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「がん」と「癌」の違いと使い分け:基礎知識と厳密な分類

この記事では、「がん」と「癌」の言葉の違い、使い分け方、およびそれぞれの病名の分類について詳しく解説します。癌とがんの知識を深め、意外と知らない事実を学びましょう。

第1章: 「がん」と「癌」の基礎知識

言葉の違いと歴史

「がん」と「癌」は、日常会話ではしばしば同じ意味で使われますが、医学的には微妙な違いがあります。これらの言葉の違いを理解するためには、それぞれの定義と歴史を知ることが重要です。

● 言葉の違い

– がん:平仮名で表記される「がん」は、すべての悪性腫瘍を指します。悪性腫瘍とは、無秩序に増殖し、周囲の組織に浸潤し、遠隔部位に転移する能力を持つ細胞の集まりです。がんは、上皮組織だけでなく、血液細胞や骨、筋肉などからできる悪性腫瘍も含みます[3][4]。

– 癌:漢字で表記される「癌」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍を指します。上皮細胞は、体の表面や体内の臓器を覆っている細胞で、肺がん、胃がん、乳がんなどがこれに該当します。したがって、「癌」は「がん」の一部を指す言葉と言えます[3][4]。

● 歴史

がんの歴史は古く、紀元前300年頃のミイラからもがんが発見されています。これはがんが人類と長い歴史を共有していることを示しています。がんに関する最古の文献は、紀元前2600年頃に活躍したエジプトの医師イムホテプによるもので、乳房にできた膨らんだ塊について記録されています[5][9]。

近代に入り、がん研究は大きく進展しました。1908年には、がん専門研究団体「癌研究会」が日本で発足し、がん研究の国際協力が始まりました[7]。また、がんに関する科学的な理解が深まり、がん幹細胞の研究や遺伝子解析の進歩により、新たな治療法の開発が進められています[2]。

がんという病気は、古代から現代に至るまで人類と密接に関わってきました。その歴史を通じて、がんの理解と治療法は進化し続けています。しかし、がんの根本的な解明にはまだ至っておらず、今後も研究が必要です[5][9]。

厳密な医学用語としての位置づけ

がん(cancer)とは、身体を構成する正常細胞が何らかの原因で異常をきたし、無制限に増殖し続ける病態を指します。この病態は、正常な組織や臓器を侵害し(浸潤)、さらには他の部位に転移する特性を持ちます。がんは、その発生する細胞の種類や部位によって多岐にわたる疾患を包含し、悪性腫瘍または悪性新生物とも呼ばれます[4][5][9][10]。

一方で、「癌」(carcinoma)は、特に上皮性細胞から発生する悪性腫瘍を指す用語であり、肺がん、胃がん、乳がんなど、気管や消化管、乳管を介して外界とつながっている細胞に由来する悪性腫瘍を示します[5]。この区別は、医学的に重要であり、がん(cancer)が広義に全ての悪性腫瘍を指すのに対し、「癌」(carcinoma)はその中でも特に上皮性細胞由来のものを指すという厳密な意味合いがあります。

さらに、がん細胞は正常な細胞の遺伝子に2個から10個程度の傷がつくことにより発生するとされ、大部分のがん細胞は1個の「体細胞」に由来します。この中に「がん遺伝子」や「がん抑制遺伝子」が存在し、これらの遺伝子の異常ががん化の原因となります[1][6][12]。

がんの治療には、手術、薬物治療、放射線治療などがあり、がんそのものに対する治療に加えて、がんに伴う体と心のつらさを和らげる緩和ケアも重要な役割を果たします[3]。

以上の情報から、がん(cancer)と癌(carcinoma)は、医学用語としての厳密な位置づけがあり、がんは全ての悪性腫瘍を広く指す用語であり、癌は特に上皮性細胞由来の悪性腫瘍を指す用語であることがわかります。

第2章: 病名としての分類と使い分け

一般的な「がん」の種類

がんは、その発生する細胞の種類によって多岐にわたる分類が存在します。一般的に、がんは大きく「固形がん」と「血液がん」に分けられます。固形がんは、体の特定の器官や組織に形成されるがんであり、血液がんは血液やリンパ系の細胞ががん化するものを指します。以下に、一般的ながんの種類とその特徴を紹介します。

● 固形がん

– 胃がん: 胃の粘膜から発生するがんで、早期発見が重要です[16]。
– 大腸がん: 大腸の内壁から発生し、ポリープからがん化することが多いです[16]。
– 乳がん: 乳腺の細胞から発生するがんで、女性に多いがんの一つです[16]。
– 肺がん: 肺の組織から発生するがんで、喫煙が主なリスク因子です[16]。
– 前立腺がん: 前立腺の細胞から発生するがんで、男性に多いがんです[16]。
– 膵臓がん: 膵臓の細胞から発生し、発見が遅れがちながんです[16]。

● 血液がん

– 白血病: 骨髄で血液細胞ががん化する病気で、急性と慢性に分けられます[16]。
– リンパ腫: リンパ系の細胞ががん化する病気で、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます[16]。
– 多発性骨髄腫: 骨髄内の形質細胞ががん化する病気で、骨や腎臓に影響を及ぼします[16]。

これらのがんは、発生する組織や細胞の種類によって分類され、それぞれ異なる特徴や治療法を持っています。がんの種類によっては、特定の遺伝子変異が関与していることもあり、分子標的治療薬などの選択肢が利用可能になる場合もあります。また、がんの種類によっては、特定のリスク因子が関連していることが知られており、予防策の選択にも影響を与えます。

がんの診断と治療は、がんの種類や進行度、患者の健康状態などに基づいて個別に行われます。そのため、がんの種類を正確に把握し、適切な治療法を選択することが重要です。

参考文献・出典
[16] www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/

特定の「癌」表記が用いられるケース

特定の「癌」表記が用いられるケースは、主に上皮細胞から発生する悪性腫瘍を指す場合です。上皮細胞は体の表面や内臓の膜を覆う細胞で、皮膚や内臓の表面などが該当します。漢字の「癌」は、この上皮組織ががん化した際に用いられる表記であり、肺癌、胃癌、膵癌、肝癌、子宮癌、膀胱癌などが具体例です[9][17]。

一方で、体の内部、特に骨、筋肉、脂肪、血管、血液、リンパ節、脳から発生する悪性腫瘍は「癌」とは表記されず、肉腫、白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍などと呼ばれます[17]。新聞紙面などでは、漢字の「癌」とその他の悪性腫瘍を全てを含めて広くひらがなで「がん」という総称で表現されることが多いです[12]。

専門的には、臓器を構成する細胞間の接着性が強い「上皮系の悪性腫瘍」が「癌」とされ、漢字の「癌」は全体の癌の90%を占めるとされています[12]。また、がんと癌の表記は明確に使い分けられてはいなかったが、最近では悪性腫瘍の総称として広い意味で使う場合には「がん」、癌腫を指す狭い意味で使う場合には「癌」と意図的に使い分けることが多くなっています[17]。

第3章: 悪性腫瘍と良性腫瘍の違い

悪性腫瘍の特徴と進行

悪性腫瘍と良性腫瘍は、その成長の性質、周囲の組織への影響、転移の有無によって区別されます。以下では、悪性腫瘍の特徴と進行について詳しく説明します。

● 悪性腫瘍の特徴

1. 無制限の増殖: 悪性腫瘍は、正常な細胞の成長制御メカニズムが失われた状態で、無制限に増殖します。これは、細胞分裂を促進する遺伝子の異常活性化や、細胞分裂を抑制する遺伝子の機能不全によって引き起こされます[16]。

2. 浸潤と破壊: 悪性腫瘍は周囲の組織に浸潤し、破壊します。これは、腫瘍が周囲の正常組織の境界を越えて成長し、組織の構造や機能を損なうことを意味します[16]。

3. 転移: 悪性腫瘍は、原発部位から離れた他の臓器や組織に転移する能力を持ちます。これは、がん細胞が血流やリンパ系を通じて体内を移動し、新たな腫瘍を形成することにより起こります[16]。

● 悪性腫瘍の進行

悪性腫瘍の進行は、以下の段階を経て行われます。

1. 遺伝子の変異: 細胞のDNAに変異が生じ、細胞の成長や分裂を制御する遺伝子が正常に機能しなくなります。これにより、細胞は無制限に増殖し始めます[16]。

2. 腫瘍形成: 異常な細胞が増殖を続け、腫瘍を形成します。この段階では、腫瘍はまだ原発部位に限定されています[16]。

3. 浸潤: 腫瘍が成長し、周囲の組織に浸潤します。この過程で、腫瘍は周囲の組織を破壊し、機能障害を引き起こします[16]。

4. 転移: 腫瘍細胞が血流やリンパ系を通じて体内を移動し、遠隔の臓器や組織に新たな腫瘍を形成します。これにより、がんはより治療が困難な状態になります[16]。

悪性腫瘍の治療は、その進行度や転移の有無に応じて異なります。手術、放射線治療、化学療法、ホルモン療法、分子標的治療など、様々な治療法が組み合わせて用いられます[16]。悪性腫瘍の早期発見と適切な治療が、患者の生存率を向上させる鍵となります。

良性腫瘍との対比

悪性腫瘍と良性腫瘍は、その性質と体への影響において大きく異なります。以下に、悪性腫瘍の特徴と進行について詳しく説明します。

● 悪性腫瘍の特徴

– 急速な増殖: 悪性腫瘍は、通常の細胞よりも活発に増殖して広がっていく特徴があります。この急速な増殖は、腫瘍細胞の活性度が高いことを示しており、細胞や組織への血流や酸素消費量といった観点からも悪性度を検証することが可能です[2]。

– 不規則な形状: 悪性腫瘍は不規則な増殖の仕方をしたり、一部に偏って増殖したりするため、一般的な腫瘍や組織と比較して周辺が不明瞭であったり、全体的にいびつな形状をしているケースが少なくありません[2]。

– 浸潤と転移: 悪性腫瘍は、上皮細胞の上に発生した癌細胞が、その下部の組織や周辺の臓器などへ広がって、奥へ奥へと入り込んでいく浸潤をします。さらに、リンパ系や血液を通じて体の他の部位に転移することがあります[2]。

● 悪性腫瘍の進行

悪性腫瘍の進行は、腫瘍がどの程度広がっているかによってステージ分けされます。一般的に、ステージ0からステージIVまでの5段階に分類され、ステージ0はがんが粘膜内(上皮細胞内)にとどまっており、リンパ節には転移していない状態を指します。ステージが進むにつれて、がんはより深く組織に浸潤し、リンパ節や遠隔の臓器への転移が見られるようになります[7]。

悪性腫瘍は、その進行度に応じて治療法が異なります。早期の段階では手術による切除や局所的な放射線治療が有効であることが多いですが、進行がんや転移がある場合には、化学療法や分子標的治療、免疫療法などの全身治療が必要になることがあります[15]。

悪性腫瘍の治療は、がんの種類、進行度、患者の全身状態などに基づいて個別に計画されます。また、がんの進行を抑え、患者の生活の質(QOL)を維持するための緩和ケアも重要な役割を果たします[15]。

第4章: がんの治療と最新の医療進歩

治療方法の概要

良性腫瘍と悪性腫瘍は、細胞の増殖特性や体への影響において重要な違いがあります。以下にその主な違いを説明します。

● 良性腫瘍の特徴
– 増殖速度: 良性腫瘍は通常、増殖速度が緩やかで、急激な大きさの変化は少ないです[5]。
– 形状と境界: 良性腫瘍は形状が整っており、周囲の組織との境界がはっきりしていることが多いです[5]。
– 浸潤と転移: 良性腫瘍は周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移することはありません[6]。
– 再発の可能性: 完全に摘出された場合、再発することはほとんどありません[13]。
– 症状: 大きくなるまで症状が出ないことが多く、発見された時には既に大きくなっていることがあります[10]。

● 悪性腫瘍(がん)の特徴
– 増殖速度: 悪性腫瘍は通常、活発に増殖し、急速に広がる傾向があります[5]。
– 形状と境界: 悪性腫瘍は不規則な形状をしており、周囲の組織との境界が不明瞭なことが多いです[5]。
– 浸潤と転移: 悪性腫瘍は周囲の組織に浸潤し、リンパ系や血流を通じて他の臓器に転移することがあります[6]。
– 再発の可能性: 摘出後も再発するリスクがあり、追加の治療が必要になることがあります[10]。
– 症状: 早期に症状が出ることが多く、進行すると生命に危険を及ぼすことがあります[2]。

良性腫瘍と悪性腫瘍のこれらの違いは、診断、治療、および予後において重要です。良性腫瘍は一般的には生命を脅かすものではなく、適切な治療により完治することが多いです。一方で、悪性腫瘍はがんとも呼ばれ、治療がより複雑で、時には生命を脅かす可能性があります。早期発見と治療が患者の予後に大きく影響します。

研究の最前線と将来への展望

がん治療は、がんの種類、進行度、患者の健康状態などに応じて、様々な方法が選択されます。主に、手術療法、放射線治療、薬物療法(化学療法、分子標的薬治療、ホルモン療法)、免疫療法があります。これらの治療法は単独で用いられることもあれば、組み合わせて用いられることもあります。また、がんの治療においては、患者の生活の質(QOL)の維持・向上も重要な目標の一つです。

● 手術療法
手術療法は、がん細胞を物理的に取り除く方法です。がんが局所に限定されている場合に有効で、可能な限りがんを根治することを目指します。手術は、がんの種類や進行度に応じて、開腹手術や腹腔鏡手術、ロボット支援手術など様々な技術が用いられます[14][18]。

● 放射線治療
放射線治療は、がん細胞を破壊するために高エネルギー放射線を使用します。局所的な治療法であり、手術が困難な場合や、手術後の補助療法として用いられることがあります。放射線治療には、外部から放射線を照射する外部照射と、放射性物質を体内に入れる内部照射(ブラキセラピー)があります[2][4]。

● 薬物療法
薬物療法には、化学療法、分子標的薬治療、ホルモン療法が含まれます。これらは全身治療であり、手術や放射線治療では到達できない微小な転移にも効果を発揮します。化学療法は細胞の増殖を阻害する薬剤を用い、分子標的薬治療はがん細胞特有の分子を標的とする薬剤を用い、ホルモン療法はホルモン依存性のがんに対してホルモンの作用を阻害します[13][19]。

● 免疫療法
免疫療法は、がん細胞を攻撃するために患者自身の免疫システムを活性化させる治療法です。免疫チェックポイント阻害薬やがんワクチン、CAR-T細胞療法などがあり、特に免疫チェックポイント阻害薬は多くのがん種で有効性が認められています[11][8]。

● 最新の医療進歩
がん治療の分野では、新しい治療法の開発や既存治療法の改良が進んでいます。特に、分子標的薬治療や免疫療法の進展は顕著で、これらの治療法により、従来治療が困難だったがんに対しても治療の選択肢が広がっています。また、がんゲノム医療の進展により、個々の患者に最適化された治療が可能になりつつあります。これらの進歩は、がん治療の成績を向上させ、患者のQOLを高めることに貢献しています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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