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ATP結合カセットサブファミリーB(ABCB):多剤耐性と癌治療の新展開

本記事では、ATP結合カセットサブファミリーB、特にABCB1とABCB6メンバーの重要性と、これらが多剤耐性と癌治療にどのように影響を与えるかについて深掘りします。ABCBサブファミリーの構造、機能、および臨床的意義に焦点を当て、最新の研究成果と未来の治療戦略についても探ります。

第1章 ATP結合カセットサブファミリーBの概要

ABCBサブファミリーの基本情報

ABCBサブファミリーは、ABCトランスポーターファミリーのサブグループBに属し、多剤排出トランスポーターを含む重要な分子群です。
ABCトランスポーターは、ATP結合カセット(ABC)トランスポーターファミリーに属するタンパク質群であり、細胞膜を横断して物質を輸送する役割を担っています。このファミリーには、多くの異なるサブファミリーが存在し、ABC1からABCGまでの7つのサブファミリーに分類されています。ABCトランスポーターは、ATP結合部位を持ち、ATPの加水分解エネルギーを利用して物質を輸送する機能を持っています。特に、MDR/TAPサブファミリーのメンバーは多剤耐性に関与しており、がん治療などで重要な役割を果たしています。これらのタンパク質は、細胞内外の物質輸送や細胞内環境の維持に不可欠であり、医学や生物学の分野で広く研究されています。
ABCBサブファミリー主要メンバーとしては、「P糖タンパク質」または「MDR1」としても知られる「ABCB1」が最も有名です。このタンパク質は、がん細胞において多剤耐性の原因となり、抗がん剤治療の障害となる厄介な性質を持っています。ABCトランスポーターファミリーには48種類のタンパク質が知られており、ABCBサブファミリーには他にも「ABCC1(MRP1)」、「ABCG2(BCRP)」などが含まれています。これらのABCトランスポーターは、病気と関連しており、特にがん細胞の多剤耐性と関わることが考えられています。ABCトランスポーターは、細胞外への化合物排出能力を持ち、体内の異物から生体を保護する役割を果たしています。

[1] news.mynavi.jp/techplus/article/20140305-a061/
[2] mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/042032/200400209B/200400209B0004.pdf
[3] ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC
[4] www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/51/4/51_315/_pdf
[5] www.weblio.jp/content/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC

機能と生理的役割

ABCBサブファミリーのメンバーは、細胞膜を横断して様々な物質を輸送する重要な機能を持っています。

1. 多剤排出トランスポーター:
– ABCBサブファミリーの代表的なメンバーであるABCB1(P糖タンパク質)は、がん細胞において多剤耐性の原因となる重要な多剤排出トランスポーターです[5]。
– ABCB1は、細胞外への抗がん剤などの排出を担うことで、がん細胞の薬剤耐性に関与しています[5]。

2. 生理的な物質輸送:
– ABCBサブファミリーのメンバーは、生体内の様々な物質(薬物、脂質、ステロイドなど)の輸送にも関与しています[3][4]。
– 例えば、ABCB4はリン脂質の胆汁への分泌に、ABCB11はビリルビンの排出に関与するなど、生理的な物質輸送に重要な役割を果たしています[3][4]。

3. 細胞内での機能:
– ABCBトランスポーターは、細胞膜だけでなく細胞内小器官の膜にも局在し、細胞内の物質輸送にも関与しています[4]。
– 例えば、ABCB7はミトコンドリア膜に存在し、鉄-硫黄クラスターの合成に必要な役割を果たしています[4]。

以上のように、ABCBサブファミリーのメンバーは、細胞膜を介した多剤排出や生理的な物質輸送、さらには細胞内小器官での機能など、多様な役割を担っています。これらの輸送機能は、がん治療や代謝性疾患など、様々な疾患の発症や治療に深く関わっていると考えられています。
[1] www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20210903
[2] catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1931849/phar0606.pdf
[3] mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/042032/200400209B/200400209B0004.pdf
[4] repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/263711/2/ynogk02457.pdf
[5] www.jcga-scc.jp/ja/gene/ABCB1

ATPバインディングカセット(ABC)トランスポーターの基本構造

ATPバインディングカセット(ABC)トランスポーターは、細胞膜を越えてさまざまな分子を輸送する一大タンパク質ファミリーです。これらのトランスポーターは細胞内外の物質の流れを調節し、細胞の生理的状態を維持する重要な役割を果たしています。

構造の特徴

ATPバインディングドメイン(NBD): ABCトランスポーターの最も顕著な特徴は、ATPバインディングドメイン(NBD)またはATPバインディングカセットです。このドメインは、トランスポーターのエネルギー源であるATPの加水分解を触媒し、そのエネルギーを利用して分子を細胞膜を越えて輸送します。
膜貫通ドメイン(TMD): ほとんどのABCトランスポーターは、膜貫通ドメイン(TMD)を持っています。このドメインは、膜を越える分子の選択性と通過経路を提供します。
フルトランスポーターとハーフトランスポーター: ABCトランスポーターは、単一のポリペプチド鎖に2つのNBDと2つのTMDを持つ「フルトランスポーター」と、1つのNBDと1つのTMDを持つ「ハーフトランスポーター」に分類されます。ハーフトランスポーターは、機能的なトランスポーターを形成するために二量体または多量体を形成する必要があります。

機能的特徴

多様な輸送物質: ABCトランスポーターは、イオン、糖、ペプチド、脂質、薬物など多様な物質を輸送します。
方向性: 輸送は一方向であり、特定の物質を細胞内外の特定の方向に移動させます。
エネルギー依存: ATP加水分解によるエネルギーを利用して、しばしば濃度勾配に逆らって分子を輸送します。

生物学的重要性

病原体耐性: 多剤耐性を引き起こすトランスポーターとしての役割が特に有名で、病原体が薬物を細胞外へ排出するメカニズムに関与します。
生理的プロセス: 代謝物質の輸送、リポ蛋白質の代謝、イオンのホメオスタシスなど、多くの生理的プロセスに重要です。
疾患関連: 特定の遺伝子変異は、嚢胞性線維症やアドレノロイコジストロフィーなどの遺伝病に関連しています。

第2章 ABCBサブファミリーと多剤耐性

ABCB1による薬剤輸送と耐性メカニズム

ABCB1は、多剤排出トランスポーターとして、がん細胞において抗がん剤などの薬物を細胞外に排出する役割を果たす重要なタンパク質です[4]. この機能により、ABCB1はがん細胞の多剤耐性の原因となります[4].

ABCB1の構造について、細胞膜を横断する12本の膜貫通領域や2つのATP結合領域を持ち、ATP結合によって薬物を排出するエンジンとして機能します[2]. 京都大学などの研究では、CmABCB1という生物から発見されたABCB1に似たタンパク質の結晶構造が解明され、その多剤排出メカニズムが明らかにされました[4].

抗がん剤耐性メカニズムにおいて、ABCB1はがん細胞内で多く作られることで、抗がん剤治療の障害となります[4]. このタンパク質は、多種多様な化学構造の化合物を細胞外へ排出する能力を持ち、その高発現はがん細胞の多剤耐性を引き起こす一因とされています[4]. そのため、ABCB1の分子構造や多剤排出メカニズムの解明は、抗がん剤治療や創薬において重要な意義を持つ研究テーマとなっています[4].
[1] kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14780489/
[2] webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.2425100467
[3] www.jcga-scc.jp/ja/gene/ABCB1
[4] news.mynavi.jp/techplus/article/20140305-a061/
[5] www.hokudai.ac.jp/news/pdf/200615_pr1.pdf

ABCB6とその他のメンバーの寄与

提示された情報から、ABCB6とその他のABCBサブファミリーメンバーの特徴と癌治療における役割について以下のようにまとめることができます。

ABCB6の特徴:
– ABCB6はABCBサブファミリーに属するATPase型の膜トランスポーターである[4]
– ABCB6は主にミトコンドリア膜に局在し、ポルフィリン代謝に関与している[5]
– ABCB6はALA(5-アミノレブリン酸)の取り込みを促進し、ポルフィリン合成を調節する[5]

ABCB6の癌治療における役割:
– ABCB6の発現上昇は、ALA投与後のポルフィリン(PpIX)の蓄積を増加させる[5]
– PpIXは光感受性が高く、光線力学療法に利用できる[5]
– ABCB6の発現調節は、休眠がん細胞のPpIX蓄積を制御し、光線力学療法の効果を高める可能性がある[5]

その他のABCBサブファミリーメンバーの役割:
– ABCB1(P糖タンパク質)は多剤耐性に関与し、抗がん剤の細胞外排出を担う[4]
– ABCB4、ABCB11などは脂質輸送に関与し、肝胆道系の機能に寄与する[4]

以上のように、ABCB6はポルフィリン代謝に関与し、光線力学療法への応用が期待されている一方で、ABCB1などの他のABCBメンバーは多剤耐性や脂質輸送など、がん治療に関連した異なる役割を担っていることがわかります。

[1] www.weblio.jp/content/%E3%82%B5%E3%83%96%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC
[2] kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14780489/
[3] catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1931849/phar0606.pdf
[4] www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/142/11/142_22-00108/_pdf
[5] www.jstage.jst.go.jp/article/jslsm/43/4/43_jslsm-43_0038/_html/-char/ja

第3章 ABCBサブファミリーの臨床的意義

癌治療におけるABCBの影響

ABCBサブファミリー、特にABCB1遺伝子の影響は、がん治療に重要な要素となっています。ABCB1遺伝子の多剤耐性に関連する影響は、がん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得し、治療の効果を阻害する可能性があります[1]. この多剤耐性メカニズムによって、抗がん剤が効果を発揮せず、がん細胞が生存し続けることで、治療の難しさが生じることが知られています。ABCB1は多種多様な化学構造の化合物を細胞外へ排出する能力を持ち、その活性は薬物の効力や副作用に影響を与える可能性があります[1]. これらの影響から、ABCBサブファミリーの遺伝子変異や機能解析は、がん治療における薬物耐性メカニズムや新たな治療法の開発に向けて重要な研究領域となっています。
[1] news.mynavi.jp/techplus/article/20140305-a061/

遺伝子変異と疾患関連性

ABCBサブファミリーの遺伝子変異は、さまざまな疾患と関連しています。特に、ABCB1遺伝子の変異は、がんの多剤耐性に関連しており、抗がん剤治療の効果を阻害する可能性があります[1]. この遺伝子の変異によって、がん細胞が抗がん剤に対して耐性を獲得し、治療の難しさを引き起こすことが知られています。

また、ABCBサブファミリーに属する他の遺伝子の変異も、さまざまな疾患と関連している可能性があります。これらの遺伝子変異は、薬物の取り込みや排出に影響を与えることで、治療への応答や副作用に影響を及ぼす可能性があります。ABCBサブファミリー遺伝子の変異と関連疾患については、さらなる研究が必要とされています。
[1] news.mynavi.jp/techplus/article/20140305-a061/

第4章 研究進展と未来の治療戦略

最新の研究動向

ABCBサブファミリーに関する最近の主な発見は以下のようにまとめられます。

1. CmABCB1の構造解析と多剤排出メカニズムの解明:
– 京都大学の研究チームは、温泉生物Cyanidioschyzon merolaeから発見したCmABCB1の結晶構造を解明した[3]。
– CmABCB1はヒトABCB1と高い相同性を示し、同様の多剤排出機能を持つことが確認された[3]。
– この成果は、ABCB1の分子構造と多剤排出メカニズムの解明につながる重要な発見である[3]。

2. ABCB1の多剤耐性への関与:
– ABCB1は、がん細胞において多剤耐性の原因となる重要なタンパク質である[3]。
– ABCB1は、多種多様な化合物を細胞外に排出する能力を持ち、抗がん剤治療の障害となる[3]。

3. ABCBサブファミリーの遺伝子変異と疾患:
– ABCB1遺伝子の変異は、がんの多剤耐性に関連することが知られている[2]。
– 他のABCBサブファミリーメンバーの遺伝子変異も、精神疾患などの発症リスクと関連する可能性が示唆されている[2]。

4. ABCBタンパク質の生理的役割:
– ABCBタンパク質は、生体内の物質輸送に重要な役割を果たしている[1][2]。
– 特に、脳内の脂質恒常性維持や神経系の機能に関与することが明らかになりつつある[2]。

以上のように、ABCBサブファミリーに関する最近の研究では、その分子構造や多剤排出機能、遺伝子変異と疾患との関連、生理的役割の解明が進んでいることがわかります。

[1] mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2004/042032/200400209B/200400209B0004.pdf
[2] repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/263711/1/dnogk02457.pdf
[3] news.mynavi.jp/techplus/article/20140305-a061/
[4] research.kindai.ac.jp/profile/ja.c93ef3a4acf8a874.html?mode=pc
[5] nrid.nii.ac.jp/en/nrid/1000050444071/

未来の治療法への応用

多剤耐性を克服するための新たな戦略として、ABCBサブファミリーに関する研究成果を活用した治療法が期待されています。

1. ABCB1阻害剤の開発:
– ABCB1の多剤排出機能を阻害する薬剤の開発が進められており、これによって抗がん剤などの薬物が効果的にがん細胞内に蓄積される可能性があります.

2. 組み合わせ療法:
– ABCB1遺伝子の多剤耐性を克服するために、ABCB1阻害剤と既存の抗がん剤を組み合わせた治療法が検討されています.

3. 個別化医療:
– 患者ごとの遺伝子プロファイリングを行い、ABCBサブファミリー遺伝子の変異や発現レベルに基づいて個別化された治療法を選択することで、多剤耐性を克服する新たな戦略が展開される可能性があります.

これらの新たな戦略は、ABCBサブファミリーに関する研究成果を臨床応用し、多剤耐性を持つがん細胞への効果的なアプローチを提供することで、将来的な治療法の進化に貢献する見込みです。

ATP binding cassette subfamily Bに属する遺伝子

ABCB1
TAP1
TAP2
ABCB4
ABCB5
ABCB6
ABCB7
ABCB8
ABCB9
ABCB10
ABCB11

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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