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銅トランスポーターATPase:生体内銅代謝と関連疾患の探究

この記事では、生体内での銅イオンの輸送と代謝を司る重要な酵素、銅トランスポーターATPaseに焦点を当てます。その機能、ウイルソン病やメンケス病などの銅代謝異常疾患との関連、そして抗がん剤シスプラチンへの耐性発展における役割について解析します。

銅輸送ATPアーゼ(ATPase copper transporting)は、細胞内の銅イオンの輸送と調節に関わるATPアーゼ酵素の一群です。これらの酵素は、銅イオンのホメオスタシス(平衡状態)の維持に重要な役割を果たし、細胞内での銅イオンの適切な分布と調節を保証します。特に知られている銅輸送ATPアーゼには、ATP7AとATP7Bがあります。

ATP7A:
ATP7A遺伝子の変異はメネケス病を引き起こし、銅不足による障害が特徴です。
ATP7Aは主に、腸管から体の他の部分へ銅を吸収し分布させる役割を持っています。
メネケス病では、機能不全のATP7Aにより細胞が十分な銅にアクセスできず、発達遅延や神経系の問題など、銅不足に関連する症状が引き起こされます。

ATP7B:
ATP7B遺伝子はウィルソン病と関連しており、この状態は体内、特に肝臓や脳に銅が過剰に蓄積することが特徴です。
ATP7Bは体内の余分な銅を除去し、その毒性蓄積を防ぐ役割を持っています。
ウィルソン病では、機能不全のATP7Bにより銅が蓄積し、肝臓の損傷や神経症状、精神障害などを引き起こします。

これらの銅輸送ATPアーゼは、銅が多くの生物学的プロセスにおいて重要な微量元素であり、様々な酵素反応の補因子として使用されるため、非常に重要です。ATP7AおよびATP7Bの適切な機能は、体内の銅バランスを維持するために不可欠であり、その機能不全は重大な健康問題を引き起こす可能性があります。これらのATPアーゼに関する研究は、銅代謝障害の分子基盤の理解に大きく貢献し、メネケス病やウィルソン病などの疾患の治療戦略の開発に影響を与えています。

第1章 銅トランスポーターATPaseの基礎知識

銅トランスポーターATPaseとは

銅トランスポーターATPaseは、銅イオンの輸送に関与する重要な蛋白質です。銅は、生体内で電子伝達や酸素の輸送、Cu(I)とCu(II)の簡単な相互変換を利用したプロセスといった多様な役割を持っています。銅の生物学的役割は、地球の大気中における汚染防止や、生体内での酸素の処理に関わる他のタンパク質の活性中心でもあります[1]。

銅は、成人の体内に約70から100mg含まれます。骨、骨格筋に約50%、肝臓中に約10%、血液、脳などに存在しています。これらのタンパク質は、銅イオンと結合して、セルロプラスミンというタンパク質として、全身に運ばれ、約10種類の酵素の活性中心に結合して生体内で様々な働きをします[2]。

銅は、鉄と亜鉛と共に、遷移金属であり、微量にしか生体内に存在しないにもかかわらず、その特異な化学的、物理的特性が種々の生体内反応に必須であることから、生命維持のさまざまな過程で重要かつ多種多様な役割を果たしています[3].
[1] www.weblio.jp/wkpja/content/%E9%8A%85_%E7%94%9F%E4%BD%93%E5%86%85%E3%81%A7%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E3%81%A8%E6%AF%92%E6%80%A7
[2] www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-dou.html
[3] seikagaku.jbsoc.or.jp/index.html?no=3&vol=90

銅の輸送と代謝のメカニズム

銅トランスポーターATPaseは、銅の輸送と代謝のメカニズムにおいて重要な役割を果たします。銅トランスポーターATPaseは、銅の吸収と排泄を調節するために銅イオンを賃金状態で輸送することで、体内の銅の恒常性を維持します。銅トランスポーターATPaseは、小腸上皮細胞基底膜から門脈側への銅の排出に必要なトランスポーターとして、P-型ATPaseのATP7Aがその役割を果たしています[2]。

銅の吸収と代謝のメカニズムは、銅の吸収には2つの経路があります。一つは、二価の銅イオンがDMT1(二価金属トランスポーター1)と結合して直接吸収されることで、鉄や亜鉛と競合する経路です。もう一つは、十二指腸において二価から一価に還元された銅イオンが小腸粘膜上皮細胞の微絨毛の刷子縁膜に存在するCtr1(銅トランスポーター1)と特異的に結合することで、細胞内へ取り込まれる経路です。吸収された銅は、アルブミンやα2マクログロブリンと結合して門脈を経て肝臓へ取り込まれることで、即座にそれぞれの銅シャペロンたんぱく質(銅依存性酵素や銅結合たんぱく質に銅を配分するたんぱく質)と結合して細胞質内を移動し、銅依存性酵素やアポセルロプラスミンなどへ渡されることで生成されたセルロプラスミンは血中へ放出されます[3]。

銅トランスポーターATPaseの作用機序は、銅の吸収と代謝を調節するために銅イオンを賃金状態で輸送することで、体内の銅の恒常性を維持します。これは、銅の吸収量と排泄量の調節によって行われ、肝臓が中心的な役割を演じる排泄系の意義が大きいということを示しています[3]。
[1] www.riken.jp/press/2014/20140326_1/index.html
[2] www.jtnrs.com/sym28/O-05.pdf
[3] www.hosp.tohoku.ac.jp/pc/img/tyuuou/nst_do.pdf

第2章 銅代謝異常疾患

ウイルソン病とメンケス病

ウイルソン病(Wilson 病)とメンケス病(Menkes disease)は、銅代謝異常による遺伝性疾患です。

ウイルソン病は、遺伝子異常によって、肝細胞から胆汁中への銅排泄障害が起こります。これは、遺伝子異常によって、ATP7B(銅トランスポーター)が正常に機能しないため、銅が脳に移行して中枢神経障害や結合組織障害が発生します[1]。

メンケス病は、遺伝子異常によって、腸管での銅吸収障害が起こります。これは、ATP7A(銅トランスポーター)の遺伝子異常によって、銅が脳に移行して中枢神経障害や結合組織障害が発生します[1]。

遺伝子異常による銅代謝異常は、銅代謝異常症の一つで、生後2カ月以降に治療を開始すると、銅が脳に移行しなくなり、治療が有効になることが確認されています[1]。
[1] www.riken.jp/press/2014/20140326_1/index.html

疾患の診断と治療

ウイルソン病(Wilson 病)

ウイルソン病の現在の診断法と治療オプションについて、以下の情報が提供されています。

●診断法:
– ウイルソン病の診断には、血清銅・セルロプラスミンの低値、血清乳酸・ピルビン酸の高値、尿NAGの高値などの臨床検査が用いられる[3].
– 確定診断は培養皮膚線維芽細胞の銅濃度高値および/またはATP7A遺伝子変異同定で行われる[1].

● 治療オプション:
– ウイルソン病の治療は、蓄積した銅を排泄させる初期療法と、銅が蓄積しないように予防する維持療法から成り立ち、生涯継続される[3].
– 治療オプションには、亜鉛製剤やキレート薬が含まれる。亜鉛製剤は腸管での銅吸収を阻害し、キレート薬は体内に蓄積した銅を尿に排泄させる作用がある[4].
– 治療選択は患者の病状によって異なり、これらの薬物は生涯服用が必要であり、治療中に飲み忘れがあると経過が悪化する可能性がある[4].
– 重度の肝臓障害を持つ患者では肝移植も選択肢として考慮されることがある[4].

[1] www.shouman.jp/disease/instructions/08_08_108/
[2] www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/059090565.pdf
[3] jsimd.net/pdf/guideline/DW/01_150508_WD-GL.pdf
[4] ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/gaviqlqdmnx
[5] www.igakuken.or.jp/topics/2022/0921.html

メンケス病(Menkes disease)の現在の診断法と治療オプション

● 診断法:
– メンケス病の診断には、血清中の銅とセルロプラスミンの正常値を維持するためのヒスチジン銅(銅にアミノ酸を結合させた物質)の皮下注射が行われる[3][4].
– 神経障害や頭髪の特徴的な症状を改善するため、ヒスチジン銅を週に2~4回投与して血清中の銅とセルロプラスミンを調整する[3].

● 治療オプション:
– メンケス病の治療は、神経障害や頭髪の特徴的な症状に対して、ヒスチジン銅(銅にアミノ酸を結合させた物質)の皮下注射が基本となる[3][4].
– 早期発見と早急な治療開始が重要であり、神経症状が出てしまった場合は改善が難しいため、予防が重要である[3].
– 各症状に対する対症療法も行われ、例えばけいれんには抗けいれん薬、骨粗しょう症にはビタミンD製剤が投与される[3].
– 感染を起こしやすいため感染症にも注意し、膀胱憩室がみられる場合は尿路感染を予防するため抗生物質を投与することが重要である[3].

[1] www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/advpub/0/advpub_cn-001241/_article/-char/ja/
[2] www.nobelpharma.co.jp/general/willson/
[3] medicalnote.jp/contents/160201-041-RT
[4] www.shinagawaseasideclinic.com/skin/atoz/ma/menkes.html
[5] grj.umin.jp/grj/atp7a.htm

第3章 銅トランスポーターATPaseと抗がん剤耐性

シスプラチン耐性の発達

シスプラチン耐性の発達において、銅トランスポーターが重要な役割を果たしています。銅トランスポーターはシスプラチン耐性癌細胞の耐性機序に影響を与えることが示唆されています[1]. シスプラチンは一般的な抗がん剤であり、この耐性機序において銅トランスポーターが関与することが明らかになっています。銅トランスポーターのメカニズムは、シスプラチンの細胞内輸送や代謝に影響を与え、耐性の発達に寄与している可能性があります。これにより、銅トランスポーターは抗がん剤治療における耐性メカニズムの理解や新たな治療法の開発に重要な役割を果たしています。
[1] mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/143021/201411020A/201411020A0003.pdf

耐性機構の研究進展

銅トランスポーターATPaseと抗がん剤耐性の関連についての研究は進展しており、銅トランスポーターがシスプラチン耐性癌細胞の耐性機序に影響を与えることが示唆されています[1]. 特に、ATP7AおよびATP7Bがシスプラチンの細胞外への排出に関与し、CTR1がシスプラチンの細胞内取り込みに関わることが明らかになっています。この研究から、銅トランスポーターが抗がん剤の耐性メカニズムに重要な役割を果たす可能性が浮かび上がっています。治療法の開発において、このような研究成果は新たな治療戦略やアプローチを模索する上で期待されており、抗がん剤耐性の克服に向けた挑戦と期待が高まっています。
[1] kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21791829/

第4章 研究の最新動向

最近の研究成果

最近の研究成果から、銅トランスポーターATPaseに関する以下のような新しい発見が報告されています。

1. シスプラチン耐性メカニズムにおける銅トランスポーターの役割:
– 銅トランスポーターであるATP7AおよびATP7Bが、シスプラチンの細胞外への排出に関与することが示唆されている[1][5]
– 一方、銅トランスポーターCTR1がシスプラチンの細胞内取り込みに関わっている可能性がある[1]
– これらの銅トランスポーターの発現変化がシスプラチン耐性の獲得に関連していることが明らかになってきた[1][5]

2. オキサリプラチン誘発性末梢神経障害への影響:
– 様々な銅トランスポーターの発現が確認され、これらトランスポーターの発現変化がオキサリプラチンの細胞内蓄積量を変化させ、神経毒性に影響を及ぼすことが示された[3]

3. 銅恒常性維持機構の解明:
– 銅トランスポーターであるCtrファミリータンパク質間の相互作用が、銅の恒常性維持に重要な役割を果たすことが明らかになった[4]
– 銅トランスポーターの発現量や活性の変化が、銅の細胞内動態を調節し、ひいては細胞の生理機能に影響を及ぼすことが示唆されている[4]

以上のように、最近の研究では銅トランスポーターATPaseが抗がん剤耐性や神経障害の発症機序に深く関与していることが明らかになってきており、この分野での新たな知見が蓄積されつつあります。
[1] kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21791829/
[2] www.shouman.jp/disease/details/08_08_108/
[3] catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1931849/phar0606.pdf
[4] www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/69/2/69_136/_pdf
[5] ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/58473/20200526113017363845/K0006157_abstract_review.pdf

未来の研究方向性

未来の研究方向性において、治療法開発への期待と挑戦が重要な焦点となっています。特に、銅トランスポーターATPaseに関連する疾患や治療法において以下の点が注目されています:

1. メンケス病治療法の進展:
– メンケス病に対する新たな治療法として、皮下CuHis治療やAAV遺伝子治療が有望視されており、臨床試験や予備的結果が進行中である[2]
– さらに、ドロキシドパを用いた臨床試験も2021年春に開始される予定であり、神経障害への治療効果が期待されている[2]

2. 抗がん剤耐性へのアプローチ:
– 銅トランスポーターATP7AやATP7Bの役割を理解し、シスプラチンなどの抗がん剤耐性メカニズムに関わる新たな治療法の開発が期待されている[1]

これらの研究成果や臨床試験を通じて、将来的には銅トランスポーターATPaseを標的とした効果的な治療法が開発され、患者の治療や健康増進に貢献する可能性があります。

[1] www.my-pharm.ac.jp/grad/dissertation/k_086_01.pdf
[2] grj.umin.jp/grj/atp7a.htm
[3] webtan.impress.co.jp/e/2018/04/20/29008
[4] www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10563256/
[5] books.google.com/books?dq=%3Ch3%3E%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%96%B9%E5%90%91%E6%80%A7%3C%2Fh3%3E&hl=ja&id=LJtWEAAAQBAJ&lpg=PT365&ots=iARiJcg_yo&pg=PT365&sa=X&sig=ACfU3U0eS3fyV8pM8rI_xRCw5qK3ct9n5Q&ved=2ahUKEwji77fy35OFAxVyk4kEHda-AUwQ6AF6BAgBEAE

ATPase copper transportingに属する遺伝子

ATP7A
ATP7B

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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