DSM-5: 精神疾患の診断と分類の変化と課題に対応するガイドブック

この記事では、DSM-5における精神疾患の診断基準、分類の変化、及びそれらが医療や支援サービスにどのように影響するかを解説します。ICDとの違いや電子版の利用方法も紹介します。

第1章: DSM-5とは？

序文: DSM-5の概要と目的

DSM-5、正式には「精神疾患の診断・統計マニュアル（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders）」第5版は、アメリカ精神医学会（APA）によって発行された精神障害の分類と診断のためのマニュアルです。このマニュアルは、精神疾患の診断における国際的な標準として広く認知されており、臨床、研究、行政、保険の各分野で利用されています[1][2][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSMの初版は1952年に出版され、その後、精神医学の進歩に合わせて何度か改訂されてきました。DSM-5は2013年に公開され、日本語版は2014年に発行されました。DSM-IVまでの版ではローマ数字が使用されていましたが、DSM-5からはアラビア数字が使用されています。これは、より頻繁な改訂を可能にするための変更であり、将来的には5.1や5.2といった細かな改定を行うことを意図しています[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSM-5の主な目的は、精神障害の診断において一貫性のある基準を提供することです。これにより、医師や心理学者が一貫した基準に基づいて判断できるようになり、診断の信頼性と有効性が向上します。また、DSM-5は精神障害の理解を深め、治療計画の策定に役立つことを目的としています[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSM-5の作成にあたっては、第二次世界大戦中の帰還兵の治療において重要な役割を果たした精神科医たちが使用していた診断マニュアルが基になっています。DSM-IIIからは「精神医学に共通言語を与える」という明確な目標が掲げられ、精神障害の分類と診断における標準化を目指してきました[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSM-5では、精神障害のスペクトラムの概念が導入され、個々の障害が連続体を成しているという理解が取り入れられました。これにより、精神障害それぞれが明確な境界を持たず、しばしば他の精神障害と連続性を有していることが認識されるようになりました[3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSM-5-TRは、DSM-5のテキスト改定版であり、新しい精神障害の概念や診断名の日本語訳の変更、一部疾患の名称変更などが行われています。DSM-5からDSM-5-TRへの改訂では、遷延性悲嘆症の追加などの主な変更点があります[3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

DSM-5は、精神科医にとって臨床において、そして精神障害の理解においても欠かせないツールであり、今後も改訂を重ねていくことが予想されます[3][4][5][6][7][8][9][10][11]。

[11] copelplus.copel.co.jp/column/2402_08/

DSM-5の歴史: 9年ぶりの更新とその意義

DSM-5（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition）は、アメリカ精神医学会（APA）によって発行される精神障害の診断と統計のためのマニュアルであり、精神医学の分野で広く使用されている国際的な診断基準です。DSMの初版は1952年に出版され、以来、精神医学の進歩に合わせて何度も改訂されてきました[1][7]。

DSM-5は2013年に発行され、それ以前のDSM-IV-TR（2000年にテキスト改訂版が発行）から大きな変更が加えられました。DSM-5では、精神障害の分類体系が見直され、新たな診断基準が導入されるとともに、いくつかの障害の定義が変更されました。例えば、自閉症スペクトラム障害（ASD）は、それまでの広汎性発達障害（PDD）のカテゴリーから統合され、新たな診断名として導入されました[1][3][8]。

DSM-5の改訂版として、DSM-5-TR（Text Revision）が2022年3月に発行されました。これは、DSM-5の翻訳出版から約9年ぶりの更新であり、診断基準の更新やICD-10の対応などが行われた重要な改訂です[13][14]。日本語訳では、「disorders」の訳が「障害」から「症」に変更され、精神障害に対する言語の感度を高める試みがなされました[13]。

DSM-5-TRの発行は、精神医学の進歩と社会の変化を反映するものであり、診断基準の精度を高めることを目的としています。また、DSM-5からDSM-5-TRへの移行は、日本精神神経学会が標準的な訳語の検討を行い、ICD-11に準拠する姿勢も生まれてきていることを示しています[14]。

DSMの更新は、精神障害の診断と治療における共通言語を提供し、国際的な研究や臨床実践の基準を統一することに寄与しています。これにより、精神医療の質の向上と、患者へのより良いケアの提供が期待されます。また、新しい診断基準は、精神障害に関する研究や教育においても重要な役割を果たし、専門家間のコミュニケーションを促進し、精神障害の理解を深めることに貢献しています[1][10][11]。

DSMとICDの違い: 国際基準との対比

DSM（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders）とICD（International Classification of Diseases）は、精神障害の診断に用いられる二つの主要な分類システムですが、それぞれ異なる特徴と目的を持っています。

● DSMの特徴
– 作成機関: DSMはアメリカ精神医学会（APA）によって作成されています[1][12][18].
– 分類対象: DSMは精神疾患に特化した診断基準であり、精神医学の研究や治療における共通言語として機能します[12][18].
– 使用地域: DSMは主にアメリカ合衆国で使用されていますが、国際的にも精神医学の研究に広く用いられています[1][12].
– 診断の詳細: DSMは精神疾患の診断において、より詳細な基準とガイドラインを提供します[1][12].

● ICDの特徴
– 作成機関: ICDは世界保健機関（WHO）によって作成されています[1][20].
– 分類対象: ICDは精神疾患を含む全ての疾患を対象とした国際的な疾病分類システムです[1][17].
– 使用地域: ICDは世界中の国々で使用されており、国際的な疾病統計や保健政策の策定に利用されています[1][20].
– 診断の汎用性: ICDは臨床的な有用性を重視し、より広範な医療分野での利用を目的としています[1][13].

● 国際基準との対比
DSMとICDは、それぞれが国際基準としての役割を果たしていますが、その適用範囲と目的には違いがあります。DSMは精神疾患の診断と研究に特化しており、精神医学の専門家によって主に利用されています。一方でICDは、精神疾患だけでなく全ての疾患をカバーするより包括的な分類システムであり、世界中の医療機関や保健政策の策定において基準として採用されています。

DSMとICDの間には、診断基準や疾患の分類方法においても違いがあります。例えば、DSM-5では遷延性悲嘆症が新たに追加された一方で、ICD-11では性同一性障害が精神疾患のカテゴリーから除外されるなど、それぞれの改訂版で異なるアプローチが取られています[1][2][3][4][5][6][8][13][14][17][18][19][20].

これらの違いを理解することは、国際的な文脈での精神疾患の診断や研究、さらには保健政策の策定において重要です。また、患者の診断や治療においても、どの分類システムが用いられているかを知ることは、より適切な医療サービスを受けるための基礎となります。

第2章: DSM-5の診断基準と分類

精神疾患の診断: DSM-5主な変更点とその影響

精神疾患の診断基準として広く用いられている「精神障害の診断と統計マニュアル」（DSM）の第5版（DSM-5）は、2013年に公開されました。DSM-5には、前版であるDSM-IV-TRからのいくつかの重要な変更点が含まれています。これらの変更は、精神疾患の診断、研究、治療において大きな影響を与えています。

● 主な変更点

1. 多軸診断の廃止: DSM-IV-TRまでは、5つの軸にわたる診断システムが用いられていましたが、DSM-5ではこの多軸診断が廃止され、より単純化された形式に移行しました[14]。

2. 自閉症スペクトラム障害の導入: DSM-IV-TRでは、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などが別々のカテゴリーとして分類されていましたが、DSM-5ではこれらが「自閉症スペクトラム障害」として一つのカテゴリーに統合されました[3][14]。

3. 知的障害の名称変更: DSM-IV-TRの「精神遅滞」は、DSM-5では「知的障害」という名称に変更されました。これは、より敏感で現代的な用語への移行を反映しています[14]。

4. 注意欠如・多動性障害（ADHD）の診断基準の変更: DSM-5では、ADHDの診断基準が更新され、症状が発現する年齢の基準が7歳から12歳に変更されました[12][14]。

5. 新しい障害の追加: DSM-5では、いくつかの新しい障害が追加されました。例えば、「遷延性悲嘆症」や「社会性（語用論的）コミュニケーション障害」などが新たに診断基準に含まれています[7]。

● 影響

これらの変更は、精神疾患の診断において、より包括的で柔軟なアプローチを可能にしました。特に自閉症スペクトラム障害の導入は、自閉症の広範なスペクトラムを認識し、個々の患者に対してより適切なサポートと治療を提供するための重要なステップとなりました。また、多軸診断の廃止は、診断プロセスを単純化し、臨床現場での利便性を高めました。

しかし、これらの変更には批判もあります。例えば、新しい診断基準が導入されたことで、特定の障害の診断が過剰になるリスクが指摘されています。また、一部の専門家は、DSM-5の診断基準が個々の患者の複雑さを過度に単純化していると批判しています[13]。

DSM-5の変更は、精神医学の分野において重要な進歩をもたらしましたが、その影響と適用については、今後も継続的な議論が必要です。

分類の見直し: DSM-5に新たに加わった疾患と削除された疾患

DSM-5（精神障害の診断と統計マニュアル第5版）は、2013年に公開された改訂版であり、精神疾患の分類においていくつかの重要な変更が行われました。新たに加わった疾患の例としては、自閉スペクトラム症が挙げられます。DSM-IV-TRでは「自閉性障害」「アスペルガー障害」「広汎性発達障害」といった複数の障害が別々に分類されていましたが、DSM-5ではこれらが「自閉スペクトラム症」として一つのカテゴリーに統合されました[1]。

また、DSM-5では、従来の「気分障害」のカテゴリーから「双極性障害」と「大うつ病性障害」が分離され、それぞれ独立したカテゴリーとして扱われるようになりました。これは、精神疾患の分子遺伝的研究成果や、併存性、家族内集積性などの臨床的知見、精神病理症状の因子分析の結果に基づいて再編成されたものです[6]。

削除された疾患としては、アスペルガー障害が挙げられます。DSM-5ではアスペルガー障害の表記が削除され、自閉スペクトラム症に統合されました[9][10]。これにより、アスペルガー症候群という病名はあまり使われなくなり、ASD（自閉症スペクトラム障害）という言葉で統一されつつあります。

さらに、DSM-5では、死別などの喪失体験に伴う反応に加えてうつ病がある場合に、それをうつ病エピソードとして診断することが可能になりました。これは、DSM-IVでは死別に伴う反応をうつ病エピソードとしない除外基準があったものが、DSM-5ではこの除外基準が削除されたためです[13]。

これらの変更は、精神医学の診断にとどまらず、薬物療法の適応症、健康保険や医療政策、さらには司法分野にも大きな影響を与えるものとなっています[2]。また、DSM-5の改訂は、国際疾病分類ICDとの整合性を保ちつつ、米国内の医療の実情に応える内容を盛り込むという基本方針に沿って編集されてきました[3]。

診断基準の適用: 実際の医療現場でのDSM-5の利用方法

DSM-5（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition）は、精神疾患の診断基準として世界的に広く利用されています。このマニュアルは、精神疾患の正確な診断と治療に役立つ情報を提供することを目的としており、実際的、機能的、かつ柔軟性を備えた指針として役立つように意図されています[1]。

● DSM-5の基本構造と利用方法

DSM-5は、精神疾患の診断基準・診断分類を提供することで、精神医学の研究や精神疾患の治療を行う医療従事者が、明確な診断基準をもとに客観的な判断を下すことを可能にします[7]。DSM-5は、精神疾患の世界的な診断基準・診断分類であり、19年ぶりの大幅改訂を経て、精神疾患の診断における新たな基準が設けられました[1]。

● 実際の医療現場での適用

医療現場では、DSM-5の診断基準を用いて、患者の症状や行動を評価し、適切な診断を行います。診断過程では、患者の自己報告や家族からの情報、臨床観察などを総合的に考慮し、DSM-5の基準に照らし合わせて判断を下します。DSM-5は、精神疾患の診断において「共通言語」として機能し、精神科医一人ひとりが独自に診断をすることなく、統一された医療行為を提供することを可能にします[14]。

● DSM-5の限界と批判

DSM-5は、精神疾患の診断において重要な役割を果たしていますが、その適用には限界があり、批判も存在します。一部の批判では、DSM-5が日常的な問題にさえ病理を見いだそうとしていると指摘されています[13]。また、DSM-5の診断基準が、特定の疾患の理解や処遇の進歩を遅らせる可能性があるとの意見もあります[16]。

● 結論

DSM-5は、精神疾患の診断において広く利用される重要なツールですが、その適用には慎重さが求められます。医療従事者は、DSM-5の基準を適用する際に、患者一人ひとりの独特な状況や背景を考慮し、個別の治療計画を立てる必要があります。また、DSM-5の限界と批判を理解し、精神疾患の診断と治療において柔軟なアプローチを取ることが重要です。

第3章: DSM-5の使用と支援サービス

医療専門家向け: DSM-5を用いた診断プロセス

DSM-5（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition）は、精神障害の診断において広く用いられる基準であり、精神医学の共通言語として機能します。診断プロセスは、患者の症状や行動をDSM-5の診断基準と照らし合わせ、適切な診断名を導き出す一連のステップから成り立っています。

● 診断プロセスの流れ

1. 臨床評価: 患者の自己報告や家族からの情報、臨床観察を通じて、症状の歴史や現状を収集します。これには、心理検査や身体検査、必要に応じての画像診断なども含まれる場合があります。

2. 症状の特定: 収集した情報を基に、患者が経験している主要な症状を特定します。

3. DSM-5の診断基準との照合: 特定した症状をDSM-5の診断基準と照合し、患者がその基準に合致するかを評価します。DSM-5は、各障害に対して具体的な診断基準を提供しており、診断に必要な症状の数や持続期間などが明記されています[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10].

4. 鑑別診断: 他の可能性のある疾患や状態を排除します。これには、物理的な健康問題や他の精神障害、薬物使用などが含まれます。

5. 最終診断: 上記のステップを経て、DSM-5の基準に基づいた最終的な診断を下します。診断は、治療計画の策定や、患者の症状管理に役立つ情報を提供します。

● 診断コードの意味

DSM-5では、各精神障害に対して特定の診断コードが割り当てられています。これらのコードは、ICD（国際疾病分類）コードと互換性があり、医療記録や保険請求などで使用されます。診断コードは、特定の障害を識別し、患者の症状や治療の追跡に役立ちます[1][2][5][6][10].

DSM-5の診断コードは、精神障害の分類と診断のための国際的な標準として機能し、医療提供者間でのコミュニケーションを促進し、患者のケアの質を向上させることを目的としています。また、研究や統計の目的でのデータ収集にも重要な役割を果たします。

● 注意点

– 自己診断の避ける: DSM-5は専門家による診断のためのツールであり、一般の人が自己診断を行うためのものではありません[4].
– 文化的背景の考慮: DSM-5の診断基準は、文化的背景や個人的経験の多様性を考慮する必要があります[7].
– 診断の限界: DSM-5は、精神障害の診断において重要なガイドラインを提供しますが、個々の患者の複雑さを完全に捉えることはできません。そのため、臨床的判断が重要です[7].

DSM-5を用いた診断プロセスは、精神医療の質を高め、患者に対する理解を深めるための重要なステップです。医療専門家は、このプロセスを通じて、患者に最も適した治療とサポートを提供することができます。

患者と家族への支援: DSM-5を利用した情報提供と理解促進

DSM-5（精神疾患の診断・統計マニュアル第5版）は、精神疾患の診断基準として世界的に認知されており、精神医学の分野で広く利用されています。このマニュアルは、精神疾患の診断、治療、研究において重要な役割を果たしており、患者や家族への支援においても有用な情報を提供します。

● 患者と家族への支援におけるDSM-5の活用

♣ 精神疾患の正確な診断
DSM-5は、精神疾患の診断基準を明確に定義しています。これにより、医師は患者の症状を正確に評価し、適切な診断を下すことが可能になります。患者や家族は、DSM-5に基づく診断を通じて、自身や家族が抱える精神疾患の性質をより深く理解することができます。

♣ 情報提供と理解促進
DSM-5は、各精神疾患に関する詳細な情報を提供しています。これには、疾患の特徴、原因、治療方法などが含まれます。医師や精神保健専門家は、DSM-5を参照しながら患者や家族にこれらの情報を提供し、疾患に対する理解を深めることができます。

♣ 治療計画の策定
DSM-5の診断基準に基づく診断は、治療計画の策定にも役立ちます。医師は、DSM-5のガイドラインに従って、患者に最も適した治療方法を選択することができます。また、患者や家族は、治療計画についての情報を得ることで、治療過程における期待や役割を理解しやすくなります。

♣ 家族支援の強化
DSM-5は、患者だけでなく家族への支援にも注目しています。精神疾患は、患者本人だけでなく、家族にも大きな影響を及ぼすことがあります。DSM-5に基づく情報提供は、家族が患者を支えるための知識と理解を深める手助けとなります。

● まとめ
DSM-5を利用した患者と家族への支援は、精神疾患の正確な診断、情報提供と理解促進、治療計画の策定、家族支援の強化に貢献します。医師や精神保健専門家は、DSM-5を活用して、患者とその家族に対する包括的な支援を提供することが重要です。

教育と研究への応用: DSM-5の学術的な使用と未来の研究に向けて

DSM-5（精神障害の診断・統計マニュアル第5版）は、精神医学の分野で広く使用される診断基準であり、その学術的な使用と未来の研究において重要な役割を果たしています。この文書では、DSM-5の教育への応用、学術的な使用、および未来の研究について概説します。

● 教育への応用

DSM-5は、医学生や精神医学の専門家を養成する過程で重要な教材として使用されます。精神疾患の診断基準を明確に定義し、症状、持続期間、影響度などを具体的に示すことで、精神医療の質を高めることを目指しています[6]。また、スクールカウンセラーや教員など、子どもに関わるすべての人が知っておくべきDSM-5の知識を解説する書籍も存在し、教育現場での理解を深めるための資料としても活用されています[12]。

● 学術的な使用

DSM-5は、精神疾患の研究においても基本的なフレームワークを提供します。研究者はDSM-5の診断基準を用いて、疾患の病態や治療法の開発に関する研究を行います。例えば、減弱精神病症候群（APS）のような新たな診断カテゴリーがDSM-5に収載されたことは、早期介入の視点から精神病性障害の研究に新たな方向性をもたらしました[11]。また、DSM-5の改訂過程やその影響に関する研究も行われており、精神医学の発展に寄与しています[18][19]。

● 未来の研究に向けて

DSM-5の公開以降、精神疾患の理解は進化し続けています。未来の研究では、DSM-5に記載されている疾患のより深い理解や、新たな疾患カテゴリーの開発が期待されています。例えば、インターネットゲーム障害（IGD）は「今後の研究のための病態」としてDSM-5に記載されており、この新たな問題に対する理解を深めるための研究が求められています[13][17]。また、DSM-5の策定過程やその日本からの発信の可能性に関する研究も、将来のDSMの改訂に向けた基礎を築くことになるでしょう[18]。

● まとめ

DSM-5は、教育と研究の両面で精神医学の発展に貢献しています。教育現場では、精神疾患の診断基準を学ぶための重要な資料として利用され、研究では、精神疾患の理解を深め、新たな治療法の開発に向けた基盤として機能しています。未来の研究では、DSM-5に基づいたさらなる知見の発展や、新たな診断カテゴリーの探求が期待されています。

第4章: DSM-5電子版の活用

DSM-5電子版の特長: 持ち運べる便利さとアップデート

DSM-5の電子版は、その持ち運びやすさと最新のアップデートを反映している点で特に注目されます。電子版は物理的な本と異なり、タブレットやスマートフォン、コンピューターなどのデバイスに保存してどこへでも持っていくことができます。これにより、臨床医や研究者は場所を選ばずにDSM-5の情報にアクセスすることが可能になります。

また、電子版は定期的なアップデートが容易であり、DSM-5が発表された2013年以降の診断基準やICD-10-CMコードの変更を反映した最新の情報を提供することができます。例えば、新たに定義された「遷延性悲嘆障害」や自殺行為に関するコードなど、新しい疾患や重要な変更点が追加されています[8]。

さらに、電子版はオンライン機能を強化しており、臨床医が診断や治療に役立つ追加的な資源や情報に簡単にアクセスできるようになっています[1]。これにより、精神疾患の診断と研究に携わる臨床医に共通言語を提供し、様々な臨床現場での症状評価を支援することが可能です。

DSM-5-TR（Text Revision）の電子版に関しては、持ち運びやすさが特に強調されており、サイズがDSM-5よりも小さくなっていることが報告されています。これにより、臨床医や研究者はより簡単にDSM-5-TRを携帯し、必要な時にいつでも参照することができます[13]。

総合すると、DSM-5電子版はその携帯性と最新の医学的知見を反映したアップデートにより、精神医療の専門家にとって非常に便利なリソースとなっています。

DSM-5利用方法: 購入からアクセスまでの手続き

DSM-5（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 第5版）は、精神疾患の診断基準として世界的に使用されているマニュアルです。日本においても、精神医学の分野で広く利用されています。DSM-5を利用するための購入からアクセスまでの手続きについて説明します。

● DSM-5の購入

DSM-5は、書籍形式で提供されています。日本語版は、医学書院や紀伊國屋書店などの専門書店、またはAmazonなどのオンライン書店で購入することができます。

1. 医学書院では、DSM-5の日本語版を直接購入することができます。DSM-5の内容をアップデートしたDSM-5-TRも提供されています[1][5]。
2. 紀伊國屋書店では、DSM-5-TR精神疾患の診断・統計マニュアルが販売されており、日本精神神経学会による疾患名の訳語もリニューアルされています[2]。
3. Amazonでは、DSM-5関連の書籍が多数取り扱われています。DSM-5の基本マニュアルから、鑑別診断ハンドブックまで、様々な関連書籍が購入可能です[6][7][10]。

● アクセス方法

DSM-5を購入した後、マニュアルを効果的に活用するためには、以下のステップを踏むことが推奨されます。

1. 目次の確認: DSM-5は多岐にわたる精神疾患をカバーしています。まずは目次を確認し、自分が知りたい情報がどのセクションにあるのかを把握しましょう[1][6]。
2. 基本概念の理解: DSM-5を使用する前に、精神疾患の基本的な定義や診断のプロセスについて理解しておくことが重要です。DSM-5の序章や基本概念を説明するセクションを読むことから始めましょう[3][4]。
3. 具体的な診断基準の参照: 特定の精神疾患について調べる場合は、その疾患の診断基準を詳細に記載しているセクションを参照します。DSM-5では、各疾患について詳細な診断基準が提供されています[1][4]。

DSM-5を利用する際には、専門家による解説書やハンドブックも参考にすると、より深い理解が得られます。また、DSM-5の最新情報については、医学書院や関連する専門機関のウェブサイトを定期的にチェックすることが有効です[14][17]。

DSM-5は、精神医学の専門家だけでなく、心理学や医療関連の学生、さらには一般の人々にとっても有用なリソースです。しかし、自己診断を避け、必要に応じて専門の医療機関での診断を受けることが重要です[4]。

DSM-5無料試し読みとサブスクリプション: コンテンツの閲覧方法

DSM-5の無料試し読みやサブスクリプションに関して、アプリとウェブサイトの両方で利用可能なオプションがあります。

● アプリによる閲覧

– DSM-5 Diagnostic Criteria Mobile App: このアプリは、精神保健の専門家、研究者、学生がDSM-5の診断基準を簡単に利用できるように設計されています。アプリは、最新の診断分類とDSM-5-TR®のすべての診断基準を含んでおり、使いやすいフォーマットで提供されています[4][14]。

– DSM-5 on the App Store: このアプリは、DSM-5試験の準備に役立つもので、500以上の質問を練習することができます。ただし、このアプリは試験の準備に特化しており、DSM-5のコンテンツを直接閲覧するためのものではないようです[10]。

● ウェブサイトによる閲覧

– PsychiatryOnline: DSM-5 Libraryは、今日の精神保健の臨床家や研究者にとって最も包括的で現在の重要なリソースです。サブスクリプションを通じて、DSM-5、書籍、ジャーナルなどのコンテンツにアクセスできます。また、サブスクリプションを更新しない場合でも、過去12ヶ月分のジャーナルコンテンツにアクセスできるという恒久的なアクセスが提供されています[2][9][12]。

– DSM-5-TR – DSM Library – Psychiatry Online: こちらのウェブサイトでは、DSM-5-TRの最新版を含む、精神障害の診断と統計マニュアルが提供されています。サブスクリプションを通じて、DSM-5-TRのコンテンツにアクセス可能です[12]。

– DSM Select at PsychiatryOnline for Individuals Subscription: 個人向けのサブスクリプションオプションで、DSM-5-TRを含むさまざまな精神医学関連のリソースにアクセスできます。診断、治療、最新の研究やニュース、専門的な発展などに役立つリソースが提供されています[11]。

● 無料試し読み

無料試し読みに関する具体的な情報は、検索結果からは明確には得られませんでした。しかし、一部のウェブサイトやアプリでは無料のプレビューやトライアルアクセスが提供されている可能性があります。例えば、PsychiatryOnlineでは、目次や抄録の閲覧、検索機能の利用が可能で、これによりユーザーはサブスクリプションを購入する前にコンテンツの一部を確認できます[15]。

DSM-5のコンテンツを閲覧するためには、通常、サブスクリプションが必要ですが、無料試し読みや特定のコンテンツへの無料アクセスが提供されている場合もあります。利用可能な無料試し読みやサブスクリプションの詳細については、各プラットフォームの利用規約やサブスクリプションページを確認することをお勧めします。

医学用語目次に戻る

プロフィール

この記事の筆者：仲田洋美（医師）

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら