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アシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリー:人間の代謝と疾患における多様な役割

さまざまな人間の組織における脂肪酸代謝におけるアシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリーの重要な役割を探求し、この酵素群がどのように健康と疾患の調節に関与しているかを強調します。

第1章:アシル-CoAシンテターゼファミリーの紹介

アシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリーとは

アシル-CoAシンテターゼ(Acyl-CoA Synthetase, ACS)ファミリーは、脂肪酸の代謝に欠かせない一群の酵素です。これらの酵素は、自由脂肪酸(FFA)をアクティベートすることで、脂肪酸の代謝過程であるβ-酸化、リピッドの生合成、および他の多くの生物学的プロセスにおいて使用可能なアシル-CoAエステルを生成します。アクティベーションプロセスでは、ATPの消費を伴い、特定の脂肪酸をCoA(補酵素A)に結合させることで、アシル-CoAを形成します。

アシル-CoAシンテターゼファミリーには、異なる鎖長の脂肪酸を特異的に認識し、アクティベートする複数の異なる酵素が含まれています。これらは、短鎖(SCS)、中鎖(MCS)、長鎖(LCS)、および超長鎖(VLC)アシル-CoAシンテターゼに大別されます。各酵素は、細胞内の特定の位置で特定の種類の脂肪酸を処理し、脂肪酸の代謝における多様性と特異性をもたらします。

これらの酵素は、エネルギー生産、細胞膜の構成、シグナル伝達分子の合成、および細胞内情報の調節など、生体内で多岐にわたる重要な役割を果たします。また、アシル-CoAシンテターゼの異常は、糖尿病、肥満、心臓病、脂質異常症などの多くの代謝性疾患と関連しています。このため、ACSファミリーは疾患の潜在的な治療標的として注目されています。

代謝における基本的な役割

アシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリーの酵素は、生物体の代謝において基本的かつ重要な役割を果たします。以下は、ACSファミリーが代謝プロセスにおいて担う主な役割です。

1. 脂肪酸のアクティベーション
ACS酵素は、自由脂肪酸(FFA)をアシル-CoAに変換することでアクティベートします。この変換プロセスは、脂肪酸を代謝経路に組み込むための第一歩であり、エネルギー生産、脂質の生合成、およびその他の生物学的プロセスに不可欠です。

2. エネルギー生産
アクティベートされた脂肪酸(アシル-CoA)は、ミトコンドリアまたはペルオキシソームでのβ-酸化により分解され、エネルギーを生産します。β-酸化過程で生成されるアセチル-CoAは、クエン酸回路に入ることでさらにエネルギーを生産することができます。

3. 脂質の生合成
アシル-CoAは、脂質の生合成の基質としても機能します。これには、細胞膜のリン脂質や三酸化グリセリド(蓄積エネルギー源)の合成が含まれます。これらのプロセスは、細胞の構造と機能にとって重要です。

4. シグナル伝達
特定のアシル-CoA分子は、シグナル伝達分子としても機能し、細胞内外のさまざまなシグナル伝達経路を調節します。これにより、細胞成長、分化、および代謝の調節が行われます。

5. 疾患との関連
ACSファミリーの異常な活動は、糖尿病、肥満、心臓病などの代謝性疾患と関連があります。このため、これらの酵素の活動を調節することは、これらの状態を治療する潜在的な方法として考えられています。

ACS酵素ファミリーは、細胞内での脂肪酸の処理と代謝の調節において中心的な役割を担い、生物学的プロセスの正常な機能を支えるとともに、多くの健康問題と密接に関連しています。

第2章:ACSファミリーメンバーの分類と特徴

長鎖および短鎖脂肪酸を代謝するACS

アシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリー内で、長鎖および短鎖脂肪酸を代謝する酵素は、それぞれ独特の役割と生物学的重要性を持っています。これらの酵素は、脂肪酸の鎖長に応じて異なるサブセットに分類され、特定の代謝経路で活動します。

● 長鎖脂肪酸を代謝するACS(Long-chain Acyl-CoA Synthetases, LACS)

– 役割: 長鎖脂肪酸(C12-C20以上)をアクティベートし、アシル-CoAに変換します。これは、脂肪酸のβ-酸化、脂質の生合成、および細胞膜の構成に不可欠です。
– 代謝プロセス: これらの酵素によってアクティベートされた長鎖脂肪酸は、主にミトコンドリアでβ-酸化され、エネルギーを生産します。また、これらは脂質の生合成においても重要な役割を果たし、細胞膜のリン脂質やその他の脂質成分の前駆体となります。
– 生物学的重要性: 長鎖脂肪酸は、エネルギー生産の主要な源であり、細胞構造と機能の維持にも重要です。LACS酵素の活動は、これらのプロセスを調節し、細胞の健康と生存に直接影響します。

● 短鎖脂肪酸を代謝するACS(Short-chain Acyl-CoA Synthetases, SACS)

– 役割: 短鎖脂肪酸(C2-C6)をアクティベートし、アシル-CoAに変換します。これは、特にエネルギー代謝において重要です。
– 代謝プロセス: SACSによってアクティベートされた短鎖脂肪酸は、主に肝臓で処理され、エネルギー源として使用されるか、ケトン体の生成に寄与します。
– 生物学的重要性: 短鎖脂肪酸は、腸内細菌からの発酵によって生産されることが多く、腸の健康、炎症反応の調節、およびエネルギー代謝に重要な役割を果たします。SACS酵素は、これらの脂肪酸の利用と代謝を促進します。

長鎖および短鎖脂肪酸を代謝するACS酵素は、脂肪酸の代謝において互いに補完的な役割を果たし、エネルギー生産、細胞構造の維持、および健康維持に不可欠な貢献をします。これらの酵素の適切な機能は、代謝疾患の予防や治療において重要な役割を果たします。代謝疾患のリスクを減少させるために、これらの酵素の活動のバランスを保つことが重要です。疾患の発生に関連する代謝経路の異常や、特定の酵素活動の変化を理解することは、新たな治療法の開発に向けた重要なステップです。

● 疾患との関連性

– 糖尿病: 糖尿病患者では、脂肪酸の代謝異常が一般的に見られ、これはインスリン抵抗性の発生に寄与する可能性があります。長鎖および短鎖脂肪酸の適切な代謝は、血糖レベルの調節に重要な役割を果たします。
– 肥満: 脂肪酸の代謝は、エネルギーの貯蔵と消費に直接関連しています。ACS酵素の活動の不均衡は、過剰な脂肪蓄積や肥満のリスクを高めることがあります。
– 心血管疾患: 脂質異常症や心血管疾患の発生には、脂肪酸の代謝異常が関与していることが多いです。長鎖脂肪酸の過剰な蓄積は、動脈硬化のリスクを高める可能性があります。

● 治療への応用

– 酵素活動の調節: ACS酵素の特異的なインヒビターやアクティベーターを開発することにより、代謝疾患の治療に利用することができます。これにより、脂肪酸の代謝を正常化し、疾患の進行を遅らせるか逆転させることが可能になる場合があります。
– 栄養療法: 食事からの脂肪酸の種類と量を調整することで、ACS酵素の活動を間接的に調節し、代謝健康を改善することができます。例えば、オメガ3脂肪酸の摂取を増やすことは、炎症を減少させ、心血管疾患のリスクを減らす効果があります。

ACS酵素の研究は、代謝疾患の理解と治療において依然として重要な領域です。これらの酵素の詳細な機能と調節メカニズムを解明することで、より効果的な治療戦略の開発につながる可能性があります。

ミトコンドリアおよび細胞質での役割

アシル-CoAシンテターゼ(ACS)ファミリーの酵素は、細胞内の異なる場所で活動し、それぞれミトコンドリアおよび細胞質で独自の重要な役割を果たします。これらの場所でのACS酵素の活動は、細胞のエネルギー代謝、脂質の生合成、およびその他の多くの生物学的プロセスに不可欠です。

● ミトコンドリアでの役割

– エネルギー生産: ミトコンドリア内のACS酵素は、特に長鎖脂肪酸をアシル-CoAに変換することで、これらの脂肪酸がβ-酸化によってエネルギーに変換されるのを可能にします。β-酸化過程で生成されるアセチル-CoAは、クエン酸回路(TCAサイクル)に入り、ATPを生産するために使用されます。
– 調節機能: ミトコンドリアのACS酵素は、エネルギー需要に応じて脂肪酸の代謝を調節する役割も持っています。細胞が高エネルギーを必要とする時、これらの酵素は脂肪酸の代謝を促進し、エネルギー生産を増加させます。

● 細胞質での役割

– 脂質の生合成: 細胞質に位置するACS酵素は、脂肪酸をアシル-CoAに変換することで、リン脂質やトリアシルグリセロールなどの脂質の生合成を促進します。これらの脂質は細胞膜の構成要素であり、細胞の正常な機能には不可欠です。
– 脂肪酸の輸送と貯蔵: ACS酵素は、脂肪酸を細胞内で移動可能な形(アシル-CoA)に変換します。これにより、脂肪酸は細胞内の他の部位、例えばエネルギーが必要な時にミトコンドリアへと輸送されることが可能になります。また、脂肪酸はエネルギーとして後で使用するために脂肪組織に貯蔵されることもあります。

● 細胞内での協調作用

– エネルギー代謝と脂質の均衡: ミトコンドリアと細胞質におけるACS酵素の活動は、エネルギー代謝と脂質のバランスを維持するために互いに協力します。細胞のエネルギー状態や栄養状態に応じて、これらの酵素は活性化または抑制され、脂肪酸の利用と貯蔵を最適化します。
– シグナル伝達: 一部のACS酵素はシグナル伝達の役割も担っています。脂肪酸の代謝産物である特定のアシル-CoA分子は、細胞内シグナル伝達の調節因子として機能し、細胞成長、分化、および死に直接影響を及ぼすことがあります。これにより、細胞は外部からのシグナルに応答して適切に機能を調整することができます。

– 応答性と適応性: 細胞の代謝状態やエネルギー需要が変化すると、ACS酵素の表現や活性は変動し、これによって細胞は様々な生理的および病理的状態に適応します。例えば、飢餓時には脂肪酸のβ-酸化が促進され、運動時には筋肉細胞内でのエネルギー産生が増加します。

● 細胞内の局在と機能の多様性

ACS酵素の細胞内での正確な局在は、その機能の特異性と多様性に大きく寄与しています。例えば、ミトコンドリアに局在するACS酵素は主にエネルギー産生に関与する一方で、細胞質に局在するものは脂質の生合成や修復、細胞膜のダイナミクスに関わります。

– 遺伝子発現の調節: 細胞内外の様々な刺激に応じて、ACS酵素の遺伝子発現は細かく調節されます。栄養素の可用性、ホルモンレベル、細胞ストレスなどがACS酵素の発現を変化させる要因となります。
– 疾患との関係: ACS酵素の異常な調節や機能不全は、肥満、糖尿病、心血管疾患など多くの代謝性疾患と密接に関連しています。特に、ミトコンドリアおよび細胞質でのACS酵素の異常は、エネルギー代謝の不均衡や細胞損傷につながることが示されています。

このように、ACS酵素は細胞内のミトコンドリアと細胞質で異なるが、密接に関連した役割を果たし、細胞の代謝、生存、および機能の維持に欠かせない存在です。これらの酵素の研究は、細胞代謝の理解を深め、代謝性疾患の治療に向けた新たな戦略を提供する可能性を秘めています。

第3章:代謝プロセスにおけるACSの重要性

脂肪酸の活性化とエネルギー産生

脂肪酸の活性化とエネルギー産生は、細胞のエネルギー代謝における中心的なプロセスです。この過程は大きく分けて2つのステップに分類されます:脂肪酸の活性化とその後のエネルギー産生への貢献です。

● 脂肪酸の活性化

1. 脂肪酸の活性化は、細胞外から取り込まれた自由脂肪酸(FFA)を、反応可能な形態であるアシル-CoAに変換する過程です。このステップは、アシル-CoAシンテターゼ(ACS)という酵素によって触媒されます。脂肪酸のアクティベーションは、細胞質またはミトコンドリアの外膜で発生し、次の化学反応を含みます:
– 脂肪酸 + CoA + ATP → アシル-CoA + AMP + 二リン酸

このプロセスで、脂肪酸は高エネルギー結合を持つアシル-CoAに変換され、これによって脂肪酸はさらなる代謝過程で利用可能になります。

2. エネルギー消費:このアクティベーションプロセスは、1分子のATP(アデノシン三リン酸)を消費し、その結果としてAMP(アデノシン一リン酸)と二リン酸が生成されるため、実質的に2 ATP分子のエネルギーを使用します。

● エネルギー産生

アクティベートされたアシル-CoAは主に2つのプロセスでエネルギーを産生します:

1. β-酸化:ミトコンドリア内で発生するこのプロセスでは、アシル-CoAは複数のサイクルを通じて分解され、各サイクルごとにアセチル-CoA、NADH、およびFADH2が生成されます。これらの産物はさらに、エネルギー産生のためにクエン酸回路(TCAサイクル)および電子伝達鎖(ETC)に供給されます。

2. ケトン体の生成:肝臓では、アシル-CoAはケトン体へと変換されることもあります。これらのケトン体は血流を通じて他の組織へ運ばれ、特に糖が不足している状況(例えば断食時)にエネルギー源として利用されます。

● エネルギー効率

– β-酸化で生成されたアセチル-CoAはクエン酸回路でさらに分解され、大量のNADHとFADH2が生産されます。これらは電子伝達鎖において利用され、最終的には大量のATPを生産します。
– 脂肪酸の代謝は、同じ重量の炭水化物やタンパク質を代謝するよりも多くのATPを生産するため、非常に効率的なエネルギー源です。脂肪酸1グラムの完全な酸化により生じるATPの量は、炭水化物やタンパク質と比較して約2倍近くにもなります。この高いエネルギー効率は、脂肪酸が長期間のエネルギー貯蔵に適している理由の一つです。

● エネルギー代謝の柔軟性

– 細胞はエネルギー需要に応じて、脂肪酸の代謝と糖の代謝の間で柔軟に切り替えることができます。通常、エネルギー需要が低い時や食事からの糖の供給が少ない時(例えば断食中)に、脂肪酸のβ-酸化が優先されます。このプロセスは、血糖レベルを安定させると同時に、エネルギーを供給します。

– 逆に、食後や運動直後など、糖が豊富に供給される時は、糖の代謝が優先され、脂肪酸のβ-酸化は抑制されます。この代謝の切り替えは、インスリンやグルカゴンなどのホルモンによって細かく調節されます。

● 疾患との関連

– 脂肪酸の代謝異常は、糖尿病、肥満、心血管疾患など多くの健康問題と関連しています。例えば、過剰な脂肪酸の蓄積は、インスリン抵抗性の発生に寄与し、2型糖尿病のリスクを高めることが知られています。

– さらに、脂肪酸の過剰なβ-酸化は、心筋のエネルギー代謝を乱し、心血管疾患のリスクを増加させる可能性があります。一方で、脂肪酸代謝の促進は、肥満治療における潜在的な戦略の一つとして研究されています。

● まとめ

脂肪酸の活性化とエネルギー産生の過程は、生命維持における根幹をなす代謝プロセスです。これらのプロセスは高いエネルギー効率を提供し、細胞が異なる栄養状態やエネルギー需要に柔軟に対応できるようにします。しかし、この代謝経路の不均衡は、代謝疾患の発症に関わるため、健康維持において適切な脂肪酸の代謝バランスが重要です。

脂肪酸代謝と疾患の関連性

脂肪酸代謝の異常は、糖尿病、肥満、心血管疾患など多様な代謝性疾患の発症に深く関わっています。この関連性は、脂肪酸の過剰な摂取、不適切な貯蔵、および代謝の不均衡が、細胞機能障害や組織損傷を引き起こす機序を通じて明らかにされています。

● 糖尿病

– インスリン抵抗性:脂肪酸とその代謝産物は、筋肉や肝臓の細胞におけるインスリンシグナルの妨害に関与し、インスリン抵抗性の発展に寄与します。これは、インスリン依存性グルコース取り込みの減少を引き起こし、血糖値の上昇につながります。
– β細胞機能障害:膵臓のβ細胞はインスリンを分泌しますが、過剰な脂肪酸の存在はこれらの細胞の機能障害を引き起こし、インスリン分泌の減少につながる可能性があります。これは、糖尿病の進行に寄与する重要な要因です。

● 肥満

– 脂肪の過剰蓄積:食事からの過剰な脂肪酸の摂取は、脂肪組織における脂肪の貯蔵を増加させます。遺伝的要因、代謝の効率、および生活習慣が複合的に作用し、体重増加や肥満へとつながります。
– 代謝機能の障害:肥満は、脂肪酸の代謝パスウェイにおける酵素の表現や活動性の変化を引き起こし、さらにエネルギー代謝の不均衡を促進します。これは、インスリン抵抗性の発症やその他の代謝異常のリスクを高めます。

● 心血管疾患

– アテローム性動脈硬化:脂肪酸の代謝産物は、動脈壁内の炎症反応や脂質の蓄積を促進し、アテローム性動脈硬化を引き起こすことがあります。これは、心筋梗塞や脳卒中のリスクを増加させます。
– 心筋代謝の異常:心筋はエネルギーとして主に脂肪酸を使用しますが、脂肪酸の過剰な供給や利用の不均衡は、心筋細胞の損傷や心機能の低下を引き起こす可能性があります。

● 治療戦略

これらの疾患と脂肪酸代謝の関連性の理解は、治療戦略の開発に重要な意味を持ちます。代謝性疾患の管理と治療に向けて、以下のようなアプローチが考えられます。

♣ライフスタイルの変更

– 食事療法:脂肪酸の摂取量を調整し、特に飽和脂肪酸の摂取を減らすことは、脂肪酸代謝を改善し、疾患リスクを減少させる効果があります。オメガ3脂肪酸などの不飽和脂肪酸を含む食事は、心血管リスクを低減させることが示されています。
– 定期的な運動:定期的な運動は、脂肪酸の利用を促進し、インスリン感受性を改善します。これにより、エネルギー代謝が正常化し、肥満や糖尿病のリスクが減少します。

♣ 薬物療法

– インスリン感受性向上薬:メトホルミンなどの薬剤は、インスリンの効果を高め、脂肪酸の代謝を改善することで、糖尿病の管理に有効です。
– 脂質低下薬:スタチンなどの脂質低下薬は、血中の脂質レベルを調節し、心血管疾患のリスクを減少させます。

♣ 新規治療法の開発

– 分子標的療法:脂肪酸代謝に関与する特定の酵素やシグナル経路を標的とした新規薬剤の開発が進められています。これにより、より効果的で副作用の少ない治療法が提供される可能性があります。
– 遺伝子療法:脂肪酸代謝に関連する遺伝子異常を正すことにより、根本的な治療が可能になるかもしれません。これは、特に遺伝性代謝疾患の治療において大きな希望を与えます。

脂肪酸代謝と疾患の関連性を深く理解することは、予防、診断、および治療戦略の開発において極めて重要です。個々の患者の代謝特性に合わせたパーソナライズドメディスンの実現に向けて、研究は進んでいます。

第4章:ACSと人間の健康

ACSファミリーと代謝疾患

ACSファミリー(アシルCoA合成酵素ファミリー)は、さまざまな長さの脂肪酸をアシルCoAに変換する重要な役割を持つ酵素のグループです。この過程は、脂肪酸の代謝において中心的な役割を果たしており、エネルギー産生、細胞膜の合成、シグナル伝達など、生体内の多くの重要な機能に関与しています。ACSファミリーの酵素は、その基質特異性や組織特異的な発現パターンによって、脂肪酸の代謝における細やかな調節を行っています。

代謝疾患とは、体内の化学反応、特に食物からエネルギーを生成する過程における異常を指す広範な病態群です。これには糖尿病、肥満、高脂血症などが含まれます。これらの疾患は、脂肪酸の代謝異常と密接に関連しており、ACSファミリーの酵素の異常な活動や表現が関与している可能性があります。

ACS酵素の活性の異常は、脂肪酸の代謝を乱し、脂肪の蓄積や利用の異常につながることがあります。例えば、特定のACS酵素が過剰に活性化すると、過剰な脂肪酸がアシルCoAとして細胞内に蓄積し、インスリン抵抗性や2型糖尿病の原因となる可能性があります。また、ACS酵素の不足は、必要な脂肪酸がエネルギー産生やその他の重要な生物学的プロセスに利用されないことを意味し、代謝疾患のリスクを高める可能性があります。

このように、ACSファミリーの酵素は代謝疾患の発症と進行において重要な役割を果たしていると考えられています。代謝疾患の治療戦略の一環として、これらの酵素の活性を調節することが研究されており、将来的に新たな治療薬の開発につながる可能性があります。

ACS活性の調節と治療への応用

ACS(アシルCoA合成酵素)活性の調節は、代謝疾患の治療において非常に有望なアプローチの一つです。ACS酵素は脂肪酸をアシルCoAに変換することで、脂肪酸の代謝、エネルギー産生、リピッドの合成に重要な役割を果たします。このため、ACS活性の調節を通じて、糖尿病、肥満、高脂血症などの代謝疾患の治療に影響を与えることができる可能性があります。

● ACS活性の調節方法

1. 遺伝子発現の調節: 特定のACS酵素の遺伝子発現を増加させるか減少させることで、脂肪酸の代謝を調節することが可能です。これは、遺伝子治療や特定の薬剤を使用して達成される場合があります。

2. 酵素活性の直接的な調節: 小分子化合物やペプチドを使用して、特定のACS酵素の活性を直接的に増強または抑制することができます。これにより、体内の脂肪酸の代謝率を調整し、代謝疾患の治療に利用することができます。

3. シグナル伝達経路の調節: ACS酵素は、多くの場合、特定のシグナル伝達経路によってその活性が調節されます。例えば、インスリンやその他のホルモンはACS酵素の活性に影響を与えることができます。これらの経路を標的とすることで、間接的にACS活性を調節することが可能です。

● 治療への応用

– 糖尿病: ACS活性の調節は、インスリン感受性を改善し、血糖コントロールを助けることができます。特定のACS酵素の活性を調節することで、糖尿病患者におけるグルコースの代謝を改善する新たな治療法の開発が期待されています。

– 肥満: 脂肪酸の代謝を制御することで、体内の脂肪蓄積を減少させ、肥満の治療に寄与することが可能です。特に、体脂肪の減少を促すためにACS活性を抑制することが研究されています。

– 高脂血症: ACS酵素の調節により、血中の脂質レベルを低下させることができます。これは、心血管疾患のリスクを減少させるために特に重要です。

ACS活性の調節は、代謝疾患の治療において多くの可能性を秘めていますが、適切な酵素の選択、副作用の最小化、長期的な安全性の確保など、解決すべき課題も多く存在します。こうした課題を乗り越えることが、治療法の成功への鍵となります。

● 解決すべき課題

– 特異性と選択性: ACS酵素は家族内で多様性があり、異なる組織や細胞で異なる役割を担っています。治療の際には、特定の疾患に関連するACS酵素を特異的に標的とし、望ましくない副作用を避ける必要があります。これには、高度に特異的な薬剤の開発や、特定の組織に薬剤を運ぶための新しいデリバリーシステムの開発が含まれます。

– 副作用の最小化: ACS酵素の活性を調節することで、望ましい治療効果を得られる一方で、重要な代謝経路に影響を与える可能性があるため、副作用に特に注意が必要です。治療薬の安全性プロファイルを改善するためには、詳細な前臨床および臨床試験を通じて、副作用を徹底的に評価する必要があります。

– 長期的な安全性と効果: ACS活性を調節する治療法は、長期にわたる治療が必要な場合が多く、長期的な安全性と効果が重要な懸念事項となります。長期間にわたる臨床試験を通じて、これらの治療法の安全性と有効性を評価し、患者にとって最善の治療オプションを提供することが求められます。

– 患者の個別化: 代謝疾患は、遺伝的要因、生活習慣、環境要因など、多様な要因によって影響を受けるため、治療法の効果は個人によって大きく異なる可能性があります。患者ごとの遺伝的背景や代謝状態を考慮した個別化医療のアプローチが、より効果的な治療成果をもたらす可能性があります。

● まとめ

ACS活性の調節は、代謝疾患の治療において大きな可能性を秘めていますが、その応用には上述のような多くの課題が伴います。これらの課題を克服するためには、分子生物学、薬理学、遺伝学など、多様な分野の専門知識を統合したアプローチが必要です。今後、科学技術の進歩により、これらの課題が解決され、効果的かつ安全な治療法が開発されることが期待されています。

Acyl-CoA synthetase familyに属する遺伝子

ACSBG1
ACSBG2
AACS
ACSF2
ACSF3
AASDH
ACSL1
ACSL3
ACSL4
ACSL5
ACSL6
ACSM1
ACSM2A
ACSM2B
ACSM3
ACSM4
ACSM5
ACSM6
ACSS1
ACSS2
ACSS3
SLC27A2
SLC27A6
SLC27A3
SLC27A4
SLC27A1
SLC27A5

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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