表す言葉だからです。因果関係がはっきりしないものを「合併症」と言い切ると、別の原因を探す必要がないかのように聞こえてしまう点には注意が必要です。この考え方は、第6章の遺伝性の病気の話につながります。

3. 既往歴・基礎疾患・併発症・続発症・後遺症との違い

併存疾患と既往歴の違いは時間です。併存疾患は「いま、もとの病気と同時にある別の病気」、既往歴(既往症)は「これまでにかかった病気や受けた医療」です[1]。たとえば、10年前に治った虫垂炎は既往歴ですが、いま治療中の高血圧は併存疾患として扱われます。既往歴の言い換えとしては「今までかかったことがある病気」が示されています[1]。

このほかにも、医療の現場では似た言葉がいくつも使われます。それぞれ「時間」と「原因のつながり」の2つの軸で整理すると、違いが分かりやすくなります。

📋 併存疾患とよく似た言葉の違い

言葉 意味 もとの病気との原因のつながり 時間
併存疾患(併存症) もとの病気と同時にある別の病気 なし いま
合併症 もとの病気が原因で起こる別の病気 あり もとの病気のあと
併発症 手術や検査がもとになって起こることがある病気 あり(手術・検査) 処置のあと
既往歴(既往症) これまでにかかった病気や受けた医療 問わない 過去
基礎疾患 もともともっている持病 問わない(話題の病気より前からある) 以前からいままで
後遺症 病気やけがが治ったあとに残る症状や障害 あり 治ったあと

※併存疾患・既往歴は医学研究用語の手引き[1]、合併症・併発症は国立国語研究所「病院の言葉」委員会[4]による。基礎疾患・後遺症は一般的な用法を示しています。

基礎疾患と併存疾患

基礎疾患は「もともともっている持病」という意味で、新しい病気やけが、手術などが話題になったときに、それより前からある病気を指して使われます。感染症の重症化の話題でよく聞く言葉です。併存疾患と重なる部分は大きいのですが、基礎疾患は「話題の出来事より前からある」ことに、併存疾患は「基準にする病気と原因のつながりがない」ことに重心がある言葉です。

続発症・偶発症という言葉

「続発症」は、ある病気に続いて起こる病気という意味で使われることがあります。「偶発症」は、手術や検査に伴って起こる望ましくない出来事を指す言葉として使われてきました。ただし国立国語研究所の提案では、「偶発症」は原因がないという誤解を招くので使わないことが望まれ、「続発症」も同じ病気が繰り返すような印象を与えるので「併発」を使うのが適切とされています[4]。説明を受ける側としては、これらの言葉が出てきたら「何が原因で起きたものですか」と確かめると、意味を取り違えずにすみます。

4. 英語では?comorbidity・complication・multimorbidity

併存疾患は英語でcomorbidity(コモビディティ)、合併症はcomplication(コンプリケーション)です。comorbidityは「一緒に」を表すco-と、「病気であること・罹患」を表すmorbidityを組み合わせた言葉です。形容詞はcomorbid、複数形はcomorbiditiesで、論文では「comorbid conditions(併存する病態)」のような使い方もよく見かけます。

complicationについては、2009年の総説が、米国国立医学図書館の医学件名標目表(MeSH)で「並存する、または後に続いて起こる病態」と定義されていることを紹介しています[3]。同じ総説は、治療が別の病気を引き起こす例として、抗凝固薬によって起こる消化管出血を挙げています[3]。日本語の「合併症」の2つの意味に、ほぼ対応していることが分かります。

multimorbidity(多疾患併存)との違い

似た言葉にmultimorbidity(マルチモビディティ、多疾患併存)があります。2009年の総説は、comorbidityを特定の基準になる病気との関係で捉える概念、multimorbidityを1人の中に複数の慢性・急性の病気が同時に存在する状態として、基準になる病気を決めずに捉える概念として区別しています[3]。高齢者医療やプライマリ・ケアでは、どれか1つの病気を中心にするのではなく、その人がもつ病気全体を見る必要があるため、multimorbidityという考え方が使われます。

🌐 英語の用語の対応

英語 日本語 ポイント
comorbidity 併存疾患・併存症 基準になる病気(index disease)がある
complication 合併症・併発症 もとの病気や治療が原因
multimorbidity 多疾患併存 基準になる病気を決めずに、複数の病気の重なりを見る
past medical history 既往歴 これまでにかかった病気や受けた医療
pleiotropy 多面発現 1つの遺伝子が複数の形質に影響する(第6章)

※comorbidity・multimorbidity・complicationの区別は Valderas ら(2009)[3]、pleiotropyは Paaby と Rockman(2013)[5]による。

5. カルテ・医療の書類・研究での使われ方

医療の書類では、併存疾患を「入院した時点ですでにあった病気」という時間の基準で記録する仕組みがあります。厚生労働省が行うDPC(診断群分類)にかかわる調査では、入院した患者さんの情報を「様式1」という形式で提出します。その実施説明資料では、「入院時併存症名」を入院時点ですでに存在していた傷病名、「入院後発症疾患名」を入院中に発生した傷病名と説明し、どちらも国際疾病分類(ICD-10)のコードで記録します[6]。

ここで注目したいのは、このDPCの記録では、病気どうしの因果関係ではなく「入院の時点ですでにあったかどうか」で分けている点です。言葉の意味としての併存疾患(因果関係がない病気)と、書類の欄としての「併存症」(入院時にすでにあった病気)は、完全には重なりません。同じ資料では、入院後発症疾患のデータ項目名が「続発症」とされています[6]。診断書や保険の書類でも、欄の名前と、その欄に何を書くかの定義は書式ごとに決められているので、書類を書いたり読んだりするときは、その書式の定義を確かめることが大切です。

研究で使われる「チャールソン併存疾患指数」

併存疾患は、治療の結果や寿命の見通しに影響するため、臨床研究では患者さんがもつ併存疾患の重さをそろえて比べる必要があります。そのための代表的な道具が、1987年にチャールソンらが発表したチャールソン併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index、CCI)です[7]。

この指数は、併存疾患の数と重さに重みをつけて点数化し、併存疾患による死亡のリスクを見積もるために作られました[7]。内科の入院患者559人のデータで作られ、1年以内の死亡率は点数が高いほど上がっていました。さらに別の685人を10年間追跡したデータで確かめたところ、点数が上がるにつれて併存疾患による死亡が段階的に増えていました[7]。研究論文で「併存疾患の影響を調整した」と書かれているときは、こうした指数を使って患者さんどうしの条件をそろえていることが多いのです。論文を読むときは、どの併存疾患を数えたのか、どの時点の情報を使ったのかも確かめると、結果の意味を取り違えにくくなります。

⚠️ 注意:点数は集団の比較のための道具

チャールソン併存疾患指数のような指数は、研究で患者さんの集団どうしを比べるために作られたものです。点数から、ある1人の方の寿命を言い当てることはできません。ご自身の見通しについては、主治医に個別に確認してください。

6. 遺伝・医療とのつながり:遺伝性の病気の「合併症」は本当に合併症?

遺伝性の病気で「合併症」と呼ばれている症状の多くは、ほかの症状が原因で起きたものではなく、1つの遺伝的な原因から同時に出てくる症状です。遺伝学ではこれを多面発現(プレイオトロピー)と呼びます。ここが、一般的な合併症・併存疾患の解説にはない、遺伝医療ならではの視点です。

1つの原因から複数の症状が出る「多面発現」

多面発現とは、1つの遺伝子が複数の形質(体の特徴や症状)に影響することです[5]。2013年の総説は、さまざまな臓器に症状が出る症候群(シンドローム)を、発生の過程で起こる多面発現の例として挙げています[5]。染色体の数の変化や、染色体の一部が欠けることでも、多くの遺伝子の働きが同時に変わるため、全身のいろいろな臓器に症状が出ます。

このとき、心臓の病気と口の中の病気は、どちらかがもう一方の原因になっているわけではありません。共通の原因から、それぞれが並んで出てきているのです。第2章の図で示したように、合併症(A→B)とも、併存疾患(AとCがたまたま一緒)とも成り立ちが違います。詳しくは多面発現(プレイオトロピー)の解説で扱っています。

例1:ダウン症候群の先天性心疾患

「ダウン症候群の合併症」として最もよく知られているのが、生まれつきの心臓の病気(先天性心疾患)です。オランダで2003〜2006年に生まれたダウン症候群の子ども482人を調べた研究では、43%に先天性心疾患がありました[8]。病型では、房室中隔欠損症が54%、心室中隔欠損症が33.3%を占めていました[8]。

ダウン症候群は、21番染色体が1本多いこと(トリソミー21)で起こります。心臓の病気は、胎児期に心臓ができる過程で、この染色体の変化の影響を受けて生じるものです。知的発達や筋肉の緊張の低さなど、ほかの特徴が原因で心臓の病気が起きているわけではありません。したがって遺伝学的に厳密にいえば、先天性心疾患はダウン症候群という1つの原因から出る症状の1つであり、「病気Aが原因で起こる病気B」という意味の合併症とは成り立ちが違います。

一方で、心臓の病気がもとになって二次的に起こる状態、たとえば心臓の構造の問題による心不全などは、本来の意味での合併症です。日常の会話や多くの資料では、どちらもまとめて「合併症」と呼ばれていますが、この2つを分けて考えると、「どの症状は染色体の変化から直接出ていて、どの状態はその症状から二次的に起きているのか」が見えてきます。ダウン症候群の症状の全体像はダウン症候群(21トリソミー)とは、頻度の詳しい話は下の関連記事で解説しています。

例2:22q11.2欠失症候群

多面発現がよく分かる例が、22番染色体の一部が欠けて起こる22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群とも呼ばれます)です。遺伝性疾患の専門的な解説書であるGeneReviewsでは、先天性心疾患が64%、口蓋の異常が67%、免疫不全が77%、副甲状腺機能低下とそれによる低カルシウム血症が17〜60%、学習の困難や発達の遅れが70〜90%にみられ、成人の約25%に統合失調症が起こると報告されています[9]。米国の集団の調査では、およそ6,000人に1人(ヒスパニック系では約3,800人に1人)とされています[9]。

心臓、口蓋、免疫、カルシウム、発達、こころの健康という、まったく別の臓器や機能の症状が、1つの欠失から同時に出てきます。これらを別々の病気が「たまたま重なった」と見れば併存疾患のように見え、1つの病気から次々に起きたと見れば合併症のように見えますが、実際にはどちらでもなく、共通の原因から並んで出てくる症状です。なお、低カルシウム血症からけいれんが起こるといった流れは、症状から二次的に起こる本来の意味での合併症にあたります。

GeneReviewsは、同じ家系の中でも症状の出方に大きな差があり、欠失を受け継いだきょうだいがどんな症状をもつかは予測できないと記しています[9]。同じ原因でも人によって症状の出方が違うことを、表現型の多様性と呼びます(表現型の多様性とは)。22q11.2欠失症候群の全体像はDiGeorge症候群(22q11.2欠失)の全体像で解説しています。

🧬 遺伝性の病気で症状を整理する3つの見方

見方 症状どうしの関係 22q11.2欠失症候群での例
多面発現(同じ原因から出る症状) 互いに原因と結果ではなく、共通の原因から並んで出る 先天性心疾患・口蓋の異常・免疫不全
合併症(症状から二次的に起こる状態) ある症状が原因で別の状態が起こる 低カルシウム血症によるけいれん
併存疾患(原因のつながりがない病気) 症候群とは関係なくたまたま一緒にある 症候群とは関係のない花粉症など

※症状の頻度はGeneReviews[9]による。表は考え方を整理するための例で、個々の方の症状の成り立ちは診察と検査で判断します。

区別が診断と家族の検査につながる理由

この区別は言葉の問題にとどまりません。たとえば、生まれつきの心臓の病気、口蓋の異常、低カルシウム血症が1人の子どもに見つかったとき、それぞれを別々の病気の重なり(併存疾患)として扱うと、3つの診療科でばらばらに治療が進みます。一方、「共通の原因があるのではないか」と考えれば、染色体や遺伝子の検査で1つの診断にたどりつく可能性があります。

1つの診断がつくと、まだ表に出ていない症状を前もって調べられるようになり、どの臓器を定期的に確認すればよいかの計画が立てられます。さらに、原因が親から受け継がれたものかどうかが分かれば、次の子どもへの影響や、ほかの家族が検査を受けるかどうかを考える材料になります。病気がどのように受け継がれるかは遺伝形式によって変わります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【症状の一覧を、原因の地図に描き直す】

臨床遺伝専門医の仕事は、ばらばらに見える症状の一覧を、原因から枝分かれする地図として描き直すことだと考えています。「合併症」「併存疾患」という呼び方の違いは、その地図のどこに症状を置くかの違いです。

症状どうしのつながりが見えると、まだ出ていない症状を前もって調べることができ、これから何に気をつければよいかが具体的になります。だからこそ、生まれつき複数の臓器に症状がある方や、家族に似た症状の組み合わせがある方では、共通の遺伝的な原因を一度は考えてみる価値があると考えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 併存疾患とはどういう意味ですか?

併存疾患(へいぞんしっかん)は、ある病気と同じ時期にあるものの、その病気が原因で起きたわけではない別の病気のことです。併存症ともいいます。たとえば、糖尿病で治療中の人がもともと花粉症をもっている場合、花粉症は糖尿病の併存疾患にあたります。

Q2. 合併症と併存症の違いは何ですか?

違いは、もとの病気との因果関係があるかどうかです。合併症は、もとの病気(または手術・検査)が原因となって起こる別の病気です。併存症は、もとの病気と同時にあるものの、その病気が原因ではない別の病気です。糖尿病が原因で起こる網膜症は合併症、糖尿病とは関係なくある花粉症は併存症です。

Q3. 併存疾患と既往歴の違いは何ですか?

違いは時間です。併存疾患は「いま、もとの病気と同時にある別の病気」、既往歴は「これまでにかかった病気や受けた医療の記録」です。すでに治った病気は既往歴に入り、いま治療中の別の病気は併存疾患として扱われます。

Q4. 併存疾患は英語で何といいますか?

英語ではcomorbidity(コモビディティ)です。形容詞はcomorbid、複数の病気を指すときはcomorbiditiesと書きます。合併症はcomplicationです。基準になる病気を決めずに複数の慢性疾患が重なっている状態は、multimorbidity(多疾患併存)と呼んで区別することがあります。

Q5. ダウン症候群の心臓病は合併症ですか?

日常的には「ダウン症候群の合併症」と呼ばれますが、遺伝学的には、21番染色体が1本多いという同じ原因から出る症状の1つです。ほかの症状が原因で起きたものではないので、厳密な意味の合併症(病気Aが原因で起きた病気B)とは成り立ちが違います。心臓病から二次的に起きる状態は、本来の意味の合併症です。

Q6. 併存疾患・併存症の読み方を教えてください。

併存疾患は「へいぞんしっかん」、併存症は「へいぞんしょう」と読みます。2つは同じ意味で使われ、医学研究の用語集でも「併存疾患(併存症)」と並べて説明されています。

まとめ

併存疾患(併存症)は、ある病気と同じ時期にあるものの、その病気が原因で起きたわけではない別の病気です[1]。合併症との違いは因果関係の有無、既往歴との違いは時間の違いです[1][4]。英語ではcomorbidityで、基準になる病気を決めずに複数の病気の重なりを見るmultimorbidityとは区別されます[3]。

医療の書類では、DPCの「入院時併存症」のように時間の基準で分ける欄もあるため、書式の定義を確かめることが大切です[6]。また遺伝性の病気では、「合併症」と呼ばれている症状の多くが、1つの原因から同時に出る多面発現の症状です[5][9]。症状どうしの関係を「原因のつながり」で整理しておくと、診断や家族の検査について考えるときの手がかりになります。

📘 この記事について

この記事は、併存疾患・合併症という医学用語の意味を解説する用語ページで、個別の病気の診断を行うものではありません。ご自身の病気の関係については、主治医に確認してください。なお、複数の症状に共通する遺伝的な原因が疑われる場合には、遺伝カウンセリングや遺伝子検査で原因を調べるという方法があります。

参考文献

  • [1] 医療情報をわかりやすく発信するプロジェクト(医学系研究をわかりやすく伝えるための手引き). 理解しにくい医学研究用語:併存疾患、既往. [ez2understand]
  • [2] Feinstein AR. The pre-therapeutic classification of co-morbidity in chronic disease. J Chronic Dis. 1970;23(7):455-468. [DOI 10.1016/0021-9681(70)90054-8]
  • [3] Valderas JM, Starfield B, Sibbald B, Salisbury C, Roland M. Defining comorbidity: implications for understanding health and health services. Ann Fam Med. 2009;7(4):357-363. [Ann Fam Med]
  • [4] 国立国語研究所「病院の言葉」委員会. 「病院の言葉」を分かりやすくする提案:46.合併症(がっぺいしょう). [国立国語研究所]
  • [5] Paaby AB, Rockman MV. The many faces of pleiotropy. Trends Genet. 2013;29(2):66-73. [DOI 10.1016/j.tig.2012.10.010]
  • [6] 厚生労働省.「DPC導入の影響評価に係る調査」実施説明資料. [厚生労働省 PDF]
  • [7] Charlson ME, Pompei P, Ales KL, MacKenzie CR. A new method of classifying prognostic comorbidity in longitudinal studies: development and validation. J Chronic Dis. 1987;40(5):373-383. [DOI 10.1016/0021-9681(87)90171-8]
  • [8] Weijerman ME, van Furth AM, van der Mooren MD, et al. Prevalence of congenital heart defects and persistent pulmonary hypertension of the neonate with Down syndrome. Eur J Pediatr. 2010;169(10):1195-1199. [PMC2926442]
  • [9] McDonald-McGinn DM, Hain HS, Emanuel BS, Zackai EH. 22q11.2 Deletion Syndrome. In: Adam MP, et al., eds. GeneReviews. University of Washington, Seattle; 1999 [updated 2024 May 9]. [GeneReviews NBK1523]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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