目次
📍 クイックナビゲーション
αヘリックス(α-ヘリックス構造、alpha helix)とは、タンパク質の主鎖が右巻きのらせんを描くように折りたたまれた二次構造です。らせんの形は、主鎖のC=O(カルボニル基)と、4つ先のアミノ酸のN-H(アミド基)とのあいだの水素結合で保たれ、3.6残基で1回転します[1]。βシートと並ぶ代表的な二次構造で、髪のケラチンのようにαヘリックスどうしがより合わさった構造も知られています。アミノ酸1つの置き換わりがらせんの形を乱すことがあり、遺伝子の変化と病気を結びつける手がかりにもなります。この記事では、構造の数字、右巻きの理由、βシートとの違い、遺伝・医療とのつながりまでを順に解説します。
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. αヘリックスとは何ですか?
αヘリックスは、タンパク質の主鎖が右巻きのらせんになった二次構造です。らせんの芯を主鎖がつくり、アミノ酸の側鎖はらせんの外側に向かって並びます。
🧬 Q. どんな結合でらせんが保たれていますか?
主鎖どうしの水素結合です。n番目のアミノ酸のC=Oが、n+4番目のアミノ酸のN-Hと水素結合します。この結果、3.6残基で1回転、1回転あたり5.4Å進むらせんになります。
🧬 Q. βシートとの違いは何ですか?
αヘリックスは同じ鎖の近くの残基どうしで水素結合をつくってらせんになります。βシートは、ほぼ伸びきった部分(βストランド)がとなり合うβストランドどうしで水素結合をつくり、板のように並びます。βストランドは、同じ鎖の離れた部分のことも、別の鎖のこともあります。
🧬 Q. なぜ右巻きなのですか?
右巻きのほうが側鎖と主鎖のぶつかり合い(立体障害)が少なく、エネルギー的に有利だからです。そのため、タンパク質の中のαヘリックスはほぼすべて右巻きです。
- ➤αヘリックス → タンパク質の主鎖がつくる右巻きのらせん(二次構造)
- ➤形を保つ力 → n番目のC=Oとn+4番目のN-Hの水素結合。3.6残基で1回転
- ➤βシートとの違い → 同じ鎖の近くの残基どうしで結合するか、となり合うβストランドどうしで結合するか
- ➤壊しやすいアミノ酸 → N-Hを持たないプロリン、β炭素で枝分かれしたアミノ酸など
- ➤遺伝との関係 → ケラチンのらせんの端の変化と単純型表皮水疱症、コラーゲンの三重らせんとの違い

1. αヘリックスとは?タンパク質の二次構造の一つ
αヘリックスとは、タンパク質をつくるアミノ酸の鎖(ポリペプチド鎖)の主鎖が、右巻きのらせん状に巻いた構造です。タンパク質の形を4つの段階に分けたとき、αヘリックスは「二次構造」にあたります。教科書では、主鎖がらせんの内側で棒の芯のように固く巻き、アミノ酸の側鎖はその外側に向かってらせん状に並ぶ、と説明されています[1]。
ここでいう「主鎖」とは、アミノ酸どうしがペプチド結合でつながってできる、N-C-C-N-C-C…という繰り返しの骨組みのことです。「側鎖」は、20種類のアミノ酸ごとに違う部分で、R基とも呼ばれます。αヘリックスは主鎖どうしの結合でできる形なので、どのアミノ酸の並びでも理屈の上ではつくれます。ただし、実際にらせんになりやすいかどうかは、側鎖の性質に左右されます(第5章)。
αヘリックスは何次構造?一次〜四次構造の中での位置
αヘリックスはタンパク質の二次構造です。OpenStaxの生物学の教科書は、ポリペプチドの一部が局所的に折りたたまれてできる形を二次構造と呼び、その代表がαヘリックスとβプリーツシート(βシート)で、どちらも水素結合で形が保たれると説明しています[2]。αヘリックスもβシートも、球状のタンパク質と繊維状のタンパク質の多くに含まれています[2]。
🧬 タンパク質の構造の4つの段階と、αヘリックスの位置
| 段階 | 何を指すか | 形を決めるもの |
|---|---|---|
| 一次構造 | アミノ酸の並び順 | ペプチド結合(遺伝子の塩基配列で決まる) |
| 二次構造 | αヘリックス・βシートなど、鎖の一部の決まった形 | 主鎖どうしの水素結合 |
| 三次構造 | 1本の鎖全体の立体的な形 | 側鎖どうしの相互作用など |
| 四次構造 | 複数の鎖が集まった全体の形 | 鎖と鎖のあいだの相互作用 |
※段階の分け方はOpenStax Biology 2e[2]による。αヘリックスは二次構造の代表例です。
遺伝子の塩基配列が決めるのは一次構造、つまりアミノ酸の並び順です。その並びに応じて、鎖の一部がαヘリックスやβシートになり、さらに全体が折りたたまれて働く形になります。この折りたたみの過程はフォールディングと呼ばれます。遺伝子の変化がタンパク質の働きに影響するとき、その多くはこの「並び→形→働き」のどこかが崩れることで起こります。
1951年にポーリングらが提唱した構造
αヘリックスは、1951年にライナス・ポーリングとロバート・コリーが提唱した構造です。同じ年、二人はβシートも合わせて提案しました[1]。最初の論文は、ポーリング、コリー、ブランソンの3人の連名で米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された「水素結合でできた、ポリペプチド鎖の2つのらせん構造」という題の論文です[3]。
論文はライナス・ポーリング(Linus Pauling)、ロバート・コリー(Robert Corey)、H. R. ブランソン(H. R. Branson)の連名です[3]。この論文の題が示すとおり、αヘリックスは最初から「水素結合でできたらせん」として提案された構造であり、この点は現在の教科書の説明にもそのまま引き継がれています[1]。
2. αヘリックスの構造:水素結合と「3.6残基で1回転」
αヘリックスの形を保っているのは、主鎖のC=O(カルボニル基)とN-H(アミド基)のあいだの水素結合です。側鎖ではなく主鎖どうしの結合なので、アミノ酸の種類が違っても同じ形のらせんがくり返しできます[1]。
水素結合は「n番目のC=O」と「n+4番目のN-H」のあいだ
αヘリックスでは、n番目のアミノ酸のC=Oが、n+4番目のアミノ酸のN-Hと水素結合します。Berg らの生化学の教科書はこの関係を図で示しており[1]、OpenStaxの教科書も、あるアミノ酸のカルボニル基の酸素と、鎖の4つ先のアミノ酸とのあいだで水素結合ができると説明しています[2]。
たとえば1番目のアミノ酸のC=Oは5番目のN-Hと、2番目のC=Oは6番目のN-Hと結合します。この「4つ先と結ぶ」関係がらせんの全長にわたってくり返されるため、どの位置でも同じ間隔でらせんが巻いていきます。らせんの両端では、結合する相手がいないC=OやN-Hが残ります。
模式図:アミノ酸の並び順の上で、n番目のC=Oとn+4番目のN-Hが水素結合する関係を示したもの(立体の形を描いた図ではありません)。
💡 用語解説:水素結合
水素結合とは、酸素や窒素のように電子を強く引きつける原子に結びついた水素(ここではN-HのH)が、別の酸素や窒素(ここではC=OのO)に引き寄せられてできる弱い結合です。1本1本は共有結合よりずっと弱いのですが、αヘリックスでは同じ向きの水素結合がらせんに沿って規則正しく並ぶため、全体として安定した形になります。
数字で見るαヘリックス:3.6残基で1回転・1回転5.4Å
αヘリックスは、1残基ごとにらせんの軸方向へ1.5Å進み、100度回転します。そのため3.6残基で1回転し、1回転で進む長さ(ピッチ)は5.4Åです。この数字はBergらの教科書に示されたもので[1]、OpenStaxの教科書も1回転あたり3.6残基としています[2]。
📏 αヘリックスの数字
| 項目 | 値 | 意味 |
|---|---|---|
| 1残基あたりの上昇 | 1.5Å | アミノ酸1つでらせんの軸方向に進む距離 |
| 1残基あたりの回転 | 100度 | アミノ酸1つで回る角度 |
| 1回転あたりの残基数 | 3.6残基 | 360度÷100度で求まる |
| ピッチ(1回転の長さ) | 5.4Å | 1.5Å×3.6残基で求まる |
| 水素結合の相手 | n番目のC=O と n+4番目のN-H | 主鎖どうしの結合 |
※値はBerg JM ほか Biochemistry 5th ed.[1]による。1Å(オングストローム)は0.1ナノメートルです。
「3.6」という数字は、1残基あたり100度回るという性質から出てきます。360度を100度で割ると3.6になり、1回転に3.6個のアミノ酸が必要だという意味になります。同じように、1回転の長さ5.4Åは、1残基あたりの上昇1.5Åに3.6をかけた値です。教科書の数字を丸暗記するより、「1残基で1.5Å・100度」の2つを覚えておくと、ほかの数字は計算で出せます。
また、1回転が3.6残基で割り切れないことには意味があります。らせんを上から見ると、3〜4残基ごとに側鎖が同じ側に来るため、たとえば水になじまない側鎖を3〜4残基おきに並べると、らせんの片側だけが水になじまない面になります。この性質は、第6章で触れる両親媒性のαヘリックスやコイルドコイルの形につながります。
αヘリックスの主鎖は内側、側鎖は外側
αヘリックスでは、主鎖がらせんの内側で棒状の芯をつくり、側鎖はその外側へ突き出します。Bergらの教科書は、固く巻いた主鎖が棒の内側を、側鎖が外側をらせん状に並ぶと説明し[1]、OpenStaxの教科書も、側鎖(R基)はαヘリックスの鎖から外へ突き出すとしています[2]。
側鎖が外を向くということは、αヘリックスの表面にどんな性質が現れるかは、側鎖の並び方で決まるということです。水になじむ側鎖が外に並べば水の中で安定し、水になじまない側鎖が外に並べば細胞膜の中や、ほかのタンパク質と接する面に向きます。主鎖の形は共通でも、表面の性質は配列ごとに違うため、αヘリックスは同じ「部品」でありながら、タンパク質ごとに違う役割を担えます。
3. αヘリックスはなぜ右巻きなのか?
αヘリックスが右巻きなのは、右巻きのほうが側鎖と主鎖のぶつかり合い(立体障害)が少なく、エネルギー的に有利だからです。Bergらの教科書は、右巻きのらせんのほうが立体的な衝突が少ないためにエネルギー的に有利であり、タンパク質に見られるαヘリックスは基本的にすべて右巻きだと説明しています[1]。
らせんの右巻き・左巻きは、らせん軸に沿って進むときの回転方向で区別します。右巻きは右ねじと同じ向きに回転しながら進む構造で、左巻きはその逆です。理屈の上では、主鎖は左巻きのらせんをつくることもできます。しかし左巻きにすると、主鎖の向きと側鎖の出る向きの組み合わせが窮屈になり、原子どうしが近づきすぎます。その分だけ不安定になるため、自然のタンパク質の中ではほとんど現れません。
なお、教科書の表現は「すべて」ではなく「基本的にすべて(essentially all)」です[1]。そのため、この記事では「ほぼすべてが右巻き」と書いています。
💡 用語解説:立体障害
立体障害とは、分子の中の原子や原子の集まりが空間的に重なり合いそうになり、その形をとりにくくなることです。原子にはそれぞれ大きさがあるため、近づきすぎると反発します。αヘリックスの右巻きと左巻きの違いは、この反発の大きさの違いとして説明されます。
4. αヘリックスとβシートの違いは?
αヘリックスは同じポリペプチド鎖の近接した残基間で水素結合をつくってらせんになり、βシートは隣り合うβストランドどうしが水素結合でつながって板のように並ぶ構造です。βストランドは、同じポリペプチド鎖の離れた部分に由来する場合も、異なるポリペプチド鎖に由来する場合もあります。どちらも主鎖の水素結合でできる二次構造ですが、水素結合の配置と主鎖の伸び方が違います[1][2]。
βシートを構成する鎖の部分はβストランドと呼ばれ、ほぼ伸びきった形をしています。Bergらの教科書によると、βストランドでとなり合うアミノ酸の間隔は約3.5Åで、αヘリックスの1.5Åよりずっと長く、βシートは2本以上のβストランドが水素結合でつながってできます。となり合うアミノ酸の側鎖は互いに反対の向きを向き、となり合うβストランドが逆向きに並ぶもの(逆平行βシート)と同じ向きに並ぶもの(平行βシート)があります[1]。
⚖️ αヘリックスとβシートの違い
| 項目 | αヘリックス | βシート |
|---|---|---|
| 形 | 右巻きのらせん(棒状) | ほぼ伸びた鎖が並んだ板状 |
| 水素結合の相手 | 同じ鎖の近くの残基(n と n+4) | となり合うβストランド(同じ鎖の離れた部分、または別の鎖) |
| となりのアミノ酸との間隔 | 1.5Å | 約3.5Å |
| 側鎖の向き | らせんの外側へ放射状に | となりどうしで反対向き(板の表と裏) |
| 種類 | 右巻き(ほぼすべて) | 平行・逆平行 |
| 何次構造か | 二次構造 | 二次構造 |
「αヘリックスとβシートの結合は?」という疑問もよく見られます。どちらの形も、らせんや板の形そのものは主鎖どうしの水素結合で保たれています。アミノ酸どうしを鎖としてつないでいるのはペプチド結合で、これは一次構造の段階の結合です。つまり、「鎖をつなぐのはペプチド結合、鎖を折りたたんでαヘリックスやβシートの形に保つのは水素結合」と分けて考えると整理できます。
1つのタンパク質の中に、αヘリックスとβシートの両方が含まれることもよくあります。βシートの構造や種類をさらに詳しく知りたい方は、βシートとはをご覧ください。
🩺 院長コラム【「形」から遺伝子の変化を考える】
αヘリックスやβシートは、教科書の最初のほうに出てくる基本の用語です。けれども臨床遺伝の場面では、この基本が意外なほど役に立ちます。遺伝子検査でアミノ酸が1つ置き換わる変化が見つかったとき、その位置がらせんの中なのか、らせんの端なのか、βシートの中なのかによって、形への影響の見込みが変わるからです。
もちろん、病気の原因かどうかの判定は、形の推測だけでは決まりません。家族の中での受け継がれ方や、集団の中での頻度など、別の根拠を重ねて判断します。それでも、「並び→形→働き」という順に考える習慣は、検査結果の意味を理解するうえでの土台になると考えています。
5. αヘリックスを壊しやすいアミノ酸は?
αヘリックスを不安定にしやすいアミノ酸として、β炭素で枝分かれした側鎖を持つバリン・トレオニン・イソロイシンや、セリン・アスパラギン酸・アスパラギンが挙げられます。Tymoczko・Berg・Stryer の生化学の教科書(Biochemistry: A Short Course 第3版)は、β炭素での枝分かれがαヘリックスを不安定にしやすいこと、セリン・アスパラギン酸・アスパラギンもαヘリックスを乱しやすいことを説明しています[4]。
β炭素とは、アミノ酸の中心の炭素(α炭素)に結びついた側鎖の、最初の炭素のことです。バリン・トレオニン・イソロイシンは、このβ炭素の位置で側鎖が二股に分かれています。αヘリックスは主鎖どうしの結合でできる形ですが、どのアミノ酸がらせんに入りやすいかは側鎖の性質で変わり、こうした傾向が積み重なって、配列のどの部分がらせんになるかが決まっていきます。なお、どのアミノ酸がαヘリックスを「つくりやすい」かについては、この記事では一次情報で確かめられた範囲(不安定にしやすいアミノ酸)に絞って書いています。
プロリンはなぜらせんを途切れさせるのか
プロリンは主鎖にN-H(水素を持つアミド基)がないため、αヘリックスの中で通常の水素結合をつくれません。プロリンが入ったαヘリックスを調べた研究は、プロリンには自由なNH基がなく、ヘリックス内の通常のNH…O=C水素結合をつくれないと述べています。そのため一般に「ヘリックスを壊すアミノ酸(helix breaker)」と考えられてきましたが、実際には多くのαヘリックスがプロリンを含んでおり、その場合はらせんが折れ曲がる(キンク)ことがあると報告されています[5]。
プロリンは、側鎖が主鎖の窒素とつながって輪をつくっている特別なアミノ酸です。この輪のために、ほかのアミノ酸なら持っている主鎖のN-Hの水素がありません[5]。「プロリンがあると絶対にらせんにならない」のではなく、「らせんの途中に入ると通常の主鎖の水素結合の一部が形成できず、らせんが曲がったり局所的に乱れたりしやすい」と理解するのが正確です。
⚠️ 注意:「壊しやすい」は確率の話
この章で挙げたアミノ酸は、αヘリックスに「入りにくい・乱しやすい」傾向があるというもので、入っていればすぐらせんが壊れるという意味ではありません。実際のタンパク質では、まわりのアミノ酸との組み合わせや、三次構造の中での位置によって、らせんができるかどうかが決まります。
6. αヘリックスはタンパク質のどこで働いている?
αヘリックスの量はタンパク質によって大きく違い、ほとんど含まないものから、ほぼ100%がαヘリックスのものまであります。Bergらの教科書は、鉄を蓄えるタンパク質フェリチンでは残基の約75%がαヘリックスにあると紹介しています[1]。ここでは、αヘリックスが特に目立つ3つの場面を紹介します。
αヘリックスがより合わさる「コイルドコイル」とケラチン
2本以上のαヘリックスがより合わさると、とても安定した構造ができ、これをコイルドコイルと呼びます。Bergらの教科書は、このような構造が髪・羽軸・爪・角のケラチンなど多くのタンパク質に見られると説明しています[1]。
第2章で、1回転が3.6残基であるために、側鎖が3〜4残基おきに同じ側へ来ることを説明しました。1本のαヘリックスだけでなく、複数のらせんがより合わさることで、とても安定した構造になる点が特徴です[1]。コイルドコイルの並び方の規則は、コイルドコイルの解説で詳しく扱っています。
細胞膜を貫くαヘリックス
細胞膜を貫くタンパク質の多くも、αヘリックスを含んでいます[1]。細胞膜の中心部は脂質の水になじまない部分でできているため、膜の中を通る部分では、らせんの外側に並ぶ側鎖の性質が、脂質となじむかどうかを左右します。
膜の表面に結合するαヘリックスもあります。日本生化学会の総説は、膜と結合したときにαヘリックスを形成すること、そしてその構造をとったときに両親媒性(片側が水になじみ、もう片側が脂質になじむ性質)が現れることが、多様な両親媒性αヘリックスに共通する2つの点だとまとめています[6]。
DNAの二重らせんとの違い
αヘリックスはタンパク質の1本の鎖がつくるらせんで、DNAの二重らせんとはまったく別の構造です。DNAの二重らせんは、2本のDNA鎖が塩基どうしの水素結合(塩基対)で向かい合い、全体としてらせんを描く構造です。どちらも「らせん」で「水素結合」が関わるため混同されがちですが、材料(アミノ酸か、ヌクレオチドか)も、水素結合をつくる場所(主鎖か、塩基か)も違います。DNAの構造についてはDNAの基本構造で解説しています。
7. 遺伝・医療とのつながり:らせんの乱れと遺伝性の病気
遺伝子の変化でアミノ酸が1つ置き換わると、αヘリックスのような二次構造が乱れ、タンパク質全体の形と働きが変わることがあります。この章では、ほかの解説サイトではあまり触れられない、αヘリックスと遺伝性の病気との結びつきを、具体例で説明します。
アミノ酸1つの置き換わり(ミスセンス変異)が形を変える
遺伝子の1つの塩基の変化でアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わることをミスセンス変異といい、二次構造から四次構造までの形を変えることがあります。OpenStaxの教科書は、鎌状赤血球症を、アミノ酸1つの置き換わりがタンパク質の構造と働きに影響する例として紹介しています[2]。この病気では、βグロビンの6番目のグルタミン酸がバリンに置き換わり、変化したヘモグロビンどうしがくっついて長く硬い分子をつくり、赤血球を鎌や三日月のような形に曲げます[7]。これはαヘリックスそのものが壊れる典型例ではなく、アミノ酸の置き換わりがタンパク質どうしの相互作用を変える例です。
αヘリックスに当てはめると、第5章の知識がそのまま使えます。らせんの途中にプロリンが入る置き換わりは、通常の主鎖の水素結合の一部が形成できないため、らせんを乱したり折り曲げたりする方向に働きうると考えられます[5]。ただし、こうした推測は判定の材料の一つにすぎず、実際に病気の原因かどうかは、家系の情報や集団での頻度などを合わせて判断します。
ケラチンのらせんの端と単純型表皮水疱症
皮膚のケラチンの遺伝子(KRT5・KRT14)の変化で起こる単純型表皮水疱症では、ケラチンの棒状の部分(rodドメイン)の「端」の変化が重い病型と結びついています。GeneReviewsは、KRT5のrodドメインの1A区画の始まり、または2B区画の終わりのヘテロ接合の病的バリアントが重症型の単純型表皮水疱症に典型的で、これらの領域は進化の上でよく保存され、フィラメントの組み立てに重要と考えられると説明しています[8]。
ケラチンは、第6章で触れたように、αヘリックスがより合わさったコイルドコイルをつくるタンパク質です[1]。1993年の研究では、単純型表皮水疱症などで、病気の重さがケラチンの変異の位置と、その変異がケラチンフィラメントの組み立てをどれだけ乱すかに相関していました。当時知られていた11の変異のうち6つは、進化の上でよく保存された1つのアルギニンに集中していました[9]。同じ「アミノ酸1つの置き換わり」でも、どの位置で起こるかによって重さが変わることを示した研究です。
当院の表皮水疱症NGSパネル遺伝子検査は、KRT5・KRT14を含む13遺伝子を一度に調べる検査で、検体は血液のほか、唾液・頬の内側の粘膜でも受けられます。
💡 用語解説:ヘテロ接合の病的バリアント
ヒトは多くの遺伝子を父由来・母由来の2つずつ持っています。そのうち片方だけに病気の原因となる変化(病的バリアント)がある状態を、ヘテロ接合といいます。片方の変化だけで症状が出る遺伝の仕方は、常染色体顕性(優性)遺伝と呼ばれます。
コラーゲンの三重らせんはαヘリックスではない
コラーゲンもらせんを持つタンパク質ですが、そのらせんはαヘリックスとは別の種類です。生化学の教科書は、哺乳類でもっとも多いタンパク質であるコラーゲンに「別の種類のらせん」があり、3本のらせん状の鎖がより合わさって鎖のあいだの水素結合で安定した太い綱のような構造をつくること、アミノ酸の並びで3つに1つがグリシンであることを説明しています[4]。αヘリックスの水素結合が1本の鎖の中でできるのに対し、コラーゲンの水素結合は鎖と鎖のあいだにできる点が大きな違いです。
この「3つに1つのグリシン」は、病気とも関わります。I型コラーゲンは、COL1A1遺伝子からできる鎖2本と、COL1A2遺伝子からできる鎖1本でできています。MedlinePlusは、骨形成不全症の重い型(II型・III型・IV型)を起こすCOL1A1の変化の多くが、グリシンを別のアミノ酸に置き換えるものだと説明しています[10]。αヘリックスとコラーゲンのらせんを区別しておくと、「どのアミノ酸がどの位置で置き換わると影響が大きいか」という考え方の違いも理解しやすくなります。コラーゲンそのものはコラーゲンの解説をご覧ください。
なお、当院のNIPT(新型出生前診断)では、ダイヤモンドプランとインペリアルプランで、骨形成不全症(COL1A1・COL1A2)が検査対象に含まれています。ただし、検出できる病的バリアントの種類や範囲には限界があり、陰性でも骨形成不全症を完全に否定できるわけではありません。NIPTはスクリーニング検査であり、陽性の場合は羊水検査などによる確定診断が必要です。
🩺 院長コラム【基礎の用語が、検査結果を読む力になる】
遺伝子検査の報告書には、「どの遺伝子の、何番目のアミノ酸が、何に置き換わったか」が書かれています。その一行の意味を考えるとき、αヘリックスの中なのか端なのか、コラーゲンのグリシンの位置なのかといった構造の知識は、変化の重みを想像する手がかりになります。
一方で、構造から推測した「影響がありそう」「なさそう」を、そのまま結論にしてはいけないとも考えています。判定はほかの根拠と合わせて行うものであり、構造の知識は結果の意味を正しく受け止めるための道具の一つです。
よくある質問(FAQ)
Q1. αヘリックスは何次構造ですか?
二次構造です。タンパク質の構造は一次構造(アミノ酸の並び)から四次構造(複数の鎖の集まり)までの4段階に分けられ、αヘリックスはβシートと並ぶ代表的な二次構造です。
Q2. αヘリックスは何結合でできていますか?
アミノ酸どうしを鎖としてつないでいるのはペプチド結合で、その鎖をらせんの形に保っているのは主鎖どうしの水素結合です。n番目のアミノ酸のC=Oと、n+4番目のアミノ酸のN-Hが水素結合します。
Q3. αヘリックスとβシートの違いは何ですか?
αヘリックスは同じ鎖の近くの残基どうしで水素結合をつくってらせんになり、βシートはほぼ伸びきった部分(βストランド)がとなり合うβストランドどうしで水素結合をつくって板のように並びます。βストランドは、同じ鎖の離れた部分のことも、別の鎖のこともあります。となりのアミノ酸との間隔も、αヘリックスの1.5Åに対し、βストランドでは約3.5Åです。
Q4. αヘリックスはなぜ右巻きなのですか?
右巻きのほうが側鎖と主鎖のぶつかり合い(立体障害)が少なく、エネルギー的に有利だからです。そのため、タンパク質に見られるαヘリックスはほぼすべて右巻きです。
Q5. αヘリックスを壊しやすいアミノ酸はどれですか?
β炭素で枝分かれしたバリン・トレオニン・イソロイシンや、セリン・アスパラギン酸・アスパラギンはαヘリックスを不安定にしやすいとされます。プロリンは主鎖にN-Hがなく通常の水素結合をつくれないため、らせんを乱したり折り曲げたりすることがあります。
Q6. 1回転は何残基で、長さはどのくらいですか?
3.6残基で1回転し、1回転の長さ(ピッチ)は5.4Åです。1残基ごとに軸方向へ1.5Å進み、100度回転することから計算できます。
Q7. コラーゲンのらせんはαヘリックスですか?
いいえ、別の種類のらせんです。コラーゲンは3本のらせん状の鎖がより合わさった三重らせんをつくり、水素結合は鎖と鎖のあいだにできます。アミノ酸の並びでは3つに1つがグリシンです。
Q8. αヘリックスとDNAの二重らせんは同じものですか?
違います。αヘリックスはタンパク質の1本の鎖が主鎖の水素結合でつくるらせんで、DNAの二重らせんは2本のDNA鎖が塩基対の水素結合で向かい合ってできるらせんです。
まとめ
αヘリックスは、タンパク質の主鎖が右巻きのらせんを描く二次構造です。n番目のC=Oとn+4番目のN-Hの水素結合で形が保たれ、1残基で1.5Å・100度進むことから、3.6残基で1回転、ピッチは5.4Åになります[1]。主鎖は内側、側鎖は外側を向き、右巻きなのは立体障害が少ないためです。
βシートが隣り合うβストランドどうしの水素結合でできるのに対し、αヘリックスは同じ鎖の近くの残基どうしの水素結合で形が決まります。プロリンやβ炭素で枝分かれしたアミノ酸はらせんを乱しやすく[4][5]、ケラチンのコイルドコイルの端の変化は単純型表皮水疱症の重い型と結びついています[8]。基本の構造を知っておくと、アミノ酸1つの変化が持つ意味を考える手がかりになります。
📘 この記事について
この記事は、タンパク質の構造の用語「αヘリックス」を解説する用語ページで、個別の検査結果の解釈を行うものではありません。なお、遺伝子検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。
参考文献
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