目次
- 1 13トリソミー(パトウ症候群)とは?症状・原因・予後・検査方法を専門医が解説
13トリソミー(パトウ症候群)とは?
症状・原因・予後・検査方法を専門医が解説
Q. 13トリソミー(パトウ症候群)とはどのような病気ですか?
A. 13番染色体が通常2本のところ3本ある染色体異常症です。
重度の知的障害や多くの身体的合併症を伴う先天性疾患で、出生児の約5,000〜12,000人に1人の割合で発生します。NIPT(新型出生前診断)で妊娠中に調べることが可能です。
1. 13トリソミー(パトウ症候群)とは|概要と定義
【結論】 13トリソミーは、13番染色体が通常の2本ではなく3本存在することで起こる染色体異常症です。パトウ症候群(Patau syndrome)とも呼ばれ、重度の知的障害や多くの身体的異常を伴う重篤な先天性疾患です。
「13トリソミーと診断されるかもしれない」「パトウ症候群ってどんな病気なの?」と不安を抱えていらっしゃる妊婦さんも多いのではないでしょうか。検索すればするほど怖い情報ばかり目に入り、夜も眠れないという方もいらっしゃるかもしれません。
まずは深呼吸して、この記事を読んでいただければと思います。臨床遺伝専門医として、正確な医学情報をわかりやすくお伝えしますね。
-
•
トリソミー(Trisomy):通常2本1組の染色体が3本ある状態のこと。「トリ(tri)」は「3」を意味します
-
•
パトウ症候群:1960年にKlaus Patau博士が初めて報告したことから名付けられました
-
•
常染色体異数性:性染色体(X・Y)以外の染色体の数に異常がある状態のこと
人間の細胞には通常46本の染色体があり、これらは23対に分かれています。13トリソミーでは、13番目の染色体が2本ではなく3本存在するため、遺伝情報のバランスが崩れ、様々な発達異常が生じます。染色体の数が正常な46本から1本増えて47本となることで、胎児の成長や臓器の形成に大きな影響を与えます。
21トリソミー(ダウン症候群)や18トリソミー(エドワーズ症候群)と並ぶ三大トリソミーの一つですが、13トリソミーは最も重篤な経過をたどることが多い疾患です。小児科領域でも特に注意が必要な先天性疾患として位置づけられています。
2. 13トリソミーの原因|なぜ染色体が3本になるのか
【結論】 13トリソミーの主な原因は、卵子や精子が作られる過程での「染色体不分離」です。これは偶発的に起こるもので、ご両親の生活習慣や行動が原因ではありません。母体年齢が高いほどリスクは上昇しますが、若い方でも発生する可能性はあります。
「私のせいで赤ちゃんが…」と自分を責めてしまう方がいらっしゃいますが、13トリソミーは決して親御さんの責任ではありません。この点を最初にお伝えしておきたいと思います。
13トリソミーの3つのタイプ
| タイプ | 頻度 | 説明 |
|---|---|---|
| 標準型(フルトリソミー) | 約75% | すべての細胞が13番染色体を3本持つ。単一の染色体不分離が原因 |
| 転座型 | 約20% | 13番染色体の一部が他の染色体に付着。親が保因者の場合あり |
| モザイク型 | 約5% | 一部の細胞のみが3本で正常な細胞も混在。同じ疾患でも症状が大きく異なることがある |
部分トリソミーという形もあり、13番染色体の一部分だけが重複しているケースもあります。どのタイプであるかは、確定検査を受けることで判明します。妊娠中に胎児の動きが弱いなどの所見が見られることもあります。
⚠️ 母体年齢とリスクの関係
母体年齢が高くなるほど、卵子の染色体不分離が起こりやすくなることが知られています。しかし、これはあくまで「リスクが上がる」というだけで、若い方でも発生する可能性はありますし、高齢の方でも多くは健康な赤ちゃんを出産されています。年齢に関わらず、妊娠中に出生前検査を受けることで、胎児の状態を確認することができます。
3. 13トリソミーの症状・特徴
【結論】 13トリソミーでは、重度の知的障害に加え、脳・心臓・眼・耳など多くの臓器に異常が生じます。特徴的な外見(顔貌)として、小頭症、眼球の異常、口唇裂や口蓋裂、耳介低位などが見られることがあります。発達の遅れが顕著で、成長も著しく遅延し、手足の変形も高頻度で発見されます。
13トリソミーでは、子宮内の段階から様々な臓器や身体の部位に異常が生じることがあります。ただし、すべての症状が全員に現れるわけではなく、症状の程度には個人差があり、ケースによって異なります。性別による症状の違いは大きくありませんが、男児の場合は停留精巣などの生殖器の異常が見られることがあります。以前は小児科領域でのみ対応されていましたが、現在は出生前から子どもの状態を把握できるようになっています。
主な合併症・症状
🧠 中枢神経系
- •
全前脳胞症(脳の形成異常で左右に分離しない)
- •
小頭症(頭蓋骨が小さい)
- •
重度の知的障害・発達障害
- •
けいれん発作(てんかん)
❤️ 心臓
- •
心室中隔欠損症(心室の間に穴がある)
- •
心房中隔欠損症
- •
動脈管開存症
👁️ 眼・耳
- •
小眼球症・無眼球症
- •
コロボーマ(虹彩や網膜の欠損)
- •
眼球癒合(単眼症)
- •
耳介低位・難聴
✋ 手足・その他
- •
多指症(手足の指が多い)
- •
握りこぶし様の手の変形(指の重なり)
- •
踵の突出(ロッカーボトム足)
- •
口唇裂・口蓋裂(口唇口蓋裂)
- •
臍帯ヘルニア(腹壁の突出)
- •
腎臓・泌尿器系の異常(尿路奇形)
- •
消化器異常(胃や腸の奇形)
- •
停留精巣・生殖器異常(男児の場合)
💡 超音波検査(エコー)でわかる特徴
妊娠中の超音波検査(エコー)を利用して、以下のような所見が見つかることがあります。検査を受ける際は、妊娠初期から中期にかけて、これらの所見を確認することで13トリソミーの可能性を評価します。データとして蓄積された統計情報も参考に使用されます:
- •
全前脳胞症(holoprosencephaly)
- •
心臓の構造異常(心室中隔欠損など)
- •
多指症
- •
NT(後頚部透明帯)の肥厚
- •
脳室拡張
- •
子宮内発育遅延(IUGR)
- •
羊水過多または羊水過少
4. 13トリソミーの発生確率・頻度
【結論】 13トリソミーの出生頻度は約5,000〜12,000人に1人の割合です。21トリソミー(約700人に1人)や18トリソミー(約3,000〜6,000人に1人)と比べると頻度は低いですが、母体年齢の上昇に伴いリスクは高くなります。
13トリソミーは、妊娠中に発生する割合はもう少し高いのですが、多くは妊娠初期〜中期に流産となるため、出生に至る頻度としては比較的低くなります。自然流産の間に淘汰されるケースが多いのです。
| トリソミーの種類 | 出生頻度 | 別名 |
|---|---|---|
| 21トリソミー | 約700人に1人 | ダウン症候群 |
| 18トリソミー | 約3,000〜6,000人に1人 | エドワーズ症候群 |
| 13トリソミー | 約5,000〜12,000人に1人 | パトウ症候群 |
母体年齢と発生リスク
母体年齢が上がるにつれて、13トリソミーの確率は上昇します。特に35歳以上では、染色体異常のリスクが上がる傾向にあります。ただし、これは他のトリソミーにも共通する傾向であり、13トリソミーに限った話ではありません。年齢が増えるにつれて、卵子の染色体分離がうまくいかなくなる可能性が高まります。
補足:当院(ミネルバクリニック)のNIPT検査実績データでは、ダウン症候群は約70人に1人、13トリソミーを含む染色体異常全体では、一般的な統計よりも高い頻度で陽性が検出されています。これは、リスクを心配されて検査を受けられる方が多いためと考えられます。
5. 13トリソミーの予後・寿命
【結論】 13トリソミーの予後は非常に厳しく、生存期間は短いことが多いです。約80%が生後1か月以内に亡くなり、1歳を超えて生存できるのは約5〜10%とされています。ただし、モザイク型など一部のケースでは、より長く生存されることもあります。
予後について正確な情報をお伝えすることは、とても辛いことかもしれません。しかし、正しい情報を知った上で、ご家族としてどのような選択肢があるのか考える機会を持っていただくことが大切だと考えています。
生後1か月以内の死亡率
約80%
1歳生存率
約5〜10%
長期生存例
10年以上生存の
報告例あり
13トリソミーのお子さんの多くは、心臓や呼吸器系の重篤な合併症により、生後早期に亡くなることが多いです。しかし、モザイク型や部分トリソミーの場合、また積極的な治療介入を行った場合には、より長く生存されるケースも報告されています。
💡 治療について
現時点では、13トリソミーの根本的な治療法はありません。治療は主に合併症に対する対症療法が中心となります。心臓手術などの積極的な治療を行うかどうかは、ご家族と医療チームで慎重に話し合って決めていくことになります。治療方針については、小児科の専門医とよく相談することが重要です。
6. 13トリソミーの検査方法|NIPTから確定検査まで
【結論】 13トリソミーは、NIPT(新型出生前診断)で妊娠中にスクリーニング検査を受けることが可能です。NIPTで陽性の場合は、羊水検査や絨毛検査による確定診断が必要です。
「13トリソミーかどうか、妊娠中に調べることはできるの?」というご質問をよくいただきます。答えは「はい、可能です」。ただし、検査にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。妊婦さんが検査を受けるかどうかは、ご家族でよく話し合って決めることが大切です。
出生前診断の流れ
-
①
超音波検査(エコー):妊娠初期〜中期に胎児の形態異常をチェック
-
②
NIPT(非確定検査):母体血液から胎児の染色体異常の可能性を調べる
-
③
羊水検査・絨毛検査(確定検査):NIPTで陽性の場合に診断を確定
NIPTで13トリソミーを調べる検査方法
NIPT(新型出生前診断)は、お母さんの血液を採取するだけで、胎児の染色体異常の可能性を調べることができる検査方法です。13トリソミーは、NIPTの基本検査項目(21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー)に含まれています。採血後の検体は専門ラボで分析され、比較的短い期間で結果が出ます。
| 検査項目 | 検査方法 | リスク | 検査時期 |
|---|---|---|---|
| NIPT | 母体血液採取 | なし(非侵襲的) | 妊娠6週〜(当院) |
| 羊水検査 | 羊水を採取 | 流産リスク約0.1〜0.3% | 妊娠15〜18週頃 |
| 絨毛検査 | 絨毛(胎盤の一部)を採取 | 流産リスク約0.5〜1% | 妊娠10〜13週頃 |
⚠️ 重要:NIPTはスクリーニング検査(非確定検査)です。NIPTで「陽性」と判定された場合は、必ず羊水検査などの確定検査を受けていただく必要があります。結果が出るまでの間、不安な気持ちになるかもしれませんが、臨床遺伝専門医がサポートいたします。
ミネルバクリニックのNIPT検査体制
当院では、高精度なNIPT検査から確定検査、そして陽性後のサポートまで、一貫した体制を整えています。
🔬 高精度な検査技術
スーパーNIPT(第3世代)とダイヤモンドプラン(COATE法)を採用。公表データに基づき、13トリソミーを含む主要トリソミーの検出感度は99.9%以上です。
🏥 確定検査も院内で
2025年6月より産婦人科を併設し、羊水検査・絨毛検査を院内で実施可能に。転院の必要がなく、心理的負担を軽減できます。
🩺 臨床遺伝専門医が常駐
検査前後の遺伝カウンセリングも、臨床遺伝専門医である院長が直接対応。専門家の視点から丁寧にサポートします。相談をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
💰 互助会で経済的サポート
互助会(8,000円)にご加入いただくと、陽性時の確定検査費用を全額カバー(上限なし)。経済的な不安を解消します。
7. NIPTと医療費控除について
【結論】 NIPTは基本的に「検診」扱いのため医療費控除の対象外ですが、陽性→確定検査→中絶という流れになった場合は、遡ってNIPT費用も医療費控除の対象になります。
「NIPTの費用は医療費控除の対象になりますか?」というご質問をよくいただきます。検査費用は決して安くないので、少しでも負担を減らしたいというお気持ちはよく理解できます。
Q. NIPTの費用は医療費控除の対象になりますか?
A. 基本的には「予防・検診」扱いのため、医療費控除の対象外です。
NIPTは「治療」ではなく「スクリーニング検査(検診)」に分類されるため、通常は医療費控除の対象にはなりません。これは人間ドックや健康診断と同じ扱いです。
ただし、NIPTで「陽性」となり、その後の確定検査(羊水検査など)や中絶手術へと進んだ場合は、一連の流れが「治療」とみなされます。
この場合、最初のNIPT費用も含めて遡って医療費控除の申請が可能になります。
-
•
NIPT費用
-
•
確定検査(羊水検査・絨毛検査)費用
-
•
中絶手術費用、入院費用など
※詳細は税務署または税理士にご確認ください。関連する情報は国税庁のホームページでも紹介されています。
8. 重い障害と将来の自立について|検査でわかること・わからないこと
【結論】 「将来自立できるかどうか」を判定できる検査は存在しません。NIPTでわかるのは染色体や一部の遺伝子変化に起因する疾患の「可能性」であり、同じ疾患でも症状の重さには個人差があります。ただし、出生前診断の対象となる疾患は、基本的に重篤なものに限定されています。
「将来、自立できないほど重い障害があるかどうか心配です。検査でわかりますか?」というご質問をいただくことがあります。このご不安はとても自然なものですし、お気持ちは十分に理解できます。
Q. 将来自立できないほど重い障害が心配です。検査でわかりますか?
A. 「将来社会的に自立できるかどうか」までを判定できる検査は、残念ながら存在しません。
NIPTでわかるのは、あくまで染色体や一部の遺伝子の変化に起因する病気の「可能性」です。同じ染色体異常を持っていても、症状の重さや将来の発達には個人差があり、生まれてみないとわからない部分も多いのが現実です。
ただし、13トリソミーについては、重度の知的障害や多くの身体的合併症を伴うことがほとんどであり、生存自体が非常に困難な疾患です。
💡 出生前診断の対象疾患について
医学的・倫理的な観点から、出生前診断の対象となる疾患は、基本的には「社会的に自立して生活することに支障が出るレベルの重篤な疾患」に限定されています。
これは、出生前診断が「障害のある人を排除する」ためのものではなく、「重篤な疾患について事前に知り、準備する機会を提供する」ためのものであるという考え方に基づいています。
検査で何がわかり、何がわからないのか。その結果をどう受け止め、どう判断するのか。遺伝カウンセリングを通じて、一緒に考えていきましょう。
9. 13トリソミーと診断されたら|妊娠継続の選択肢
【結論】 13トリソミーと確定診断された場合、妊娠を継続するか中断するかは、ご家族にとって非常に重い決断となります。どちらの選択にも正解・不正解はありません。臨床遺伝専門医やカウンセラーと相談しながら、ご家族にとって最善の選択を一緒に考えていくことが大切です。
「13トリソミーと診断されたら、どうすればいいの?」「妊娠を続けるべきか、中断すべきか…」このような深刻なお悩みを抱えていらっしゃる方もいらっしゃると思います。
臨床遺伝専門医として多くのご家族と向き合ってきた経験から申し上げると、この決断に「正解」はありません。大切なのは、正確な医学情報を得た上で、ご家族がご自身の価値観に基づいて納得のいく選択をされることです。
💙 妊娠を継続される場合
- •
NICU(新生児集中治療室)のある病院での出産を検討
- •
出生後のケア体制について事前に相談
- •
積極的治療の範囲について医療チームと話し合い
- •
緩和ケア(ペリネイタルホスピス)という選択肢も
- •
患者会や同じ経験をされたご家族との交流
💜 妊娠中断を検討される場合
- •
母体保護法に基づく人工妊娠中絶(妊娠22週未満)
- •
時間的な制約があるため、早めの相談が重要
- •
心理的サポートを受けながらの決断を
- •
グリーフケア(悲嘆のケア)のサポートも利用可能
🩺 臨床遺伝専門医としての経験から
当院では、13トリソミーをはじめとする染色体異常の陽性判定を受けたご家族を数多くサポートしてきました。妊娠継続を選ばれた方、中断を選ばれた方、どちらのご家族も懸命に考え、決断されていました。大切なのは、その決断がご家族にとって納得のいくものであること。私たちは、どのような選択をされる場合も、最後まで寄り添ってサポートいたします。検査結果を受けて不安な方は、まず遺伝カウンセリングでお話しください。
よくある質問(FAQ)
🏥 一人で抱え込まないでください
13トリソミーについて不安を感じていらっしゃる方、
ネットの情報に疲れてしまった方は、ぜひ専門医にご相談ください。
あなたと赤ちゃんを守るための準備を、一緒に始めましょう。
当クリニックは24時間WEB予約受付中です。オンラインNIPTもご利用いただけます。
関連コラム
13トリソミーについてさらに詳しく知りたい方、他の染色体異常についても情報をお探しの方は、以下のコラム記事もご覧ください:
参考文献
- [1] Patau K, et al. Multiple congenital anomaly caused by an extra autosome. Lancet. 1960;1(7128):790-3. [PubMed]
- [2] Rasmussen SA, et al. Population-based analyses of mortality in trisomy 13 and trisomy 18. Pediatrics. 2003;111(4 Pt 1):777-84. [PubMed]
- [3] Springett A, et al. Congenital Anomaly Statistics 2011: England and Wales. British Isles Network of Congenital Anomaly Registers. 2013. [BINOCAR]
- [4] Gil MM, et al. Analysis of cell-free DNA in maternal blood in screening for fetal aneuploidies: updated meta-analysis. Ultrasound Obstet Gynecol. 2017;50(3):302-314. [PubMed]
- [5] 難病情報センター「13トリソミー症候群」[難病情報センター]
- [6] MSDマニュアル家庭版「13トリソミー」[MSDマニュアル]
- [7] ACOG Practice Bulletin No. 226: Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities. Obstet Gynecol. 2020;136(4):e48-e69. [PubMed]

