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ADCC(抗体依存性細胞傷害・抗体依存性細胞障害)とは?ADCC活性の仕組みとNK細胞・Fc受容体の働き、CDC・ADCPとの違い、抗体医薬とFCGR3A遺伝子多型との関係

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

ADCC(抗体依存性細胞傷害、抗体依存性細胞障害とも書く)とは、抗体が結合して「目印」がついた細胞を、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などの免疫細胞が見つけて壊す免疫の仕組みです。英語の Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity の頭文字で、抗体医薬が効く理由のひとつとしても知られています。NK細胞が抗体をつかむ受容体(FcγRIIIa)の形には生まれつきの個人差があり、その遺伝子(FCGR3A)の違いとADCCの強さの関係も調べられてきました。この記事では、ADCCの仕組み、ADCC活性の意味、CDC・ADCPとの違い、抗体医薬との関係、そして遺伝子との関わりまでを解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. ADCC(抗体依存性細胞傷害)とは何ですか?

抗体が結合した細胞を、免疫細胞が壊す仕組みです。抗体の根元(Fc部分)をNK細胞の受容体(FcγRIIIa)がつかみ、細胞を壊す物質を放出して相手の細胞を死なせます。「抗体依存性細胞障害」と書かれることもあります。

🧬 Q. ADCC活性とは何ですか?

ADCCを起こす力の強さのことです。抗体の種類やFc部分の糖鎖、免疫細胞の受容体の性質によって変わり、研究や抗体医薬の開発では実験で測って比べます。

🧬 Q. ADCC・CDC・ADCPの違いは?

細胞を壊す「実行役」が違います。ADCCはNK細胞などが壊す、CDCは補体が壊す、ADCPはマクロファージなどが食べて処理する仕組みです。

🧬 Q. ADCCは遺伝子と関係がありますか?

関係があります。FCGR3A遺伝子の多型(V158F)で、受容体が抗体をつかむ強さが変わります。抗体医薬の効き方との関係も調べられてきましたが、研究の結果は一致しておらず、薬選びの指標としては使えないとされています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約12分
🧬 ADCC・NK細胞・Fc受容体・FCGR3A
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤ADCCとは → 抗体が目印をつけた細胞を、NK細胞などが壊す仕組み
  • ➤傷害と障害 → どちらの表記も使われ、同じADCCを指す
  • ➤CDC・ADCPとの違い → 壊す実行役が、NK細胞・補体・マクロファージと異なる
  • ➤抗体医薬 → Fc部分のフコースを除くとFcγRIIIaへの結合が強まる
  • ➤遺伝子 → FCGR3A V158F多型で抗体をつかむ強さが変わるが、薬選びの指標にはならないとされる

ADCC(抗体依存性細胞傷害)の仕組みを解説するアイキャッチ画像

1. ADCC(抗体依存性細胞傷害)とは?

ADCC(抗体依存性細胞傷害)とは、抗体が結合した標的細胞を、免疫のエフェクター細胞(実際に攻撃を行う細胞)が壊す仕組みです。総説では、ADCCを「免疫系のエフェクター細胞が、特異的な抗体の結合した標的細胞を能動的に溶解(破壊)すること」と説明しています[1]。主な実行役はNK細胞で[2]、標的になるのは、がん細胞やウイルスに感染した細胞など、表面に抗体が結合した細胞です。

ポイントは、抗体が「自分で相手を壊すわけではない」ことです。抗体は、相手の細胞の表面にある目印(抗原)に結合して旗を立てる役で、その旗を見つけて攻撃するのがNK細胞です。抗体の先端(Fab部分)で相手をつかみ、反対側の根元(Fc部分)をNK細胞がつかむことで、抗体が2つの細胞の橋渡しをします。抗体の形と働きの基本はIgG(免疫グロブリンG)で解説しています。

💡 用語解説:エフェクター細胞・Fc部分

エフェクター細胞は、免疫反応の中で実際に相手を攻撃・処理する細胞のことです(NK細胞、マクロファージ、好中球など)。Fc部分は、Y字形をした抗体の「幹」にあたる部分で、免疫細胞の受容体(Fc受容体)や補体と結合します。抗原をつかむ「腕」の部分はFab部分と呼ばれます。

「抗体依存性細胞傷害」と「抗体依存性細胞障害」はどちらが正しい?

どちらの表記も使われていて、指しているものは同じADCCです。英語の cytotoxicity(細胞を傷つける性質)の訳し方の違いで、資料によって「細胞傷害」と「細胞障害」の両方の書き方が見られます。ほかに「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」という長い訳語もあり、英語の Antibody-Dependent Cell-mediated Cytotoxicity(細胞が仲立ちする細胞傷害)を訳したものです。検索するときや論文を読むときは、略語のADCCで確認するのが確実です。

なお、免疫の分野で「細胞傷害性」とつく言葉(細胞傷害性T細胞など)は、相手の細胞を殺す働きを表しています。「傷害」の字は「傷つける」という意味で、病気や障害の「障害」とは意味が異なる、という整理で覚えておくと混乱しにくくなります。

ADCCは免疫のどこに位置づけられる?

ADCCは、獲得免疫がつくる「抗体」と、自然免疫の細胞である「NK細胞」とが組み合わさって働く仕組みです。抗体は、B細胞が特定の相手に合わせてつくる、狙いの正確な道具です。一方、NK細胞は生まれつき備わった自然免疫の細胞で、特定の相手を覚えていなくても働けます。ADCCでは、抗体が狙いを決め、NK細胞が攻撃を受け持つという分担になっています。NK細胞そのものの性質や、抗体なしで相手を見分ける仕組みはNK細胞(ナチュラルキラー細胞)で詳しく解説しています。

2. ADCCの仕組み:抗体・Fc受容体・NK細胞

ADCCは「抗体が標的細胞に結合する→NK細胞のFc受容体が抗体のFc部分をつかむ→NK細胞が細胞を壊す物質を放出する」の順に進みます。ヒトのNK細胞によるADCCでは、主に活性化型Fcγ受容体であるFcγRIIIa(CD16aとも呼ばれる)が働きます[1]。この受容体が標的細胞に結合した抗体のFc部分を認識すると、NK細胞に活性化シグナルが伝わります。

抗体が標的細胞の抗原に結合Fab部分で結合
▶
NK細胞がFc部分をつかむFcγRIIIa(CD16a)
▶
細胞を壊す物質を放出パーフォリン・グランザイム
▶
標的細胞が死ぬ細胞死の経路が働く

抗体とFc受容体はどう結びつく?

抗体(IgG)のFc部分が、NK細胞の表面にあるFcγRIIIaに結合することが、ADCCの出発点です。Fc受容体は、抗体のFc部分を受け取る受容体の総称で、抗体の種類(IgG・IgE・IgAなど)や働き(細胞を活性化するか、抑えるか)によって何種類もあります。FcγRIIIaは、IgGを受け取る受容体(Fcγ受容体)のひとつです。

FcγRIIIaとIgGの結合の強さは、IgGのFc部分の結合部位のすぐ近くの構造で決まります。総説によると、FcγRIIIaの158番目のアミノ酸は、IgG1の下部ヒンジ領域(Fc部分の付け根にあたる部分)と直接接しています[7]。このため、受容体側の1つのアミノ酸の違いでも結合の強さが変わります(第6章)。Fc受容体の種類と、それぞれがどの細胞にあるかはFc領域・Fc受容体で詳しく扱います。

NK細胞はどうやって標的細胞を壊す?

NK細胞は、細胞の中にためている細胞傷害性の顆粒を標的細胞に向けて放出し、パーフォリンとグランザイムで相手を死なせます。総説では、ADCCの主な経路として、細胞溶解性の顆粒を方向をそろえて放出(エキソサイトーシス)し、グランザイムとパーフォリンを放出する経路と、TNF(腫瘍壊死因子)ファミリーの「細胞死受容体」を介した経路の2つが挙げられています[1]。

パーフォリンは標的細胞の膜に働いてグランザイムが入り込む道をつくり、グランザイムは細胞の中でタンパク質を切るはさみとして働いて、細胞死のスイッチを入れます。グランザイムが引き起こす細胞死は、細胞が自ら秩序だって死ぬアポトーシスの形をとります。パーフォリンとグランザイムBそのものはパーフォリン/グランザイムBで解説します。

NK細胞以外にADCCを行う細胞はある?

主役はNK細胞ですが、FcγRIIIaは単球にもあり、Fc受容体をもつほかの免疫細胞も抗体を介して標的を攻撃します。FcγRIIIaの多型を調べた研究では、この受容体がNK細胞と単球の両方で抗体との結合に関わることが示されています[3]。ただし、マクロファージなどが抗体の結合した細胞を「食べる」働きは、ADCCとは区別してADCP(抗体依存性細胞貪食)と呼ばれます(第4章)。どの細胞が実行役になるかで呼び名が変わる、と考えると整理しやすくなります。

3. ADCC活性とは?意味と測り方

ADCC活性とは、ある抗体と免疫細胞の組み合わせが、どのくらい強くADCCを起こせるかを表す言葉です。「この抗体はADCC活性が高い」と言えば、抗体が結合した細胞をNK細胞などがよく壊せる、という意味になります。抗体医薬の説明で「ADCC活性をもつ」「ADCC活性を高めた」と書かれているのは、この力を指しています。

ADCC活性は何で変わる?

ADCC活性は、抗体の側(種類・Fc部分の糖鎖やアミノ酸)と、免疫細胞の側(受容体の量や性質)の両方で変わります。抗体の側では、Fc部分の糖鎖にフコースという糖がついていないと、FcγRIIIaへの結合が強くなることがよく知られています[6]。免疫細胞の側では、FcγRIIIaの遺伝子型によって、同じ量の受容体があってもIgGをつかむ量が違うことが報告されています[3]。どちらも、抗体のFc部分と受容体との「くっつきやすさ」がADCCの強さを左右している、という点で共通しています。

ADCC活性はどうやって測る?

ADCC活性は、研究室で標的細胞・抗体・エフェクター細胞を混ぜ、壊れた標的細胞の量を測って調べます。古くからの方法では、標的細胞にあらかじめ放射性クロム(51Cr)やカルセインAMという蛍光色素を取り込ませておき、細胞が壊れて外に出てきた量を測ります。壊れた細胞から出るLDH(乳酸脱水素酵素)を測る方法もあります[4]。

ただ、こうした従来の方法は再現性や感度に課題があり、日常的な定量には向かないとも指摘されています。そこで、FcγRIIIaを介した信号が入ると光る仕組みを組み込んだ細胞を使う「レポーターアッセイ」が開発され、従来法より測定の精度がよかったと報告されています[4]。これらは主に研究や抗体医薬の開発で使われる方法です。

4. ADCC・CDC・ADCP・オプソニン化の違い

ADCC・CDC・ADCPは、どれも抗体のFc部分を足場にして標的細胞を取り除く仕組みですが、実行役が違います。ADCCはNK細胞などが細胞を壊す、CDCは補体という血液中のタンパク質が細胞を壊す、ADCPはマクロファージなどが細胞を丸ごと食べて処理する仕組みです。

🔬 ADCC・CDC・ADCPの比較

項目 ADCC CDC ADCP
日本語 抗体依存性細胞傷害 補体依存性細胞傷害 抗体依存性細胞貪食
英語 Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity Complement-Dependent Cytotoxicity Antibody-Dependent Cellular Phagocytosis
実行役 主にNK細胞 補体(血液中のタンパク質) マクロファージなど
抗体のFc部分と結合するもの FcγRIIIa(CD16a) C1q(補体の最初の成分) FcγRIなどのFcγ受容体
細胞の壊し方 パーフォリン・グランザイムの放出、細胞死受容体 補体の連鎖反応で膜侵襲複合体(MAC)などができる 細胞を取り込んで(貪食して)処理する

※ADCCは文献[1][2]、CDCは文献[5]、ADCPは文献[2]による。

CDC(補体依存性細胞傷害)とは?

CDCは、細胞の表面に結合した抗体に補体のC1qが結合することで始まり、補体の連鎖反応によって標的細胞が壊される仕組みです。C1qは古典経路と呼ばれる補体の反応の最初の成分で、C1が活性化すると酵素の連鎖反応が起こり、標的細胞の表面に目印(オプソニン)がつくことや、免疫細胞を呼び寄せる物質、膜侵襲複合体(MAC)がつくられることにつながります[5]。リツキシマブなど、一部の抗体医薬では補体の活性化が抗腫瘍作用に関与します。C1qを欠損させた実験モデルでリツキシマブの抗腫瘍効果が失われたという報告もありますが[2]、CDCの寄与は抗体の種類や実験条件によって異なり、この結果をすべての抗体医薬や患者さんに当てはめることはできません。補体の全体像は補体をご覧ください。

ADCP(抗体依存性細胞貪食)とは?

ADCPは、マクロファージなどの細胞が、Fcγ受容体を介して抗体の結合した細胞を食べる(貪食する)仕組みです。総説では、マクロファージなどにあるFcγRIが、IgG1またはIgG3の抗体医薬と結合することでADCPが起こると説明されています[2]。ADCCが「その場で壊す」のに対して、ADCPは「取り込んで処理する」という違いがあります。

オプソニン化とADCCの違いは?

オプソニン化は「食べられやすくする目印をつけること」そのものを指し、ADCCは目印のついた細胞を「NK細胞などが壊すこと」を指します。抗体や補体が相手の表面を覆うことがオプソニン化で、その結果として起こる貪食がADCPにつながります。つまり、オプソニン化は準備の段階、ADCC・ADCPは実行の段階を表す言葉です。オプソニン化の詳しい仕組みと、補体欠損症など遺伝性の免疫不全との関係はオプソニン化で解説しています。

5. 抗体医薬とADCC

ADCCは、がんの治療などに使われる抗体医薬(モノクローナル抗体)が効く主な仕組みのひとつです。総説は、ADCCを治療用モノクローナル抗体の主要な作用機序と位置づけ、白血球にあるFcγ受容体がその経路に欠かせない部分だと述べています[7]。抗体医薬の効き方には、標的の分子の働きを直接止める作用、ADCC、CDC、ADCPなどがあり、どれがどの程度効いているかは薬によって異なります。抗体医薬の基本はモノクローナル抗体、がんの分子を狙う治療全体は分子標的治療で解説しています。

HER2を標的とするトラスツズマブ、CD20を標的とするリツキシマブ、EGFRを標的とするセツキシマブといった抗体医薬では、ADCCに関わるFcγ受容体の遺伝子型と効果の関係が調べられてきました[2][7]。HER2遺伝子そのものについてはHER2(ERBB2)遺伝子をご覧ください。

ADCCを強める工夫:フコースを除いた抗体

抗体のFc部分の糖鎖からフコースを除くと、FcγRIIIaへの結合が強まり、ADCCが強くなります。IgGのFc部分には糖鎖がついていて、その根元にあるフコースという糖を欠くIgGは、FcγRIIIaにより強く結合することがよく知られています[6]。Fc部分からフコースを除くように抗体をつくると、FcγRへの結合が増し、ADCCが高まることも総説で説明されています[1]。糖鎖を調整したり、フコースを除いたりして抗体のADCCを高める方法があり、フコースを除いた次世代の抗体が臨床試験で有望な結果を示している、とする総説もあります[2]。

糖鎖だけでなく、Fc部分のアミノ酸を置き換える方法もあります。たとえば、Fc部分の2か所のアミノ酸を置き換えた変異(S239D/I332E)によって、ADCPとADCCが強まった例が報告されています[6]。タンパク質に糖鎖がつく仕組みそのものは糖鎖修飾(グリコシル化)で解説しています。

ADC(抗体薬物複合体)とADCCの違いは?

ADCは「抗体に薬(細胞を傷つける薬剤)をつないだ薬」の名前で、ADCCは「免疫細胞が抗体を足場に細胞を壊す仕組み」の名前です。略語が似ていますが、ADCは薬の種類、ADCCは免疫の働きを指します。ADCは抗体を「運び役」にして、つないだ薬剤をがん細胞に届けることを主な狙いにしています。ADCの仕組みは抗体薬物複合体(ADC)で解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「抗体が効く」とはどういうことか】

抗体医薬には、標的分子の働きを直接阻害するものと、抗体が結合した細胞を免疫の仕組みによって排除するものがあります。後者では、抗体が標的細胞に目印をつけ、NK細胞によるADCC、補体によるCDC、マクロファージによるADCPなどが働きます。ADCCはその代表的な仕組みのひとつです。

そう考えると、同じ抗体を使っても、受け取る側の免疫細胞の状態や受容体の性質によって効き方に差が出る可能性がある、という見方が自然に出てきます。第6章で扱うFCGR3A遺伝子の研究は、まさにこの「受け手側の個人差」を調べたものだと考えています。

6. 遺伝・医療とのつながり:FCGR3A遺伝子の多型とADCC

NK細胞のFcγRIIIaをつくる遺伝子はFCGR3Aで、その158番目のアミノ酸がバリン(V)かフェニルアラニン(F)かという生まれつきの違い(V158F多型)によって、IgGをつかむ強さが変わります。ここが、ADCCを遺伝子の側から見たときの中心になる話です。

FCGR3A V158F多型とは?

FCGR3A V158F多型は、FCGR3A遺伝子の1つの塩基がTからGに置き換わることで、FcγRIIIaの158番目のアミノ酸がバリンかフェニルアラニンになる違いです。この位置のアミノ酸はIgG1のFc部分と直接接しており、158番目がバリンの型(V)を2本もつ人(V/V)のNK細胞は、フェニルアラニンの型(F)を2本もつ人(F/F)のNK細胞より多くのIgG1と結合したと報告されています[7]。この多型には rs396991 という番号がついています[8]。

1997年の研究では、FcγRIIIa(CD16)のこの多型(論文中では176番目のアミノ酸として「176F/V」と表記)について、V/Vの人はF/Fの人と受容体の量が同じでも、より多くのIgG1とIgG3に結合することが示されました。V/VのNK細胞は、刺激を受けたときの細胞内カルシウムの上昇や活性化もより大きかったと報告されています[3]。V158Fと176F/Vは同じ多型(rs396991)で、文献によっては176番目として書かれることがあります[7]。文献を読むときは、どちらの番号で書かれているかに注意してください。

🧬 FCGR3A V158F多型の遺伝子型とIgGへの結合

遺伝子型 2本のアレルの組み合わせ 報告されていること
V/V 両方がバリン型 F/Fより多くのIgG1(とIgG3)に結合する[3][7]
V/F バリン型とフェニルアラニン型を1本ずつ ヘテロ接合(2本のアレルが異なる状態)
F/F 両方がフェニルアラニン型 V/VよりIgGとの結合が少ない[3][7]

※遺伝子は父と母から1本ずつ受け継ぐため、2本のアレル(対立遺伝子)の組み合わせで遺伝子型が決まります。アレルについては対立遺伝子(アレル)、1つの塩基の違いがアミノ酸を変える仕組みはミスセンス変異をご覧ください。

FCGR3Aの遺伝子型で抗体医薬の効き方は変わる?

「変わる」とする報告と「変わらない」とする報告があり、結果は一致していません。FCGR3Aの遺伝子型をもとに抗体医薬を使うかどうかを決めるのは適切でない、とする総説があります。総説では、抗体医薬への反応の違いがFCGR2A(H131R)やFCGR3A(V158F)の多型と相関すると報告されてきたことを紹介したうえで、その証拠を検討しています[7]。

その検討では、トラスツズマブについては小規模な研究で関連が示されたものの、十分な規模の解析では予測の指標として役に立たないとされ、リツキシマブでは遺伝子型による無増悪生存期間の差は示されず、セツキシマブでも結果が一致しないとまとめられています。そして、FCGR3A遺伝子型と治療効果の関係が一貫しないため、がんの患者さんへの抗体医薬の効果を予測する指標としては使えず、遺伝子型を理由に抗体医薬を使わないのは現時点では臨床的に適切でない、と結論しています[7]。

⚠️ 注意:試験管の中の差と、治療効果の差は別

V/V型のほうがIgGとよく結合する、という試験管の中の結果は比較的はっきりしています。しかし、実際の治療効果には、がんの性質、併用する薬、体全体の免疫の状態など多くの要因が関わります。受容体の結合の強さの差が、そのまま治療効果の差として現れるとは限りません。

自己免疫の病気との関係は?

FcγRIIIaの結合の弱い型が、全身性エリテマトーデス(SLE)と関連したという報告があります。先の1997年の研究では、SLEの患者さん200人の最初の解析で、IgGとの結合が弱い型と病気、とくに腎炎との強い関連がみられたと報告されています[3]。このように、FCGR3Aの多型はがんの治療だけでなく自己免疫の病気の研究でも調べられてきました。ただし、これは病気のなりやすさとの関連を調べた研究で、この型をもつ人が病気になると決まるわけではありません。

臨床遺伝専門医の視点:生まれ持った遺伝子と薬の効き方

ここで扱うFCGR3Aの多型は、がん細胞だけに後天的に生じた変化ではなく、原則として全身の有核細胞に共有される生殖細胞系列の遺伝的な違いです。がんの治療で「遺伝子を調べる」と言うと、がん細胞の遺伝子の変化(体細胞変異)を調べる検査を思い浮かべる方が多いと思います。FCGR3Aの話は、それとは別に、薬を受け取る体の側の遺伝子の違いが薬の効き方に関わるかどうか、という問いです。両者の違いは体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいで整理しています。

このように、生まれ持った遺伝子の違いから薬の効き方や副作用を考える分野をファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)と呼びます。薬を分解する酵素の遺伝子のように、遺伝子型に応じて薬の量や種類を変える考え方がすでに使われている分野がある一方で、FCGR3Aのように「関連の報告はあるが、診療で使えるほどの一貫した証拠はない」段階のものもあります。1つのSNP(一塩基多型)の違いで受容体の性質が変わるという事実と、それが一人ひとりの治療の判断に使えるかどうかは、分けて考える必要があります。

遺伝子の違いがどこまで個人の判断に使えるかを見極めることは、遺伝子検査全般に共通する考え方です。当院では、生まれ持った遺伝子を調べる検査として、がんのなりやすさに関わる遺伝子を調べる遺伝性がん遺伝子検査や、妊娠中に赤ちゃんの染色体などを調べるNIPT(新型出生前診断)を行っており、どちらも結果の意味を臨床遺伝専門医が説明します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「関連がある」と「使える」は違う】

FCGR3Aの多型は、試験管の中では抗体をつかむ強さがはっきり違います。それでも臨床の研究では結果がそろわず、薬選びの指標としては使えないとされています。遺伝子と病気・薬の関係では、こうしたことがしばしば起こります。

遺伝子の情報は、その違いが何に、どのくらい影響するのかを、研究の規模や対象とあわせて読むことが大切だと考えています。「この型なら効く・効かない」と単純に決めつけず、今の証拠でどこまで言えるかを確かめるのが、臨床遺伝専門医の役割のひとつです。

よくある質問(FAQ)

Q1. ADCCとは簡単に言うと何ですか?

抗体が目印をつけた細胞を、NK細胞などの免疫細胞が壊す仕組みです。抗体が標的細胞とNK細胞の橋渡しをし、NK細胞がパーフォリンやグランザイムを放出して相手の細胞を死なせます。

Q2. 抗体依存性細胞傷害と抗体依存性細胞障害は同じものですか?

同じものです。英語の Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity(ADCC)の訳し方の違いで、資料によってどちらの書き方も使われています。

Q3. ADCC活性をもつ細胞は何ですか?

主な実行役はNK細胞で、表面にあるFcγRIIIa(CD16a)で抗体のFc部分をつかみます。FcγRIIIaは単球にもあります。マクロファージなどが抗体の結合した細胞を食べる働きは、ADCP(抗体依存性細胞貪食)として区別されます。

Q4. ADCCとCDCの違いは何ですか?

細胞を壊す実行役が違います。ADCCはNK細胞などの免疫細胞が壊し、CDCは抗体に結合した補体(C1q)から始まる補体の連鎖反応で細胞が壊されます。

Q5. ADCCとADCの違いは何ですか?

ADCは抗体に薬剤をつないだ薬(抗体薬物複合体)の名前で、ADCCは免疫細胞が抗体を足場に細胞を壊す仕組みの名前です。略語は似ていますが、指しているものがまったく違います。

Q6. フコースを除いた抗体はなぜADCCが強いのですか?

Fc部分の糖鎖の根元にあるフコースを欠くIgGは、NK細胞のFcγRIIIaにより強く結合するためです。結合が強まると、NK細胞が活性化されやすくなり、ADCCが高まります。

Q7. FCGR3Aの遺伝子型を調べれば、抗体医薬が効くかどうかわかりますか?

現時点ではわかりません。V158F多型でIgGとの結合の強さが変わることは示されていますが、治療効果との関係は研究によって結果が一致しておらず、遺伝子型をもとに抗体医薬を使うかどうかを決めることは適切でないとされています。

まとめ

ADCC(抗体依存性細胞傷害・抗体依存性細胞障害)は、抗体が目印をつけた細胞を、NK細胞などの免疫細胞が壊す仕組みです。NK細胞はFcγRIIIa(CD16a)で抗体のFc部分をつかみ、パーフォリンやグランザイムを放出して標的細胞を死なせます[1]。補体が細胞を壊すCDC、マクロファージなどが細胞を食べるADCPとは、実行役が違います[2][5]。

ADCCは抗体医薬の主な作用のひとつで、Fc部分のフコースを除くとFcγRIIIaへの結合が強まりADCCが高まります[6]。受け取る側のFCGR3A遺伝子のV158F多型でもIgGとの結合の強さが変わりますが、治療効果との関係は一致しておらず、遺伝子型は薬選びの指標としては使えないとされています[7]。Fc受容体の種類についてはFc領域・Fc受容体もあわせてご覧ください。

📘 遺伝子と体の働きについて知りたい方へ

この記事は、免疫の仕組みであるADCCを解説する用語ページです。個別の治療や薬の選び方を判断するものではありません。生まれ持った遺伝子の検査や、その結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかについては、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで説明を受けることができます。

参考文献

  • [1] Lo Nigro C, Macagno M, Sangiolo D, et al. NK-mediated antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity in solid tumors: biological evidence and clinical perspectives. Ann Transl Med. 2019;7(5):105. [DOI 10.21037/atm.2019.01.42]
  • [2] Zahavi D, Weiner L. Monoclonal Antibodies in Cancer Therapy. Antibodies (Basel). 2020;9(3):34. [DOI 10.3390/antib9030034]
  • [3] Wu J, Edberg JC, Redecha PB, et al. A novel polymorphism of FcgammaRIIIa (CD16) alters receptor function and predisposes to autoimmune disease. J Clin Invest. 1997;100(5):1059-1070. [DOI 10.1172/JCI119616]
  • [4] Cao J, Wang L, Yu C, et al. Development of an antibody-dependent cellular cytotoxicity reporter assay for measuring anti-Middle East Respiratory Syndrome antibody bioactivity. Sci Rep. 2020;10:16615. [DOI 10.1038/s41598-020-73960-x]
  • [5] Oostindie SC, van der Horst HJ, Lindorfer MA, et al. CD20 and CD37 antibodies synergize to activate complement by Fc-mediated clustering. Haematologica. 2019;104(9):1841-1852. [DOI 10.3324/haematol.2018.207266]
  • [6] Boross P, Peipp M, Nimmerjahn F. Editorial: Effector functions of therapeutic antibodies. Front Immunol. 2023;13:1126966. [DOI 10.3389/fimmu.2022.1126966]
  • [7] Mellor JD, Brown MP, Irving HR, et al. A critical review of the role of Fc gamma receptor polymorphisms in the response to monoclonal antibodies in cancer. J Hematol Oncol. 2013;6:1. [PMC3549734]
  • [8] Mahaweni NM, Olieslagers TI, Olivares Rivas I, et al. A comprehensive overview of FCGR3A gene variability by full-length gene sequencing including the identification of V158F polymorphism. Sci Rep. 2018;8:15983. [PMC6206037]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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