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口蓋裂の遺伝的背景とその治療:先天性異常から形成外科学まで

口蓋裂という先天異常遺伝的要因とは何か、またその治療について形成外科学の視点から詳細に解説。必要な手術や治療法、予防策についても紹介し、口蓋裂の症状と診療の現状に光を当てます。

第1章 口蓋裂とは

口蓋裂の基本情報と症状の理解

口蓋裂は、口の中の天井部分に裂け目がある状態を指します。この状態は、生まれつきの先天性の異常であり、唇や上顎(歯茎)など口の周りに生まれつき裂がある状態の一種です。口蓋裂は、単独で存在することもあれば、口唇裂(唇が割れている状態)と合併している場合もあり、その場合は口唇口蓋裂と呼ばれます[16]。

口唇裂と口蓋裂は、妊娠中に赤ちゃんの口唇や口の中が適切に形成されないことで起こる先天性の奇形です。これらの先天性異常を合わせて口顔裂と呼びます。口唇口蓋裂は日本人の新生児でもっとも多い奇形となっています。

口唇裂とは?

口唇口蓋裂

口の屋根(口蓋)は、妊娠6週目から9週目の間に形成されます。口蓋裂は、妊娠中に口蓋を構成する組織が完全に結合しない場合に起こります。口蓋の前部と後部の両方が開いていたり、口蓋の一部だけが開いていたりとさまざまです。

口唇は妊娠4週目から7週目の間に形成されます。妊娠中に赤ちゃんが成長すると、体の組織や頭の両側の特殊な細胞が顔の中心に向かって成長し、結合して顔を作ります。口唇や上顎、口蓋を形成するための突起といわれる組織がそれぞれ上方や側方から顔面や口蓋の中央部にのびてきて左右が結合することで口唇や口蓋や顔面ができていきます。口唇裂は、口唇を構成する組織が出生前に完全に結合しなかった場合に起こります。その結果、上唇に開口部ができます。唇の開口部は、小さな切れ目になることもあれば、唇を通って鼻に入る大きな開口部になることもあります。口唇裂は、唇の片側または両側にできることもあれば、唇の中央にできることもあります。口唇裂のある子供は口蓋裂を合併することもあります。口唇裂・口蓋裂あわせて口唇口蓋裂ともいわれます。口唇口蓋裂は歯ぐきも割れている顎裂を合併することもあります。

顔面の形成

● 症状

口蓋裂の主な症状には以下のようなものがあります:

– 哺乳障害:口蓋裂がある赤ちゃんは、乳首をうまく吸うことができないため、十分な量の母乳やミルクを摂取することが困難になることがあります。これは、口の中と鼻の中がつながっているため、乳児期には口の中が陰圧にならなかったり、飲んだ乳が鼻から出てしまったりして、十分な量を飲むことができないためです[19]。

– 中耳炎:口蓋裂がある子供は、滲出性中耳炎を繰り返しやすく、これが難聴の原因となることがあります。これは、口蓋裂によって口の中と鼻の奥が交通しているため、食物や胃酸の逆流などによって耳管が炎症を起こしやすいためです[19]。

– 発音の問題:口蓋裂を持つ子供は、発音(構音)がうまくできない、間違った発音の方法を覚えてしまう、声がしゃがれるなどの問題が起こります。これは、口と鼻の境がないため、鼻から空気が抜けてしまい、うまく発音ができないためです[19]。

● 原因

口蓋裂の原因は多岐にわたりますが、胎児の顔や上顎、唇などが作られる妊娠初期に、胎児に外から異常な力がかかることや、何らかの原因で発育が停止してしまうこと、母体の栄養障害やストレスなどが主な原因とされています。その他、副腎皮質ステロイドや鎮痛剤といった薬の影響や放射線照射を受けること、風疹にかかることでも起こる可能性があります。一部では遺伝によるものもあるが、口蓋裂の約7割が原因不明とされています[16]。

● 治療

口蓋裂の治療には主に形成手術が行われます。手術の時期は変形と乳児によって異なりますが、一般的には生後15~18カ月の時点で硬口蓋(口蓋の前方の隆起した硬い部分)を修復します。患児が比較的年長の場合は、歯科治療と歯科矯正治療、言語療法、およびカウンセリングが必要になることがあります[16]。

先天異常としての口蓋裂:原因と発症のメカニズム

口蓋裂は、胎児の顔面が形成される過程で、正常に組織が癒合しないことによって生じる先天性の異常です。この状態では、口の中の天井部分に裂け目が生じ、口腔と鼻腔が異常につながってしまいます。口蓋裂は、単独で発生することもあれば、口唇裂(唇の裂け目)と合併して発生することもあります。日本では、約500~600人に1人の割合で発生し、顔面に発生する最も一般的な先天異常の一つとされています[3][4][5][6][7][13]。

● 発症のメカニズム

口蓋裂の形成は、胎生期における顔面の発達過程において、特定の時期に組織が正しく癒合しないことによって起こります。胎生7週頃には口唇が、胎生12週頃には口蓋が形成される過程で、いくつかの突起が中央で接触し癒合することによって口唇や口蓋が形成されます。口蓋裂は、この癒合プロセスが何らかの原因でうまく行われなかった結果として生じると考えられています[2][4][7][8]。

● 原因

口蓋裂の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、多数の因子が関与しているとされています。これには遺伝的要因と環境的要因の両方が含まれます。遺伝的要因としては、近親者に口蓋裂がある場合、再発率が高くなることが報告されています。環境的要因としては、妊娠中のアルコールやタバコの使用、特定の薬剤(フェニトイン、ダイオキシンなど)の影響、放射線照射、風疹感染などがリスクを高める可能性があります。また、母体の葉酸不足や栄養障害、精神的ストレスもリスク因子として挙げられています[1][3][5][6][8][11][12]。

● 発生率

口蓋裂は、日本では約500~700人に1人の頻度で出現すると報告されており、心室中隔欠損に次いで出生数の多い先天異常であるとされています[1]。MSDマニュアル家庭版によると、新生児約1,000人に2人の割合でみられるとも記載されています[6]。

● 結論

口蓋裂は、胎児の顔面発達過程での組織の癒合不全によって生じる先天性異常であり、その原因は遺伝的要因と環境的要因の複合的な影響によるものと考えられています。しかし、多くのケースで具体的な原因は特定されておらず、原因不明の場合が多いです。日本における発生率は比較的高く、顔面の先天異常の中で最も一般的なものの一つです。

第2章 口蓋裂の遺伝的要因

口蓋裂発症における遺伝的関係性

口蓋裂は、上顎と口蓋の形成不全によって生じる先天性の異常であり、遺伝的要因と環境要因の両方が関与していると考えられています。遺伝的要因については、多くの研究が行われており、特定の遺伝子変異が口蓋裂の発症に関与していることが示唆されています。

● 遺伝的要因

口蓋裂の遺伝的要因に関する研究では、特定の遺伝子や遺伝子変異が口蓋裂の発症に関与していることが明らかにされています。例えば、IRF6遺伝子の変異は口蓋裂を含む唇顎口蓋裂の原因の一つであることが知られています。また、TFAP2遺伝子結合部位の遺伝子多型変化も口蓋裂の発症に深く関与していることが示されています[15]。

● 環境要因との相互作用

口蓋裂の発症には、遺伝的要因だけでなく環境要因も関与しています。特に、母親の妊娠中の葉酸摂取不足や喫煙などが口蓋裂のリスクを高めることが知られています。遺伝的要因と環境要因の相互作用が口蓋裂の発症に重要な役割を果たしていると考えられています[3][7]。

多因子遺伝

口蓋裂は多因子遺伝疾患の一例であり、複数の遺伝子と環境要因が複雑に絡み合って発症するとされています。遺伝子間の相互作用や、遺伝子と環境要因との相互作用が口蓋裂の発症に影響を与えている可能性があります[16]。

● 遺伝的相談の重要性

口蓋裂を持つ家族がいる場合、遺伝的相談を受けることが推奨されます。遺伝的要因に基づいたリスク評価や、将来的な子どもへの影響についての情報提供が行われます。遺伝的相談を通じて、口蓋裂の発症リスクに関する理解を深めることができます[7][16]。

総合すると、口蓋裂の発症には遺伝的要因が大きく関与しており、特定の遺伝子変異がリスクを高めることが示されています。しかし、環境要因との相互作用も重要であり、遺伝的要因だけでなく環境要因も考慮する必要があります。遺伝的相談を受けることで、個々のリスク評価や予防策についての情報を得ることができます。

遺伝子と先天性口蓋裂のリスク

先天性口蓋裂は、唇や口蓋(口の中の天井部分)に裂け目が生じる疾患であり、多因子遺伝疾患の一つとされています。この疾患の発生には遺伝的要因と環境要因が複雑に関わっており、遺伝的要因には家族歴や親戚に同様の症状が多い場合などが含まれます[8][12][20]。また、遺伝的要因だけでなく、妊娠中の栄養状態や薬剤の使用、感染症、ストレスなどの環境要因も関与していると考えられています[6][8][20]。

遺伝的要因に関しては、口蓋裂の発生に関わる遺伝子がいくつか特定されており、これらの遺伝子の変異がリスクを高める可能性があります。例えば、Stat3-p63経路が口蓋突起の癒合に重要であり、この経路の不調が口蓋突起の癒合不全の一因であることがマウスモデルで明らかにされています[13]。また、葉酸がStat3の賦活化を介してp63を抑制し、口蓋突起の癒合不全を解消することが示されており、葉酸による口蓋裂の予防効果が期待されています[13]。

さらに、日本人家族における口唇・口蓋裂候補遺伝子の解析研究では、関連遺伝子の解明が進んでおり、Treacher Collins症候群などの単一遺伝子疾患や、22q11.2欠失症候群、4p症候群などの染色体異常に合併して口唇口蓋裂が生じる場合もあることが報告されています[15][17]。これらの研究は、口唇裂や口蓋裂の発生に関与する遺伝子や遺伝的背景を明らかにすることで、将来的には個別化された予防や治療戦略の開発に寄与する可能性があります。

一方で、口唇裂や口蓋裂の発生原因については、遺伝的要因だけでなく、環境要因も大きく影響しており、特定の遺伝子が原因であると断定することは困難です。多くの場合、原因は不明であり、遺伝的要因と環境要因が複合的に作用しているとされています[8][12][20]。

総合すると、先天性口蓋裂のリスクには遺伝的要因が関与しているものの、その発生メカニズムは複雑であり、遺伝子だけでなく環境要因も重要な役割を果たしています。遺伝子の解析により、口蓋裂の予防や治療に役立つ新たな知見が得られつつありますが、個々の症例におけるリスク要因を特定するにはさらなる研究が必要です。

第3章 口蓋裂の診断と治療

口蓋裂診断時の検査と評価

口蓋裂の診断には、様々な検査と評価が行われます。これらの検査と評価は、口蓋裂の存在を確認し、その程度を評価するために重要です。以下に、口蓋裂診断時に行われる主な検査と評価方法を紹介します。

1. 視診と触診

口蓋裂の初期診断は、医師による視診と触診で行われます。口腔内を直接見て、裂の存在やその範囲を確認します。また、触診により、裂の深さや硬さなどの物理的特性を評価します。

2. 超音波検査(エコー)

超音波検査は、出生前の口蓋裂の診断に用いられます。特に口唇裂については、胎児診断の超音波検査で判明する場合がほとんどですが、口蓋裂はエコー検査では調べることが難しいとされています[11][15]。

3. 鼻咽腔閉鎖機能評価

鼻咽腔閉鎖機能の評価は、口蓋裂による言語障害の診断に重要です。ナゾメータ検査により、鼻咽腔閉鎖機能の良好な判定には母音および低圧文の平均nasalance scoreの20%以下ならびに低圧文の最大値60%以下が有用な指標となります[13][16]。

4. 内視鏡検査

内視鏡検査は、口蓋裂の詳細な観察や、粘膜下口蓋裂のように外見上は明らかでない場合の診断に用いられます。この検査により、口蓋の構造や裂の正確な位置を確認できます。

5. X線検査

X線検査は、口蓋裂に伴う顎骨の異常や、中耳炎などの合併症の有無を調べるために行われることがあります。

6. 遺伝学的検査

口蓋裂が遺伝的要因によるものである場合、遺伝学的検査によりその原因を特定することができます。特に、症候群に伴う口蓋裂の場合に重要です。

7. 言語聴覚士による評価

言語聴覚士による評価は、口蓋裂による言語障害の程度を評価するために行われます。開鼻声や呼気鼻漏出による子音の歪みなど、言語に関する様々な問題を評価します[20]。

これらの検査と評価は、口蓋裂の診断、治療計画の立案、および治療後の経過観察において重要な役割を果たします。

形成外科学における口蓋裂の治療法

形成外科学における口蓋裂の治療法は、患者の年齢、口蓋裂の種類、および関連する他の疾患の有無に応じて異なります。口蓋裂の治療は、主に手術によって行われ、患者の発音能力の改善、食物や飲み物が鼻に流れ込むのを防ぐ、および顔貌の改善を目的としています。以下に、形成外科学における口蓋裂の主な治療法を紹介します。

● 口蓋形成術

口蓋形成術は、口蓋裂を閉鎖するための手術であり、軟口蓋と硬口蓋の両方、またはいずれか一方を対象とすることがあります。この手術の目的は、口蓋の機能を回復し、正常な発音と食物の摂取を可能にすることです。手術法には、以下のようなものがあります。

– プッシュバック法: 口蓋の粘膜と骨膜を皮弁として挙上し、中央に移動させて裂を閉鎖します[14]。この方法は、裂が広い軟硬口蓋裂に対して行われることがあります。

– ファーラー法(Furlow法): 口蓋の粘膜骨膜を剥離し、これを用いて口蓋裂を閉鎖します[15]。この手術法は、現在広く支持されている方法の一つです。

● 顎裂部骨移植術

顎裂部骨移植術は、顎裂がある場合に行われる手術で、裂部の骨が欠損しているため、骨の移植を行って歯槽部の骨の連続性を回復します[12]。この手術は、歯並びの治療を行う前に必要となることがあります。

● 顎裂部骨移植術
その他の治療法

– 鼻咽腔閉鎖機能不全に対する口蓋二次修正術: 再口蓋後方移動(re-push-back)や他の方法を用いて、鼻咽腔閉鎖機能不全を改善します[16]。

– 言語治療: 手術だけでなく、言語治療も口蓋裂の治療には重要です。言語聴覚士による評価と訓練が行われ、発音障害の改善を目指します。

形成外科学における口蓋裂の治療は、多職種によるチームアプローチが必要とされ、患者一人ひとりの状態に合わせた個別の治療計画が立てられます。また、治療は一度の手術で完了するものではなく、成長に伴い複数回の手術や治療が必要になることがあります[14][15][16]。

第4章 口蓋裂手術の種類と手法

口唇裂および口蓋裂の手術プロセス

口唇裂および口蓋裂は、生まれつきの顔面の先天異常であり、適切な治療を行うことで、機能的障害なく通常の社会生活を送ることが可能です。治療は主に手術によって行われ、そのプロセスは複数の段階に分かれます。

● 口唇裂の手術

口唇裂の手術は、通常生後3ヶ月頃に行われます。この時期に選ばれる理由は、この時期までには体重も5kgを超え、患児の体力がついてくることと、1ヶ月健診も終えて出生時には診断されなかった合併症もある程度診断されることが挙げられます[1]。手術の目的は、口唇裂を閉鎖しバランスのとれた自然な口唇形態を再建すること、偏位した鼻柱や鼻翼基部の位置の適正化、および口輪筋の連続性の回復です[1]。

● 口蓋裂の手術

口蓋裂の手術は、通常1歳から2歳までに行われることが多く、目的は口蓋部分における口腔と鼻腔の遮断をすることのみならず、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群を再建し、正常な鼻咽腔閉鎖機能を獲得できるようにすることです[1]。

● 術前の準備

手術前には、術前顎矯正プレートを用いて手術前に良好な歯ぐきの形態に矯正することができます。これにより口唇形成術と歯槽骨膜形成術及び口蓋形成術の同時手術が可能となります[11]。また、新生児期での哺乳、生後1ヶ月前後の術前顎矯正などが挙げられます[12]。

● 手術後のケア

手術後は、言語聴覚士の評価・訓練を行います。経過観察中に鼻咽腔閉鎖機能不全があり、言語機能に異常がある場合は、咽頭弁形成術などを行います[1]。また、就学時前に外鼻修正術を行うことが多く、両側口唇口蓋裂の場合には特に重要です[1]。

このように、口唇裂および口蓋裂の手術プロセスは、患者の年齢や状態に応じて慎重に計画され、多職種の医療チームによる総合的なケアが必要とされます。

手術後のケアと長期的な成果

口蓋裂の治療は、手術を含む長期的なケアが必要であり、その後の成果は患者のQOL(生活の質)に大きく影響します。手術後のケアは、創部の治癒を促進し、機能的な回復を支援するために重要です。また、長期的な成果は、言語能力や摂食機能の改善、顔貌の整容など、多岐にわたります。

● 手術後の直接的なケア

– 創部の管理: 手術後は創部が硬くなり、筋肉の動きが悪くなることがあるため、一時的に食物が鼻から漏れることがあります[6]。また、口蓋裂手術の場合、粘膜縫合部が裂けて鼻へ交通してしまう瘻孔(口蓋瘻孔)が生じることがあるため、退院後はこまめな通院が必要です[9]。
– 食事: 手術後1か月たてば、普通の食事も歯みがきも可能になりますが、手術直後は軟らかい食事を食べることが推奨されます[14]。
– 口腔衛生: 食後は白湯や番茶を与えて、ミルクや食べカスが口の中に残らないようにすることが大切です[7]。

● 長期的なフォローアップと成果

– 言語能力: 口蓋裂手術後は言語聴覚士の評価・訓練が行われ[1]、正しい言語を獲得するために言語訓練を受けることが推奨されます[9]。長期的な成果として、言語障害の改善が期待されます[11]。
– 摂食機能: 手術の目的は、正しい言葉が話せ、上手に食べることができるようにすることです[7]。長期的には、食事や言葉が鼻から漏れる問題が改善されます[5]。
– 顔貌の整容: 高度な完全唇裂では、初回の手術だけで完全な形態が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、鼻や口唇の修正手術を必要とすることがあります[3]。長期的には、顔面の変形が改善されます[5]。
– 成長と発達: 口蓋裂のお子さまは上顎の発育が悪いため、上顎の歯列の拡大が必要なことも多く、歯並びの治療の開始時期は、反対咬合や歯列不整の状況によって変わります[3]。

● 治療の総合的なアプローチ

– チーム医療: 口唇口蓋裂に対する治療は、各科専門医が総合的に診療にあたる「チーム医療」によって成果をあげることが重要です[2]。
– 専門施設での治療: 単一施設で専門性の高い治療を受けることは、治療結果に加え患者さんの時間的・経済的負担の軽減につながります[4]。

● 結論

口蓋裂の治療後のケアは、手術直後から長期にわたるフォローアップが必要であり、患者の生活の質の向上に寄与します。治療は多職種によるチーム医療が基本であり、患者とその家族への継続的なサポートが不可欠です。

第5章 口蓋裂に関連する医療情報

口腔外科における治療実績と相談窓口

口蓋裂は、生まれつき上口蓋(口の中の天井部分)が割れている状態を指します。この状態は、発音障害や食事の際の問題、さらには顔貌に影響を及ぼす可能性があります。口蓋裂の治療は、主に口腔外科や形成外科で行われ、患者の年齢や裂の程度に応じて、手術や矯正治療などが計画されます。

● 口腔外科における治療実績

口腔外科では、口蓋裂の治療に関して多岐にわたる治療法を提供しています。治療は、新生児期の哺乳支援から始まり、必要に応じて口蓋形成術、言語訓練、歯科矯正治療、さらには顎骨の成長を促すための手術などが含まれます。口蓋裂の手術は通常、生後1歳から2歳の間に行われることが多く、この時期に手術を行うことで、発音機能や顎の発育に良好な影響を与えることができます[1][3][4][12][13][14][15][16][17][18][19][20]。

● 相談窓口

口蓋裂の治療にあたっては、患者やその家族が抱える不安や疑問に対応するための相談窓口が設けられています。多くの病院では、形成外科や口腔外科の専門医による診察のほか、言語聴覚士、矯正歯科医師、耳鼻咽喉科医師、看護師など、多職種によるチーム医療を提供しており、患者一人ひとりに合わせた治療計画を立てています。また、公的助成制度に関する情報提供や社会的支援に関する相談にも応じています[20]。

口蓋裂の治療は、単に裂を閉じる手術だけでなく、患者の発音機能や顎の発育、さらには心理的なサポートにも焦点を当てた総合的なアプローチが求められます。そのため、治療を受ける際には、専門医や関連する医療スタッフとの密接なコミュニケーションが重要となります。

医療従事者への情報提供と支援体制

口蓋裂は、胎生期の組織欠損または癒合不全により、先天的に口唇(くちびる)、口蓋(くちの中の天井)、上顎(はぐき)に裂を認める病態です。日本では500人に1人程度の頻度で生まれるとされており、治療には口、歯、鼻、耳に対する専門医が適切な時期に適切な専門的治療を行うことが重要です[12][17]。

● 医療従事者への情報提供

医療従事者には、口蓋裂の治療に関する最新のガイドラインや治療法、手術時期、術前術後のケアについての情報提供が必要です。例えば、口蓋裂の手術は多くの方法が考案されており、適切な手術法の選択や手術時期の決定は、発音機能の回復と上顎の発育という両面を考慮する必要があります[19]。また、葉酸が口蓋裂の発症を予防する可能性が示唆されており、その作用機序に関する最新の研究情報も医療従事者には重要です[20]。

● 支援体制

口蓋裂の治療には、多職種によるチーム医療が重要であり、形成外科、矯正歯科、耳鼻咽喉科、総合リハビリテーション科などが連携して治療を行います[17]。また、産科婦人科、小児科との連携により、出生前のカウンセリングや心の問題にも対応します[17]。さらに、遺伝カウンセリング外来との連携によって、第2子に関わる相談にも応じる体制が整っています[17]。

医療従事者は、口蓋裂の治療に関する知識を常に更新し、患者やその家族に対して適切な情報提供と支援を行うことが求められます。また、患者の成長に応じて必要な治療や手術を計画的に行い、患者が他の子供たちと同様な生活を送れるよう支援することが重要です[12]。

口唇裂・口蓋裂の赤ちゃんの生まれる頻度(割合)は?

米国の報告では口唇裂・口蓋裂の赤ちゃんの生まれる頻度は690人に1人と推定されています。日本でも口唇裂・口蓋裂の発生頻度は,500~600人に1人と言われています。身体の外表奇形(外から見てわかる奇形)としては、どの国でも最も頻度が高いものです。白人の口唇裂・口蓋裂の頻度は1/1000と報告されているのに対し、日本では約2倍となっていることにも注意が必要でしょう。

口唇裂・口蓋裂は遺伝するの?

口唇口蓋裂は多因子遺伝であり、遺伝要因がすべてではありません。遺伝的要因と環境要因が合わさって発症します。しかし、血縁者に唇裂口蓋裂の方がいると、約10倍発生頻度が高くなります。

口唇烈・口蓋裂の原因と危険因子

ほとんどの乳児の口蓋裂の原因は不明です。中には、遺伝子や染色体の変化が原因で口唇裂や口蓋裂になるお子さんもいます。口唇裂や口蓋裂は、遺伝子や他の要因の組み合わせによって引き起こされると考えられています(多因子疾患)。要因の中には母親がから摂取したものや妊娠中に摂取した特定の薬などがあります。

口腔裂を持つ赤ちゃんを産む可能性を高める要因

喫煙

妊娠中にタバコを吸う女性は、タバコを吸わない女性に比べて、顔面裂のある赤ちゃんを産む可能性が3~5割高くなると報告されています。催奇形性は、タバコの成分(カドミウム)と低酸素に関係しています。

糖尿病

妊娠前に糖尿病と診断された女性は、糖尿病を持っていない女性と比較して、口蓋裂の有無にかかわらず、口唇裂のある子供が生まれるリスクが高くなります

特定の薬の使用

妊娠第1期(最初の3ヶ月間)に中顔面発達に特異性を持つ催奇形性薬剤を使用した女性は、これらの薬を使用しなかった女性に比べて、口蓋裂の有無にかかわらず、口唇裂のある赤ちゃんを産むリスクが高くなります。

フェニトイン、バルプロ酸ナトリウムトピラマートなどの抗けいれん薬 や、葉酸拮抗薬のメトトレキサートなどは、一般的に投与される薬物の一例であり、口唇裂・口蓋裂と関連しています。口唇裂・口蓋裂の相対的リスクは増加するのですが、薬物曝露後の絶対的リスクは依然として小さいものですので、原疾患の治療の利益と不利益を比較して投与を続けるかどうかを決定します。

口唇裂・口蓋裂とコルチコステロイドの使用との関連は、最近の研究では支持されていません。

ジアゼパムはマウスにおけるCPの発生率を増加させるが、ヒトの研究からは口唇裂・口蓋裂の増加は示されていません。

口腔裂を合併しやすい症候群

口唇裂・口蓋裂は特定の症候群の症状の一つとして見られることが多いものです。口唇裂・口蓋裂を合併する症候群は多数(200以上)あります。

  • ● ピエール・ロバン(Pierre Robin)症候群
  • ● ダウン症候群
  • ● 13トリソミー(パタウ症候群):75%で顔面裂を合併します
  • ● 18トリソミーエドワーズ症候群):15%で顔面裂を合併します
  • ● 21トリソミーダウン症候群):約2%で顔面裂を合併します
  • ● 22q11.2欠失症候群
  • ● トリーチャー・コリンズ(Treacher Collins)症候群
  • ● 第1第2鰓弓症候群
  • ● ロイス・ディーツ症候群

などがあります。このような場合は、たとえば心臓の奇形などそれぞれの症候群に特徴的な他の重篤な疾患を合併するため、全体としての治療とのタイミングを見定めながら、口唇裂・口蓋裂の治療を行っていきます。

口腔裂に合併しやすい疾患

唇裂口蓋裂のお子さんの約15~20%が他の病気を合併しています。よく合併している疾患としては以下のようなものがあります。

  • 手足の異常:合指症、多指症
  • 心奇形:心室中隔欠損症、ファロー四徴症
  • 頭蓋の異常:頭蓋骨早期癒合症
  • 耳介の異常:副耳、小耳症

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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